「一応聞いておこう、神亡。これはお前たちの仕業か?」
「――まさか。あんな無様な兵器は使わない。人の意志で引き金が引かれてこその闘争だ。あのような自動兵器など、殺戮の道具にすぎん」
神亡と織斑教諭が対峙する。
双方ともに敵を前にしているかのように殺気立ち、いつ戦線を開いてもおかしくない状況だ。
空気はキシキシと音を立てて割れ、僅かな油断は永遠の眠りへの入り口だ。
「貴様が殺戮を語るか……。いや、それもいい。私とて、他人のことは言えん。私の身勝手で――。それも過ぎた話か」
「過去は背負うものだ。忘却して安心するなど――やはり貴様は落伍者でしかないか」
「……は。だから、ここで後進を育てているのさ。貴様らには何の変哲もない日々の暮らしがどれだけ大切なモノかわからないだろう」
「わからないね。犠牲の上で成り立つ世界の、何処が大切なのか。強者が平和を謳歌し、弱者を虐げる。――誰もがそれを知りながらも、自分は誰も傷つけていませんよ、なんて顔をする」
「そういうことではないんだよ。貴様らにはわからん。貴様らには正義はない。信念はあっても、しょせん貴様は人の心は理解しない」
「他人が他人を想い合うことが出来ると思うのは傲慢でしかない。自分がそうやっている気になって、他人に想ってもらうことを当然だと考えたいだけだ」
「そらな。そんなんだから、理解できない」
「たしかにね。君の言うことは訳がわからない」
彼女が殺気をおさめる。
奈落もまたそれに従う。
彼女は貴様とは違うと言いたげだが、奈落の方はというとそんな彼女を鼻で笑う。
「では、わかりやすく話そう。お前はこれが束の仕業だという確信があるか?」
「――ない。だが、無人兵器を使うのは彼女だけだ。状況からみて彼女の仕業だということは間違いない。テロリストにも各国にもそんな技術はないのでな」
「なるほどな。――やはり、あいつの仕業だったか」
「君と彼女は親友だったはずだけど、もう疎遠になってしまったのかな? 古くからの付き合いだというのに」
「貴様らには関係ない」
「自分は聞いておいてそれか? 答えたくないことは答えなくてもいいさ。君にも色々あるんだろうからね。虚飾に満ちた政治屋との付き合いは楽しいか?」
「それは嫌味か? ――楽しいに決まっているだろう。でなければ、誰がそんなことをやるものか。貴様らは力で無理を通すのが好きなようだがな。お偉方は貴様らをこの上なく邪魔に思っているぞ」
「――ほう。初めて知ったよ。教えてくれてありがとう。これからは気をつけるようにしよう」
「あてこすりか? そんなことは百も承知だろうに。まあ、正直に言うと疲れることもある。私達が必死に守って……変えようとしたこの世界はそもそも変える価値があったのか、とな――」
「ある。全ての人々は救われなければならない」
「どのような手段を取ろうとも、か?」
「重要なのは手段ではなく目的だ。理想を心に描き、達成することこそが人の生きるべき道だ」
「お前が人の生きる道を語るか。まあ、いいさ。いい加減に疲れたんだよ、私は」
「一応言っておくが、私達はなにもしないぞ」
「それもそうだな。結局、自分を守るのは自分でしかないか。なあ――、どれだけの人々が死ぬと思う?」
「想像もつかんよ――」
二人が離れていく。
会話は終わりだ。
「奈落!」
む? 一夏か。
織斑教諭との話し合いが終わったばかりだというのに。
さて、彼にはどこまで話すべきだろう。
話しすぎると、思い出す危険がある。
「なんだ? 一夏。そう慌てるな。――何が聞きたい」
ま、これでよいだろう。
私が自分から危険な情報まで渡すことはしないが、彼が望むなら仕方ない。
例えそれで、彼が世界からはじき出されることになろうとも。
「あのゴーレムのことだよ。誰が作ったんだ?」
「少なくとも、私が所属する組織ではない。委員会の方でもない。そして、亡霊どものものでもない。そんな技術は持っていない」
「じゃあ、誰が作れるっていうんだ?」
「篠ノ之束だ。彼女だけが自動操縦プログラムに興味を示し、なおかつ開発が可能な勢力だ。もっとも、ただの状況証拠でしかない。実際、それが完成したのかどうかすら――」
「成功していないのか?」
「知らない、と言っているだろう。少なくとも、自動制御型ISが鹵獲されたという話は聞かない」
「だとしたら何の目的があって……」
「さて。彼女に聞いてみる他あるまい」
まあ、おそらくは一夏の状況を確認するためだろうが……それを言う必要はない。
「束さん、一体なんだってそんなことするんだよ……! 犠牲が出るところだったんだ。それも、箒が」
「一夏、篠ノ之束を正義だと思うか?」
「――え?」
「いや、それは皆を集めて話したほうが良いものかな……?」
「まあ、まだ早い。しっかりと休め。闘いは精神を削るものだ。お前はまだ闘いばかりではいられない。――セシリアも、鈴音も。明日の授業は休んでしまえ」
「んなことしたら、千冬姉が……」
「私が許可をとっておいてやる」
「――そこまで言うなら。わかった」
「ああ。他人の好意には甘えておけ。そこにどんな思惑が隠されていようと、な」