IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第23話 奈落VSボーデウィッヒ

「このままでは埒が明かんな」

「ほう?」

 

銃撃戦を繰り広げる彼らは足を止める。

 

「お前の弾は私には届かない」

 

奈落の放った弾が全て空中で止まる。

彼女は空中で仁王立ちしたままだ。

――AIC(慣性停止結界)という結界内の物体の速度を0にする絶対の盾。

AICによる結界は貫けない。

それが現実の兵器であれば絶対に。

 

「――なるほど。それが君のご自慢の兵器か」

 

奈落は銃撃をやめた――その瞬間にボーデウィッヒが狙い定めた砲弾が彼を狙う。

……あっさりと避けてしまった。

攻撃が通用しないことに驚いていたら食らうほかなかっただろう。

だが奈落はそもそも自分の攻撃が通用しなかったとしても、しょせんそれだけのこととしか思わない。

 

武器は武器であり、使えればなんでもいいのだ。

武器ごときに感情移入などするわけがない。

彼は敵の示威行為で傷つくほど繊細ではないし、敵の言葉を素直に信じるほどロマンチストでもない。

ひたすら冷静に、そして狂的な熱意でもって現実に対処する。

普通であれば絶対の盾に絶望するところであっても――

AICの脅威は現実的に対処するべき問題でしかない。

 

「大した盾だ。が、種が割れていれば恐ろしくもない」

 

奈落は悠然と宣言する。

絶対の盾など大したことはない、と。

 

「――ほほう? ならば、貴様にはAICが破れるとでも言うのか」

 

結局、鈴音には二度もしてやられたわけだが――

――あれは自爆でしかなかった。

勝つのは自分だと、精一杯いきがってみせる。

 

「いいぞ。では、かけてみたまえ。それの本領は敵の動きを止めての一撃必殺だろう? ま、

最強の盾というのも否定はしない。――無敵ではなくてもな」

 

なんと、奈落は動きを止めてしまった。

来いよ、とばかりに手をふってみせる。

彼は一回AICを見ただけで発動には集中力が必要で、複雑な動きをするものは対象にはできないことを見抜いてしまっていた。

いや、使ったところを分析しただけではない。

人はただ立っているだけでも多くの情報を人に与えてしまう。

試合の中ではそれこそ膨大なまでのデータを提供することになる。

それは隠して使っていない兵器に対しても同じである。

 

「ならば、やってやるさ!」

 

ボーデウィッヒは挑発に乗る。

軍人とは思えない対応。

冷静さを失っている。

恐怖を抱いているのかもしれない。

目はあらぬ方向をさまよっている。

 

「む……動けないとはこのような感じか。――しかし速度を無効化するのなら、なぜ心臓は動いているのだろうな?」

 

言葉通り、彼は動かず結界に囚われる。

彼の性格からして不意打ちにためらいを持つとは思えないが、試合をただの遊びだとしか思っていないこともありえる。

ずいぶんとなめた態度だ――このまま撃墜されれば笑いものになる。

 

「私が知るか!」

 

激高する。

そもそもボーデウィッヒは原理など知らない。

使用できるだけ、なのだ。

 

「原理くらいは知っておけ、応用ができないぞ。単に物質の情報を上書きして速度を0にしているんだよ。エネルギーを考えても単純に自分を動かす分と相手を止める分で二倍の出力が必要だな」

「それがどうした? それがわかればAICが効かないとでも」

 

ぎすぎすとした空気が満ちる。

動けない奈落には余裕があり、動けるボーデウィッヒは小動物のように怯える。

それは酷く奇妙な相対だった。

 

「まあ、ヒントくらいにはなるかな。しょせんAICは対象ISの慣性制御を上書きしてキャンセルしているにすぎないんだ」

「ならば、更にキャンセルしてみせることだな。――できるなら、な!」

 

がたがたと震える銃を向ける。

それを受けても、奈落には虚無的な嗤いを浮かべ続ける。

 

「それは無理だ。慣性無効化装置の無効化装置など、どんな笑い話だ」

「ならば、死に行け」

 

ようやくのことで引き金に指をかける。

鈴音との一戦が心に深い傷を刻んだのだろう。

絶対の防御のはずが、二度も反撃を受けたのだから。

 

「そいつは御免だ。――しかし、お前は阿呆だな」

「なんだと?」

 

その瞬間、奈落はボーデウィッヒを殴った。

 

「……っがは!? なぜ、動け――」

 

驚愕する。

絶対に不可能だと思いながらも、心の何処かでは破られるかもしれないと思っていた。

絶対の盾には隙があった。

そのものは破られてないにしろ、これで安心しろというのは無理だ。

けれど、本当に破られてしまうものか……!

本国での実践試験では誰一人として手も足も出なかったのに。

 

「上書きされたのなら、初期化すればいいだけだろう」

 

奈落はこともなげに種明かしする。

だが、それは言葉ほどに容易なことであるはずがない。

ISそのものが未成熟な兵器とはいえ既存の武器や技術で敗れるのなら、たとえそれが机上のものであろうと事前にわかる。

データだけは積み重なっているのだ。

――いや、可能性なら一つだけある。

 

それは机上の空論ではあるが――彼の言った通り初期化するということ。

初期化するのはPIC(慣性制御装置)だけだ。

ISはPICによって自在に空を舞う。

そのPICがAICによって慣性を――あるいは速度を0にされるから、動けなくなる。

だから一度初期化して、AICをPICで上書きする。

そうすれば、理論上はAICを破れる。

破れるが――

 

「馬鹿な! それにはハーモナイズが必要なはず。いや、戦闘中にそんな――整備を行える人間など居るはずがあるか!?」

 

ハーモナイズはパソコンと同じものと考えて問題ない。

サイズはけっこうでかい。

ISを囲める程度だと考えて問題はない。

整備の時にISコアにつなげて色々なデータを弄るものだ。

彼のISにそんなものが接続されている様子はない。

そもそも接続されていたとしても、戦闘中にやるのは彼女の言うとおり無茶だ。

戦闘と整備は全く違う。

両手で違う絵柄を書くどころか、両手で違うゲームをするようなものだ。

それも、一方はタッチペン、一方は十字キーで。

だが――

 

「私もこのISも特別製だということだよ」

 

奈落はさらりと言ってしまう。

人間とは思えないほどの能力――しかし、彼は人間とは呼べない人外だった。

 

「く……!」

 

うめいても仕方ない。

いや――

 

「貴様……! 貴様ァァ」

 

屈辱は憎しみへと変わる。

うめきは怨嗟へと。

 

「貴様だけは私の手で倒してやる」

「倒す? 君が?」

 

「貴様の動きは十分追いきれる。ならば、倒せないはずがない。戦闘中に整備ができたところでどうしたというのだ……!」

「そ、私がキミの手に終える相手か。そりゃ良かった。なら、もう少し本気を出してもいいかな?」

 

「ほん……き……? お前は一体何を言っている……!」

「至極単純なことさ。私はこれまで、君の土俵で戦ってあげた。だが、これからは苦手な射撃戦ではなく、接近戦で行こうと思ったんだよ」

 

「私との戦いはお遊びというわけか?」

「その通り、中々に楽しく遊べたよ」

 

「ふざけるなァ!」

 

ボーデウィッヒは駄々をこねるように弾幕を張る。

表情が泣き出しそうであっても、さすがは軍人を名乗るだけのことはある。

きれいな弾幕は効率的に敵の侵入を断つ。

だが、奈落は弾幕など物ともしない。

ひらひらとかわして――あっという間に懐に入る。

 

「まず一回」

 

軽く殴りつけて、ひいてみせる。

その目的は実力の誇示にほかならない。

ダメージにはならない。

剣で斬ればよかったのだ。

なにせ、もう一方の手にはしっかりと握られていたのだから。

 

「二回、三回、四回――。はは、これが君の実力か……素晴らしいものだな?」

 

小突いて、殴って、時折剣で斬る。

明らかにいたぶっている。

 

「おのれ、おのれェェ。この私が、化け物なぞに……」

 

あてずっぽうに撃ってみる。

……当たらない。

 

「ははは! 奇跡的な弱さだ。これで良く軍人と名乗れた」

「黙れ! 貴様は大人しく死んでいろよォ」

 

それでも撃つ。

無駄とわかりながらも、撃たざるを得ない。

紛れも無い恐怖のために。

 

「くく。黙らぬさ、ああ――黙らぬ。お前が弱すぎて、このおしゃべりな口が閉じてくれんのだよ」

「口を閉じろと言っているぅぅぅ!」

 

「……弱いな。しょせん、お前ごときはその程度」

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――

 

次第にろれつが怪しくなってくる。

躁状態の如き狂乱を晒し始める。

 

「黙れよぉぉぉぉ!」

 

当てずっぽうに突撃して、バリアに跳ね返される。

他の競技だったら場外で負けていただろう。

 

「お前はただの失敗作だよ――」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

斬りかかる。

髪を振り回して、武術も何も忘れたかのように。

 

「要らないものは、捨ててしまおう」

 

かつてボーデウィッヒを絶望に沈めたその一言とともに、刃を振り下ろす。

あっけなく倒れ去る。

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