IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第29話 誘拐の真相

「ちょっと、あんたら何やってんの!?」

「鈴音? お前のほうこそどうしてこのクラスに――っていつも来てるか」

 

大声をあげてやってきたのは鈴音。

今は放課後で、放課後になったらいつも一夏に会いに来る。

あいもかわらずの見飽きた光景。

だが、いろいろとごたごたがあった奈落には懐かしく思えて苦笑する。

 

「そうよ。ちょっと聞こえたんだけど、セシリアと二人で買い物に行くってどういうことよ」

「いや、奈落達三人もいっしょだぜ」

 

一夏と鈴音はそんな奈落の様子に気づきもせずに騒ぎ始める。

どうやら鈴音はおいてきぼりを食らいそうになって慌てているようだ。

だが、一夏は全く気づきもせずに――なにか必要なものでもあったのかな? と首を傾げる。

 

「へ? デュノアと奈落はいいとして――ボーデウィッヒも?」

「ああ、そういうことになってるけど、どうかしたのか」

 

鈴音はラウラが奈落にキスをするところを見ていない。

自分が知っているのは憎しみもあらわに今にも襲いかかりそうな彼女しか知らないのだから、キス騒動が噂になっていてもはいそうですかとは頷けない。

冷水を浴びせられたかのように頭が冷えてくる。

そもそも最初に聞こうと思っていたのはその件だったのだ。

 

「あいつら喧嘩してたじゃない。それはどうなったのよ?」

「え? いや、それは俺も知らねえ。どうなんだ、ボーデウィッヒ――って、おまえ! 千冬姉の技を使っていただろ、アレはどういうことだ!?」

 

話がかなり戻った気がするが――二日前のことである。

そして、昨日の戦闘は誰も知らない。

VTシステムを使ったこと――それを本人に聞ける初めての機会が今だ。

……忘れかけていたようではあるが。

 

「何のことだ?」

 

しかし、ラウラは首を傾げる。

本気で言っている。

機能があれだけ濃かったのだから、すぐに思い出せずとも責められまい。

 

「忘れたとは言わせねえ、お前が奈落に負けた試合のことだよ!」

 

とはいえ、昨日のことを知らなくてはそんな殊勝な考えも出てこない。

噛みつかんばかりの勢いで迫る。

考えなしの突進こそしなかったものの――かなり怒っていたのだ。

言うなれば、あの敬愛する姉の技術を“つまみ食い”された。

 

「たしかにあの試合は負けたが、次に勝っ――」

「それは知ってるよ。お前は何故あの技を使った?」

 

嫌なことを思い出したかのような顔をするラウラ。

実際、負けた記憶なんてものは屈辱でしか無いのだろう。

それにも関わらず、ずけずけと言いたいことを言う一夏。

 

「使ったからといってどうだというのだ?」

 

喧嘩腰の二人は睨み合う。

今にも取っ組み合いに発展しそうだ。

 

「理由によっては――お前を倒す」

「ほう? 貴様ごときが言うものだな。――だが、聞いたところで意味は無い。あデータを入れたのは上層部だ。たまたま手元にあったブリュンヒルデのデータというだけだろう」

 

興味すらなさ気に言ったラウラに――一夏はため息をつく。

ラウラの顔は何だか余裕に満ちており、負ける気がしないと全身で言っていた。

それに対する一夏は、どうせそんなこったろうと思ったよ畜生と……まるでモテるのにまったく自覚のない悪友を前にしたようないわく言いがたい表情である。

 

「やっぱり、か。あーあ」

「――で? 私を倒してみるか。不可能だがな」

 

ラウラが威圧する。

いや、本人にはそんな気はないのかもしれない。

本気で――自分に敵うものはいないと思っている。

その絶対的な自身が自身に威厳を与えているのだ。

 

「手合わせはこちらからお願いしたいくらいだね。でもお前に勝っても――VTシステムの文句を言っても――しょうがないだろ」

 

そんな威圧を一夏はひょうひょうと受け流してしまった。

それどころか、人好きのする笑顔を浮かべている。

さすがは女たらし――とこれは褒め言葉ではないかもしれないが。

 

「――ち。確かに私には上の事情などわからんが、お前は叩きのめすことは出来るぞ」

「それは置いといて。お前はそのことをどう思ってるんだよ? 憧れの教官がいいように使われてるんだぞ」

 

あくまで矛を収めたのはラウラにであってVTシステムのことを許したわけではないらしい。

それもそうだ。

ラウラは勝手に違法なシステムを組み込まれていただけなのだから。

でなければ一生動けなくなることなどない。

悪いのはあくまでそんな阿呆なシステムに千冬のデータを組み込んだやつだけ、と一夏の中では決着していた。

 

「ん? そのことはもはやどうでもいい」

 

だが、一夏はそれはラウラも同じだろうと思っていた。

尊敬する人のデータが勝手に使われていていたのだから、軋轢も生じただろうと――

だが実際は超然と構えているだけで、何かを思っている様子もない。

 

「はぁ? どうでもいいって――織斑先生のことで突っかかられた俺としては理由くらい聞きたいんだが」

 

だが、それでは納得がいかない。

 

「ああ、織斑先生がモンテグロッソの連続優勝を逃したのは貴様のせいだからな」

「――ぐ。それは……」

 

言葉につまる一夏。

それはずっと気に病んでいたことだった。

自分のせいで――と何度も責任をとって自殺しようとも思った。

だが……そんなことをしても逆に姉を悲しませるだけなのはわかっていたのでしなかった。

 

「一夏が気にすることはないぞ」

 

奈落がフォローする。

ただ、本気で言っている。

彼は嘘で他人を慰めることなど想像だにしない人物だ。

かなりの部分で人とは本質的な意味で神経が違うと言えるが――この場合は安心できる。

 

「それについては私も知ってる。――で、真相はどうなの? 知り合いが連続優勝逃してけっこう残念だったんだから、知る権利くらいあるんじゃない?」

 

と、鈴音。

こちらはこちらで震えだした一夏を抱きしめてやる。

常にこの積極性を発揮していけば何かが違ったかも知れない。

だが、今は母親のようにぬくもりを与えている。

 

「いや、あれは俺のせいだ。俺に力さえあれば――」

 

後悔を隠し切れずにうずくまる。

……顔に爪を立てそうだ。

彼が自傷に走らなかったのは武術をやっていたからもあるが――そんなことをすれば絶対に姉に気づかれるからだ。

だが、今の彼にはほんの僅かばかりも他人を気にかける余裕があるようには思えない。

 

「それは問題では無いと思うがな。お前は当時子供で、守られる存在だ。自分で自分を守ることを期待されないし、されるべきでもない」

 

奈落が彼独特の価値観で慰めようとする。

するが……一夏には聞こえていない。

肩を揺するといったことはせず、憂いを含んだ目で悲しむ一夏を見つめている。

 

「ふーん、護衛とかはいなかったの? 曲がりなりにも重要人物でしょ、前回優勝者の弟なんて」

 

と、シャルが言う。

少し空気が読めていないかもしれない。

 

「いたよ、ドイツ軍から派遣された量産型ISに乗っている奴が護衛を務めていた」

「日本人じゃないんだ」

 

二人で話し始める。

 

「日本はとにかく発言権がない。海外に出る以上、他国の言うことを飲むしか無いのさ。それで、護衛は他国の人間が行うこととなった。ぜひとも自国の優勝を、と願う他国の人間がな」

「へー、その人は一夏がさらわれた時に何してたの?」

 

「尾行していた。その情報をドイツは織斑教諭に高く売りつけた。それがことの真相だ。ま、悪いのは日本政府だろう。なにせ、重要人物にまともな護衛を付けられなかったんだからな。人質を取られて言うことを聞くしかなかったというわけだ」

「その軍人の人はどうなったの? 役目を果たさなかったんでしょ。軍事裁判とか受けなかったの」

 

「軍人の役目は自国の利益になることをすることだよ。自分が一夏を助けても何の国益にもならない。どころか、誘拐を見逃し尾行することでブリュンヒルデに借しを作り、連続優勝まで阻んだのだ。褒められてしかるべきだろう」

「なんかズルイな」

 

「ま、本来ならブリュンヒルデは棄権になどなるわけがなかったのだがな。まあ、ブリュンヒルデは大国出身であることが前提条件だよ」

「ISの能力が低すぎるってこと? 未だに経済的事情で第一世代を使ってる国があるなんて冗談を聞くくらいだし。それでなくとも、経済が苦しい国は他の国が開発した量産型をそのまま使ってるよね」

 

「日本の技術力も経済力も低くないよ、むしろトップクラスさ。束が全く協力していないというのにね。で、大国の人間以外が優勝できないのは運営の事情というやつさ。優勝者が遅れたって、本来は何の問題もない。むしろ、遅れた程度で負けにされるのは異例なほどだ。実際、織斑教諭が遅れたのはほんの数時間。身も蓋もない言い方をすれば、言いがかりを付けて敗北に追い込んだといったところか」

「悲惨だね。それもこれも、日本が他国の決定に何も言えなかったってことでしょ。弱いってのは嫌だよねぇ」

 

「そんなことはありえませんわ! だって、世界憲章で遅刻は負けだと決められて――」

 

いきなりセシリアが口を挟んできた。

彼女が代表するイギリスはもちろん大国の一つに含まれる。

自分の国が悪事をやっただなんて言われたら反論しないわけにはいかない。

なにせ、彼女は――彼女ではなくIAを駆るほとんどの人間(日本人は残念ながら含まれていない)は自国に強烈な愛国心を持っている。

 

「それは時間軸が逆だ。遅刻を負けにするために憲章を書き変えたんだ」

 

だが、奈落はにべもない。

これが事実だとでも言わんばかりに断言する。

そして、それが実際の政界の状況をよく知っている人間の言葉なのだった。

 

「そんな、でも……だって――イギリスはその件に関与しているのですか?」

「しているはずだ、大抵の大国はな。ま、気にすることはない。織斑教諭は大国の陰謀に負けたというだけの話だ」

 

「ぐっ……!」

「あの先生が負けるね――。で、ボーデウィッヒ。何も喋らないけど、あんたとしてはどうなのよ? あんたもドイツ軍人でしょ」

 

と、鈴音。

彼女は日本人の精神性を持っているようだ。

 

「もはや織斑先生に興味など無い。あの人がどんな負け方をしていようとどうでもいいんだよ」

「あれほどこだわってたのにねぇ。どういう風の吹き回しよ?」

 

「待てよ、お前ら。どういうことだよ? 千冬姉が陰謀に巻き込まれたとかどうって――。そんなこと今更言われたって……!」

 

一夏が起き上がってくる。

どうやら聞いていたらしい。

考えもしなかった事実を前に狼狽えることしか出来ない。

 

「何か疑問でもあるのか?」

「そうじゃないって、奈落。ここは鈴音に任せようよ」

 

と、シャルが訳知り顔で言う。

こんなときでもイタズラっぽい顔で鈴音にウインクをしてみせる。

ここで落としちゃえ、とのアイコンタクト。

 

「へ? なんであたしが……。ああ、もう! やってやろうじゃない」

「お望みなら代わりますわよ」

 

「こういうのは幼なじみの役目よ。あんたは引っ込んでなさい」

「了解しましたわ。お手並み拝見と行きましょう」

 

「さて……一夏。こっちを向きなさい」

「何だよ、鈴音――?」

 

「ふん!」

 

殴った。

鈍い音が響く。

失意の底に居る人間に対してずいぶんとひどいことをする。

 

「なにすんだよ?」

「アホ面晒してるから気合を入れてやったのよ。大体、いまさらどう悔やんだってどうしようもないじゃない。あんたは今、生きてるの。それでいいじゃない」

 

「でも、千冬姉が……」

「あの人はあんたを恨んでるって一度でも言った? 言ってないでしょう。誰もあんたを責めちゃいない。あなたは自分を責めなくていいの」

 

「でも、それでも俺は――」

「うるっさい!」

 

ヘッドパット。

 

「ごちゃごちゃ言わずにあんたは今を見なさい! 過去のことをうじうじと悩むなんて男らしくないわよ」

「ああ、悪かった――」

 

そういったきり、俯いてしまう。

納得した人間の様子ではない。

今回ばかりは男らしいとかそんなんで済ませる問題ではない。

 

「それでも、俺は自分の無力を許せないんだ――」

 

つぶやきは誰にも届かなかった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これから本格的な原作改変、と言うか無視に突入します。
それでは、容赦の無い戦争をお楽しみください。
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