IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第39話 紅椿

不明な信号を感知したためにそこに向かう織斑教諭とおまけ一行。

てくてくぽくぽくと、まるで先ほどの争いなどなかったかのように振舞っている。

禍根とかそういうものもなく――ただの高校生の集まりとその引率にしか見えない。

にしては引率が少々おっかないか。

 

「そーいえば、こんだけの大所帯で集まるのは久しぶりじゃない?」

 

黙っていることがつまらなくなったのか鈴音が言い出す。

和気あいあいとした雰囲気の中でその言葉がきっかけになり、わいわいと騒がしくなる。

真っ先に乗ったのは一夏。

 

「そうだな、奈落はシャルロットとラウラにかかりきりだったしな。箒も――何してたんだ? お前」

 

思い起こせば、シャルとラウラが転校してきてから一周間と経っていない。

それにしては奈落は彼女たちとずいぶんと仲良くなったものだ。

もっとも、その期間は逆に一夏たちとはご無沙汰だったわけだが。

こうして一緒に並ぶのも久しぶり――高校生にとって3日や4日はそう短い時間ではない。

 

そして、箒に至ってはもう何週間になるのか。

忘れ去られてもおかしくないかもしれない。

まあ、一夏に限っては幼なじみを忘れることなど無いだろうが。

 

「な!? わ、私か。別に聞いても面白いことはないぞ」

 

箒は慌てた様子だ。

いきなり話をふられて戸惑っている。

あわあわと慌てる様子は年相応に可愛らしい。

 

「それでも、だんまりで歩くよりは面白いんじゃないかな」

 

シャルが茶化す。

にたにたと笑って――まるでいじめっ子だ。

この娘にとって人をからかうのは相当に楽しいことらしい。

 

「ふふん、どうせ箒さんのことですわ。剣道部で汗を流していたに決まっておりますわ。過度な運動は美容の天敵ですわよ。まあ、そう筋肉がついていましては手遅れかもしれませんけど」

 

セシリアが高笑いを上げる。

まことに騒がしい。

そして、ふわふわと揺れる金髪が邪魔だ。

 

「なんだと!? 私は武人ではあるが、その前に女を捨てた覚えはない。貴様こそ、その馬鹿でかい胸が垂れ下がってきているのではないか?」

「なんですって!? 私の肌は垂れてなどいません。なんでしたら、一夏さんに確かめてもらってもよろしいのですわよ?」

 

売り言葉に買い言葉で喧嘩しだす二人。

他の面々は呆れ顔で眺めている。

もっとも、顔には笑みがある。

皆楽しんでいるようだ――自分たちで演出する茶番を。

ただ、本気でやってるのが一人。

 

「な? ななな――。ハレンチだぞ、貴様!」

「あらあら。箒さんはご自身の肉体に自信がおありにならないようで」

 

セシリアは楽しげに煽っていく。

いちいち本気で対応する人間をからかうのはこれ以上なく楽しいことだ。

 

「馬鹿なことを言うな! 私とて、鍛え上げた体には人一倍自信を持っている。そうだな、一夏に確かめさせるのもいいかもしれんな」

「うふふ、あまり勢いで考えなしなことを言うと後で後悔しますわよ」

 

メラメラと眼に炎を燃やす二人。

バチバチと火花が散る。

 

「あんたら、面白そうなことやってんじゃない。あたしも混ぜてもらおうかしら?」

 

そこに一人……鈴音が乱入する。

喧嘩が変な方向にねじ曲がっていた。

だが、当の一夏はと言うと――俺の名前が出てるなーくらいにしか思っていなかった。

せっかく、二人が暴走してあられもない姿を見せてくれるという話になっているのに。

つくづく、本当に男なのか疑いたくなる男だ。

もっとも鈴音にとってはそんな流れは歓迎できない。

 

「へー、あなたがですの? その胸で?」

「ふん。ガキは引っ込んでろ」

 

二人が二人とも、乱入者の身体的特徴をあげつらって排斥する。

たしかに鈴音は幼いと言う言葉がよく似あってしまう。

ちんちくりんだ。

もっとも、個人の趣味は様々で……一夏がそんな趣味を持っていないとも限らない。

 

「言ってくれるじゃない……っ! 叩きのめしてあげましょうか」

 

とはいえ、その言葉を気にしている鈴音は怒った。

冗談のかけあいと言える程度には。

 

「あらあら、身体の魅力では敵わないから暴力に頼りますの?」

「ふん、やるというのなら受けて立ってやる」

 

それぞれ正反対に返す。

こちらは体の一部分が非常に豊かな人達。

どんな食生活を送ればそのようになるのか――もっとも、食べ物でなんとかなるのかは分からないが。

とはいえ、まあ……大きさで言えばセシリアが勝っているか。

 

「上等。どっちの勝負も勝ってやろうじゃない。後で吠え面かくんじゃないわよ?」

「ふふ、それはどちらでしょうね」

「勝負なら負けん」

 

 

 

「なあ、奈落――まだ実感がわかないんだけど、束さんは死んだのか?」

 

こちらはこちらで雑談を始める。

しかし、話す内容は茶番とは行かなそうだ。

人の死はいつの世も重いものだ。

それは――人は死ぬときは全てをこの世に置いていかなければならないから、かもしれない。

 

「さて、な」

 

はぐらかすような奈落。

曖昧で、漠然としている。

ある意味で奈落は非常に正直な男だ。

その思考回路がねじれ狂っているために予測どころか推測すらも難しいのだけど――感情ははっきり出す。

それは大抵が狂喜、でなければ喜びであるが。

こんな――はっきりとしない態度は珍しいにも程がある。

あるいは、彼自身にも事態がよく飲み込めていない故か。

 

「なんだよ、それ――お前が、その……アレしたんじゃねえのかよ」

「たしかにね、私は束を殺したはずだった。だが、今では確信が持てん。織斑千冬の死の力といえど、彼女を滅ぼすのに足るものだったのだろうか、と」

 

奈落は内心に渦巻く疑問を吐露する。

そう、束は本当に死んだのか?

死体という証拠を奪われた以上、見返りなんてない。

それ以前に、奈落が求めたのは保証だ。

束という何をしてくるかわからない敵を倒してしまいたかった。

しかし、新たな正体不明の敵対勢力が出てきてしまった。

これでは――目的を達したとはいえない。

振り出しに戻るどころか、状況は最初よりも悪い。

 

「ええっと……偽物とか、そういう話か? 死んだのは影武者だったとか」

「それはありえない。あれは間違いなくギガロマニアックスだった。もう一人を用意できるくらいなら、ここまで複雑な話には成り得ない」

 

そう、あれは篠ノ之束だ。

そう確信出来るだけの知識が彼にはある。

ギガロマニアックスは特有の共鳴反応を起こす。

それはディソードを使わなければ何でもないが――それがこの世に現れた瞬間、虚数空間に波紋を広げる。

ギガロマニアックスであれば反応せざるを得ない。

煮えたぎる薬缶に触れたときに思わず身をすくめてしまうのと同様に。

そして、以前にも触れたがギガロマニアックスは希少という言葉では足りないほど珍しい。

 

「ああ、ギガロマニアックスはとんでもなく珍しいんだったか。じゃ、クローンとか」

「人間の複製個体か? そんなものは絶対なる死の前では無意味。私が私の分身に刃を向けた時、ぎりぎりで止めていただろう? 所詮複製は複製――同一なのだ。複製を殺せばオリジナルも死ぬんだよ」

 

そう、織斑千冬の【深き悲哀の紅桜(デウス・マキナ)】は絶対的な最終だ。

分身があったところで無意味。

あの鎌は存在そのものの魂を完全抹消する。

だからこそ小細工は無駄なのだ。

分身? わずかな残り香から本体まで死に浸らせてやれる。

クローン? それも同じ。

偽物? 死を狩るブリュンヒルデがまさか――ただの木偶を生き物と見誤るとでも。

 

「へー、そんなもんなんだな。じゃ、束さんが生きている可能性はないのか」

「……普通に考えれば、そうだな。条理を覆すのも不可能だ。しかし、何らかの裏技を使った可能性は否めない」

 

奈落は熟考した後に答える。

 

「裏技?」

「すぐに考えられるのは――これは正攻法か? 単純に後継者でも遺しておけばいい。死ぬのは本人だけで、他の人間が死ぬなんてことはないから。ここで織斑教諭が死んだとしても、それが直接的にお前を殺す要因にはなりえないだろう?」

 

「――嫌な例えを出すなよ。まあ、確かに千冬姉が病気になったところで俺が病気になる道理もないけどさ」

「だが、それはない。そんなことをしていたら世界中に影響力を持つ我々が気づかないはずはない。他に考えられるのは――爆弾かな? 何らかの仕掛けを施しておいて、それが本人が死んだ後でも作動し続けるようにしたもの」

 

「爆弾? それじゃテロだろ。束さんなら――やってもおかしくないのかもしれないけど」

「物理的なものなら話は早い。大抵の先進国の都市ならば、警察かそれに類する組織が解体できる。危険なものはそれが情報に関するものであるときだ。こちらは――束が世界を上回っている可能性がある」

 

「色々考えているんだな、お前は……」

 

一夏が呆れたようで言う。

そこはどちらかと言うと、感心する所だろうに。

 

 

 

一方、織斑教諭は額に青筋を立てていた。

 

「まったく、勝手についてきてピーチクパーチクと……まあ、それも若さか――」

 

「おい、貴様ら!」

 

突然大声を出す。

 

「そろそろ正体不明の信号が出ている地点だ。気を抜くなよ」

 

注意を促す。

というか、不審物と聞いて真っ先に連想されるべきは爆発物だ。

ISがあれば問題もないだろうが――油断しているところをやられると危ない。

 

「さて、見えてきたな――アレが……何っ!?」

 

織斑教諭だけではなく、他の皆も開いた口が塞がらぬほどに驚く。

それもそのはず。

その先にあったのは色こそ目の覚めるような鮮烈な紅だが――フォルムはどう見ても先ほど束の死体をさらっていったISと同じ。

 

「――ふむ。搭乗者はいないな」

 

真っ先に気を取り直した織斑教諭が調べる。

ISを探り回して、空中にディスプレイを展開させる。

正規の技術者ではなくても教員なのだ――これくらいはできる。

 

「――む? すでにパイロットが登録されている。これは……」

 

彼女は息を呑む。

そして、顎に手を当ててうつむく。

どうやら考え込んでいるようだ。

これを言ってしまっていいのか、悪いのか。

 

「一体誰が登録されてるってんだ?」

 

疑問の声を上げたのは一夏。

小難しい色々を考えない彼らしい。

 

「――これはどう考えてよいかわからんが、とりあえずは言うしかないだろう。丁度本人もここにいることだしな」

 

仕方ないといった顔で話しだす。

歓迎できる事態とはとても思えない。

 

「え? 本人って――」

 

疑問の声をあげる一夏を織斑教諭は冷たく見据える。

 

「篠ノ之箒。それがこのISの搭乗者だ。設定自体は完了していないがな。篠ノ之、何か心当たりはあるか?」

「わ、私がですか!? 心当たりなんて――そんなの、ああ――いや」

 

凶悪な目にたじろぐ箒はかろうじて声を絞り出す。

織斑教諭の三白眼が更に歪む。

箒は逃げ出したくなるが――見つめられていると尻餅をつくことすらできない。

 

「どうした、言ってみろ。まあ、どうせ束のやつだろうが」

「……はい、そうです。以前に一度、力がほしいと訴えたことがあります」

 

「だから、あいつはこれを作ったのか。だが、先程の黒い方は有人だったぞ。あいつに私以外のツテなど――」

「単に技術を盗まれただけだろう」

 

奈落があっさりと言い放つ。

そんなことを言われても、言われたほうが困る。

盗まれた――開発を主とする業界ではよくあることだ。

だが、国家が総出で見つけられなかった束を、技術だけでも盗むなんて――そんなことは。

できるのか?

確かに本人を捉えるよりは簡単そうだ。

ただ、それよりはというだけなのに。

 

「だが、そんなに簡単に盗まれるようなことが……」

「悪いが、私の方では色々と盗ませてもらった。そいつに使われている第四世代機の技術なら【ステイシス】にも【ホワイト・グリント】にも応用されている」

 

これまたあっさりと。

一応は技術の不正な入手は重罪である。

もっとも、この場合は相手がテロリスト扱いされているのでそもそも訴える人間がいないが。

とはいえ、もう少し自重しろと言いたい。

犯罪の告白は、たとえそれが告発できないものであってもせめて粛々と行われるべきだ。

 

「ホワイト・グリント? ああ、いや――」

「資料は予め学園の方に送っておいたぞ。シャルの新しい専用機だ」

 

織斑教諭は銀の福音戦を見ていない。

奈落と殺し合っていたのだ――見れるわけがない。

あの――“純白の煌き”を。

 

「悪いな、教員の方は連絡すら円滑には行きづらくてな。しかし、新しい専用機のことなら噂程度には聞いている。それよりも、あの黒い奴は束が作ったものではないのか?」

「断言はできんさ。だが、見ればわかるだろう?」

 

奈落は顎で紅いISを示す。

 

「――なるほど」

 

見た織斑教諭は納得する。

 

「見ても全然わかんねえんだが」

 

一夏が口を挟む。

セシリアや鈴音も追随する。

 

「性能差だよね?」

 

そこにシャルが口を挟む。

 

「ふん。第四世代機をなんだと思っている? あの黒いISなど、足元にも及ばんさ。どころか、我々の第三世代機ですら上回っている」

 

そして、ラウラが説明する。

偉そうなのは、ご愛嬌。

ただ、ラウラは第四世代機を持ってない。

真の意味でそれを持っていると呼べる者もまた、いない。

一夏のは所詮、片足を突っ込んでいるだけにすぎないし――箒は使いこなすどころか乗ったことすら無い。

 

「その通りだね。付け加えて言うなら、あの時逃がしたのは何かしらの力によるワープで現れたこと――そして、奈落と織斑先生がとっさの事態に互いを牽制してしまったからだね。あの時自由に動けたのは一夏だけだったんだ」

 

シャルが付け加える。

 

「ちょ……それ、俺のせいで取り逃がしたみたいになってるじゃん」

「それは違うよ? 一夏にそんなこと期待するわけないじゃん」

 

「――さらにひでえ」

「で、なら――織斑先生。そのISをどうするの? 処分しちゃうのかな」

 

「いや、ISは貴重だ。それが第四世代機ともなれば考えられないくらいに。おそらくは学園が所有することになるだろう。そして、そのパイロットは貴様だ――篠ノ之」

「私が――この、紅椿を?」

 

「仕方あるまい、変更は不可能だ。それとも、お前ならばできるか? 奈落」

「多少の破壊を許可してくれるなら」

 

「そら、不可能だ。こんなものは貴重すぎて――そう、皆のものにするしかあるまい。誰もが所有権を主張して、主張し続けるだけで何の解決も出るわけがないのだから」

「たしかにね。暫定的に学園に帰属することになり――暫定はいつまでも続くわけか」

 

「ま、なにはともあれ――専用機持ちになれておめでとう、篠ノ之」

「あ、ありがとうございます」

 

「だが、あくまでそれはお前が束の妹で、それがプラスになるかはともかく――束の好意でそうなったのだということは忘れるな」

「――はい」

 

そう答えた箒は複雑な表情をしていた。

喜び、焦り、疲労、そして――憎しみ?

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