「さて、まずは現状を把握するとしよう」
奈落が切り出す。
ここは山奥のとある料亭だ。
天然の素材を活かした政府御用達の日本料理店。
予約は一年待ちレベルであり政界の要人しか入ることのできない、まさにそっち系の料亭だ――チェーン店とは雰囲気が違う。
「ええ、予想通りといえば予想通り。アフリカこそ壊滅いたしましたが――ミレニアムは姿を隠しました。そのまま欧米を相手にということにはなりませんでしたね。予想外といえば――姿を隠すにあたって何の痕跡も残さなかったということです」
楯無が現状をおさらいする。
この場にあっては、なぜか和服を着ている彼女はよく似合っていた。
他は思い思いの私服を着ている。
ジャージもいるしで、雰囲気にそぐわないことこの上ない。
「ふん、そんなこともわからなかったか。次の攻撃地点を予測する試みがあるが――貴様らはどう予測する?」
奈落が取り仕切る。
顔は苦渋に彩られている。
この場で最もミレニアムに詳しいのは彼だが、十全には程遠い。
「私が答えよう。私はドイツ軍に所属する身――ナチスについては我々に聞くのが良かろう」
ラウラが答える。
こちらは軍服を着ている。
もちろん、ドイツ製――違和感が酷い。
「ふむ、確かにナチスは世界征服をしていたドイツの政党の蔑称だな。とはいえ、袂を分かった残党どものことをどれだけ知っているか疑問だが――言ってみるといい」
「ああ。その答えは――わからない、だ」
「なるほど、素直でいい答えだ。的はずれと自分で知る答えを言うよりはね。往々にして――そんなことをすると自分の嘘を自らも信じてしまうものだ、愚かにも。それよりはずっといい」
「まあ、現時点の答えであり、上が適当な事を言い始めるかもしれんがな。だが、実際問題として奴らはナチスか?」
府に落ちないという表情。
あの最悪を生み出したからこそ、逆にあまり知らないが――それでも行動に違和感を持った。
「なぜそんな疑問が出るのかな? 奴らは自分でそう名乗ったろう」
「名乗っただけだ。ナチスであることの証明をしろと言っても不可能だろうが、あの行動にナチスらしさはない」
「アフリカを攻めた意味がわからない、と?」
「そのとおりだ。そもそも――
そこで少し止める。
そこおから矢継ぎ早に語りだす。
「なぜアフリカが出てくる? 関係ないだろう。攻めるのであればユダヤ人の国、イスラエルがふさわしいだろう。それともイギリスに攻め込んで敗北した――その続きをやるか。どちらにせよ、
「イスラエルを攻撃しないこいつらは他の――ナチスとは全然関係ないテロリストではないのか、とな。もちろん、ナチスであっても残党ならばテロリストの誹りは免れない――だが、これではナチスの残党としてのテロリストではない。むしろアフリカの紛争に端を発するテロリストの行動だぞ、これは」
「だからこそ、相手の行動は予想がつかない。奴らはナチスを名乗っておきながらもナチスとして行動しているわけではないのだ。あえて言うなら、悪だな――正義の味方に趣味の片手間で倒されたりする」
「奴らはナチスではない。そして、既存のテロリストでも、ましてや軍隊でもない。まるでおとぎ話の悪役だ。地に足がついている感じがしない。私こそ落ち着いているが、上も下もてんやわんやだ」
「あいつらは突然現れて消えた。使用したISこそ第3世代に届くかどうかの性能だったが――あの空に浮かぶ要塞はなんだ? あんなもの誰一人として想像すらしていなかった。あんなもの、どこの国だって作れんぞ」
「悪役がなんとかして超古代のロストテクノロジーでも手に入れましたとでも言う感じだな。まるでわけがわからない。意味が通らない。まあ――人智を超えたテクノロジーというのはISコアも同じだがな。違うのは、自由に研究はできないということだ」
「と、これくらいだな。ドイツが知っている情報といえば。他の国だってそうだろう」
ラウラの言に他の面々もうなづく。
「ま、そのくらいだな。一言で言うなら、少佐とか名乗る奴はナチスらしさを感じない。ま、どうせ虐殺のための虐殺だろう。また恐ろしいことにあいつは馬鹿げた兵器を持っているのさ」
奈落がガンと机を叩いて言う。
「――あいつ」
本音が一言、奈落の言葉を繰り返した。
他の面子は自分の国がどうなるかで頭がいっぱいだった。
良い意味でのんびりしている彼女ならでは。
彼女だからこそわかった。
いや、シャルはあえて問いたださなかっただけだが。
「あいつって言ったよね。らっくーてば、少佐のことを知ってるんじゃない? あの男については本名すら謎で、正体が全くつかめないんだけど、あなただけは長い知り合いなんじゃないかな~?」
ニコニコと――ほほ笑んでいる。
いつもと変わらずに。
のほほんと――まるで愛称にあるように。
「ふふん。正体が謎ね、こんなところは亡霊らしくてナチスらしい。っと、こんな言葉を言っても騙されてはくれないだろうな。その通り、奴とは長い知り合いだ」
認めた。
世界に名だたる希テクノロジー、その重鎮たる奈落が少佐を以前から意識していたことを認めた。
これは個人がナチスの残党がまだ生きていると吹聴して回るのとは違う。
彼には国家並みの影響力と、潤沢な資金、馬鹿げたテクノロジーすら所持しているのだ。
行動力が違う。
「敵として?」
楯無が鋭く問う。
「――それとも、味方として、かな?」
本音が残りを引き継ぐ。
「それは……」
一瞬言い淀む。
「敵としてだよ」
答えたのはシャル。
「なぜ、あなたがそれを?」
「奈落に教えてもらったから、以外に何かあるかな? ああ、いや――勧誘されたって可能性もあるか」
雰囲気が一変する。
フランスがナチスと内通していた――そんな風にもとれる言葉。
「あなた、まさか――」
「そんなまさかはないよ。言ったでしょ? 奈落が教えてくれたって。ちなみに2,3日前とかそんなんでもないよ。いや――思えばけっこう近くかな。奈落と出会えたのは最近だからね」
暗い表情が影を落とすこの場において敵に対する緊張感をもたらしたこの女は――
――いけひょうひょうと笑みをもらす。
「なら、聞かせてくれないかしら? 彼らの正体を」
「いいよ。とは言っても、奴らの言っていたとおりだよ。ナチスの残党で、戦争が大好きな狂人」
語り出す。
寝物語に――あるいは雑談として語られた言葉を。
「ナチスの残党というのはいいでしょう。行動に僅かな疑問こそ残りますが――確かに虐殺は彼らの得意とするところです。ですが、どうして残党があれほど勢力を増したのです? 空中要塞の正体は?」
「――不明。なにもかも不明、という程でもないか。奴らは地下に潜ってISの開発をしていた。あの黒椿はその研究成果だな。篠ノ之束から奪ってきた資料で作成したのだろう」
こちらは奈落が答える。
「では、そこでISの量産をしていた、と」
「――まさか。私が奴らを警戒していたのがわからないか? 大規模工場なんて、叩き潰さないわけがない。多く見積もっても、4機か5機しかロールアウトは無理だ。ISコアのことを考慮から外してだぞ」
「では――」
「――だから言っているだろう? 不明と。奴らがどんな手段を用いてISを量産したのかは全くわからん。空中要塞についても不明、突然出てきたとしか思えんな」
「何か対応策は?」
「――ない。こちらに仕掛けてくるのなら、撃退も出来るのだが……希テクノロジーとしてはこちらから出向くと防衛戦力が足りなくなる」
「貴方自身は?」
「私自身も同様。私だけならリスクなく本拠地に跳べる。超能力を持っているのは君もご存知のとおりだろう」
「そんなものも持っていらしたわね。うちの本音から話を聞いた時には耳がおかしくなったのかと思いましたわ」
楯無は苦笑いだ。
「そう。とはいえ、リスクに限定範囲と――そこまで便利なものではないよ。小細工が得手でないのなら小細工なしでフルに【ステイシス】の能力を活かした方が強いほどに」
「では、能力なら? 超能力と言うものの存在を見てしまった以上、相手が持っていないなんて気楽には考えられませんわね」
「奴らが超能力を使ったと? それはない」
「なぜ?」
「同胞の出現は感知できるからだ。私が何も感じなかった以上、ありえないな。私以前からいたというのなら話は別だが、あいつは隠し通せるほどの忍耐力を持っていない」
「やけに詳しいですわね――何か因縁が?」
「ふん、昔のことだよ。世界を変えようとした勢力が4つあった。成功したのは、二つ。束と大嘘憑きさ。私と少佐は失敗した。だが、大嘘憑きも束も死んだ。後は少佐を殺せば――世界を変えるのは我々だ」
「あまり深くは聞かない方がよろしそうですね。では、この際です。他の国々はどうするのか聞いておきましょうか。我が日本は言うに及ばず――静観というか、他の国々の出方を待っているというか。少なくとも主体的ではありませんわ」
「ドイツは違うな。ナチスを名乗るテロリストは全て殲滅するつもりだ。これからは志を同じくする仲間を探し、連合を作って叩く」
ラウラが言う。
「フランスは軍備――というか、ISの開発かな。それに力を入れるようだよ。目的は、もちろん自国の防衛力の向上と、高く売りつけるためだね」
シャル。
「じゃ、次はあたしが話すわね。中国は――こっちも軍備ね。お偉いさん連中を守ることだけが目的ね。土人がどれだけ死のうが知らないってスタンスよ」
鈴音。
「イギリスは敵が現れたからといって、ぶれたりはいたしませんわ! 今までどおりにISの開発を進め、これまでと同じように防衛をしてまいりますの。なにせ、普段から戦争には備えておりますもの」
セシリア。
「なるほど、息を潜めて待つというのもひとつの手だ」
奈落が酷評する。
皆を一緒くたにして――いや、ドイツは違うか。
「まあ、言ってしまえばどこも防衛するで意見は一致しているな。ドイツとて、防衛戦力を用意しなければ攻めるも何もないだろう。それから連合を作ってミレニアムと全面戦争をかける用意が始まるか」
「まあ、それはそのとおりですわ」
セシリア。
そして、皆がうなづく。
というか、防衛をしっかりしないことには始まらない。
この女尊男卑世界では小さな紛争以外、戦争なんて起こったことがないのだ。
なんとかしないと――ナチスに虐殺されてしまう。
「話は終わりだな。連合を作るのは国家であり、それを強制するのは民の意志だ。そっちはそっちで勝手にやれ。どうせ、無駄だと思うがな。他のことは知らん。聞きたければ本社の方に聞くんだな」
そう言って、出された食事を食べ始める。
主役にそんなことをされたら、他もそうするしかない。
黙々と、味の感じない食事を詰め込む。
これからどうなってしまうのだろう――暗雲が心にたち込めていた。