IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第56話 鈴音の葛藤

「鳳どの、君が神亡どのと親しいという話はどうなったのですかな?」

「それは……あいつが開いた会議に参加したじゃない。アメリカみたいにハブられてもよかったっての? 中華人民共和国はただの一国だけでなにかできるほどISを持ってはいないでしょ」

 

防諜設備が整った専用機持ちのために用意された個室の中で鈴音は妙にゴツイ据え置きの電話で話している。

一般には流通していない盗聴されない電話だ。

そして、声が外に漏れることもありえない。

一般生徒とは部屋のセキュリティのレベルが違うのだ。

 

「それは他の専用機持ちも同様と聞きましたが。あなたが特別というわけではない――ええ、あなたに任せていても他国に先んじられるというわけではない」

「ぐっ……でも、それがあるだけ優位に立てるでしょ。まだまだチャンスは有るわ。学園は今や世界の状況を反映する鏡とすら言えるわ」

 

話しているのは自分の国の高官が相手。

なまじ権力を持っているだけに下手なことを言えない。

呼び戻されるかもしれないのだ。

奈落のそばにいることが重大な意味を持つこの現状では日本を離れる訳にはいかない。

――個人的な想いからも。

 

「優位――ドイツやフランスよりもですかな?」

「それは――」

 

言葉に詰まった。

そんなわけはない。

あの、誰よりも奈落に近しい二人を出し抜けるわけがない。

シャルに至ってはもはや家内と言ってもいいほどに仲がいい。

付け入る隙なんてないし――そのつもりもない。

現状で可能性があるのは本音くらいか。

あたしは……友人の立場から奈落にどうにか協力してもらうしか。

 

「我らは慈善事業であなたにISを貸しているのではないのですぞ。しっかりと勤めを果たしていただかなければ」

 

務めって何よ!

文句を吐くのは胸の中で。

そんなものは外交官の仕事だと吐き捨てたくても――できるのは自分しかいないのだ。

たとえISが国防の要だとしても……なんで自分から他の人間がするべき国防の要の役割を果たさなくてはならないのか。

そして、こいつらは絶対余計なことを企んでいる。

直感でしかないが、おそらくはあたっているだろう。

嫌な予感こそよく当たるものだ。

 

「重要なのはこれからでしょ。奈落は更に動くわ。それを探ることができれば有利に立ちまわれる――違うかしら」

「本当にできれば、の話ですがな」

 

――ち。

声に出したりはしない。

釘を刺せた気がしないわね。

本当にやめて欲しい。

変に目立てば、それこそ国が潰れる。

世界に覇を唱えるなんて考えそうな馬鹿どもだ。

現実を見れば、高官どもも愚かな夢を見るのを卒業しそうなものを。

 

「やるわよ。そのためにここにいるんだから」

「生き別れた幼馴染のためではなく?」

 

「……っ! 関係ないわよ」

「だとよいのですがな」

 

痛いところを突かれた。

そんなふうに認識されてしまえば、今後の発言が全て言い訳に聞こえてしまう。

一夏に恋をしているのを違うとは言わない。

だけど、自分は祖国を想ってここにいる。

今自分が軽視されれば、それこそ国が吹っ飛ぶ。

奈落が作る反撃の渦からはじき出されて、バラバラになってしまう。

 

「私は中国人よ。祖国のために戦い、祖国のために死ぬわ」

「さて、それが本心であればよいのですが」

 

しかし、相手はネチネチとからむような言い方をしてくる。

これ以上この俗物と話すのが嫌になってきた。

俗物なら俗物らしく金だけ見てればいいのに――変に自分に都合のいい妄想を見るからこれだ。

 

「話は終わりかしら? それなら情報収集に戻るわよ」

「いいえ、まだ一番大事な話が残っています。実を言えば、そのためにあなたに電話を差し上げたのですよ」

 

「――何よ?」

「あなたは貴重な専用機持ちですよ。中国に帰ってきなさい」

 

恐れていたことを言われた。

 

「っな!? それは――それよりこっちで奈落のことを嗅ぎまわっていた方がいいって話だったじゃない」

「状況が変わったのですよ。それに、あの織斑千冬の弟が戦場に現れるのを知ることができなかったでしょう」

 

前に説得したはずなのに。

一夏のことを嗅ぎつけたらこれか!?

嫌がらせのために国を犠牲にするっての?

 

「それはそうね。でも、奈落がなにか大がかりなことをするとき、私がいなかったら困るんじゃないかしら。他ならぬ私の祖国が」

「それはどうですかな」

 

「は? それは、どういうことよ」

「あなたには関係のない話です。貴重なISをいつまでも遊ばせていくわけにはいきません。即刻荷物をまとめて帰ってきなさい」

 

相手に説得できそうな様子はない。

嫌な予感が当たった――こんなにも早く。

 

「それじゃ奈落のことはどうするのよ!」

「そちらの方はかまいません。戦力の増強が先決です」

 

電話を切られた。

 

「……っち! 何を考えているのよ、大宦官の奴らは」

 

悪態をつけども、どうしようもない。

 

 

 

「本音、あなた分かってる?」

「うん、らっくーは重要人物だから注意しておかないとね~」

 

生徒会室。

そこには主従の姿があった。

楯無と本音――雰囲気こそあっけらかんとしたもの。

だが、話されているのは日本の運命。

和やかな空気に反してとてつもなく重い話題。

 

「やっぱりわかってないわね」

「え~?」

 

楯無はふるふると首をふる。

本音はちょこんと首をかしげる。

 

「日本は他の国とは違うのよ。こっちで何とかしないと、本当に国が潰れるような事態になりかねない」

「でも、盾無様なら大丈夫なんじゃ~」

 

――楯無様。

不断なら絶対に使わない様な言葉だ。

しかし、その言葉には絶対的な畏敬と信頼が込められている。

 

「そうね、私も政界に少なからぬ影響力を持っている。けれど、国の舵取りをするのは別の人間よ。あまり大きな声では言えないけれど、EUやらアメリカやら――それはそれでいいのだけど、市民団体や環境団体に所属している者までいる始末。上はもはや日本なんて放って、勢力争いの様相まで呈し始めている」

「――それは……」

 

「ごめんなさい、あなたに言うことじゃないわね。まったく愚痴なんて私らしくもない。やだやだ――こんなこと言ってたら、眉間にしわが寄っちゃうわね。美少女にしわなんてふさわしくないわ」

「謝るのはこっちだよ。私がバカだから何にもわからなくて~。ごめんなさい、楯無様にばかり背負わせてしまって……」

 

「あなたはわからなくていいの。あんな魑魅魍魎どものことなんて、知る必要なんてない――あなたが汚れてしまう」

 

込められたのは憧憬?

自分が失ってしまった純粋さを本音の中に見ているのか。

それとも――妹を愛するかのように慈しんでいるのか。

 

「……盾無様」

 

視線に現れるのは罪悪感。

尊敬してやまない姉のために、できることをしたい。

でも――彼女にできることはとても少なくて。

 

「だからどんなことでもいい。神亡奈落から言葉を引き出してもらいたいの。そう――あの腰抜けどもを動かせるような……そんな言葉を。後は私の役目。泥の中を這いずってでも日本を守ってみせる」

「うん。わかったよ、やってみせる」

 

「ありがとう、本音」

「ううん、あなたのためなら――盾無様。私はこのとおりどんくさくて、それでいつも蔑まれていた。けれどそんな私をあなたは取り立ててくれた。そのご恩は忘れません」

 

「大したことじゃないわ。それに、使える手駒を増やしたかっただけよ」

「それが嬉しかったんです。私は自分が役立たずだと思っていたから」

 

「そんなことはないわよ。それに――もし神亡が私の考えている通りの存在だったなら、むしろ私なんかよりもあなたが世界の鍵になる可能性は高い」

「……ほえ?」

 

「いいのよ、あなたは何も考えず奈落の傍に居て。そうすれば――きっと世界が動く。そして、日本が生き残る道も見えてくるはず」

「――うん、そうだね。私には盾無様の考えていることなんてわからないけど、頭がいいあなたなら良いやり方を思いつけるだろうから」

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