IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第4話 代表選出

危惧した通り、一夏は見る見るうちにやつれて行った。

あの箒と同棲していることに加えて、あの分厚い本を暗記しなければいけないというのだからまた。

 

しかし、一夏はやりとげた。

出会う人出会う人、全ての人に心配されながらも彼はやりきった。

たったの一週間で授業についていけるまでになった。

やはり恐怖は人を育てるのに最も効率が良い。

 

「おめでとう、一夏」

「おお、サンキュ。お前のおかげ、だぜ。……ガクッ」

 

机に倒れこんだ。

 

「おりむー!? おりむー、死んじゃ嫌だよ~」

「本音、こいつはこの程度で死ぬような男ではない。……ところで、剣道はどうした? 身のこなし方が剣道に身を捧げるもののそれではない」

 

箒は厳しい。

今も、顔が鬼のようだ。

 

「いや、バイトで忙しくてさ。ほとんど剣を振ってもないんだよ」

「何だと!?」

 

私にはご苦労だな、という感想しかないが箒にとっては大事らしい。

親の敵を見るような目で一夏を見ている。

それでも一夏は呑気でいる。

 

「いや、なんだと、と言われても。やってないものはやってないしなぁ」

「ならば、剣の道は諦めたというのか? アレほど打ち込んでいたというのに――」

 

「まあ、なあ。だって生活のほうが大変だったし」

「そんな言い訳を言うな! だいたいお前は――」

 

鈍い音が箒のセリフを遮った。

 

「篠ノ之、良い度胸だな。私の授業を邪魔する気か?」

「お、織斑先生。いえ、決してそのようなつもりは――」

 

鬼も鬼神の前では縮こまる。

 

「なら、さっさと席につけ。予鈴はすでに鳴っている」

「は、はい!」

 

「はいは一度だ」

「はい!」

 

私達は二次被害を受けないうちに席へとついていた。

 

「さて、織斑も落ち着いてきた。これからクラス代表を決める」

「クラス代表というのは、文字通りクラスの代表者で――委員会への出席やクラス対抗戦の出席などいろいろな仕事があります。代表になった人はがんばってくださいね」

 

面倒くさい役目だが、経験値はつめる。

本気でISに乗るならぜひとも抑えておきたい役職ではあるが。

 

「自薦他薦は問わない。誰か推薦はあるか?」

 

 

 

「はい! 織斑君がいいと思います」

 

一人の女生徒から言われた途端に狼狽える一夏。

仕事は増えるのは嫌か。

――そりゃそうだ。

 

「はい! 神亡さんはどうでしょう?」

 

私か?

まあ、挙げられることを予想はしていた。

 

「ふむ。織斑に神亡か――。異論はあるか?」

 

これは”ありません”と答えさせるための質問だ。

目がそう言っている。

だが、私にはそれを看過できない事情がある。

空気を読まずに発言させてもらう。

 

「少しいいだろうか? 織斑教諭」

「何だ? 神亡」

 

「私には学園とは別件の仕事があると学園に伝えてあります。役職の免除は学園長に認められておりますので、推薦は取り消してもらっても構いませんか?」

「そうか。お前には最大限の便宜を図れと上から言われている。お前が言った権利も聞いている。その要求を認めよう。だが、貴様は駄目だ。織斑」

 

俺も俺も、と目で言っている一夏につれない一言。

まあ、戦闘経験を積むのは良いことだ。

余計な仕事がどれだけついてくるかは――知らない。

 

「ええ?」

 

ガツン、と音が。

相変わらず出席簿で出した音とは思えない。

 

「返事は“はい”だ。わかったな? 馬鹿者」

「……はい」

 

「では、他に推薦がないのならクラス代表者は織斑ということになるが――」

 

「納得いきませんわ!」

 

異議を上げたのは金髪の女。

先ほど空気を読まずに偉そうな発現をした委員長っぽい女だ。

 

「こんな文化後進国に滞在するだけでも嫌でたまらないといいますのに――、男がクラス代表者? わたくしは見世物になりに日本に来たのではありませんことよ」

「オルコットが自薦か。他には?」

 

色々と凄いことを言ったが、織斑教諭は完全に無視だ。

しかし、見せ物になるのが仕事の代表候補の言葉とは思えん。

 

「……いないか。なら、織斑にオルコット。勝手に二人でどちらが代表者になるか決めろ」

 

そういう決め方、ね。

波乱の気配がする。

――どうかき回してやろうか。

 

「織斑さん? ここは当然このセシリア・オルコットに代表者の席を譲っていただけるのでしょうね。本当にがっかりでしたわ。世界でただ一人ISに乗れる男がこのような東洋の猿だったなんて」

「はいはい。日本人で悪うございましたね。わざわざ日本まで人種差別しにやってきたのか? それともユダヤ人でも探しに?」

 

イギリスはナチスを撃退した側なのだが――。

まあ、興味がなければ欧州は一単位で括れてしまうか。

 

「あなた、何をおっしゃったか――わかっていますの?」

「知るかよ。あんたもよく考えて発言なんかしてねえだろ」

 

オルコットは凶相を浮かべる。

まあ、欧州の方はナチスに忌避感を抱いている。

面と向かって、お前はナチスか? などと言われればキレるのは道理。

 

しかし、一夏も熱くなっている。

何か琴線に触れるものでもあったか?

 

「ナチスはドイツ発祥です。そしてわたくしはナチスの野望を打ち砕いたイギリスの代表候補ですわ。よりにもよって我が祖国が野蛮人共と一緒にされるのはたまりませんわ。――いいでしょう。決闘です!」

「決闘。いいぜ。やってやるよ」

 

ビシリと突き出された指を一夏は睨み返す。

威風堂々という言葉が似合う良い気迫だ。

 

「あなたの愚かさをたっぷりと思い知らせてやりますわ」

「いいだろう。それで、ハンデはどれくらいつければいい?」

 

「ハンデ? ふふ。今からハンデをもらおうと? たかが猿に誇りなどありませんでしたのね。まあ、いいですわ。そこまで言うのならハンデをあげましょう。そうでもなければ代表候補である私に敵う訳ありませんもの」

「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいのかなって」

 

くく。本気で言っているな。

面白くて顔がニヤけるのが止まらない。

一夏がオルコットを撃退して見せたら、さぞ痛快だろう。

 

「…….あなた、本気で言ってますの? 男が強かったのなんて何年前の話だと思ってるんですの」

「む――。それは……」

 

ふん。思い出したか。

通常兵器でISに対向するのは不可能。

一夏はまだ人間だからな――。

 

「一夏。やめておけ。お前では勝てんよ」

「奈落! でも、ここで引いたら男が廃る」

 

一応止めてやる。

無駄だったが。

しかし、男が廃る? こいつはそんな事を言うような男だったか……。

 

「お前に廃るものがあるものかね……? まあ、いい。そいつに挑むのなら一週間くらいは練習したらどうだ。それならいい勝負が出来るだろう」

「は――?」

 

当たり前だが、一夏はあのISとは親和性が高いはずだ。

なら、少し練習しておけば良い勝負が出来るだろう。

 

「それもそうですわね。素人相手に勝ち誇っては代表候補の名が廃るというものです。良いですわ! 決闘は一週間後、皆さんが見ている前で叩き潰して差し上げます。どうぞ、ただの的で居るような醜態は見せないでくださいましね」

「上等だ。やってやる」

 

逆にオルコットが乗ってきた。

一夏も反射的に応じたようだ。

 

「おい。セシリア・オルコット――」

 

私が言ったのは今から一周間ではないぞ。

これでは――。

 

「そこまでだ。決闘は一週間後。勝ったほうがクラス代表になる。二人共それでいいな? 嫌とは言わせん」

 

「「はい」」

 

やれやれ。

私の話を聞けというに。

大体、決闘が一週間後?

それなら、良くて一日二日練習できれば幸運だな。

全く、意外に猪突猛進だな――、一夏。

 

「さて、無駄に時間を使った。さっさと授業を始めるぞ。織斑、神亡、オルコットは席につけ」

 

おそらくそれを分かっているであろう織斑教諭はすらすらと授業を進めていく。

 

 

 

「奈落……」

「どうした、一夏? そんな捨てられた子犬のような目をして。蔑んでやろうか?」

 

馬鹿にはこのくらいの言葉が丁度いいだろう。

 

「ひでぇ。一週間後にオルコットとの対戦だろ。お前は専用機持ちなんだし、コツとか教えてくれよ」

「そんなものはないな。要は慣れだ。それに、お前は機動原理を聞いて理解できるか?」

 

コツ、ね。

そんなものはISには関係ない。

全てが全て、イメージ次第。

自分のやりやすい方法を模索していくしかない。

教えるのが簡単なのは作動原理を頭に叩きこんで、それでイメージさせることだが――。

 

「いや、無理」

「――だろう? だから、一分でも乗っておけば少しは違うのだろうが……」

 

数式からイメージをまとめるなど、高校生レベルの学力では不可能に近い。

だから、習うより慣れろでやったほうがいいのだが――。

 

「じゃあ、練習機を借りて――」

「専用機持ちは借りられんぞ」

 

そう、借りられない。

専用機持ちは借りる必要もないし、借りることも出来ない。

自分の専用機に悪影響を与えるからだが――この場合は単なる規則の問題だ。

もっとも、練習機に男が乗って不具合を起こさない保証もないのだが。

 

「え? 俺は専用機持ちじゃないぞ」

「いや、これから四日後に納入予定だ。だから、お前は借りられない」

 

納入予定。

予定というところがミソだ。

 

「俺が専用機持ちになるのか?」

「そうだよ。だが、こういうものには付き物のことがある」

 

面白くもない現実問題がな。

力押しで解決できない問題は好かん。

 

「何だよ? あまり聞きたくねぇなぁ」

「納入の遅れ。一周間以上ずれたら、お前、生身でISと戦ってみるか?」

 

あざけってやる。

あそこで私の話を聞いていたら、あの女の誘導尋問くらいやってやったのにな。

 

「いやいやいやいやいや」

「流石にお前ほどの阿呆でも人間がISに敵わないことくらいは分かるか。まあ、納入に関しては私も力になりようがない」

 

ぶるぶると犬のように首を振る。

まあ、当然だ。

私や織斑教諭でもない限り、ISに生身で挑むことなど考えられない。

 

「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「さてな――。祈っておけばいいんじゃないのか」

 

無責任な言い方だ。

我ながらそう思うが、そもそも責任とはなんだろうと考える。

とりあえず、何かあったら深刻そうな顔をしておくのが責任か?

いや、蛇足か。

 

「他人事だなぁ」

「他人事だよ」

 

当たり前の話だろう?

私は一夏ではない。

 

「い、一夏!」

 

焦ったような呼び声。

叫び声と呼んでもいいくらいか?

 

「お? 箒か。何か用か」

「いや、オルコットの対戦のことで少しな」

 

篠ノ之とて想い人の心配はする、か。

頬でも染めてやれば可愛げも出るものを。

 

「ああ、その事を奈落に相談していたんだ」

「……神亡に?」

 

いきなり沈痛そうな顔になる。

心配なのだな?

想い人がこの私のような人物と付き合うことが。

 

「そうだけど――」

「一夏。ちょっとこっちに来い」

 

「何だよ?」

「いいから――」

 

離れていった。

とはいえ、聞き耳を立てれば聞こえない距離ではない。

不用心だな、それが四六時中見張られていた人間のやることか?

 

「ちょっと、あいつは怪しいんじゃないか?」

「奈落が? あいつは良い奴だぜ。色々と力になってくれるし。それに、この学園でたった二人の男だしな」

 

「そうは言ってもな――」

「あいつがお前に何かしたってのかよ?」

 

「いや、そんなことはない。だがな――」

「だが?」

 

「武人としての勘だ。恐らく、奴はなにかとても恐ろしい物を隠している。ISどころではない――何か、とてつもない深淵を」

「……はぁ?」

 

「いいか? 気をつけていろよ、一夏。奴に取り込まれてからでは遅い」

「――ああ。わかったよ。気をつけることにする。幼なじみからの忠告だしな」

 

「分かってもらえたのなら良かった。――って、腕を引っ張ってどこに行く気だ?」

「決まってんだろ? お前、他のやつが来るとすぐにどっか行っちまうから、今日こそは捕まえておいてやろうと思ってな」

 

「――な!? 離せ。私は慣れ合いは好かん。他の人間が居るのなら、私は部屋で一人夕食を採らせてもら――」

「おーい、奈落! 飯食いに行くぞ」

 

「うん? 内緒話は終わったか。なら、行くとしようか」

 

途中で本音一行も加わり、大人数になっていく。

うやむやのうちに、引き続き箒が一夏の教育係となった。

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