「さて、どうなっちゃうのかしらねー」
奈落と千冬の戦いを呆然と見上げることしか出来ない鈴音がつぶやく。
立つことができないからあぐらをかいて座っている。
痛いだろうに、よくそんな座り方が出来る。
「呑気にしてる場合ですか! 織斑先生と奈落さんが激突だなんて――どちらかが死んでもおかしくありませんわ。なんとかして止めないと」
セシリアは焦りに焦っている。
立ち膝を突いて砂浜に拳を打ち付けている。
こちらは痛みなどどこかにふっとんでいる様子。
「なんとかって何よ? ISはうんともすんとも言わないし。私達に限ればこのシールドだか結界だかで守られてるから攻撃は来ないしで、どうしようもないわよ」
ISは操縦者の身体を保護する機能があるが、この場合は裏目に出ていた。
諦めた様子で上空にて行われる過酷な戦いを眺めている。
「くぅぅ……! 起きなさい、【ブルー。ティアーズ】。今は戦わなければならない時ですわ。足が動かないからといって、どうということもありません。私は戦えます!」
だからといってそれを認められるものでもない。
歯を喰いしばって、喚き散らして――何とかしようと試みる、
「だから、無駄だってば。ぎゃーぎゃー騒いだって疲れるだけよ。そんなんでISの設定を変えられるわけがないでしょうが」
「……っくぅ。ですが、何もやらないでいるなんて、私にはできませんわ」
「あ、そ。じゃ、好きなだけ騒いでれば?」
「そうさせていただきますわ。――ブルー・ティアーズ。ブルー・ティアーズ! ちょっと、聞こえてますの!?」
「ホントに騒ぎ始めちゃったわね―」
「なあ、鈴音」
やれやれといった顔でセシリアを横目で見る鈴音に一夏が声をかける。
一夏の方は、なんと言うかよくわかっていなさそうな顔だ。
当事者意識が欠けている。
……もっとも、彼らはこの戦いに運悪く巻き込まれてしまっただけだが。
もう一人の束に関係深い人物――箒はただ呆然と戦いを見上げているだけ。
「何よ? 一夏」
「俺達には何も出来ないのか? というか、どうしてISが動かないんだ?」
「は? ああ――そういや、そういうのは教科書の端っこにちょこっと載ってるだけだったわね」
「知ってるのか?」
「まあ、ね。この設定が気に喰わない奴って、けっこう多いのよ。だからけっこう愚痴で聞かせられたりするわ。まったく、そんなこと私に聞かせて何がしたいのかしらねぇ」
「動かないのなんか嫌に決まってると思うが」
「違う違う。操縦者の命を再優先させる設定よ」
「それって、普通のコトじゃないのか?」
「そうね、飛行機なんかでは当然、そういうことになってるわ。自動車あたりだと微妙なんだけどね。ま、利便性をどこまで追い求めるかってところかしら? ま、それは別にいいのよ。今のケースはね、怪我をしてる操縦者の状態が悪くならないようにっていうありがたた迷惑な心遣いよ」
「じゃ、セシリアが騒いでるのは――」
「意味なんてないわよ」
「そっか……」
「ねえ、一夏」
「何だ?」
「あの二人が何やってるか、わかる?」
「わっかんね」
「そうよねー。足も痛いし、どうしようかしら?」
「いや、二人を止めないと……」
「だから、無駄だってば。今の状態じゃ危険が迫らない限りISを装備することはできないわ」
「今、ガンガン変な弾みたいなもんがぶつかってるんだが」
「全部バリアに弾かれてるじゃない」
「だよなぁ……くそっ! どうしようもねえのかよ」
「ないわね」
「奈落! 千冬姉! 戦いなんてやめてくれ……」
三人が見ている前で、ついに千冬が奈落に鎌を振り下ろした。
そして、奈落は老婆になった。
「は!? ちょっと、奈落ってもしかして――女?」
「知るかよ! でも――なんで。あいつはそんなことを偽るようなやつじゃ……おい!? 鈴音、アレを見てみろ」
束が捕らえられていたところを指さす。
「奈落? じゃ、アレは篠ノ之束ってこと。位置を入れ替えたと見せかけて――実際は入れ替えてなんてなかったの?」
「いや、アレは束さんなんかじゃないだろう。どうしてあんなにも老けてるんだよ。服は同じだけれど」
「さぁ? 大方、奈落が老化させる攻撃でもしたんじゃないの」
「攻撃なんてできてなかった。千冬姉が守っていたから」
「じゃ、あの鎌の能力じゃない? 織斑先生もなんかの能力を持ってそうだし」
「でも――、それじゃ――」
「で、どうする? って言っても、見てること以外に何もできないんだけどね」
「束さんが――まさか、殺されるだなんて」
「あーあ。奈落のやつ、織斑先生まで殺す気ね」
「なんだって!? そんな……やめてくれ、奈落――」
「無駄よ、聞こえちゃいない」
「――させない。いくら奈落でも、そんなことはさせない。おれは……千冬姉を守る」
「だから、どうしようもないって――」
「――白式!」
「え!? ISを装備、だなんて――何をやったの、一夏!」
「……奈落!」
聞かずに飛び去ってしまう。
「嘘……基本設定は国家が必死で変えようとしても。アクセスすることさえ未だに出来てないのに。やっぱり、白式は特別なのかしら?」
「そうですわね。少なくとも限定的っだとしても第二次移行の能力を進化前に使えるISなんて聞いたこともありませんわ」
「……セシリア。あんた、意味もなく叫んでたんじゃなかったの?」
「だって、私のはうんともすんとも言ってくださいませんもの」
「そりゃ、そうよね――」
「あれは、一体何だと思います?」
「さぁ。日本が秘密裏に開発していた特殊ISかもね」
「それこそ、ありえません。日本は世界中から監視されています。篠ノ之束の力でも借りない限り、新技術を他国に気取らせずに開発するなど不可能です。そして――」
「奈落が束を殺した、ってのが問題よね?」
「……ええ。手を下したのは織斑先生ですが、そんなものは関係ありません。奈落がそうしようとしてやったこと。彼は好き勝手に動いているように見えて、実際は世界情勢などを考慮した上で行動しています。その彼がこの日本で束を殺したということは――」
「――日本政府は束と繋がれちゃいないってことよね。日本政府が束をかくまってるってことは長年政界でささやき続かれてきたことだけど――箱を開けてみればただの考え過ぎってわけか」
「ええ。しかし、そうなると逆にわからなくなります。白式は日本政府が作った――ということは白式の技術レベルはたかが現在の最高水準レベルのはずです。それでは、一夏さんが動けたことどころか、零落白夜すら説明がつきません。そこまでのレベルにはどこの国だって手が届くどころか……影も形も見えませんもの」
「そうね。けど、可能性はもうひとつあるわ」
「――何かありまして?」
「束が勝手に改造した」
「――そう言われてみれば、それが真実のような気もしますわね。どんなにかありえなそうに見えても、それ以外にはそもそも不可能ですもの。篠ノ之束はどうでも良かった――利益を与えようと、被害を与えようとも」
「とはいえ、さて。一夏は奈落を止められるかしらね」
「止めてくださいますわ……一夏さんなら」
「そうよね。あいつならやるわね」
「一夏、きばりなさい!」
「一夏さーん、殿方らしいところを見せてください」
二人は手をブンブン振る。