IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第24話 ヴァルキリー・トレースシステム

……力が欲しいか?

 

奈落に完膚なきまでにやられたボーデウィッヒは声を聞く。

闇に落ちた意識で誰とも知れぬ者の声を聞く。

なんだ? どこから聞こえてくるのだ――

 

……敵を倒す力を、圧倒的な暴力を望むか?

 

貴様は、誰だ?

誰とも知れぬ者の言葉など聞けるか。

 

……私は、あなた

 

私、だと?

どういう――

 

……あなたという意識から産まれ、ネットワークの海にただよう偽物の魂

 

こいつは一体何を言っている?

いや、意識が産まれる――それに、ネットワーク……?

聞いたことがある。

なんだったか……

 

……私は常にあなたとともにある

 

ともにある?

この私を気配すら気取らせずに四六時中付け回すだと――そんなことは不可能だ。馬鹿げている。

いや、違う。

いつでも肌身離さず身につけているものがあるではないか。

それは――

 

……私はシュヴァツェア・レーゲンと呼ばれるISのコアに生まれた意識

 

そういうことか。

だが、コアが私に何のようだ?

負けた私を捨てるのか。

 

……いいえ、私は貴方。私もまた悔しいのですよ

 

悔しいだと?

それは違うな。

 

……なにが、違うと?

 

私は悔しいのではない。

――憎いのだ、奴が。

そして、自分の弱さが。

憎くて憎くてたまらない。

自分もあいつも――いや、目につく人間はだれだって殺してやりたい。

 

……なぜ? あなたの憎しみは理解できない。私はあなたのはずなのに

 

そんなもの、私だって知るか。

憎いから、憎い。

そこに理由などあるものかよ。

――いや、もしかしたら私が失敗作だからかもしれんな。

あの空恐ろしい敵ならば、遺伝子工学によって作られた偽物の人間だからと言うのかもしれない。

そんなのはどうでもいい。

誰とも知れぬものの言葉を聞けるか、と私は言ったな?

 

……ええ

 

前言を撤回する。

お前が誰であろうと、構いやしない。

私がどうなろうとも。

殺せるのなら、それでいい。

私に殺させろ。

 

……誰を殺そうというのですか?

 

だれでもいい。

だが、一人目は決めている。

 

……聞きましょう

 

神亡奈落。

コイツを殺す。

奴は、私を失敗作だと言った……!

 

……分かりました。授けましょう、力を

 

よこせ。

お前のすべての力を。

そうすれば、お前も殺してやる。

 

………………?

 

くく。

殺してやる、全てを。

 

……あなたは、なにを――?

 

……「コアに異常発生、VTシステムを強制発動」

 

……「解除不可」

 

……あなたは、なにを――? 「VTシステム、リミッターを開放」

 

……「パイロットの生命維持システム、限定解除」

 

……死ぬおつもりですか? 「コアからの指令を拒否。操縦者にすべての権限を移譲」

 

……私は、何も出来ない――

 

 

視界がひらける。

良い気分だ。

 

「さて、殺すぞ。神亡奈落」

「おやおや、これは――やっと起きたか。遅い目覚めだね」

 

シュヴァルツェア・レーゲンの外装が“おかしく”なる。

観客は己の目がおかしくなったのかと疑う。

だが、いくら目をこすっても見えるものは同じ。

装甲が泥のように変形している。

ぐにゃぐにゃと流動し、一時として止まることはない。

 

「は!」

 

踏み込む、その瞬間に変形は完了した。

溶けた装甲は腕へと集まり固定化された。

腕は剣へと冒涜的な変形を遂げる。

そして、その動きは――

 

「早いな!」

 

奈落であろうと回避はできない。

防御する。

初めて奈落の機体に傷がつく。

 

「はは! ははははははは」

「ぬぐ――!」

 

奈落のISが大きく弾き飛ばされる。

ボーデウィッヒは殺気に濡れた眼光で、凍てつかせるような冷気を放つ。

彼女はもはや殺気しか持たない怪物と化していた。

 

「――ぐ。くっく……ひひゃ。コード――【666】(トリプルシックス) モード――【獣】(ビースト)――発動!」

 

奈落はシステムを開放する。

システムによって人為的に極限状態を作り出し、操縦者を強化する。

手負いの獣が襲いかかる。

 

嬌声とともに、獣同士がぶつかり合う。

 

 

 

アリーナ内の戦闘を監視する情報統制室は喧騒にあふれている。

いつもは、こうではない。

ISの安全装置は素晴らしく、操縦者を案ずるような事態はほとんどなかった。

だが、今は――

 

「あの動き、限定的ではありますがボーデウィッヒさんのISには条約で禁止されているヴァルキリー・トレースシステムが組み込まれているのでは? 危険すぎるという理由で開発は行われていないはずですよ!」

「落ち着け、山田君」

 

「それだけではありません。神亡さんの生体データを見てください。どう見ても異常です。心拍数、脈拍ともに人体が耐えられるレベルを超えています!」

「だから、落ち着け」

 

「落ち着けません! このままじゃ、二人とも死んでしまうかもしれないのですよ。一刻も早く試合を中断させて救わなければ」

「その必要はない」

 

「あります!」

「なら、逆に聞くが――どう止める? 二人に止まる意思はなさそうだぞ」

 

「それは、教師部隊にお願いして」

「無駄だ。というよりは本末転倒だな。止めるつもりが、逆に怪我をさせるハメになるぞ」

 

「でもでも、なんとかしなきゃ――」

「放っておけ」

 

「そんな、冷たい――」

「ボーデウィッヒなら大丈夫だ。VTシステムを上手く使っている。ゲームで言うコンボか? 基本的な動きは自分で、特定の技はシステム任せ。アレなら、酷くても肉離れを起こす程度で済む」

 

「じゃあ、神亡さんは――」

「そちらのほうもおそらく問題はないはずだ。ボーデウィッヒはVTシステムの存在すら知らされていないだろうし、発動したのも偶然か何らかの要素があってのことだろうが――神亡は自分で発動させたんだ。いくら奴とて、自滅するような兵器は使うまいよ」

 

こんなところではな、とつぶやく。

そのつぶやきは誰にも聞かれることなく消える。

 

「見ているしかないのですか?」

「そういうことだ。だが、心配することはない」

 

「え?」

「神亡はボーデウィッヒを気に入っていた。あいつがどんな精神構造をしているのか、ただの化け物なのか、それとも人間性と呼べるものを持っているのかはわからん」

 

「わからんが――こんなところでお気に入りが失われるのを良しとはしないはずだ」

「そう、ですね」

 

「精々見させてもらおう。あいつらの力を」

「悠長に観察する気にはなれませんよ。終わった後、すぐに保健室に運べる準備だけはしておきますね」

 

二人が見つめる画面の中には二人の修羅が戦っている。

一人は機械による超絶的な剣技を強制される剣士。

一人は機械により励起された獣性を強制される獣。

激しくぶつかり合っている。

 

 

 

この二人の動きには根本に機械による人間の操作という共通点がある。

しかし、動き方は真逆。

剣士は静と動を攻撃の瞬間に切り替え、舞う。

獣は動のみにて常に牙をむき、喰らいつく。

 

何度も何度も組み合っては離れ――攻撃が当たることはない。

だが、その攻防も永遠ではない。

とうとう剣士は獣の猛攻をさばききれずに膝をついた。

 

獣は飛びかかり、爪を振り下ろす。

スライムのようにうごめく装甲に対して常識が通用するかは疑問だが、通常のIS相手では一撃で片がつく。

それもそのはず――爪の造形を持つその兵器は実質の所杭打ち機(シールドバンカー)なのだ。

そもそも、杭は射程が短すぎるゆえに扱いが難しすぎる超威力兵器である。

一撃必殺の威力を持つのは当然。

 

 

剣士は必殺の爪を受け流す。

それだけではない。

その威力を腕で吸収する。

もちろん、普通の腕ではそのような超絶技巧を実行できるものではない。

達人というのは、己の体そのものを技術に適合させているものだ。

体よりも技術が先にある。

気の遠くなるような修練が矛盾を克服するのである。

達人は常人とは体そのものが違う。

この絶技を実行するには腕に柔軟性が足りない。

ただの軍人では技術に生涯を捧げた武人たりえない。

 

だから、ISは操縦者の腕を“柔らかくした”。

筋繊維を断裂させる。

それはただの筋肉痛の原因でしかないが、度を越せば激しい痛みに襲われる。

もちろん、腕の柔軟性を変えるのは度を超えるなんてものじゃない。

すでに全身の筋肉は断裂し、激しい痛みがボーデウィッヒを襲っている。

 

だが、そんなものは関係ない。

そう、殺せさえすれば関係ないのだ。

とうとう剣士は相手の必殺の威力全てを吸収することに成功した。

 

獣よりも獣らしく顔を歪めた剣士は――

――機械よりも冷徹な獣に自分と相手、全ての力を乗せて斬りつける。

 

 

その攻撃は杭打ちなどよりもはるかに強い。

己が斬撃だけでも一撃必殺。

それに、相手の必殺の力すら加算させた。

一撃必殺に倍する斬撃。

これならば、絶対防御ごと敵を斬れる。

 

 

笑いを浮かべた剣士は――

――ぐしゃ、という音とともに殴り飛ばされた。

 

絶対の一撃。

獣は、それすらも跳ね返した。

やったことは剣士と同じ。

相手の力を吸収し、そのまま自分の力とともに叩きつけるというもの。

 

だが、難易度は桁違いだ。

威力が2倍になれば困難は単純に2倍になるどころか――2乗にも3乗にもなる。

だが、危険度でさえ同じ。

先の攻撃でさえ相手の体そのものに危険を及ばすのだ。

彼は確実に剣士を戦闘不能にしてしまった。

いや、それで済めば御の字だ。

まずは何よりも、生命をどう保つかが問題になる。

それほどまでに強い一撃。

 

山田教諭の用意した救助部隊がすぐに蘇生処置を開始する。

あばらが完全に砕かれている。

さらにVTシステムの使用で体そのものがぼろぼろだ。

彼女自身の生きる力に期待したくても、体がこれでは……!

この学園には万が一のために緊急外科治療施設も整っている。

滅多に――どころか創設以来一度も使われたことのないその施設に明かりが灯る。

 

必死の救急が始まった。

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