IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第53話 凶弾

疲れていると言った奈落はそのまま外に出る。

……さまよい歩きゆく。

何処かへと、誰もいない何処かに向かって。

 

夜。

何時間歩き続けたかわからない。

だが、人外にとって歩き続けるなど眠るに等しい。

体力など飾りでしかない。

人外が必要とするのは――むしろその集中力。

 

カラスが鳴く。

まるで人の頭をぶら下げたかのような木の枝が揺れる。

ざわざわと耳障りな風切り音が妙に脳に響く。

 

 

 

そして、奈落は凶弾にぶち抜かれた。

当てられたのは――心臓。

肉片が飛び散る。

 

狙撃。

奈落の警戒範囲内の外からの攻撃。

ISだ。

スナイパーだろうが、人間の身でそこからの射撃を成功することなどできはしない。

 

普通ならそのまま死ぬ。

だが、奈落は普通などではない。

穿たれた心臓の痛みに耐え、目を開く。

 

そして、奈落は飛行船の中に居た。

――異常。

何を言わずともわかる異常。

そんなことあるはずがない。

ここは森だ。

そんな――機械など見えるはずがない。

こんな……妙に懐かしい場所。

 

「――いや、幻覚だな。後ろから来るか?」

 

IS【ステイシス】を装備。

さらに後方に向かってミサイルをばらまく。

すぐに幻覚を無効(キャンセル)にしてある。

ギガロマニアックスは幻視を操る存在――このくらいはわけない。

 

だが、ミサイルは虚しく地表を揺らす。

熱源があればそこに向かっていくはず。

機械をだます幻影は存在しない。

つまり、後方には……すぐ後ろには誰もいない。

 

「そら!」

 

女の声がした。

奈落の前方には鎌が見える。

幻覚で惑わせ後方から隙を突く――と思わせておき、更にその裏をかいて真正面から来た。

……良い策だ。

相手が上級者であることを逆手に取っている。

 

「――ち」

 

まともに食らってしまう。

だが、そのままで終わりはしない。

振り下ろしの一撃の衝撃に逆らわず、飛ぶ。

わずかに距離が空いた。

そして、ミサイルをばらまく。

更にショットガンを装備。

 

「畜生が……!」

 

敵は土下座するような格好で地に伏せる。

耐衝撃態勢だ。

奈落はかまわずショットガンを撃つ。

ショットガンとは弾をばらまく、いわば広範囲を殴りつける武器。

それをミサイルが敵に迫っている状態で使用した。

ミサイルは基本的に当たらなければ作動しない。

そしてミサイルをかわすのは、上級者ならやってやれないことはない。

だから、奈落はショットガンで殴りつけて爆発させた。

突っ立っていたら衝撃に殴り飛ばされてノックダウンされていただろうが――

――伏せていた敵は背中を撫でられた程度でしかない。

 

「――ふむ」

 

一呼吸置いた奈落に弾丸が迫る。

狙撃手のことも忘れてはならない。

足に向かっていた弾丸は直角に曲がりショットガンを貫いた。

――爆発。

かまわずミサイルパックを収納、直後にうねるように曲がった弾丸が空を裂いた。

危なかった。

ダメージに気を取られていたらミサイルの誘爆をまともに喰らっていた。

 

「ぜああああ!」

 

隙を突いて鎌。

耐衝撃態勢でいたために、失神すらしていない。

鎌を腰だめに構えて蛇のように飛びかかる。

鎌自体には織斑千冬のような特殊能力はない。

だが、特殊合金でできた超強度の武器がとんでもない速度で迫っているのだ。

ISの絶対防御ごときでは防げない。

 

「――くはっ」

 

掴んだ。

高速で振りぬかれている鎌を――素手で。

 

「……んな!?」

 

斬撃無効化のスキル。

そして、ステイシスの反応速度。

両方がなければ実現し得ない神業。

奈落らしい――人外の所業。

だが、まだ終わってはいない。

魔弾がある。

奈落は一人で、狙撃手と鎌使いに相対しているのだから。

 

「っふ」

 

ぐわっと仮面が開く。

いつもISを装着しているときに顔の前で浮いて奈落の表情を隠しているやつだ。

奈落のような口が出現する。

そして、弾丸に喰らいつく。

 

「――くは」

 

喰い破った。

弾丸を――いくら人間の口ではなく仮面だとは言っても……常軌を逸している。

 

「くく……ひはは」

 

仮面の奥から嗤い声が響く。

グラインドブレードの起動。

仮面は冷たく敵を睥睨する。

 

通常は数秒の起動時間がかかる。

だが、それは短縮された。

これも異能。

奈落の持つできそこないのディソードはむしろ小技が本領。

多彩な手を気ままに、そして適当に使ってくる。

 

6つのチェーンソーがうなりをあげる。

悪夢のようなきしみが連続する。

 

「――馬鹿め」

 

女が吐き捨てた。

哀れ6つのチェーンソーに噛み砕かれるはずの人間が。

ナチスは死すらも楽しむ狂人の集まりなのか?

いや、違う。

これは死を恐悦する罪女の表情ではなく、罠にかかった獲物を見る狩人の昏い悦楽。

そして、横から迫る影。

まったく気配を感じなかった――

 

「――っ!」

 

大砲のようなパンチ。

言うなれば、そのようになるだろう。

だが、その威力はそんなもので表せはしない。

 

「…….っ!?」

 

声を出す暇もありゃしない。

思い切りぶっ飛ばされる。

ICBMの直撃くらいなら耐えられるはずのステイシスのシールドは紙のように砕け散った。

 

あまりの威力に分断された奈落の身体が何本もの木をなぎ倒しながす。

どう見ても死んでいる。

身体を上下に分けられて生きている人間などありえるはずがない。

そう――人間だったら。

 

 

 

「なぜですか……っ!」

 

鎌を持つ女が呻く。

責めるように――そして、懇願するように。

狙撃手は憎しみを向ける。

そして、潜んでいた狼女は親愛を。

 

「なぜ裏切ったのですか。奈落隊長!」

 

奈落は答えない。

いや、二つになった奈落が答える事自体がありえないこと――

 

「戦争以外に俺の居場所を見つけたから……」

 

つぶやいた。

上だけの死体が。

下半身を他にやってしまった奈落は上だけの身体で女を見る。

 

「――へ?」

 

呆けたようなつぶやき。

それは――奈落が生きていたことに対するのか。

それとも、奈落の言葉に驚いた?

 

「コード――【000】(トリプルゼロ) モード――【獣】(ビースト)……発動!」

 

変貌していく。

仮面の目は獣性に塗り替えられ赤く染まる。

この気配――以前までのビーストモードではない。

より凶暴で――もはやヒトであることすら……

 

「お前らなど知らない。お前――ゾーリンも、リップヴァーンも、人狼すらも知ったことではない。今や貴様らはただの敵……慈悲もなく、感傷もなく、意思もなく、ただの獣として殺してやる」

 

下半身が生える。

修復した。

機械も――生身も。

 

がぱりと――口を開いた。

そして天空に向かって吠え付ける。

もはや、人の言葉すらも解さない。

ただの獣。

――ただの化け物。

 

「――っひ!」

 

暴走する魔獣は女を見つける。

そう――鎌を操っていた女。

 

「あが……?」

 

奈落は獣のような4足歩行で目にも留まらぬ速度で飛び跳ねる。

足に噛み付いた。

そして、引きずり倒す。

獣がやるように――その口で足を引っ張って。

 

「うあ……!」

 

踏みつぶした。

いや、手だ。

だが、この場合は前足といったほうが良いのだろうか。

 

兎にも角にも、獣は持ち前のカンで二人目の獲物を見つける。

この獣は理を外れた魔獣。

殺しはすれども食いはしない。

狙いはすれども、逃しはしない。

 

闇に隠れて奈落を殴殺した女――人狼。

以前IS学園に来る直前に殺し合った奴。

真っ向から勝負をかける。

拳と牙。

牙が勝った。

女の腕は食い千切られ打ち捨てられる。

爪が閃き、顔が――そして頭が引き裂かれる。

 

残るは狙撃をしていた女。

弾道を操る異能があるようだが、今となっては何の関係もない。

とっくに逃げ出した。

恥も外聞もない。

あるのはただ――恐怖のみ。

 

 

「――そんな……あんな――あんな顔、私は知らない……!」

 

逃亡兵はうわ言をつぶやいている。

……嫌な匂いを感じた。

立ち止まる。

違和感を感じたらすぐにその原因を探れ――とは奈落が教えたこと。

だが、この場合は正しかったのか。

 

ぐびゅ、とも――ぐちゃ、とでも言うように音もなく、その場にひっそりとある何の変哲もない角から奈落が現れ出る。

軟体生物のようにぐびゅぐびゅと蠢く奈落に向かって、女は撃った。

ろくに狙いも付けずに放たれた弾丸は獣の腕をえぐる。

しかし、意味は無い。

すぐに修復が完了する。

 

「ああ!」

 

悲鳴を上げる暇くらいはあった。

だが、その薄気味の悪い登場とは裏腹に全くの無音で獲物を狩る。

立ち止まって周囲を警戒なんてしなければ、恐怖を感じる間もなく死ねたのに。

 

「さよなら……永遠に」

 

理性を取り戻した奈落はつぶやく。

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