IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第20話 学年別トーナメント

「災難みたいだったな」

「そうね。あんたが来てくれたらこんなに怪我しなくて済んだかもね――奈落」

 

鈴音は包帯でグルグル巻きにされてベッドに固定されている。

怪我をしているというのもあるが、半分以上は彼女を無理やりにでも安静にさせておくためだ。

こうやって縛り付けておかなければ、病室から出て行ってしまう。

 

「しかし、衝撃というのは外傷がなくとも脳に深刻な損壊を与えることがある。ゆっくり休んでおけ。――織斑教諭に謹慎を言いつけられた以上、な」

「ちょっと、それあたしが悪い事したみたいじゃない。謹慎じゃなくて出場停止よ。しゅつじょーてーし。頭にかなりの衝撃を受けたから近日中の試合は認められないって」

 

冗談じゃない、と首をふる鈴音。

確かに謹慎では一方的に鈴音が悪いように聞こえる。

なにせ、もう一方の当事者は別に何のお咎めも受けていないのだから。

鈴音は安全上の理由で安静にさせられているだけで、それだけだ。

けれど、奈落は同じことではないのかと言いたげだ。

悪いとかいいとか根本的で人間的なことを全くわかっていないのが奈落という人外だった。

 

「ふふん。しかし、お前もやるようになったな」

「うふふ。あれのこと。ま、最期のは完全に賭けだったわね。おかげでベッドに安静にしてなきゃなんない。成功したとはとても言えないわね」

 

ふるふると首を振る。

どうやら彼女にとっては博打はハズレだったみたいだ。

ボーデウィッヒの焦り様はそれこそ笑えるほどだったが――勝てなければ意味は無い、のだろう。

 

「ま、倒しきれなかったのだから、失敗といえるな」

「やっぱりね。あのときはなんか――キレてたのよ。恐怖がどっかに行ってたのね。だから、無茶苦茶出来た」

 

キレたとか何とか言う割には表情は涼しげだ。

あれだけ出来れば上等、とでも思っているのだろうか。

奈落も満足気な表情を浮かべている。

一歩間違えれば自爆で死んでいたのに。

 

「いや、それでこそだ。そうでなければ戦場にはいられない」

「戦場ねえ――。そうだ、あんたから見てあれはどうだったの? 最期の攻撃、暴発は」

 

――暴発。

それは鈴音がAICに囚われた後、ボーデウィッヒが解除と同時に砲弾を打ち込もうとして吹き飛ばされた爆発のことだろうか。

敵の悔しがる表情から鈴音が意図的にやったことは分かる。

だが、あの爆発がとどめを刺したのは――むしろ鈴音の方だった。

だから暴発と呼んだのだろうか。

 

「良い攻撃だった。龍咆を止められることを承知で打ち続ける。そうすれば空間上に積み重なっていく。同空間に存在できない実弾ではできんな。そして、その威力は2倍や3倍……どころではない」

 

「しかし、そこまで威力を高めると――もはやコントロールはきかない。爆弾で砲弾をぶっ飛ばすようなものだ。一応前にこそ飛ぶが、すぐ前に敵がいなければ当るものではない。まあ、今回はすぐ前に敵がいたが」

 

「暴発なだけにその威力は前だけには飛ばない。すさまじい衝撃が撃った本人に襲いかかり、下方に叩きつけられる。そういうダメージはシールドエネルギーこそ減りにくいが――操縦者に深刻な損傷を与える。全身の骨がバラバラにならなくて幸運だったな」

 

「だからこそ攻撃と呼ぶより暴発と呼ぶほうが正しいわけだ。その暴虐とすら呼べる威力でもボーデウィッヒが沈まなかったのは……単に彼女がシールドエネルギーを大会規定レベルまでデチューンしておかなかっただけだ。後ろにセシリアが控えていた以上、お前の勝ちだ」

 

奈落が解説し、称賛を添える。

しかしまあ、本人でもないのによくぞこれだけ分かるものだ。

 

だが、二人目がいたから勝利が確実とはなんともまあ、卑怯とかそういうことを気にしないお人のようだ。

ボーデウィッヒの違法行為を責めるでもない。

そんなものはやった奴が勝ちだとしか思っちゃいない。

 

「――そ。あんたはあたしの勝ちって言ってくれるわけね。ま、ズルはお互い様ってとこかしら?」

「さてね。競技でなければルールなど、どうやって破るか考えるものでしかない。国際法だの慣習だのは出来ることなら破ってしまったほうがいいのだ。なぜなら、勝てば咎められることはないのだから」

 

「後でなんか言われないのかしら?」

「言われるだけだ。実際の行動に移す国家など存在しない」

 

「なるほどね。まあ、そっちはどうでもいいわよ。国家とか言われても実感なんてわかないしねえ。あんたにとっちゃ身近なことかもしんないけど、ね」

「まあね。あれらの愚かさは身にしみている」

 

「へぇ。そういうお偉方って難しいことでも考えているものなんじゃないの? だから、私達には一見バカらしく思えることもやる」

「――まさか。彼らは考えていることは自分の保身と、どうやって偉そうに振る舞おうかということくらいさ。あいつらは頑張って自分たちのしていることを難しく見せようとしているに過ぎない……なんて愚鈍。」

 

「お偉方に良い思いは抱いてないようね。で、学年別トーナメントの組み合わせは?」

「一夏がセシリアと、私がデュノアとだ」

 

学年別トーナメントとはIS学園の行事の一つだ。

お偉方を集めて生徒がどれだけの技量を持っているか披露する。

成績が良ければ企業や政府からのスカウトも受けることが出来る重要な行事だ。

貴重な専用機持ちになれるチャンス。

もっとも、すでに専用機を持っている彼らには優秀さを披露する場でしかない。

無様を見せればISを剥奪されてもおかしくはない。

その意味では誰も気は抜けない。

 

「ふーん。セシリアのやつ、私が出場停止を受けたのをいいことに……!」

 

とはいえ、恋する乙女にはその辺の事情は関係無いようだ。

一夏とタッグを組むなどという抜け駆けに歯ぎしりする。

だが、すぐに気を取り直す。

 

「まあ、仕方ないわね。あんたはデュノアと上手くやってるの? お世話役さん」

「さて、まだどうにも壁があるようだがな」

 

からかうような調子で聞かれた奈落は苦々しい顔を隠さない。

しかし、その顔はどちらかと言うと、ごちそうがあるけれどどっちかしか食べられないといった顔。

 

「なるほど、あの男装には突っ込んでないわけね」

「――くく。気づいていたか」

 

デュノアは男装をして男と偽って学園に来た。

その目的はたった三人しかいない男性IS操縦者としてもてはやされること――

――などではなく他の男性操縦者に近づくことだ。

操縦データを盗ってこれれば上出来、生体データを盗めれば文句なしというわけだ。

 

「まあね。あのディスクを受け取った日から、周囲を警戒するようになったわ。以前までの自分がどれだけうかつで、呆れるほどたくさんのことを見逃していたのを痛感したわ」

 

やれやれ、あたしってどれだけおバカな娘に見えてたのかしら――と嘆息する。

 

「それもそうだ。一般人に戦場の心得は必要ない。――別に戦場跡に生身で地雷撤去を死に行くわけでもないだろう?」

 

だが、奈落はそれが一般人のあるべき姿だという。

慰めようとしているのだか、己の信念だかは分からない。

 

「まあ、ね。戦士として生きるってのは、中々にキツイわ。んで、戦士さんは秘密を嗅ぎまわったりしないのかしら?」

「あいつの秘密は知っている。わざわざ本人に聞く必要はないな」

 

デュノアは必死にその秘密を隠している。

知れたら終わりなのだから当然。

全部自分で勝手にやったことにされ、一生牢屋に繋がれる。

加害者――この場合はデュノア社の重役連中は被害者気取りでのうのうと表を生きる。

そんな重大な秘密を奈落はすでに知っているらしい。

だが、彼には重大な秘密を持つ者のもったいらしさが欠けている。

お偉方など、秘密を持つこと事態を楽しんだりするものだ。

だが、自分が秘密を持ってるのは当然で大したことじゃないと言わんばかり。

秘密というものを全く軽く扱っている。

 

「なるほどね――。ま、あたしはその秘密とやらを聞くのはやめとくわ。野暮ってものだし、何より余計なことには関わらないのが一番」

「懸命な選択だ。他人の不幸を抱え込む必要はない。しかし、どうしたものかな?」

 

好奇心は猫をも殺す。

しかし、何も知らない馬鹿は巻き込まれて死ぬ。

生き残るには加減を知ることが重要だ――鈴音のように。

 

「なによ? あんたでもどうしようもない問題がデュノアにあるっての」

「いや。別に対処はできるが――ボーデウィッヒの件もある。複雑というより、一つずつ片付けておいたほうが良い案件だな。自分の問題に首を突っ込まれている最中に、その人物が他の人間にご執心では格好がつかないだろう?」

 

「ああ、そういう問題。なんだったら、あたしがどっちか担当するわよ? 必要もない心配事を背負うのは嫌だけど、そういうわけなら別に構わないわよ。どうせISには乗れないしね」

「助かる――と言いたいことだが、私の方でどうにかする。他人に任せるには――彼女たちは少し面白すぎるんでね」

 

そこで奈落はニタリとした悪魔的な笑みを見せる。

鈴音は怯むでもなく。

 

「あんたの獲物ってわけ?」

 

と返した。

 

「そういうことだ」

 

「じゃ、手伝いが必要になったら言いなさい。いくらでも手伝ってあげるわ」

「それはありがたい。なら、少し手伝ってもらおうか」

 

「へぇ。何の? なんか、さっき上げた二人に何の関係もなさそうな気がする」

「カンが良いな、そのとおりだ。――を頼む」

 

「へぇ? なに、そんなに篠ノ之が気になるの? ま、それほど仲が良くないあたしだから調べられることもあるか。いいわよ。じゃ、こっちはこっちでやっとくわね」

「頼む。では、私はデュノアのところに行こう。どれだけ時間があるかもわからないしな」

 

「あ、一つ聞き忘れてたわ。ボーデウィッヒが当るのは誰?」

「――私だ」

 

きっぱりと断言する。

どうやら彼女にとっては不幸なことに初戦から奈落と当たるようだ。

 

「そいつはご愁傷さまね」

「それほどでもないさ。観客の前だからな、あまり手札は見せない」

 

「それでも、あの小娘はあんたには絶対に勝てないでしょ」

「そうだな、奴は戦いを根本的に勘違いしている。――あんなんで、よく軍人だと胸をはれる」

 

「ま、お手柔らかにしてやって。あんたの良心の範囲内で」

「善処する」

 

それって、考慮しないと言ってるも同然じゃない――とつぶやいた鈴音の言葉が漏れる前に奈落は病室を後にした。

 

 

 

たった一人の病室で鈴音はつぶやく。

 

「さてさて、セシリアは上手いことやってるかしらね? ま、一夏のことだからそっち方面は心配ないわね。さて、こっちはこっちで動きますか。正確には動かすね。携帯携帯っと」

 

箒に電話をかける。

 

「あー。ちょっと聞きたいことあるからあたしの病室に来てくんない?」

 

いきなりそんなことを言い出す。

相手に大事な用事なんてあるわけがないとたかをくくっている。

 

「え? 用事があるって……どうせ一夏はセシリアと訓練中でしょ」

 

「うんうん。あんたはストーカーなんかしてないわよ。で、話なんだけどね」

 

「え? 本当に違う? 部活? じゃ、それが終わった後でいいわよ。こっちは暇なんだから」

 

「自分は暇じゃない? 10分位ならいいでしょ。一夏が離れていって焦ってるのはわかるけど、そんなに精神的に余裕が無いと小皺が増えるわよ」

 

「――っ! 耳元で叫ばないでよ、もう。とにかく、練習とやらが終わったら来なさい。いいわね?」

 

「……あーあーあー、聞こえなーい。じゃ、待ってるわね」

 

数分後には肩を怒らせた箒が病室の扉を蹴り開けていた。

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