「やれやれ――ラウラもずいぶんと無茶なことを考えるよね」
シャルはスコープを覗きこむ。
その先には無謀な突撃を繰り返すラウラの姿。
彼女はそれを後目に正確無比な射撃を実行する。
やはり羽に弾かれた。
スコープを通してじっと見ていると、羽が逆立っていることがわかる。
おそらく、ああして衝撃を逃しているのだろうが――
「連続攻撃なら貫けるかな? でも――」
連続攻撃は出来ない。
技量云々以前の問題で――スナイパーライフルは連続で撃てるようには作られていないのだ。
そのためには他の武器に持ち替える必要がある。
「うーん。でも、連射可能な武器って狙撃用じゃないからなー。この距離で同じ所に打ち込めるかって言うと……無理だよねぇ」
銃には反動がある。
それは当然なことだ。
だが、それは2発目は銃口がブレることを示す。
「近距離射撃ならできるかもだけど、それだと危ないし」
ラウラのついでとばかりにばらまかれた弾幕を軽々とかわすシャル。
いくら弾数が多くても、集中射撃でなければこっちに来る数はたかが知れている。
そして、相手からの距離が離れているために拡散しているのだ。
もはや弾幕と呼べるだけの密度があるかすら怪しい。
「じゃ、貫通力重視で行きますか」
スナイパーライフルからレーザーライフルに持ち帰る。
こちらはエネルギーシールドの突破に特化したもの。
本来ならば操縦者にもダメージを与えることを目的とされていたのだが――
「さすがに威力が減衰してダメージは望めないだろうけど――ね!」
撃った。
射撃は正確で、もし貫いていたら頭部に命中していた。
だが、防がれた。
あの周囲の9割はカバーしていそうな羽に。
「今度のは貫きかけてたけど――こっちは銃口が小さすぎて、二度目を狙う以前の問題だね」
打つ手なし、とばかりに肩をすくめたシャルのもとにボロボロになったラウラがやってくる。
ようやく諦めたのか、と思いきや――いやらしい笑みを浮かべている。
「終わった?」
変なことを聞く。
なにかの作戦会議をしていた様子などまるでなかったはず。
「――ああ、これで十分だ」
だが、ラウラはうなづく。
作戦の準備は完了したといったところだろうが――そんな暇がどこにあったのだろう。
ラウラとシャルは言葉などなくても通じあっている?
――まさか。
どう考えても、そこまでの時間を共に過ごしてはいないはずだ。
「しかし、簡単なものだな。大声で喋れば、なんでもかんでもしゃべっていると思い込む。その隙を突いてISのコア・ネットワークで通信すれば、秘密の作戦会議など思いつきすらしない」
「まあ――ね。奈落に教えてもらったことだけど」
ちょっとした作戦行動というわけだ。
意外と子どもじみた小細工でも通用することが多い。
それは戦場は命を奪い合う極限状態では些細なことまで気にかけている余裕はないから。
「さて――シュヴァルツェア・レーゲン。聞こえているだろう?」
……何のことでしょう……
「ふふん、分かっているだろう? そら、私がピンチだ。このままだと無謀な特攻して撃墜されるかもしれんな――」
……あなたは、そのためにあんな行為を繰り返しましたね!?……
「だが、お前が私を助けられる手段があるぞ」
……逃亡すれば助かるはずです……
「武器の限定を解除しろ。ついでにファイアウォールも全面カット。ま、そんなものは簡単に突破されるだろうが、念のためだ」
……何をやらせる気ですか?……
「安心しろ、お前が少しイカれるだけだ。他は問題ないよ――お前の他は、私もな」
……武器の限定を解除。更にコアのセキュリティを停止……
「物分りの良いやつだな――諦めたのか? それとも自己犠牲か? お前のことは壊れるまでは可愛がってやろう」
「お別れは済んだ? ハッキングされるわけだから、壊れてもおかしくないよ」
「ああ、よこせ」
「わかった。じゃあ、君に貸すのは奈落のお気に入りのやつにしておいてあげる」
ラウラはシャルが引き出した馬鹿でかい兵器を受け取る。
その途端――視界がぐちゃぐちゃになった。
ラウラの視界がおかしくなったわけではない。
壊れかけているのはシステム。
―不明なユニットが接続されました――
感情を感じさせない機械的な声。
ハッキングされたため、初期設定の防衛機能が働いている。
――システムに深刻な障害が発生しています――
使用するためにISの設定が書き換えられる。
その行為はハッキングでしかない。
本来使用できない兵装を無理矢理にひっつけようとしている。
その無茶は、コアに多大な負荷をかける。
―ただちに使用を停止してください―
それは断末魔。
哀れな感情のない声が停止を懇願する。
が、ラウラは気にもとめない。
新しい力を凶悪な笑みで歓迎する。
「
悲鳴のような歓声をあげる。
それはチェーンソーが6つ接続された悪魔の武器。
しかし、それはそもそもIS用ではない。
無理やり接続し、ハッキングして動力をオーバーロードさせて無理やり使用できるだけの出力を生み出している。
視界がおかしくなるのも当然。
それはたかが第三世代ISが使用できる武器ではない。
「僕も行くよ――
シャルも同じくオーバードウエポンを装備する。
こちらの方は不気味なアナウンスは流れない。
こちらは希テクノロジー製のオーバードウエポンを撃てるように作られた特別製IS――ホワイト・グリントだからだ。
しかし、ミサイルはどこに?
右肩には馬鹿でかいカタパルトが背負われて――見たままを言うとカタパルトにホワイト・グリントが接続されている。
その左肩にはこれまた馬鹿でかい六角柱の箱がある。
いや――その箱が何やらアームで他の箱と接続されていく。
まさか、作っているのか?
IS本体よりでかいミサイルでは飽きたらずに――その場で組み立てることによりISの3倍以上の巨大さを獲得する。
まさに狂気の所業としか言えない。
「――発射!」
ミサイルが組みあがり、すぐさま飛ばされる。
爆炎が吹き上がり、シャルを覆い隠す。
……これによりエネルギーのいくらかが削られたことだろう。
ミサイルは音速を超えて飛翔する。
数発の弾丸が当る――というか、ミサイルのほうが突っ込む形になってしまっている。
それでも、びくともしない。
そして、命中。
シャルとラウラは聴覚と死角をカット。
あの巨大なミサイルの爆発は離れていても、被害はスタングレネードなどという生易しいものとは比較にならない。
轟音が脳を貫き、白光が視界を焼きつくす。
しかし、それですらも副産物。
あれだけ強固であった羽が全て剥ぎ取られてしまった。
完全に沈黙した以上、羽の再生には時間がかかる。
「――終わりだ」
ラウラは腕の前に並べた6つのチェーンソーを円状にまとめる。
そして回り出す。
チェーンソーの本来の役目通り縦に。
そして、ドリルのように横にも回り出す。
あまりの熱量に火が吹き出す。
こちらも使用者に被害を与える諸刃の刃だ。
視界が日に覆い尽くされても、眉すら動かさず突進。
チェーンソーが接続された逆の腕にはブースターが。
これもまた狂気の代物。
もはや操縦者に対して殺意を持っているとしか思えないほどの加速を叩き出す。
悪魔の兵器は銀の福音の腹に叩き込まれる。
抵抗できるはずもない。
バラバラに――操縦者ごと、ぐちゃぐちゃにされる。
完全に壊れた機械と人間からISコアを抜き取る。
そして――もう一度。
今度は完全に轢き潰され、跡形も残らない。