IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第55話 追撃

「――待て、止まれ」

「は?」

 

一夏はVOBから手を離す。

VOBは瞬く間に彼方へ。

すでに引き離したとはいえ――敵から逃げているのにずいぶんな余裕がある。

 

「聞こえるな? 敵の増援だ。高速型のAF――スティグロが二機にイクリプスが三機、そちらにつくのはスティグロが先だ。気張れよ」

「ISは? クリスカとイーニャは――」

 

そう、ロシアの虎の子である戦姫たちはどうしたのか。

彼女たち二人を敵に回しては反撃すらおぼつかない。

 

「ロシアの方は追ってきていない。だから相手するのはミレニアムだけだ――よかったな。とはいえ、総数39機はきついか」

「ええっと――そんなに多くの敵をどうすれば……」

 

ざっと今までの三倍近いか。

ISの競技ルールでは2対1はかなり圧倒的な数字だ。

実戦とはいえ、39対1は悪夢的な数字となる。

 

「撃破しろ」

「いや、そんなには……エネルギーも足りないし」

 

そう、相手のテクニックが低くても、ISの総攻撃力が相手のシールドエネルギーを下回っている。

ひっくり返ろうが物理的に全滅させるのは無理だ。

 

「ならば補充しよう」

「――は? そんな時間なんて」

 

「エネルギーラインを開け。半永久的に活動し続ける究極的な防衛型ISには、要塞からのエネルギー補給は欠かせない。実弾兵器ではどうしても弾数という限界がある。だから開発したのさ――電磁波を介したエネルギー供給システムを。そして、そこはエネルギー供給ラインのど真ん中さ」

「わかった。エネルギーについてはそれでもいいけど、どうやってAFを壊したらいいんだ?」

 

「そちらに関しても問題ない。雑魚さえかたずけてくれれば大気圏外から狙撃できる。幸い、そこは日本の領海に程近いEEZだ。兵器をぶち込んだところで本来なら問題ないし――抗議すべき政府が腰抜けだ。奴らは隣の家で銃撃戦をやらかされようが、奥ゆかしさは失わないだろうさ。アメリカなら大問題だが、日本なら問題なんていくらでもなかったことにできるんだよ」

「大した舐められようだな――日本も。とりあえず俺はISを片付ければいいんだな?」

 

「――ああ。全て片付けろ」

「気をつけることは?」

 

「とりあえずはスティグロだ。こいつは速い、それに放たれる多数のミサイルに気をつけろ。余談だが一体につきISの護衛が8機だ。イクリプスの方が6」

「了解」

 

 

 

「接敵まで後5秒。エネルギー供給は10秒ほど静止していなければ行うことができないことに留意せよ」

 

「――おお!」

 

見えるのは赤いアメンボ。

ただしビルよりも大きい。

その上には豆粒のようなISが乗っている。

セレンからの情報によれば数は8。

……それが2セット。

 

一夏がアメンボを視界に収めた瞬間にAFは人間よりも大きいミサイルをばらまき、ISは角を進行方向に向けた正方形の陣形を組む。

方陣と呼ばれる防御力に特化した軍隊式の並び方。

しかし、この場合は防御力とは攻撃力と同義。

どの方向にでも対応でき、そして射線を遮られることが少ない。

まあ――空を飛べるISにはあまり関係がないかもしれないが。

 

瞬時加速で一息に駆け抜ける。

相手に攻撃を許す一瞬の邂逅を突き破る。

 

元々はISによる戦闘に関しての錬度が高くない。

高速で動く物体を視認するやり方が分かっていない。

目で追えないものに当てられるわけがないのだ。

偶然に頼ろうにも一夏はすでにそのことを見抜いている。

フェイントすらかけずに直線軌道をしたのはそのためだ。

ただ、ひたすらに時間を詰めるために。

 

「らあ!」

 

AFスティグロが放ったミサイルすら後方に置き去りにしてスティグロに降り立つ。

方陣の中心――完全な死角。

ただの鉄なら踏み抜くほどの勢いで――実際に強化処理されていなければ突き破っていた。

着地のインパクトはシールドエネルギーにより相殺する。

ほんの一瞬、剣を振り切る前に零落白夜を発動。

振り切った後には消してしまっている。

斜めの一閃。

方陣の一角を削り取った。

――これで一人目。

 

そして、その横にいる敵の腹に雪平弐型を押し付ける。

零落白夜を発動。

エネルギーの剣はシールドを消し飛ばし、腹をごっそりと喰らう。

――二人目

 

「――斬!」

 

そのまま更にもう一体。

首を狩った。

――三人目

 

「――この!」

 

ようやく残った5人の敵も銃口を向ける。

だが、遅い。

そして愚かだ。

気付いてもいない。

 

口の端に笑みを浮かべた一夏は瞬時加速で敵から離れる。

一夏の攻撃手段は近接のみ。

それがなぜ離れていくのか疑問に思い――

――それが彼らの最後の思考となった。

 

ミサイル。

もちろん一夏のではない。

そんな装備は持っていない。

最初にスティグロが放ったミサイル――それが戻ってきた。

180度ターンする異常と言えるほどの性能の追尾ミサイルが仇となった。

 

爆炎が敵を吹き飛ばす。

20発以上ものミサイルをその身に受けて生き残れるはずがない。

鉄屑と――黒焦げになった血と肉とが飛び散る。

……IS部隊の掃討を完了。

AFイクリプス部隊は未だに、一夏をその射程範囲に捉えてはいない。

 

合流する前に始末する必要がある。

空と海からの天地攻撃など冗談ではない。

だが、もう1機のスティグロはすでにそこにいる。

2機が並行して進んでいたのだから当然。

 

一夏が一方の部隊を始末していた間にミサイルの準備は完了している。

当然、発射する。

海上――そこには隠れるところなど……

ミサイルが一夏に迫る。

さすがに喰らったら、肉の一片くらいは残るかもしれないが――遠慮したいことには変わらない。

 

「けど――そのくらいで俺を倒せるとでも? これでも、ブリュンヒルデの弟なんでね……っ!」

 

雪平弐型を真正面に構える。

鋭い眼光でにらんで――

 

「――斬!」

 

海を斬った。

大瀑布がミサイルを飲み込む。

水中の爆炎が海を揺らす。

 

瞬時加速で一直線に轟音の中を突っ切っていく。

霧に紛れて一夏の姿は視認不可能。

だが、大きすぎるほどに馬鹿でかいAFを見間違えることはない。

 

機体を反転、壁に――スティグロの装甲に着地する。

駆け上がる。

こちらの敵も方陣を組んでいる。

8体の火力が火を噴く。

 

「――っふ」

 

瞬時加速――敵の姿が見えた瞬間に真横に飛ぶ。

銃弾が一夏の横を駆けていく。

 

加速――二段。

銃口の向きを変える暇もない。

一閃で二つの首を飛ばす。

そして突き。

三人目。

 

「うわあああ!」

 

悲鳴のような声とともに銃口を中心へ。

混乱している。

このような高速戦闘など夢に見たことすらないのだから当然と言ってもいいが。

あまりにお粗末な敵だった。

上へ飛んでやると、同士討ちの形となる。

 

哀れな敵は慌ててトリガーから指を離す。

ISなのだからちょっとやそっとの銃撃では怪我すらしないのに。

だが、一夏はこの絶好の機会を逃すほど甘くはない。

 

唐竹割り。

横薙ぎ。

突き。

 

流れるよな三連撃――残りは2機。

 

「この……化け物が!」

「助けて、母ちゃん!」

 

悲鳴とともにトリガーを引き絞る。

無駄。

無駄無駄無駄。

機体を振って――

――まるで無限の文字を描くように近づいて行く。

 

慈悲もなく――容赦もなく――叩き斬った。

 

「セレンさん」

「確認した。この状況ならAFイクリプスの邪魔も入らん。まあ、あの錬度の低さならISにミサイルを撃墜されることもなかったかもしれないがな」

 

「後は」

「AFイクリプスか。こちらはスティグロ以上に簡単だ。上をとれ――それだけで楽に落とせる」

 

「了解」

「よし、ミサイル到達まで3秒。海にでも隠れていろ」

 

爆炎があがる。

ISでは出せない――超弩級の武装は例外として――本物の対都市用の爆撃手段。

攻撃力より何よりも破壊範囲が大きすぎる。

見上げるしかないほど大きなAFの内部構造を蹂躙し焼き尽くす。

 

「撃破完了」

「なら、次は上か」

 

「ああ、やっつけてしまえ」

「了解!」

 

「――いや、試してみるか」

「何を?」

 

「ミサイルを一番前にいる奴に3発ほど射出する。本来なら全て撃墜されて終わりだろうが――」

「あいつらは弱い。かき回してやれば当たる可能性があるってことか」

 

「その通りだ。まあ――スペック以上の戦果が出せることだろうさ」

「なら、俺は下から攻めたほうがいいか」

 

「お前がそれでいいのならな」

「なら、それで行く」

 

「そちらにイクリプスが到着するまで30秒。お前の方も向かうのなら10秒だな。で、ミサイルの到着は12秒後になる」

「――ちょうどいいな」

 

一夏は微塵も躊躇せずに向かっていく。

たとえ一直線であっても、三次元空間たる空中では以外に当てづらい。

全速力で――敵の真下を突っ切っていった。

 

「――は?」

 

ポカン、とする。

そして――上からミサイルが降ってくる。

3発命中……ISごと消し飛んだ。

 

「予想以上だな、ある意味」

「次の攻撃は?」

 

「5秒後だ」

「よし」

 

とまどう敵。

動揺しながらも宇宙からの攻撃に備える陣形を展開する。

だが、忘れていることがある。

先ほど自分たちの意識をかき乱したのが誰だったのか。

 

瞬く間に二人を始末する。

そしてミサイル。

3発のうち1発は撃ち落とされたが……一撃で十分。

全ての敵が撃破された。

 

「――終わったな」

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