IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第38話 一つ目の終わり

「なるほど、君は敵対するか――織斑一夏」

 

奈落は一夏を複雑な眼で見つめる。

彼としては一夏は親しい存在だ。

だが、束の勢力を一掃する機会を逃したくはない。

 

「千冬姉を殺すってんなら、いくらお前でも容赦はしない――奈落」

 

こちらは相手の都合など知ったことかとばかりに睨みつける。

少し悲しそうにしている奈落の様子など全く考慮した様子はない。

その眼には覚悟がある。

たとえ腕一本切り落とそうと姉を守る壮絶な熱が。

 

「ふむ。束と千冬と違って君は敵対していない同類だ――出来る限り仲良くしたいが……さて」

 

奈落は顎に手を当てて考える様子を見せる。

束に連なる者は完全に始末しておかなければ不安が残る。

詰めはいくらやりすぎても、完全の保証はない。

ちょっとしたことから綿密な計画が崩壊した例は枚挙にいとまがない。

 

「なら、その鎌を捨てろ。千冬姉まで殺すことはないだろう」

 

だだ、言葉ではとてもではないが説得できはしない。

刃を構えてまっすぐに奈落を見る。

すぐにでも必殺の零落白夜を打てる体勢。

 

「――ふむ。本気かな?」

 

奈落はじっくりと一夏を眺める。

 

「本気に決まってるだろ」

 

一夏は挑むように剣を掲げる。

 

「では、かかって来たまえ。縛り付けて、晒してやろう」

 

じゃらじゃらと虚空より鎖を引き出す奈落。

束でさえ抜け出せなかったのだ……囚われたら一夏に抜け出す術などあるはずがない。

ニヤリと顔にいやらしい笑みが浮かぶ。

あくまで無力化して、その隙に千冬を殺す気だ。

親友を自らの手で殺して呆然としている彼女を。

 

「千冬姉は…...家族は俺が守る!」

 

だが、そんなことは一夏には関係ないのだ。

ただ、やると決めたからには”やる”。

それがどんなに難しいことでもお構いなしに。

 

「なるほど、しかし私は守られているだけの女ではない――愚弟よ。精々足を引っ張るなよ」

 

茫然自失の状態にあった千冬が一夏の隣に並ぶ。

その顔は不敵な笑みに彩られ、とてもではないが一筋縄ではいかない事を物語っている。

 

「ふふん。またもや一対二か――と言ってやりたいところだが、すぐにシャルとラウラは戻ってくる。そうなれば三対二。君たちに勝機はない」

 

奈落が断言する。

それは一夏と違って、思い切りなんかではありえない。

絶対の勝算があるからこその自信。

 

「ふん。それはどうかな?」

「――そうだ。あの二人が戻ってくるまでにお前を倒せばいい。それに、三人相手だって俺と千冬姉は負けない……っ!」

 

千冬と一夏は揃って向かい討つつもりだ。

たとえ罠だろうと、内側から食い破る勢い。

 

「くく、わかっていないな。いや、千冬の方は分かっているのだろう?」

 

奈落は哄笑をもらす。

 

「そうだな。あの二人が素直に戻ってきて、この場で仕切りなおしなどといくわけがない。遠距離からの狙撃が来るに決まっている。そして――」

「――俺達に超遠距離攻撃の手段はない」

 

苦い顔になる。

そう、奈落にはまともに戦う気など無い。

勝ちを絶対にするために、逃げまわって――勝てる状況を作ってから確実な戦術を実行するつもりだ。

この段階で逃げ回るとはなんともアレなことだが、それが確実である以上奈落にためらいはない。

 

「一夏も納得できたようだな」

 

奈落は更に笑みを濃くする。

逃げまわると大声で宣言した割には偉そうである。

 

「けど、千冬姉のディソードなら……っ!」

「それも無理だ。確かに千冬が繰り出す”死”には防御も攻撃も無意味――だが、逃げ回れんわけではない」

 

一夏の希望を一刀のもとに断ち切る。

そう、【深き悲哀の紅桜(デウス・マキナ)】は絶対の攻撃手段ではあるが――それでも『当たらなければ、どうということはない』のだ。

 

「そんなことははじめから知っている」

「――千冬姉……」

 

勝ち目などないも同然。

それがわかっていてもなお――千冬は不動の笑みを崩さない。

 

「一夏、やるぞ」

「――っおう!」

 

二人は落ち着きを取り戻し、前を向く。

敵を倒すために。

 

「はは、その意気やよし! 向かってくるがいい。私を捉えられると思うのならば」

 

こちらも向かい討つ気だ――とは言っても、仲間が来るまでは逃げ回って牽制するだけだが。

 

しかし、ここで予想外の事態が発生する。

最初にわずかな風切り音に気づいたのは千冬。

そして奈落もすぐに気づく。

一陣の風が舞った。

 

「「「――っ!?」」」

 

三者が三者ともに息を呑む。

風の中に黒いシルエットが見えた。

黒いISが束の死体を持っていったのだ。

 

「――奈落!」

 

千冬が鋭く叫ぶ。

この場で正体不明のISが出て、真っ先に疑われるのは奈落だ。

未だにどんな隠し球を持っているのか、てんでわかりゃしないのだから。

 

「私ではない。あんなISは知らん」

 

悔しげに唇を噛みながら言う。

その様子はとても嘘を付いているようには見えない。

そう、彼は詰めをしくじった。

これでは、完全に脅威は取り除かれたなどと口が裂けても言えない。

自分の頭をかち割ってしまいそうなほど――自分の無能に腹を立てている。

 

「なら、誰があんなことをできたってんだよ!?」

 

一夏が叫ぶ。

それはこの場にいるすべての人間の疑問の代弁だ。

 

「さあな。しかし、少佐のやつか……? だが、奴に自由に操れる戦力など持っていなかったはず。それも……ISだと。どういうことだ?」

 

皆、それぞれで考えこむ。

 

「ち――。奈落、どうする?」

「君がそれを私に聞くとはね、織斑教諭」

 

仕切り直しとばかりに発言した千冬に奈落は慇懃無礼に返す。

とりあえずの方針は決まったようだ。

 

「ふむ――つまり、そういうことか。まあ、いいさ。友人としての務めこそ果たせなかったが、教師としての務めくらいは全うしようか」

 

そして、千冬もまた奈落の方針に乗っかることに異論はない様子。

ただ一人……一夏だけが状況を飲み込めない。

 

「え? つまり、どういうことだよ」

「一時的な休戦調停だよ。少なくとも、あの黒いISの正体がわかるまでは何もなかったことにする」

 

それが彼らの方針。

奈落も千冬も、当然一夏もこれまでどおりにIS学園に通う。

敵対した事実はなかったことにする。

 

「今までどおりってことか? 束さんが死んでも」

「そのとおりだよ、殺したことを公表できる状態でもない」

 

「なんで?」

「死体がない。証拠がなくては笑いものになるだけだ」

 

「あの死体は本当に束さんの物なのか? なんというか――そうは見えなかったけど」

「そうだな。よく覚えておけ、一夏。貴様も他人ごとではすまん。アレが身に余る力を使いすぎたものの末路――化け物の身で神の所業、すなわち創造を弄んだ者にくだされる罰」

 

「まさか、束さんが老婆になったのはお前がやったんじゃなくて――」

「そう、想像現実化(リアルブート)を使いすぎたための副作用だ。ギガロマニアックスであれば外見どころか運動神経もどうにでもできる。もっとも、副作用で削られた寿命まではどうすることもできんが。あの老いた姿こそが世界を変革した大罪人の真の姿」

 

「そんな……こんな姿になってまで、あの人は何をしたかったんだ?」

「さて……な。復讐か、世直しか。どちらにせよ、死体は持ち去られた。彼女の残したものがどれだけあるか」

 

「で、つじつま合わせをどうする気だ?」

「君から依頼を受けて訓練がてら二人に暴走ISを撃墜させた。私達はここからその様子を見守っていたことにすればよいだろう」

 

「ふん、意外とシンプルだな。お前は無駄に込み入ったのが好きかと思ったがな」

「時と場合くらいは考慮するさ。こういうのはシンプルに行かないと逆にバレる」

 

「ま、そのとおりなのだがな――聞こえるか? 山田くん」

 

千冬は電話をかけ始める。

 

「あ、はい! やっと出てくれましたか。やってくれましたよ。それに二人共無事です!」

「そうか。それは良かった。で、政府の反応は?」

 

「え? そっちの方は……まだなんとも」

「なるほど。しかし、その様子なら心配する必要もないか。こいつらに黙秘義務を通告する必要があるが、予定は変わらずに消化だ。生徒たちに気づかれてはいないか?」

 

「はい。私達がちょっと忙しそうにしてることに気づいた子はいますけど、緊急事態だったのは気づかれていません。皆、呑気に海を楽しんでますよ―。あ、一夏君がいないのには少し残念そうでしたが」

「それならばいい。さて、事後処理は私達の仕事だ。まだまだ忙しいから覚悟をしておけ」

 

「はい――あ、そこから南東に正体不明の信号が出ているんですけど」

「ふむ、ならば私が見ていこ――」

 

「その話、私も興味あるな。連れて行ってくれないかな? 織斑先生」

「……ち。借りがある以上断れんか。邪魔はするなよ?」

 

「当然です」

「あ、奈落が行くなら俺も行くぜ」

 

一夏が便乗する。

どうせこの男に大した考えなど無い。

単純に好奇心からの行動だろう。

 

「一夏さんが行くなら私も行きますわ!」

「あたしも忘れないでね」

 

そして、便乗するのが二名。

同じく好奇心と、後は一夏についていきたいという想いだろうか。

 

「貴様ら……」

 

千冬は頭を抱えて呆れ果てる。

心労が凄そうだが、誰も労ってはくれない。

 

「僕のことも忘れてほしくないなー」

「私は当然奈落について行くぞ」

 

到着した二人は口々に言う。

状況自体は奈落からの無線で分かっている。

 

「はぁ……分かった分かった。全員連れて行ってやる。それと鳳にオルコット、足は大丈夫か?」

 

「ああ、いつの間にか痛みがなくなってましたわ」

「こっちも同じよ。あんたが直したんでしょ? 奈落」

 

「私がやらせたのだからこれくらいはな。後でお詫びとしてなにか奢ろう」

 

「やりぃ!」

「あの、鈴音さん? その反応はちょっとどうかと……ま、断る理由なんてあるわけがありませんが」

 

「……行くぞ」

 

悠然と足を進める千冬に大所帯がぞろぞろとついて行く。

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