IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第5話 ブルー・ティアーズ

「さて、箒。何か俺に言うことがあるんじゃないのか?」

「一夏。私に伝えられることは全て伝えた。勝ってこい!」

 

堂々とした顔を作ってはいる。

だが、そこに流れる汗までは隠しきれていない。

 

「勝ってこい、じゃねぇよ! 剣道の試合ばっかりやって、何も教えてくれなかっただろうが」

「……うぐ。そ、それは――」

 

珍しく一夏が顔を真っ赤にして怒っている。

 

「それは、何だよ?」

「お、お前が悪い!」

 

「はぁ?」

「大体お前は弱くなりすぎていたのだ。仕方あるまい!?」

 

「弱くなるって……。そりゃ、バイトばっかしてたんだから、弱くなってるだろうけどさぁ」

「そうだ。あんなに夢中になっていたのに、それを簡単に捨てるなど――」

 

箒の逆ギレに一夏はたじろぐ。

 

「でも、さぁ。今日の問題が、なぁ」

「知らん。管轄外だ」

 

怒りが収まり、今度は頭を抱える。

 

「心配くらいしろよ! ってか、この期に及んでISが来てないとかマジかよ。こうなりゃ、奈落が言ったように生身で闘うしかないのか?」

「待て! 神亡がそんなことを言ったのか?」

 

「ああ。その後に、それが出来れば本気の千冬姉といい勝負が出来るとか言ってたけど」

「何だ、冗談か。奴もそこまで滅茶苦茶なわけではなかったか」

 

 

 

「織斑くーん」

 

「山田先生? 来たんですか!?」

「はい。来ました! すぐにアリーナに行ってください」

 

「はい!」

 

一夏は走りだした。

 

 

 

「千冬姉!」

「織斑先生と呼べと何度行ったら分かるんだ、この馬鹿者め」

 

ありがたい言葉と一緒に出席簿の振り下ろしもいただく。

 

「これが――」

「そう、これがお前のIS、白式だ」

 

そこにあったのは灰色のIS。

どこか無骨で、冷たいイメージ。

一夏はそれに拒絶されるような感触を覚えて戸惑う。

 

「俺の専用機――白式」

「よし。では、さっそく始めるぞ。第一次移行(ファースト・シフト)のやり方は聞いているか?」

 

「いえ」

「なら実戦の中で覚えろ。まずはそこに座れ。それから――」

 

 

 

「よし、ちゃんと動く」

「なら、さっさと行って来い。無様な闘いだけはするなよ」

 

「白式、織斑一夏出る!」

 

 

 

「あらあら。少し遅れていたようなので、逃げてしまったのかと心配していたところですわ」

「そうかよ。安心できてよかったな」

 

蒼いISに乗るオルコット。

その蒼は雫を想起させ、金の髪と蒼い機体が美しいコントラストを描いている。

 

「とはいえ、恥をかくのには変わりませんわ。それでも、堂々と観衆の前で恥を晒す勇気には感心いたしますわ」

「そりゃ、どーも」

 

「あなたの勇気に免じて、最後のチャンスを差し上げますわ。ひざまずいて謝れば、少しは手加減してあげなくもありませんわ」

「そういうのはチャンスって言わねぇ。――いいから、来いよ。千冬姉の弟が弱いってのも、もう終わりにしてやる」

 

剣を出現させ、構える。

白式にはその剣以外に装備はない。

 

「その言葉、後悔なさらないようにしてくださいましね――。お行きなさい【ブルー・ティアーズ】」

 

「っ!? こいつがビット攻撃ってやつか」

 

オルコットの専用機のことは奈落から少し聞いていた。

弱点まで知ることは一夏自身が拒否したが、特性くらいは聞かされた。

 

「へぇ。よく知っておいでですわね。この四基のビットこそが私のISの真骨頂。上下左右――そして、私のライフルから逃げ切れて?」

「――は。やってみせればいいんだろ?」

 

「よく言いました。お行きなさい!」

 

オルコットの号令。

それとともにビットは散開し、多角的に襲いかかる。

 

「――っぐ」

 

肩のパーツに喰らう。

前方のオルコットと動きまわるビットに気を取られて、背後にまで注意を向けられない。

 

「……っち。――っく。攻撃に転じるチャンスが……!」

「ふふ。逃げてばかりですのね。それも、かわしきれずに何発も被弾して――、そこですわ!」

 

逃げ回りながらもどうにか攻撃する隙を探していた一夏にライフルが直撃する。

良い攻撃をもらった一夏は逆に冷静になってくる。

 

「くぅ……。こういう時はどうすればいいんだっけ? いや、奈落が教えてくれたことがあったな――」

「何を独り言をおっしゃっていますの!? それとも、諦めましたか?」

 

「違うね。思い出したんだよ」

「何が――。っく。いきなり動きが変わった?」

 

今まで面白いように当っていた攻撃が、当たらなくなった。

その事実にオルコットは動揺する。

 

「なぜ? なぜ当たりませんの――」

 

必死に狙いを定めて、撃って撃って撃つ。

それでも当たらない。

 

「奈落が教えてくれたんだよ。人間、そう簡単に防御にも攻撃にも意識を割くことは出来ないってな。だから、初心者のうちは攻撃を受けるか、攻撃をするかに集中するんだよ」

 

先ほどまで強く握りしめられていた剣は、今や片手でぶら下げられている。

 

「け、けれど――。そんなことをしてもジリ貧ですわ。攻撃しないでは――勝てませんもの」

「いや、違うさ。段々分かってきた」

 

「――え?」

「……ここだ!」

 

ビットの一つを剣で叩き落とした。

まるで鈍器のような使い方。

だが、足の踏ん張るところのない空中では思いっきりぶっ叩くほうが威力は出る。

 

「――っな!? 私のブルー・ティアーズが」

「あんたも同じだよ。攻撃だけに集中している。そして、射撃は背後からしかしない。なら、動きを読むことは容易だ。…….しっくりと観察させてもらったからな」

 

状況は逆転した。

ニヤリと笑う一夏に、屈辱に顔を赤くするオルコット。

 

「そんな。この私が男なんかに負けるとでも……?」

「四機目。俺の勝ちだ、オルコット」

 

全てのビットを撃墜した一夏は、一直線に敵を目指す。

その剣を叩き込むために。

 

「――っふ。甘いですわね。ブルー・ティアーズは四機だけじゃありませんことよ!」

「何!?」

 

剣を振りかぶって無防備になった一夏。

彼に少女の隠された牙が襲い掛かる。

 

「ミサイルですわ。終わりです」

「――っ!?」

 

発射されたミサイルは一夏に撃ち込まれる。

不意を疲れた一夏にこれをかわす手段はない。

 

爆炎。

衝撃。

沈黙。

黒煙。

 

至近での爆発にオルコットは腕を上げて爆炎を遮る。

その顔には勝利を確信した笑みが貼り付けられている。

 

黒煙が晴れていく。

そこには――

 

「……第一次移行(ファースト・シフト)? そんな――、貴方今まで初期設定の機体で戦っていましたの……」

 

真白い機体。

以前よりも随分とスリムになった機体は、違和感なく一夏の体を覆う。

 

愕然とするオルコット。

だが、一夏はそんな彼女を見ようともしない。

 

「――凄い。まるで、自分がISになったみたいだ。これなら、どんな奴とだって戦える。これが、俺の――白式の力」

 

手を握ったり閉じたりしながら新しいISにひたる。

完全に調子に乗っていた。

 

「――くぅ。……けど、それがどうしたんですの? 条件が五分になっただけですわ。例え、四基のビットがすでに落とされていようとも、私は負けませんわ」

 

「そうか。なら、遠慮はいらないな?」

「どの口でそんなことをおっしゃいますの? 負けるのは貴方ですわ」

 

蒼は銃を構え――

  ――白は剣を構える。

 

「あなたのシールドエネルギーは残り少ない。削り切りますわ」

「――なら、削り切られる前に倒す!」

 

白の持つ剣が蒼いエネルギーを展開している。

剣はその大きさを二回りも三回りも増し、光が刀身を形作る。

 

【零落白夜】

 

それが、彼の持つISの能力。

 

「はぁぁぁ!」

「おおおおおお!」

 

至近からの抜き打ち。

蒼の銃弾が相手を撃ち抜くのが先か。

それとも、白の剣が相手を切り裂くのが先か。

 

三歩で詰められる距離の中、二人の視線は交錯する。

 

そして――、二人の攻撃はどちらも相手に届くことはなかった。

 

《Winner セシリア・オルコット》

 

「「は?」」

 

 

 

「あの馬鹿者が……」

 

頭を抱える教師が一名。

 

「え、ええっと――」

 

この場にいる大半の人間と同じような疑問を浮かべる教師が隣に。

 

「で、どう考えます? 織斑先生」

 

ニヤニヤと笑みを貼り付けてからかうように質問を投げかける生徒も一人。

 

「神亡、お前は分かっているんじゃないのか。それならわざわざ私に解説させる必要はないだろう」

「へ? 神亡君、わかったんですか」

 

「一夏のアレは自信のシールドエネルギーを武器に転用して一撃必殺を狙ったものだ。しかし、エネルギー残量が使用エネルギーを下回ったため使おうとした瞬間に0になった。その程度のことがわからないはずがないでしょう。私が聞きたいのは、コレを作った人間が何を考えてあんな機能を持たせたか、ですよ」

 

「へー。凄い能力ですね。あれ? でも、それって織斑先生の単一機能(ワン・オフ・アビリティ)じゃ……」

 

つぶやく声は無視される。

 

「知らんな。聞きたければ倉持技研に行けばいいだろう。お前ならばそのくらいのコネは持っているのではないのか?」

「へぇ。貴方は白式が倉持技研で作られたと言うのですか?」

 

「何が言いたい?」

「いえ、別に。自分の知っている情報をみだりに口にしないのは長生きするコツですしね」

 

「ほう。なら、お前は長生きできそうにないな。お前は白式を作ったのが本当は誰だったのか知っているのだろう?」

「さて――、どうでしょうね」

 

「あうあうあうあうあう」

 

山田教諭は話に理解できずに険悪な雰囲気の中で震えていた。

 

「ふん。しかし、神亡。お前も物好きだな。普通はこのような出力装置ではなく己の目で直接見たいと思うものだ。――布仏たちと一緒に居なくて良かったのか?」

「別に四六時中一緒にいる必要はないだろう。別に付き合っているわけでもない。それと、ここに居るのはこちらの方が多く情報を取得できるからということにしておいてくれ」

 

「そうか。お前がそれで良ければ良い。だがな、教師として一つ忠告してやる。その殺気を今すぐ抑えろ」

「……ふ。これは済まないことをした。ガキの闘いを見せられて、少し興奮してしまったようだ。……一夏め。まさか、アレほどまでの適性を持ちながらもオルコットごときに負けるとは……!」

 

「――ふん。憤慨したいのは私も同じだ。あのような馬鹿げた負け方もない」

「……くは。意見が一致したか」

 

「だからどうしたという話ではあるがな。あの馬鹿者に灸を据えてやってくるとするか」

「なら私も行こう。少しばかり彼に物を教えてやった身として、評価くらいは下してやらんとな」

 

「あ、あのー」

 

山田教諭を無視して一夏のもとへ向かう二人。

そして、置いて行かれた山田教諭は子犬のように追いかける。

 

 

 

「さて、この馬鹿者。言い訳はあるか?」

「……千冬姉。何で俺の負けなんだ?」

 

出席簿で叩いて一言。

 

「お前が最期に使った技は自身のシールドエネルギーを用いて相手を攻撃する欠陥武器だ」

「ええ? そんな――。俺の専用機が欠陥持ちって」

 

にべもない織斑教諭。

あほな負け方を彼女なりに怒っているらしい。

 

「いや、言い方が悪かったな。そもそもISは完成など程遠く、どれも試作機のような有様なのだから一概に欠陥とは言えん」

「それでも、シールドエネルギーを攻撃に使うシステムなら当然、元々の総エネルギー量は多く確保しておかなければならなかったがね。白式はどちらかと言うと少ない部類に入る。コンセプトと性能が矛盾している」

 

フォローしようとした織斑教諭に奈落が茶々を入れる。

言っていることはもっともだ。

ゲームであれば使うもののいない弱小機体となっていただろう。

 

「しかし、一夏、それはお前が負けた言い訳にはならん。IS乗りたるもの、自分の乗るISの特徴は完全に把握しておかなければならない。これは前提だ。できなければISに乗るな。わかったら、さっさと白式に慣れろ。――いいな?」

「はい。織斑先生」

 

そして、一夏は織斑教諭の見ている前でこっそりと奈落にささやく。

 

「後で俺のISの特徴を教えてくれよ。奈落と千冬姉なら大体把握してんだろ?」

「一夏。それは構わないが――、織斑教諭が睨んでいるぞ」

 

「っと、やべ」

 

織斑教諭は溜め息をついて一言。

 

「はぁ。もういい。今日のところはこれで解散だ! 散れ、ガキども」

 

ぞろぞろと集まった人間が解散していく。

ここに織斑教諭に逆らえるほどの猛者は居ない。

いや、こんなつまらないことで逆らうなという話だが。

 

そして、織斑教諭は一夏にささやく。

誰にも聞かれないように。

 

「一夏、よくやった。だが、これ以上妄想するな」

 

一夏が疑問を投げかける前に織斑教諭は去っていった。

 

 

 

そして、奈落もまた姿を消していた。

誰も見つからぬ場所――監視の甘いIS学園の中ならこういう場所がいくらでもある。

そして、携帯に偽装した――実態はまるで異なる連絡機器を耳に当てる。

 

「久しぶりだな、アーカード」

「ふん。お前から声をかけてくるとはな――。殺し合い(ダンスパーティ)へのお誘いかな?」

 

「いいや。君の獲物を譲ってもらいたくてね。**区のアレは君の獲物だろう? どうかな、君の手間を省かせてあげられると思うのだけど」

「……ふん。まあ、獲物の一匹くらいは構わんよ。淑女は意地汚くがっついたりはしない。――いいだろう。君に譲ろうとも」

 

「それはどうも。――で、一応聞いておくけれど新しい奈落は生まれたかな?」

「いいや。それについては全然だ。ま、当然だがな。お陰で私も大忙しだよ」

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