IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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新しい役者
第17話 波乱を呼ぶ転校生


「さて、残念だがオルコットと織斑は休みだ。機能の騒動で少し働いてもらったので、大事を取って休ませている。――それでは授業を始める」

 

織斑教諭は奈落に一瞬だけ猜疑の目を向けると、すぐに消し黒板へと向かう。

教師としての自覚が彼女に奈落を問い詰めることを許さない。

 

「さて、今日は貴様らに良い知らせがある。――転校生、入って来い」

 

入ってきたのは金髪の男と、銀髪の女。

男の方は明らかに男装をしていて、銀髪の方はなにやらとても小さい。

人間性とかそういう難しいことではなく、単純に背が。

人形のようでとても可愛らしいが、視線は極寒のそれだ。

 

「二人共、自己紹介をしろ」

 

金髪のほうが歩み出る。

こちらは貼り付けたような笑みだ。

おそらく俳優にでも習ったのだろう、貴公子のようなかっこよさがある。

さらにそこには素人のぎこちなさも。

 

「僕の名前はシャルル・デュノアといいます。僕と同じ境遇の方がこの学園にいらっしゃると聞いて転入させていただきました。色々と至らぬ点はあると思いますが、よろしくお願いしますね」

 

そう言って笑みを深くする。

――やれやれ、大根役者だな。

それで騙せるのは物を知らぬ女子高生くらいだ。

 

しかし、歓声が響く。

疑うものなど誰一人としていない最大級の歓迎。

 

ここは女子高生ばかりだったか。

まあ、愛らしいと言えないこともないかな。

 

「あの、織斑さんは……」

「欠席だそうだ。お前の面倒はそこの神亡にでも見てもらえ。怪しいやつだが、お前に何かするほど馬鹿なわけでもない」

 

「……あの」

「さて、次」

 

不満気なデュノアをさらりと無視した。

 

「私の名前はラウラ・ボーデウィッヒだ」

 

それきり黙りこくる。

周囲も圧倒されて、指一本動かせない空気が充満する。

 

「それだけか?」

「他に言うことはありません、教官」

 

「ここでは織斑先生と呼べ」

「……ですが」

 

「口答えをするな。――いいな?」

「……はい」

 

「さ、二人共席につけ。授業を始めるぞ」

 

ボーデウィッヒはその言葉を無視して前へ。

周囲をきょろきょろと見回し――いや、彼女の目付きの悪さは睥睨という言葉がふさわしく思える。

 

「織斑一夏とやらは何処だ? もしや逃げたか」

「そんなことはない。――逃げる必要などないからね」

 

教師を無視する傲岸不遜な彼女に私が答えてやる。

明らかに警戒と、そして蔑みが混ざった目線が突き刺さる。

 

「――貴様は神亡奈落か。一体何者だ? 私に一切の情報が伏せられるなど、尋常ではない。お前の目的は何だ」

「さて、目的ね――。ま、そんなものはとても簡単だよ。失敗作は失敗作なりに上手くやろうとしているのさ。わかるだろう? なあ、失敗作」

 

薄笑いを浮かべる。

ボーデウィッヒはカアっと赤面し、叫ぶ。

鬼のような形相で。

 

「っ貴様ぁ! この私を侮辱するか!?」

 

ISを展開。

黒いIS――黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)だ。

右肩にマウントされた馬鹿でかい大砲が特徴。

その彼女の小さな腕の数倍は大きな砲身を奈落へと向ける。

それでもなお、奈落は薄笑いを浮かべ続けISを展開することもしない。

 

「私を失敗作と呼ぶものは全員、殺してやる!」

 

そのまま撃ち放つ。

――いや、撃とうとした。

すでに指はトリガーを引いている。

 

けれど、撃てない。

射出されるべき弾は織斑教諭が出席簿で受け止めていた。

しぃん、と静寂が広がる。

 

――いや、流石のブリュンヒルデでも紙で大砲を受け止めることは不可能だ。

瞬間的に懐に入り込み、砲を覆ってしまうことで安全装置を起動させた。

ちなみに、この安全装置はゼロ距離射撃を防ぐために作られている。

ビーム兵器ならともかく、実弾兵器でゼロ距離射撃などかましたら、砲身は砕け散り破片が自分に襲いかかる。

もちろん、この場合ではそんなことは起こらない。

紙など一瞬で突き抜けてしまって障害物には成り得ないからだ。

だが、安全装置は赤外線の反射で判断しており、そもそも出席簿で塞がれた場合など想定されてはいなかった。

鉄板で塞がれていたらボーデウィッヒは洒落にならない重大なダメージを負っていた。

それを防ぐための全自動安全装置。

その全てをわかっていて、ブリュンヒルデはあの行動に出た。

人間離れした運動能力をもって。

だが、万が一、いや、億が一にでも安全装置が故障していたら織斑教諭も奈落も死んでいた。

ありえないほどの胆力である。

 

この場合、注目されるのは織斑教諭のその異常なまでの能力だ。

しかし、彼女が対処するとわかっていてもなお、ISを展開しなかった奈落の精神は常軌を逸している。

普通は防御しようと思うものだ。

安全だと頭でわかっていても、感情面はそう単純なものではない。

砲を構えた相手が殺意丸出しでぶっ殺すと、そう言っているのだから。

だが、彼はニヤニヤ笑いを続けていただけ。

まるで死ぬ時は死ぬ時で別にそれ自体が特別なことではない。

「死」など別に恐れることではない、とでも言うように。

 

「お前、神亡奈落――! お前は一体何だ? 人間なのか、その有様で? お前のような人間が居ることが許されるのか?」

「さてね。とりあえず人間の形はしている」

 

「まともに答える気はないか、この化け物が……!」

「――ああ、デュノア。さっさと席についた方がいい。怖い人に怒られたくないのなら、ね」

 

「へ? 僕」

 

ぽかん、と口を開けていた彼――彼女に声をかける。

精神の波動が完全に女だ。

仕草からもそれはまるわかりだ。

まあ、疑うことを知らない人間を騙せる程度には――演技できているのかな。

 

「そうだよ。君はこのいさかいとは無関係なんだから、怒られるのは馬鹿馬鹿しいだろ?」

「ああ、うん。そうだね。とりあえず席に座っておくよ。――で、僕の席はどこ?」

 

「あ、デュノア君の席はこっちですよ」

「あ、どうも。山田先生」

 

「はい。教師として当然のことですよ」

 

「この私を無視するなぁ!」

 

「ボーデウィッヒ。いつまで私を無視して騒ぐ気だ? どうやら叩きのめしてやらんと自分の立場もわきまえることができんらしいな」

 

あいかわらずの殴打音が小さな彼女の頭から響く。

 

「神亡、お前もあまり厄介事を起こすな。デュノアの世話に集中していろ。――いいな?」

「分かりました。織斑先生」

 

この場はそれで収まる。

空気はボーデウィッヒの殺気でギスギスしているが――。

私にとっては心地いいくらいだ。

 

 

 

「さて、授業中に君の様子を確認させてもらったが事前知識は十分なようだな?」

「あ、はい。勉強してきましたから」

 

授業が終わってすぐにデュノアと話す。

私が話しかけると他の女達は遠慮する。

一夏は甘いフェロモンでも出して女を引き寄せているかもしれんが、私の匂いは恐らく火薬の匂いだろう。

――つまり、危険。

――異常。

――混沌。

そして、終わりの見えない奈落。

私に惹かれる人間は相当特殊な精神構造をしている。

私から遠ざかるのはむしろ、健全とさえ言える。

この学園は健全な人間ばかりなようで中々にけっこう。

 

「君は専用機を持っているという話だったが」

「――はい。あなた方と同じく男でもISを扱えたということで、この学園に入学させて頂いていますから」

 

その設定は知っている。

だが、弱いな。

まずは自分の研究所で囲うのが先だろうに。

いかに偽物とはいえ、もっとマシな理由はでっちあげられなかったのか?

まあ、現場には関係ないか。

デュノア社社長がそう――どんなにアホでも。

現場は”やる”しかない。

 

「ISスーツも当然持っているな?」

「ええ、まあ」

 

「着て来ているか?」

「――まさか。バッグの中に入っていますよ」

 

それが何か? という顔をする。

あどけない少女のような顔だ。

――あまり、学園生活というものをしたことがないかのような。

 

「ならば、急ごう。着替えの時間は限られているが、残念なことに更衣室はこの教室から遠い」

「そうなんですか? 僕はちょっとわからないことだらけですから、よろしくお願いしますね」

 

ぺこり、とあ頭を下げる。

仕草がいちいち小動物らしい。

 

「ああ。困ったことがあれば何でも言うといい」

「ありがとうございます。それで、更衣室は?」

 

「こっちだ。ついて来い」

 

そう言った奈落はずんずんと歩いて行く。

横に並ぶデュノアへの気遣いなどまるでないようで、ずんずんと進んでいく。

デュノアはついて行くのだけで精一杯だ。

親鳥に続くひなのように歩く。

 

「あ、あの――」

「ついたぞ。とっとと着替えることだ」

 

「あ、うん」

 

なにか言いかけるものの口をつぐむ。

奈落がさっと一瞬で着替え、デュノアが後に続く。

奈落の方はスーツを一瞬で着替えるための特訓を受けていた。

たかが着替えと馬鹿にしてはいけない。

基地の中で襲撃を受けた場合、着替えにかける1秒が生死を分けるのだ。

 

「さて、授業に行こうか」

「はい」




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