IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第52話 異端狩り

「初めまして。私はウォルター・クム・ドルネーズと申します。本日はお嬢様が神亡奈落様にお話を伺いたいとのことでお尋ねした次第であります」

 

入ってきた初老の男。

見ただけでわかる――この男は執事であると。

白髪、そして片眼鏡。

執事服が目に眩しい。

 

「悪いけど、この生徒会室に立ち入る許可を与えた覚えはないのだけれど」

 

楯無が言う。

そもそもここは侵入者対策もしてある。

日本製ということで危害を加える性質ではないが――それでも警報に引っかからずに来たことは称賛に値する。

その手腕があれば凄腕の暗殺者として名を馳せることもできるだろう。

 

「神亡様の所在を聞いたところ、ここに居られると聞いたものですから」

 

慇懃無礼に謝ってみせる執事は悪びれもしない。

そもそも人目を避けて生徒会室に来た彼らを誰が知っているというのだろう。

教員などは論外。

元々奈落はそいつらを信用していない。

それは――楯無ですらも同様。

 

「そう。悪いけど、こっちは重要な話をしているの。後にしてくれないかしらね?」

「申し訳ありません。こちらもあまり暇ではないもので――なんなら、この会議に参加させてはいただけませんか?」

 

いけしゃあしゃあとほざく。

遠慮も何もあったものじゃない。

楯無は予想外の乱入者に苦い顔を隠せない。

 

「論外ね。部外者は出て行ってくれないかしら?」

「そういうわけにも参りません。なぜなら我々は大英帝国王立国教騎士団――ヘルシングなのですから」

 

そこ言葉を告げる彼に照れるところは何一つない。

その組織に所属していることに曇りのない誇りを抱いている。

 

「へぇ――、オルコットさん。ご存知?」

 

楯無はセシリアへと水を向ける。

彼女はイギリスの代表候補生――聞く限りに怪しい組織だが、知っているなら一応の信頼は置ける。

 

「――いえ……聞いたこともありませんわ」

 

だが、セシリアは見たことも聞いたこともない。

そんな組織は噂ですら聞いたことがない。

 

「それは当然だ」

 

更に女も出てきた。

この女にはウィルタ―ほどの人間離れした技術はない。

おそらくウォルターは隠密に侵入するだけでなく警報を全滅させてきたのだろう。

 

「我々ははるか太古の昔、英国がイギリスと呼ばれる前から存在してきた。英国国教会を化け物から守るために。そして殺すために。詳しくはブラム・ストーカーを読め」

 

葉巻をくゆらせている。

威圧的な美貌の麗人。

その鋭い目は強固な意志を感じさせる。

 

「しかし、一般人はそんなことを知る必要はない。我々は裏で暗躍する国家の影なのだから。悪夢が浮かんできたときに音もなく現れ、人々にその存在を認識される前に消えるのが国を守る我々の宿命」

 

誰もしらないのも当然。

これは人の口に登ってはならぬ世界。

暴力が支配する世界の人間たち。

 

「――で、そのヘルシング機関が何のようかな? 希テクノロジーの方で少し取引があるようだし、その伝手だけで十分じゃないかな」

 

どうやら奈落は機関の名前だけは聞き覚えがあるらしい。

それも、本社の方とのつながりで。

裏に生きる世界の人間だからこそ、武器は重要。

人の目には触れなくても、軍需産業には関わりを持たずにはいられない。

 

「まったく十分ではないね。君たち実行部隊の動きなどてんでわからないし――所有戦力ときたら想像すらつかないのが実際のところだ。それと私の名前はインテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング……インテグラでいい。機関名で呼ばれるのは好かん」

 

まるで喧嘩に来たかのように言う。

苛烈な女性だ。

詰問する口調は詰っているかのよう。

 

「まあ、今の世界で戦力を維持するのはきついだろうね。諜報分野に至っては焼け野原に近いのだろう?」

 

奈落が皮肉を投げかける。

世論はひたすらにISを求める。

その上で軍事費の削減も。

だから、IS以外は削るしかない。

どうにかして最低限度は残そうと――そのレベルだ。

組織を運営するには足りやしない。

裏の組織なんてものはいわずもがな。

 

「否定はしない。だから、希テクノロジーがどのように動くのかもわからない。だから教えろ――全てを。何一つ隠すことなく」

「ミレニアムへの対応など君たちと変わらないよ。亀のように縮こまって防衛に精を出すだけさ。精々、一夏にちょっとした支援をあげたくらいさ」

 

「それでは困る」

 

きっぱりと言い切った。

言葉づらでは情けないのに、こうして自信満々に言われるともはや凛々しい。

 

「――ほう?」

「ミレニアムを殲滅出来るだけの戦力を持っている君たちにはきっちりと戦争に参加してもらう。どこの国にも君たちが悠長に構えている横でテロリストどもを壊滅させる余裕などないのだ」

 

「だから? そんな余裕を作らなかったのは君たちの責任だろう。そして、国を守るのも君たちの義務。なぜ自業自得で苦境に陥った人間を助けるために義務を代行しなければならない?」

「――世界が滅ぶぞ」

 

「滅ばないさ。人間はそこまで弱くない――ちんけな脅しだな、ヘルシング機関。そんなこと微塵も信じてないくせに。いや、英国の政治機能が崩壊するのが世界の滅びなら…….あながち冗談でもないか」

「余裕のある人間を使って何が悪い」

 

睨み合う。

 

「こちらに余裕がありそうに見えるのは、それこそ他人だからさ。同じように私から見れば英国にはずいぶんと余裕が有るよ。色々と欲しいものがあるから余裕がなくなるのさ」

「では、AFを殲滅したISについて聞かせてもらおう。あれが10機あれば、それだけで世界を防衛できる」

 

「それを操れるのは、そこの少女だけだ。量産などしても誰も乗れないから意味が無いな。そして、そこまでの金も時間もない」

「…….もしや、特定の人物しか乗れないようなものを作ったのか?」

 

「あんなものは【セラフ】と【ファントム】を開発するための実験機にすぎない。もっとも、馬鹿げた金をかけて人類には操れないほどにチューンを施したがね。スペックなら雷電の方がよほど上――人の業かな」

「何…….? セラフにファントム……ならば、それを――」

 

「開発が完了したのなら、戦場に投入していたはずだと考えないのか?」

「――っち。だが、何が何でも貴様らにはこの馬鹿げた戦争を終わらせる立役者となってもらう」

 

「冗談じゃないね。誰が世界平和のための礎――わかりやすく言えば他人が不自由なく暮らしていくための生贄になりたいなどと思うものか」

「そんなことはない。君たちのお陰で世界が平和になったのなら、ヘルシングの威信をかけても報いることを誓お――」

 

「――誓いを破った人間を殺す呪いを君にかけても誓えるかな?」

「……もちろんだ」

 

インテグラは奈落から目をそらさない。

普通なら、説得されてしまうところだろう。

だが――

 

「へぇ。命を捨てる覚悟はあるのか――すごいね。でも、流石に一瞬息を呑んだか」

 

……奈落のうんざりとした顔。

世界を救うために払う代償――それを冷静に考えて、心底嫌がっている。

貧乏くじは積極的に引きたくないものだ。

 

「誰かが血を流さなくてはならない。アフリカでは今も血が流されているのだ。我々でよければ、私がやったさ」

 

もはや親の敵を見るような目で奈落を睨む。

できることなら全てやる。

それしかないのなら見知らぬ他人でも、魔女狩りの炎に叩き込んでやる――!

それで世界が救われるのなら己が炎に飛び込むことも厭わない。

だが、自分ではダメなのだ。

ヘルシング機関には牙が無い。

炎にくべるのは目の前の人物――奈落でなければ世界は救われない。

 

 

 

「――こんにちは! おやおや、厳しい顔をした人ばかりですね。ダメですよ、厳しい時こそ笑わないと。気分が落ち込んでしまいます」

 

更に男が乱入してきた。

警報装置は先ほどウォルターが破壊したが――こちらもどうやって位置を知ったのか。

 

「貴様――」

 

敵を目の前にしたかのようなインテグラ。

いや、実際に敵同然か。

 

「エンリコ・マクスウェルか」

 

奈落が顔を見てそう呼んだ。

インテグラのときとは違い――こちらは顔も知っている。

 

「おや、知ってもらえていたとは光栄です。初めましての方には自己紹介を。私、ヴァチカン法王庁特務局第13課、通称イスカリオテ機関の機関長をさせていただいておりますエンリコ・マクスウェルと申すものです。任務は異端の殲滅――つきましては神亡奈落さんにお話を伺いたく」

 

こちらも慇懃無礼に言った。

まったく慇懃無礼な人間ばかり登場するものだ。

短く刈り込んだ白髪。

そして、挑発するかのような目。

司教というよりヤクザの方がよほど似つかわしい。

 

「貴様――先客がいるのだ。少しは遠慮したらどうだ? ヴァチカンの犬」

「黙れ、空気が汚れる、しゃべるなこの異教徒めが」

 

インテグラとマクスウェルが勝手に喧嘩を始める。

奈落は眉をひそめる。

 

「先日は失礼しました。せっかくお誘いいただいたのに、お断りしてしまって」

 

マクスウェルが機先を制し、インテグラを無視して奈落と話にかかる。

彼との接点は以前、希テクノロジーの方でヘッドハンティングを仕掛けたことある。

流石に奈落自身が勧誘に行くことはなかったが――彼の優秀さは知っている。

とはいえ、成功していても使えたのか。

今も目に嫌悪をたぎらすこの生粋のカトリック至上主義者は。

 

「気にすることはない。それだけ君の信仰が篤いと言うことに他ならない」

「それはそれはどうもお褒めいただいて」

 

「で、君も希テクノロジーに戦場に出ろと言いに来たのかな?」

「はい、先ほどの戦いを見せていただきました。他にも何か持っているのでしょう? イカれたテロリストどもを屠殺するのに手を貸していただければ、と」

 

「断る。私には私の事情がある。君たちの事情を押し付けるな」

 

奈落はにべもない。

 

「なるほど。では、不興を買わないうちに退散することにしましょうか――」

 

呆気無く退散するマクスウェル。

何の意図があるのか、はたまた顔を見せに来ただけか。

 

 

 

「――黙れ!」

 

大声を出したインテグラに注目が集まる。

 

「ぐだぐだ抜かすな――何も言わず私に協力しろ。企業!」

 

言い切る。

凛としたその姿はまるで戦姫。

しかし、他人の力に頼ることしかできないその儚い姿は人間でしかなかった。

 

「――はん。そんな言葉で私を動かせると思ったら大違い……」

 

だが、そんな言葉で心を打たれるような奈落ではない。

どうしても譲歩できないことは存在する。

だが、彼女の|漢≪おとこ≫を見た化け物は他にもいる。

 

「よろしい」

 

少女が立ち上がった。

小さい手足に凛とした気迫を込めて。

精一杯に胸を張る。

 

「アーカード?」

「いいとも。この私が、化け物(フリークス)が貴様を手伝ってやろう――人間」

 

いきなりの宣言。

誰もが驚かざるをえない。

インテグラの人間としての覚悟は立派だった。

だが、それでこうなるとは。

 

「何だと……っ! 離反する気か」

「最初から気の向く限りは協力してやるという話だっただろう? 同類のよしみはこれにて終了だ」

 

炸裂音が弾ける。

そして、少女が倒れ――

――血の華が咲く。

 

「っな!?」

 

声を漏らしたのはインテグラ。

奈落がアーカードを撃った。

少女に対してあんまりと言えばあんまりである。

 

「貴様……何を考えている、ここで事を構えるなどと」

「保険だよ。そいつは案外おしゃべりな女でね」

 

「――な?」

「【反響共鳴(エコーズ)】。やまびこと言う現象を知っているかね? あれはただ声が反響するだけの現象だが、古には妖怪が声を返していると思われていたそうだ。吸血鬼と妖怪――どちらが非現実的なのかは知らんが」

 

「お前はもう――声を返すことしかできないのだよ、アーカード。どれだけの魂があろうと、攻撃を避けもしないのは明らかに悪癖だな。つまりは希テクノロジーがやっていることをバラしたりはできない。やまびこだからな…….すでに口にされた情報しか話せない」

 

死体を前に言い切った。

いや、死体が動く。

頭に穴を開けたままで起き上がる。

 

「なるほどね、案外私も信用されてなかったものだ」

「この状況で勝手なことを言い出すくらいだからな」

 

損傷は見る見るうちに修復されていき――血の跡すらも残らない。

しかし、植えつけられた能力は切り離せない。

そう、あれは呪いではない。

デメリットしか持っていないディソードを押し付けた。

 

「ま、そういうわけだ――よろしく頼む、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング興」

「これは少々予想外の展開だな。しかし、私に仕えるというのなら遠慮なく使ってやろう――従僕」

 

即席の主従は長年の連れ添いのように納まる。

 

「アーカード、雷電を返せ。あれは希テクノロジーのISだ」

「やれやれ。退職金くらいもらっても良さそうなものを」

 

つけていた腕輪を外して放る。

 

「爆弾でも送りつけてやろうか?」

 

受け取った奈落は――そのまま握りつぶした。

 

「っ!?」

 

貴重なものをなんて握りつぶすなんて――と皆が息を呑む。

だが、奈落が手の平を開くとそこには十字架が。

彼はギガロマニアックス――ISのコアにアクセスできる存在。

 

「くれてやる。お前の後ろに控えている人外なら使えるだろう」

 

マクスウェルの後ろに放る。

 

「ありがたくいただきましょう。しかし、私を化け物などと一緒にしてもらいたくはない。私は生物工学の粋を凝らした神の銃剣――人間なのだから」

 

受け取った男は先程までの影すら捉えられぬ隠形とは裏腹に、強い殺気を振りまく。

眼鏡の奥に秘められた目は見るものをすくませる凶眼。

 

「そう、私は化け物ではない。化け物は殺す。私が殺す。一兆匹でも二兆匹でも残らず殺し尽くしてやる。殺して、ころして、コロして、コロシテ、殺す殺す殺す殺す――」

「いッ いかんッ よせアンデルセン!!」

 

殺意のままに銃剣を取り出し、がちゃがちゃと鳴らし始めたアンデルセンをマクスウェルが必死に止める。

 

「それは悪かった。これで十分か? 希テクノロジーの戦力は削れたかな?」

 

奈落は呆れ――いや、諦めにも似た表情だ。

もう勝手にしてくれ、と言う感じで明らかにやる気を失っている。

生き生きと演説していた姿が嘘のようだ。

 

「ご協力に感謝します……おい、アンデルセン抑えろ。ここで暴発などしてくれるなよ」

「――ええ。わかっていますとも、機関長。では、私は本部に戻ることにします。いつまでも極東の地にいたくはない」

 

アンデルセンが姿を消す。

その消失ぶりは宙に聖書をばらまいて、紙吹雪とともに転移するというもの。

とても人間技とは思えない。

 

「な――アンデルセン……」

 

がっくりと肩を落とす。

ずいぶんと勝手な護衛がいたものだ。

 

「では、私もこれで失礼することにいたします」

 

頭を下げ、引き下げていく。

こちらは人間らしく、その2本の足で。

ヴァチカン組は現れたときと同じく唐突に去る。

 

「神亡殿、もう少しお話を伺ってもよろしいか?」

 

インテグラが聞く。

だが、奈落はやる気を失ったままで。

 

「知らん、話をしたければ本社の人間とでもしていろ。悪いが、少し疲れた。私は休む」

 

会議室を出て行ってしまった。




ついにブギ―ポップネタまで出してしまった。
まあ、エコーズは本編でも口封じのための特性でしかありません。
とりあえずアーカードは奈落側の事情をバラせないとだけ思っていてください。それだけです。
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