IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第58話 敗北

「まだ奈落は帰ってきてないのか?」

「まあね」

 

答えたのはシャル。

ここにいるのはいつものメンバーから奈落を引き、盾無を足したもの。

いや“いつもの”には本音は含めてもいいのか――なんにせよ彼女もいる。

 

「まあ、私らとしてはまだ1日目だし――あんたらが出て行ったときもこんな感じだったわね」

「いや、まあそれは――」

 

口ごもる一夏。

それにちらっと目をやった鈴音。

 

「気にしてないわよ。で、希テクノロジーはどうしてるの? 勝手なことをされて怒ってたりしない?」

「それについては問題ないよ。僕達奈落チームはどちらかと言うと独立して動いてるし。それに、やることはやってるよ――文句を言われる筋合いなんてない」

 

シャルが横から答えてしまう。

 

「でも、連絡が取れないって……」

「そうだよ。でも、究極的には支障はないしね。ミレニアムが本拠地に攻めてこない限り」

 

断言した。

本拠地とは、真の総裁がいる……そして、彼らの計画の要であるノアⅢの開発が進められている極秘の島。

 

「本拠地って――」

「隠してあるよ、そりゃ。さすがに奴らも見つけられてないし」

 

「それにしても噂すら聞いたことがないんだけど?」

「噂が出るほどに知られたら調べられちゃうでしょ。どこの国家だって何も知らないよ。ま、世間には都市伝説に紛れてそういう噂が出てるけどね」

 

「それはどこに――」

 

狼狽する。

希テクノロジーの総本山を見つけることは、どれだけの利益を生むか。

大手柄どころではない、だれでも黙らせることの出来るほどの功績。

 

「――ん?」

 

しかし、問われる方はふと視線を外す。

 

「どうしたんだ?」

 

不穏なものを感じた一夏が聞いた。

彼はもはや一流の戦士。

その感性に触れるものがあった。

 

「今、殺気を感じたような」

 

いつものにこにこ顔から一転、険しくなった。

――殺気。

そんなものを出すのは”敵”しかいない。

残念ながら、心当たりはいくらでも。

 

「これ、あいつらとは違うね。うん、本物が来ちゃったか」

「本物――って……」

 

あっさりと言い放つシャルに鈴音が疑問符を一つ。

そう、知っているものでなければわかるはずがない。

あの馬鹿げた大軍勢が、実は全く本気じゃなかったなんて。

これまで各国に出現したミレニアムが実は、適当に金で釣った職にあぶれた元軍人を教育すらせずに使っていただけだなんて。

 

「ミレニアム……劣化複製の大量生産した紛い物なんかじゃない――本物の第3世代機が来るよ」

「それは……」

 

本隊はこれまでの使い捨てとは違う。

ISを扱うための訓練を存分に受けた究極の兵隊たち。

真の殺戮部隊。

 

 

 

「行ってきなよ、一夏。彼らの狙いはきっと君だ」

「……っ!」

 

無慈悲な宣告に息を呑む一夏。

彼が立ち上がったのは世界のためでも――

――今現在危機にさらされているのは彼の学友なのだ。

 

「さあ――行ってきなよ」

「――ああ」

 

うなづく。

そんなことは全てわかっていた。

その上でミレニアムと戦うことを決めた。

迷いなどない。

 

「がんばってね。で、セシリアに鈴音は手伝ったりする? 私は手伝わないけど」

「――それは」

 

言いよどむ。

即答することはできない。

本心は決まっている。

だけど、立場というものが邪魔をする。

 

「手伝いますわ! まあ、一夏さんを倒してもそのまま帰ってくれるとも思いませんわ」

 

いや、邪魔されないものがいた。

わざわざ危機に突っ込んでいくことは代表選手として認められるはずがない。

だが、身にかかる火の粉を払うのは強者の義務。

 

「ふーん、セシリアは手伝うわけね。で、鈴音は」

「手伝うわよ、手伝ってあげるわよ!」

 

やけのように叫んだ。

ああ、これでまたグチグチ言われるんだろうなと思いながらも。

 

「お手並み拝見と行かせてもらう」

 

ラウラがふんぞりかえる。

ミレニアムと協力することを決めた祖国から亡命した彼女はあいも変わらずの様子である。

まあ、彼女の所属する部隊もまた亡命しているから人質云々の心配はいらないのだが。

 

「悪いけど、お願いできるかしら。私は学園の方に被害が及ばないようにフォローしておくわ」

 

楯無は動かない。

学園関係をどうにかするのは彼女の役目だ。

 

「えーと……えと…….皆私の分までがんばってね~」

 

本音は精一杯に手を振る。

 

 

 

「ほう……3人で来たのか」

「あんたこそ一人で来るなんて余裕だな。ミレニアムは数しか取り柄がないんじゃないのか?」

 

学園のはずれにある場所。

そこで3人と1人は対峙する。

4体のIS――感覚が麻痺しそうになるが、本来なら壮観なこの光景。

 

「奴らはただの餌にすぎん。私こそが正当なナチスの一員なのだ」

 

言葉通りに異彩を放つ。

操縦者である彼自身の首の横にあるのは犬の首が二つ。

ケルベロス。

それが彼の操るIS。

 

「――なるほどね、本気ってわけ」

「その通り。そして、このISケルベロスも黒椿などとは一緒にしないでもらおう」

 

そう言う彼のISは三つ首――文字通りの異形。

真ん中に彼の首があり、横には犬の意匠の首が二つ。

以前奈落が戦った機体。

だが、言葉を喋れている。

アレは操縦者を強化しすぎたせいで、副作用により話ができるほどの知能を失ってしまった。

だが、こいつは違う。

きっちりと理性を保つ完成形。

 

「なるほど。で――以前の敵とは違うお前は奈落の不意討ちに倒されるとは考えなかったのか?」

「は――いくら奴とは言え、このケルベロスを相手に……」

 

「――ふ!」

 

不意討ち。

会話を仕掛けて返されたところで、そこを狙う。

瞬時加速で近づいて袈裟切り。

 

「――くっくっく」

 

敵は笑っている。

まるで予想していましたよ、とでも言うように。

 

「――っ!?」

 

カウンター。

するりと動きを合わせ、剣をぎりぎりでかわす。

一夏の突進の勢いが失われないうちに腹にショットガンをぶち込む。

――吹っ飛んだ。

不用意な突撃には大きすぎる代償。

 

「「一夏!? この――っ!」」

 

スターライトmkⅢ、そして龍咆が火を噴く。

二機のISによる全力射撃。

敵がただの代表候補であるなら瞬きする間もなく終わらせられたろう。

しかし、敵は紛れも無いミレニアムなのだ。

 

「は――っ! そんな攻撃が当たるものか」

 

言葉通り全ての弾幕を回避する。

そしてライフルを丁寧に当てる。

全弾を命中させる。

 

「おお!」

 

一夏が雄たけびを上げる。

確かに以前までの敵とは違う。

そもそもISに慣れていなかった彼らは移動すらまともにはできなかった。

だが、こいつは――!

 

「斬!」

 

袈裟切り。

当然のようにかわされる。

だが、それは予想していた。

そこから流れるように突きを繰り出す。

ひらりとかわされた。

 

「――まだよ!」

 

双天月牙――ブーメランの一撃。

一夏の二連攻撃に続いての鈴音の攻撃。

これもかわす。

 

「私を忘れないで頂けます!?」

 

体制が崩れたところを正確に狙う。

射撃。

息もつかせない四連攻撃。

 

「――ひひ」

 

顔を笑みの形に歪めた男は見もせずに体をひるがえしてかわす。

 

「なるほど。さすがにやりますわね――ですが! 私の攻撃はまだ終わっていませんわ」

 

ブルー・ティアーズ。

すでに配置しておいたビットによる攻撃。

これはかわせまい。

――と思いきや、これすらかわす。

 

「――化け物め」

「まさか、ね。これでもダメなんて」

「あの方は未来が見えているとでも言うんですの……っ!」

 

口々に絶望がただよう。

――強すぎる。

こんなことは、奈落ですら無理だ。

 

「よくわかったな。そう、このケルベロスは未来を見せる」

 

「嘘でしょ。それ、単一機能じゃない――まさか、ミレニアムは全員進化しているとでも言うの?」

「ふん、それこそが第3世代の特徴だろう。そこの織斑一夏にも使えるはずだ――単一機能がな」

 

「確かに、だがこいつは特別だからって……」

「いつまでも自分が特別でいられるとは思わないことだ。そして、同じ第3世代でも操縦者が違う」

 

「へえ――随分と自信家ね」

「ふ、客観的に見た結果だよ。私は君たちのような人間とは違う――人工的に能力を高めた超兵なのだ」

 

「――超兵?」

「薬物により反射を、そしてナノマシンによる身体を強化し、ISとの融和性を高めた改造人間のことだ。そう、我々は人類の英知の結晶により作り上げられた超人なのだよ」

 

「御大層なことね――セシリア」

「ええ!」

 

ビットが四方を取り囲む。

そして、3人の突撃。

 

「貴様らただの人間が何をやろうとも無駄――」

 

ビットを完全に見切り、セシリアに肉薄する。

牽制にすらなりゃしない。

 

「無駄!」

 

爪による一撃。

――殴り飛ばされた。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄――」

 

次は鈴音。

ラッシュをかける。

防御も、かろうじての反撃も意味なんてない。

全て完全に読まれている。

 

「無駄ぁ!!」

 

至る所全てをずたぼろにした鈴音を蹴り飛ばす。

すぐに一夏も殴り飛ばす。

折り重なるように倒れ伏せる。

――動けない。

絶対防御が発動した。

つまりは敗北。

けちのつけようもない敗北。

 

「うぐぐ……どうなってんのよ、これ」

「まるで歯が立ちませんわ」

「ちくしょう……っ! 動け、動け――白式!」

 

嘆けども、抵抗しようとしても無駄。

これが現実。

無慈悲で圧倒的な――っ!

 

「ふふん、しょせん代表選手といえど――我らミレニアムの敵ではないな」

 

勝ち誇る。

それは勝者の権利だ。

 

「さて、殺すか。しかし、絶対防御とやらも不便なものだな。命を守るのもいいが――そのために動けなくなっては本末転倒。逃げることすらできんのだからな――っ!」

 

「いや、待てよ。そうだ、一夏とやら――貴様を殺すのは一番最後にしてやろう。我々に逆らったことをお仲間の悲鳴を聞きながら後悔するのだな」

「テメエ……っ!」

 

「まずは小さいガキ。貴様からだ」

「うぐ……っ!」

 

「命乞いしてもいいんだぞ」

「どうせ助けちゃくれないんでしょ。それなら最後まであんたのことを睨みつけてやるわよ」

 

「気丈なガキだな。腕の一本でも切り落とせば心地よい悲鳴を聞かせてくれるかな」

「は……冗談じゃないわよ」

 

「鈴音!」

「そんな顔するんじゃないわよ。あたしの実力が不足していただけなんだから」

 

「ち。つまらん。そんな茶番を見せるな、悲鳴を聞かせろ」

「――は。ばぁか」

 

悪態をつく。

べえっと舌を突き出して小馬鹿にしたような。

 

「このガキ!」

 

鈍い音が響いた。

無抵抗な人間が蹴られる音……ではない。

一夏がケルベロスの蹴りを受け止めた。

 

「お前なんかにやられはしない」

「限界を超えてなお、動くか――化け物!」

 

「これで終わりにしてやる【零落白夜】」

「――で、その程度の攻撃がなんだ?」

 

ケルベロスは一夏の全力の攻撃を受けとめもせず――そのまま返した。

腕をつかみ、刀身には触れもせず、くるりと返す。

刀は止まらない。

なまじ全力で攻撃したため、とっさに発動を無効にもできない。

 

「私には未来を予知する能力があるのだ。この私を貴様ごときが倒そうとは――片腹痛いわ!」

 

蹴った。

一夏の起死回生の一撃はあっさりと防がれた。

――無理だ。

実力が違いすぎる。

未来を読むこの敵を前に首を垂れることしかできない。

 

「我らが偉大なるミレニアムに逆らった罪、その身で――」

 

頭が消し飛んだ。

 

「やれやれ、未覚醒のギガロマニアックスではこんなものなのかな」

 

死体の上にシャルロットが降り立つ。

 

「未来予知、ね――馬鹿馬鹿しい。こんなものはしょせん機械による予測なんだ。反応速度を超えて銃を抜き、さらには認識不可能な弾速で撃てばこのとおり。反応すら出来やしない」

 

滅茶苦茶なことを言う。

それは――相手が強すぎてはどんな能力を持っていようがどうしようもないという、そんな無慈悲。

圧倒的な現実(リアル)

 

「それで勝ったつもりか?」

 

突然かけられる声。

タイプの違うISが9体。

1体、また1体と音もなく表れる。

 

「奴は我々の中でも一番の小物。未来を予知できたとて、それをどうにかする力がなければしょうがない」

「そう、奴などしょせん逃げることしかできないクズよ」

「我々の機体と一緒にしてもらっては困る」

「最凶のISの前に絶望しろ」

「貴様に逃げ場はない」

「貴様に勝ち目はない」

「まずは仲間を殺してやろう」

「次はお前だ」

「八つ裂きにして、それからまた八つ裂きにしてやろう」

 

この機体、おそらくは全てが黒椿とは一線を画すミレニアム製の第3世代IS。

操縦者もまた超兵なのだろう。

勝ち目などあるのか。

ケルベロス1体を相手にしてすら全滅するところだったというのに。

 

「よくやったね、一夏。上出来だよ、後は僕に任せてね」

 

微笑むのはシャルロット。

どうやら彼女が全て壊してしまうつもりらしい。

 

「なんだ、貴様は?」

「貴様――シャルロット・デュノア」

「あの神亡奈落の配下」

「【ホワイト・グリント】の操縦者」

「奴に何か言われたか」

「我々の邪魔をしに来たのか?」

「好都合」

「今、ここで死ね」

「死体といえど、使い道はある」

 

「あはは。かわいいなあ、僕をどうにかできると思ってるんだね――たかだか九人で、それも第三世代でさ。狼に向かって鎌を振り上げるカマキリ君たち、神様にお祈りはすませた? 部屋の隅でガタガタ震える心の準備はOK?」

 

「なめるな」

「たとえギガロマニアックスが相手でも」

「ミレニアムが負ける道理がない」

「我々は超兵なのだ」

「その恐るべき力を目の当たりに――

 

「ま、別にしてなくてもいいよ。一瞬で終わるから」

 

「その言葉」

「そっくりそのまま返そう」

「貴様は後悔する――

 

規格外超弩級戦略兵装(オーバードウエポン)――複合型多連装波動砲|≪マルチプルパルス≫」

 

ハリネズミのように棒が突きだした姿。

体の全てを隠すかのような仰々しい針のむしろ。

それら……一本一本全てがパルスキャノンだ。

 

「――うふ」

 

シャルロットは、その悪魔の兵器を放つ。

視界を埋め尽くす光。

去った後には何も残らない。

とてつもない威力。

辺り一帯を焼きつくしても、なお止まらない。

 

「あの……そろそろどいてくれません?」

 

セシリアが遠慮がちに聞く。

あまりの威力を前に完全にびびっている。

 

「ああ、ごめんごめん。射程範囲外って足元くらいしかないからさ」

 

とん、と降りる。

その姿にはあれだけの破壊をもたらした凄みは感じられない。

本人も……ふつうのコトをしただけ、といった具合。

 

「しかし――とんでもありませんわね。三対一で苦戦した敵を、あなたは一対九で倒してしまうんですもの」

「あはは。奴ら油断してたんだよ」

 

――そんなわけがない。

奈落の側近を前に油断など。

ただただシャルロット・デュノアという戦力がミレニアムの部隊を圧倒していただけの話。

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