IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第54話 裏切りのロシア

「……一夏、聞こえるか?」

「セレンさん?」

 

一夏は未だに飛行機の上にいた。

会議からまだまもなくなのだから仕方がない。

 

くつろいでいる。

こんなところは奈落からのホワイトスネイク――要するに不思議な飴でも|幻想御手≪レベルアッパー≫でもいいが、そのおかげで戦闘に対する適性は世界でもトップレベルまでドーピングされている。

なに――問題はない。

副作用なんてものはないのだから。

あるとすれば――少々冷静すぎる人格になってしまったことか。

戦闘が終わってから1日も立っていないのに随分と余裕である。

 

「奴らの今度の目標はロシアだ。予想出現時間は後一時間後」

「やけに早くないか?」

 

2回目はずいぶんと早くなって――もう3回目には数分後くらいかとも思われる。

2回目にしたって1時間より早かったのだ。

 

「いや、奈落の言だ。奴がそう言っていた」

「へぇ――なんでだろうな?」

 

疑問符を浮かべている。

しかし、それでも……囚われてはいない。

彼が友達を疑うような人間ではないこともあるだろう。

だが不信は己を殺す――それが戦場の掟。

迷いはためらいを産み、ためらいは行動を遅らせる。

ゆえに迷わず、疑わず。

 

「私は知らん。で、出撃するか?」

「もちろんだ」

 

即答した。

やはり馬鹿だ。

まだ疲れも残っているだろうに。

いや、それは敵の戦略か。

とはいえ、戦力の逐次投入は下策。

それこそ無限の戦力でも持ってない限り……一気に攻め立ててしまったほうが効率は良い。

ただ、少佐は効率など考えないだろうが。

 

「別にロシアならお前が出現しなくてもどうにか出来ると思うがな」

「それでもやる」

 

一夏に迷いはない。

 

「わかった。しかし、奈落との連絡がつかん。お前への支援は限られたものになることを了解してくれ」

 

今、彼は散歩の最中だ。

とはいっても、敵をおびき出しているところ。

連絡がつかないのは――彼が敵に対して思うところがあるゆえか。

いずれにせよ、連絡を取るつもりさえもない。

 

「わかった。で――作戦はどうするんだ?」

 

「ロシアにこちらから協力を申し入れたところ、快く受け入れてくれるそうだ。黒タカ部隊に加わり、AFへのS―11設置作業に随行することを求められた。七面倒臭い連携など要求しないところには好感が持てるな」

「――じゃ、敵のISを相手にするのはロシアの人達なのか」

 

セレンはニヤニヤと笑っている。

ロシアとの協同は彼女にとっても望ましいようだ。

 

「そのとおりだ。前の任務とは違い、他の部隊とも協力することになる。とは言っても、精々が突入のタイミングを合わせるくらいだ。敵の数次第だが――楽な任務かもな」

「だといいけどよ」

 

「では、そのジェットの目的地を変更する。作戦開始は1時間後――それまでは身体を休めておけ」

「了解」

 

それだけを聞き終わった一夏は座席に背を預ける。

脱力して――もう眠ってしまった。

 

 

 

ロシアが指定する空港に程近い場所にある一角。

そこで一夏はロシアの軍人と顔を合わせる。

美しい、と言えなくもないがそれよりも先に可愛さが先立つ女の子。

青い目に白髪の、まるで妖精のような。

 

「よろしくね、一夏君」

 

イーニャ・シェスチナがにこやかな笑みを浮かべてあいさつする。

無邪気でとても子供っぽい。

言っては何だが、あまりこの場にふさわしいとは思えない。

 

「こちらこそ……えっと、イーニャさんでしたっけ」

 

そんな子供を相手にする一夏はとまどってしまう。

ぎこちない笑みを浮かべて……まるで姪の扱いに困るおじのようだ。

目が泳いでいる。

 

「そう、コールサインはイーグル2だよ。こっちがイーグル1ね」

「…….」

 

イーニャに指差されたもう一人は沈黙で答える。

誰にでも友好的なイーニャと反対で、誰かれ構わず噛みつくような。

そんな冷酷で――美しい女性。

 

「――クリスカ。ちゃんとお返事しないとダメなんだよ」

「……クリスカ・ビャーチェノワだ」

 

しぶしぶと答える。

どうやら、戦鬼は妖精に逆らえないよう。

 

 

 

「おしゃべりはそこまでだ……来るぞ!」

 

通信を介しての声。

セレンから。

彼女は通信を介して作戦に参加する。

もちろん宇宙から――イーニャやクリスカに指示を与えるのはロシア領内の基地からだ。

 

基本的に共同戦線を張るが、それは同じ部隊で戦うということではない。

ロシア側が雑魚の始末にAFの足止めを担当する。

一夏が担当するのはAFの撃破。

S―11の設置を担当するだけの任務。

だが、言葉に出しはしないが彼女たちもS―11を装備している。

一夏が失敗した時の保険もばっちりというわけだ。

 

 

 

一夏が、イーニャが、クリスカが見つめる中で“それ”は起こった。

陽炎が揺らめく。

そして、世界がずれる。

ノイズに満たされる。

 

ISが、そしてAFが出現した。

まるでスクリーンの中のようなできごと。

直接見るのは初めてだ。

わずかなノイズが走った後にはそこに在る。

その後はきれいさっぱり、最初から存在していましたよとのような顔で堂々と風景の中に溶け込んでいる。

だが、いくら自然であろうと彼らは戦争をしに来たのだ。

 

 

 

まずは二機のIS【チェルミナートル】が駆ける。

終焉の名を関する二機はいたるところに第三世代技術を導入した二機連携が前提の――戦争のための超火力型IS。

前提が1対1の競技など、考慮すらしていない。

二人であらゆる脅威を打ち砕くためのロシアの牙。

 

火器が火を噴く。

まるで2つで1つのような芸術的な舞い。

だが、その火力に晒される方は美しさに感動する暇すら与えられはしない。

陣形を突き崩され、四方に逃げ惑う。

 

「――よし」

 

協同相手の戦果を確認する一夏。

道は開いた。

二人で一つの戦女神がこじ開けた。

 

「行くぞ」

 

まっすぐに突っ込む。

敵AFはランドクラブ。

要するに戦車をでっかくしたものだ。

脅威は他のAFよりも劣る。

むしろ他のAFと組ませてこそ真価を発揮する――地上制圧用の移動要塞。

一機のみで旗艦にするようなAFではない。

 

四門の主砲が火を噴く。

当たれば脅威だ。

ただのISなどただの一撃のもとに跡形もなく消し飛ばされる。

 

「そんなでたらめな射撃に当たるかよ――【零落白夜】」

 

だが、そんな習熟もまともにしていないような砲撃が当たるはずがない。

弾道はふらふらと揺れて、あっちこっちに飛んでいる。

そもそも的に当てられるかすら怪しい。

というか、ムリだろう。

 

「……っだ!」

 

表面装甲を破壊。

そのまま内部に進入する。

だが、相手は巨大なAF――人間大の穴が開いたところでどうということはない。

一本の槍のように、床も通路も天井も関係なくぶち抜きながら機関部を目指す。

10秒でたどりついた。

S―11を設置。

来た道を引き返し、爆破する。

 

爆炎が上がり――AFランドクラブは停止した。

 

残りはISだけ。

だが、やけに多い。

初めから数十機ほどの軍勢がいたが――あまり減っていないようにも思える。

 

最初のうちは一夏の道を開くための牽制だったろう。

だが、一度道を開いてしまえば話は別。

遠慮無く殺せるはずなのに。

 

「――おかしいぞ」

「セレンさん?」

 

焦りを含んだ声。

気付いた。

この状況に――

 

「たしかに奴らは敵を圧倒していた。しかし――1機も撃墜されていないのはどういうわけか……この状況が示すのは一つの事実」

「は?」

 

裏切りに。

 

 

 

「騙して悪いが、仕事なのでな。死んでもらう」

「……クリスカ?」

 

一夏は銃口を前に固まる。

突然の裏切り。

彼女たちとの間に信用などない――会ってから未だに1時間も経っていない。

だが、無辜の人々を守る同士だと思っていた。

思っていた――のに!

 

「ごめんね、一夏君。でも、命令なの。だから、せめて――逃げて?」

「イーニャ……これは一体どういうことなんだよ!?」

 

イーニャは泣きそうな目で見てくる。

本心からの訴え。

けれど、殺したくないと思っても――命令は命令。

 

「つまり、そういうわけだな……っ! この陰謀家の犬どもが」

 

セレンが吐き捨てる。

状況を理解していないのは一夏だけ。

 

「だから――どういうわけなんだよ」

「我々はナチスに付くというわけだ」

 

クリスカが答える。

人類社会への裏切りを。

ロシアがミレニアムについた。

それが何を意味するか。

虐殺者VS人類という構図が崩れる。

かくしてナチスは絶対悪の座から降りる。

 

「何だって……どうして――? 奴らは世界を破壊しようとしているんだぞ!」

「そんなのは知らないよ。私達はそうしろって言われただけだから――何か言われても困るよ」

 

「イーニャ。人々を傷つけても平気なのか?」

「そういうのは上官に聞けと言ったはず。おしゃべりは終わりだ――そして、お前も」

 

クリスカが横槍を入れた。

ぐうの音も出ない正論。

 

「なん……だと」

 

そして、一夏は恐怖する。

 

「一夏、周りをよく見てみろ。囲まれている――最初からこれが狙いだったか」

「そのとおりだ。AFを囮にISを展開し、正義きどりのお坊ちゃんを袋のねずみにすることが今回の作戦だ」

 

周りには数えるのも嫌になるほどの黒椿。

性能は上回っていても、この数を相手にしては――っ!

さらなる絶望。

二人の戦姫もまた相手にしなくてはならないのだ。

 

「そんな……」

 

そんなこと、人間には不可能だ。

 

「だが――我々としてはロシアとことを構えることができん……っ!」

 

絶望は終わらない。

企業として国家とことを構えるというのはありえない。

希テクノロジーが通常の企業を超えるとはいえ――そうするためには最高責任者の言でなければならないだろう。

ロシアと戦うための協力はオペレーターでしかない彼女の権限を超えるのだ。

 

「どういうことだ!? 奈落はなんて言っている……っ!」

「その奈落が行方知れずなのだ。通信もつながらん。まったくどこをほっつき歩いているんだ、あの男は……っ!」

 

そう、奈落は全ての連絡手段を絶っている。

顔なじみと合うために。

そして、敵を殺すために。

だから奈落には頼れない。

彼は何も知らない。

奈落は今この場においては蚊帳の外でしかないのだ。

いくら能力があろうと、知らないことにはどうしようもない。

 

「じゃあ――」

「ああ、これ以上の支援はできない」

 

断言する。

足は与えた。武器も与えた。

しかし――これ以上はない、と。

後は自分だけで戦え、と。

 

「……っ!?」

「我々は指揮権を預かっているだけの傭兵だ。雇い主の号令があれば国家ともことを構えるが――連絡がつかない状況ではな」

 

「なら――どうしたらいいんだよ!?」

「……逃げるか?」

 

「それは――」

「喧嘩を売っているわけではないから、いくらでも言い訳はつく。それに――」

 

なにやら言い淀む。

 

「まだ何か?」

 

「いや、とにかく逃亡の手助けくらいならできる」

「でも、囲まれている状況でどうやって逃げるんだよ? 奈落じゃあるまいし」

 

一夏は悪態をつく。

まあ、奈落ならばこんな状況は得意だろう。

なんせ、彼は魔法の種を無数に持っている。

だが、一夏には刀一本。

 

「いや、奈落も敵に囲まれている状況からいきなりワープなどという真似はできないだろう。おそらくは大型ミサイルでもぶちかまして逃げるのだろうが――」

「白式には遠距離攻撃手段そのものがないぞ」

 

「ならば、私の方で用意する――(デコイ)だがな。煙幕と熱源を大量に投下、その隙にVOBを突撃させる。装着はしなくてもいい――とにかくつかまれ。後はロシア領内から出ればなんとでもなる」

「了解」

 

「では、カウントダウンだ……もっとも、すでに13まで来ているがな。しかし、1分も中々に長いものだ。あれだけ話していてまだ足りん。おっと、くれぐれも動くなよ――VOBは発射したら最後、こっちでは微調整くらいしかできん」

「ああ、俺も随分と時間が長く感じるよ――」

 

刀を正眼に構える。

前を向いて笑ってみせる。

はったりだ。

それにしても清々しいほどの笑み。

 

「なにを話している!?」

 

クリスカが叫ぶ。

これ見よがしに銃を振って見せる。

一夏は何かをするつもりだと警戒する。

 

「準備はいいな? 5、4、3、2、1――投下!」

 

セレンのカウントダウンが終わる。

上空……一夏たちがいるよりも更に上。

一機の飛行機がかっ飛んで行った。

とてつもなく速い。

そして、大量の煙が充満する。

何十発もの煙幕の投下――そしてデコイの乱射。

サーモセンサで確認しようにも、すごい勢いで飛ぶ熱源は10や20ではきかない。

 

「――いける!」

 

一夏は精神を集中。

エンジンのわずかな音を捉えた。

その音は一瞬すら待たずに爆音へと進化する。

 

人間の目では影すら捉える事の出来ない速度。

その音速を突破した鋼鉄の塊をつかむ。

 

敵を一気に引き離す。

今のロシアは第3世代の開発を進めている状態。

VOBに追い付きたければ少なくとも第4世代くらいは用意しておかなくてはならない。

ミレニアムの主兵装は第4世代ISのコピーである黒椿だが、しょせんは|劣化複製≪デッドコピー≫。

性能はむしろ第3世代機にすら劣る。

というわけで――手遅れだ。

VOBにつかまった一夏をどうにかする手段はない。

 

そのままIS学園へと帰還する。




クリスカとイーニャはロシアつながりのゲスト出演です。
決してBETAが攻めてきたりすることはありませんので悪しからず。
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