IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第33話 |銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》

「さて、データではもうすぐか」

「うん、先制攻撃を受けるかもしれないから要注意だね」

 

シャルとラウラは海の上を全速力で飛行している。

奈落から託された任務――銀の福音の撃墜のために。

 

「奈落からのデータによると、相手は射撃型だ。それも、羽状に砲身を展開させて無数の弾を撃ち出すらしい」

「軽く言ってるけど、これ――アメリカ軍の極秘文書だよね。軍事的に開発されたISのカタログデータを持ってるなんて、希テクノロジーってのはどれだけ権力があるんだろうね」

 

決戦の前だというのに二人は気楽そうである。

ラウラは自身の勝利を疑ってはいないし、シャルに至ってはけらけらと笑い転げている。

相手の飛行速度から言って、奇襲を食らうとしたら自分たちだ。

さすがに気づかれないと考えるほど楽観的ではない。

位置データを把握していても、それがどこまで信用を置けるかは未知数。

 

「そんなもの、私が知るか。言われたことをするだけだ」

「気にならないの? 君はまだドイツ軍に所属している形とはいえ――僕ともども幹部じゃないか。奈落の直属部隊で――部下は持ってないとはいえ、地位は相当のものだよ」

 

気楽な調子で話している――実はそちらのほうが奇襲には対応しやすかったりする。

ガチガチに緊張しているよりも、柔軟性を持って事態に対処できる。

緊張など、動きを妨げる元にしかならない。

本当の前線では気楽にジョークが飛ばされるものだ。

 

「部下などくだらん。私達はただ奈落の期待に答えればいい――違うか?」

「それはそうなんだけどね――それだけじゃないと思うよ?」

 

ニヤニヤと妖しい笑みを浮かべている。

この二人の掛け合いを見ていると、まるで女子高生の修学旅行にでも迷い込んだ気分になる。

――情緒的にはラウラは幼すぎるし、シャルは達観しすぎているところがあるが、このコンビはでこぼこでも……しっかりと噛み合っている。

 

「ふん。私にはあいつが自分で何を思っているかなど、とても把握できちゃいないと思っているのだがな――来るぞ!」

 

突然、目の前が弾幕でうめつくされる。

高速直線運動をしていれば、なおさらそう感じる。

――奇襲だ。

位置データの更新の合間を縫って一直線に向かってきた。

とても避けられない。

ISは原則的には速度を落とさずに90°ターンができる慣性制御装置で動かしているのだが、流石にこの場合は速度が速すぎた。

莫大な慣性を制御しきれない。

 

だが、この程度の危険は織り込み済み。

なんにも対策もしないで突っ込む馬鹿は――思うほど少ないわけでもないだろうが。

彼女たちは違う。

対策は簡単。

ただ盾を構えただけだ。

前面に馬鹿でかい障害物を構えて突っ込む――相手の座標は分かっているのだから難しいことではない。

 

「――シャル、カタログデータより早いぞ!」

「うん。それに、射撃も正確だ。乗ってる人の腕もいいんだね。暴走状態で関係有るのかは知らないけど」

 

盾を投げ捨てた二人は相手の動きを冷静に観察する。

放り捨てた盾を見るに、連射速度のために威力を犠牲にしたということもない。

そして、弾丸は青色に光っている。

 

「ラウラ、気づいてる? あの羽――」

「別になんてことのない銃身だな」

 

断言してしまう。

異常性に気づいていないわけでもないだろうに――自分が相手するのだから、どんな弾丸だって役に立つものか、という圧倒的な自信を感じさせる一言。

 

「まあ、そうなんだけどね」

 

シャルは苦笑する。

銃身そのものは視覚的効果などすごいものだが、実態は別に銃を背中の後ろのアームに括りつけたものと変わらなかったりする。

それを一言で言ってしまえば、確か普通の弾丸となるのだが――

――羽から青色の軌跡が飛ぶ幻想的な光景をそんなもので済ましてしまうとは、なんともはや。

 

「なんのこともないただの第3世代機だな。こちらは2機――狩るぞ」

「ふふ、世界中が必死に開発しているものをそんなふうに言うなんてね――いいよ、やろうか。くすくす、初の晴れ舞台だしね。僕のIS――【ホワイト・グリント】の」

 

シャルは希テクノロジーに移籍した際に搭乗機を変えていた。

以前の専用機だったラファール・リヴァイブⅡは今頃初期化が終わっているだろう。

だから、正真正銘新しい機体。

 

その機体は”白”い。

まっさらな――雪のように。

血を塗りたくるためのキャンバス。

虐殺の純白の煌き(ホワイト・グリント)

目立つのは背後のミサイルポッド。

希テクノロジーの技術の結集させた高性能ミサイルを積んだもの。

普通の国家では技術的、経済的事情から盗めたとしても、扱えはしない。

さらに拡張領域も広く、幾多の武器が収められている。

奈落と同じく操縦者の顔を仮面で隠すデザイン。

腕にはライフルを装備している。

背にはブースター。

まさに戦争用といった攻撃的なフォルムだ。

 

「シャルロット、合わせろ!」

「うん」

 

左右からナイフを抜いて迫る。

あの早さでは銃は通用しないと踏んだのだろう。

 

「……」

 

銀の福音は何も言わない。

そもそも操縦者の意識があるかどうかさえ不明。

暴走したISコアが己に近づくもの全てを壊し尽くす。

だが、冷静。

そんな有様でも、最適な戦闘行動を実行する。

――すぐさま後方へと宙返りする。

そして、突っ込んできた二人に弾丸の置き土産。

 

「二人相手に接近戦は不利――合理的な故に読みやすい。静止結界」

 

ラウラはAICを発動。

銀の福音が放った弾丸を全て停止させた。

 

「僕も居るって――忘れないでほしいな!」

 

シャルは更に加速。

ブースターの形が変形する。

速度を。

さらに速度を。

速度のみを追い求めた直線的な形になる。

 

静止した弾丸はその動きを忘れ去る。

結界を解除された後はばらばらと堕ちていくだけ。

 

「――だっ!」

 

シャルは音の壁を突き破った。

とんでもない加速――瞬時加速(クイックブースト)

一瞬で敵の背後に回りこんでしまった。

 

普通ではそんなこと出来ない。

操縦者が加速に殺されるから。

それを可能ということは、シャルは織斑千冬と同じく人類という枠から外れた存在であるということを意味する。

 

殺人的な加速で回ったシャルは相手を後ろから撃ちまくる。

ラウラも追従する。

 

前と後ろからの挟み撃ち。

よく見ればシャルはラウラの射線上からそれている。

十字砲火である。

2機の最大火力が中央に集中する。

 

「…………っ!」

 

銀の福音はどうしようもない。

必死に回避行動を取る。

――それでもかわしきれるものではない。

こいつらはかわされた弾丸が相方に当るのも構わずに連射してくる。

 

それでいて、なけなしの反撃でさえもひらりと避けてしまう。

一人に攻撃する時は当然、一人に背後を見せる形になってしまうのだ。

もはや銀の福音は狩られるのを待つ獲物に過ぎない。

 

墜落する。

そのまま最期まで削りきられたのだ。

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