「「「――っ!」」」
日韓戦争を冷めた目で見つめていた4人。
その中のシャル、奈落、一夏が驚いたように席を立つ。
「来る」
ラウラが現れた。
「ええっと……何が来るのかな~? また宣戦布告とか」
本音が出てきた。
「まあ、それもあるかも知れんがな。さすがにそんなものまで察知はしきれない――少佐だ」
奈落は気にもしない。
初めから居たかのような調子で扱う。
「……っ!? そんな~」
「嘆きたい気持ちもわかるが……どう殲滅するか、だ、な――?」
言葉が止まる。
「ど、どうしたの~? らっくーがそんな顔するなんて、悪い予感しかしないよ~」
完全に泣き顔になってしまっている。
「まさか、これほどの規模を…….!」
反応があったのは世界中。
いや、正しくはアメリカ、EU、日本だ。
その全てに向けて攻勢をかけようとしているのだ。
――正気ではない。
いや、あれほどまでの戦力を持っていたら当然か……?
なんにせよ、ミレニアムは本気で世界を相手に戦争する気だ。
「ほう、おわかりになりましたか?」
男が現れた。
一人……中華系の顔立ち。
鈴音が苦い顔をする。
「――何のようかしら?」
「中華人民共和国への迎えに参りました」
男はいけしゃあしゃあと答える。
言葉こそ妙に丁寧だが、ちっとも敬意などこもっていない。
いけすかない男だ。
「あんた達は馬鹿!? 今、私がここにいなくてどうするのよ! 中国がただ一国でミレニアムと張り合っていけるとでも――」
「あなたこそ……我らは4,000年の歴史を誇る民族なのですよ。たかがテロリスト相手にどうにかされるとでも?」
強烈な自負。
もっとも、その根拠に至っては――中国の代表候補どころか……世界を牛耳る奈落ですらも全くわからないが。
「戦力のことを考えなさいよ。あちらが一体どれだけのIS戦力を保有していると思っているの? それに、奴らは真の戦力を隠したままよ」
「だから、どうしたと言うのです? 奴らが何をしてこようと、我々に敵うはずがないのですよ」
「話にならないわね。とりあえず、数字が読める人間と話をさせてくれないかしら」
「その必要はありません。あなたは今すぐ帰るのです」
「――断ると言ったら?」
「そのときは、力づくでも」
銃を取り出す。
しかし……
「銃が代表候補に通用すると思ってんの?」
鈴音は銃を一瞥する。
まったく問題に思ってはいない。
男は懐からスイッチを取り出す。
「思ってますとも」
押した。
「……っち――!」
嫌な予感を感じた鈴音はISを起動する。
……いや――起動しようとした。
「動かない……? っあんた」
「ええ。緊急用停止システムを動かせていただきました」
「なるほど。これがあんたらのやり方ってわけね」
「不測の事態を予測しておくことは必要でしょう?」
睨みつける鈴音に対して男は涼しい顔だ。
「初めから誰も信用していないってことじゃない」
「ジャパニーズにうつつを抜かす女の何を信用しろと?」
「それが本音ってわけ。ま、もうあたしには何にもできないし――勝ち誇られても何にもできないけどね」
「それでは大人しくついてきていただけますか」
「待てよ」
傍から声がかけられる。
「あなたは?」
「織斑一夏。そいつの幼なじみだよ」
「ああ。あなたが――」
「鈴音を放せ」
「おや? 別に私は彼女を拘束しているわけではありませんよ」
「嫌がってるだろ」
「ふん。そんな甘っちょろいことを言うとはな。やはり貴様らは――」
「何だというのかな?」
奈落まで参戦してきた。
なんとも珍しいことだ。
「あなたが神亡奈落ですか。お噂はかねがね。無関係のあなたは引っ込んでいてもらいたい」
「君こそ無関係だな。私にはISをハッキングしたところで代表候補を誘拐しているようにしか見えないが?」
「自主的にお帰り願っているだけでしょう?」
「中国人がどう思おうがどうでもいい。世界一般に見てその行為は脅迫としか呼べない」
「ほう? 中々トゲのある言い方だな。言いたいことははっきりと言いたまえよ――奈落君」
「帰れ、犯罪者」
「ふむ、では、おっしゃるとおりに帰るといたしましょうか――鳳鈴音」
「……本気で中国を終わらすつもり?」
「始めるのですよ。本来の、輝かしい中華人民共和国の歴史を」
「イカれてる。やっぱり現実が何一つ見えちゃいないわよ」
「鈴音を連れては行かせない」
「一夏。お前は鈴音を守れ。私がこれを何とかしよう」
「奈落君。あなたに何が出来ると――」
撃った。
奈落が、彼の言葉を聞きもせずに。
彼の体は机をなぎ倒し、地に伏せて動かない。
血は一切出ていない。
暴徒鎮圧用のゴム弾を使ったから。
とはいえ、肋骨の一本くらいは折れたはずだ。
「君のような使い捨てはいくらでも居るよ。君みたいなのがなぜ人に威張り散らせるのか――理解に苦しむ。それとも、代わりなんていくらでもいるからこそ威張らずにはやっていられないのか」
「君の身柄は警察に引き渡しておく。とはいえ、激痛で他人の言葉を聞ける状態か怪しいところだけどね。ま、日本政府なら中国系の要人の身柄を預かるのはまっぴらだとばかりに国に返してくれるさ。返された先でどんな扱いを受けるかは私の知ったところではないがね」
これから役立たずの烙印を押されて尻尾きりに使われる哀れな男は動けない。
捨てられるくらいなら日本の牢屋で不自由なく暮らしたほうがよほど良いだろうが――決めるのは本人ではなく中国政府である。
一瞥すらせずに鈴音に向き直る。
「さて、鈴音……君には選択肢がある。高官の犬になるか、それとも私に下るか。二つに一つ、他に選択肢など――いや、実際には選択肢などない。鈴音、わかっているな?」
「あんたに下るしかないわよ」
「では、君にやってもらうことがある」
「――なんでもやってやるわよ」
「その前に、一夏。お前はどうする?」
「どうするって、何が……」
「中国がミレニアムについた」
極めて世界情勢に重要なことをあっさりと言った。
「――は?」
「そういうことにしかならないわよ。あの馬鹿の言葉を聞く限りね」
鈴音が追随する。
「一夏って、筋金入りだよね」
シャルがうなづく。
「そんなところもお前らしいといえるが、さっさと決めろ。日中戦争に加わるか? おそらく日本には動かせる戦力などないはずだ」
「あれ? 日本のISは三機じゃないのか」
「誤解するな。数だけは持っているが、日本政府に指揮権限がないだけだ。それらは全部、政治家の護衛に使われるはずだ。後は、日本のIS所有者に要請を送るしかない」
「それって中国が悪いのか?」
「さて、ね。とりあえず負けた方が悪いことになっているのではないかな? ――日本では。それとも、どこかの誰かが言うように何でもかんでも日本が悪いのか」
「中国が悪いんだな?」
「そんなものは世界が決めるさ。良いか悪いかなんて関係ない――自分が何をするかだ。中国は私が一人でも抑えてみせよう。お前はどうする?」
「守るに決まってるだろ」
「相手は国だぞ。悪だと言い切ることはできない。軍事力で相手を牛耳れば――核でも落とせば、また話は違ってくるが」
「けれど、俺なら“守れる”」
「良かろう。この反応を見る限り、少佐の奴はお祭り騒ぎがしたいだけだな。どれだけの被害が出るかはわからんが……日本以外は国が消えるような最悪の事態になることにはならなさそうだ。なら、一夏……私とお前だけで日本を守るぞ」
「――ああ」
「シャルは鈴音と行動。ラウラは米国の動向を見張れ。一夏、私達は――」
「私は何をすればいいのでしょう?」
「楯無か。お前にはお前の仕事があるだろう」
「お守りなど誰にでもできます。そして、もはやそんなことを言っている時期でもない」
「――なるほど。なら、あなたには後ろを頼む。取り逃がすことも多いだろうから」
「私もお手伝いしますわ」
「セシリア? お前には待機命令が出ているのではないか?」
「その通りです。しかし、今から行っても本国の戦争には間に合わないのでしょう? なら、私はここで戦うことにします」
「――なるほど。普段なら止めていたかもしれない」
「しかし、”今”となっては別。そういうことですわね?」
「その通り。楯無は一夏の、セシリアは私の援護だ。撃ち漏らしを全て潰せ。厳しい戦いになることは覚悟しておけよ? 私達の化け物さ具合と、ミレニアムの阿呆がどこまで行くかわからん、わからんが……一対一で戦ってもらえるなんて甘ったるいことは考えるな。いや、戦ってもらえると思うことさえ甘えなのだよ」
「承知の上ですわ」
「肝に銘じておきましょう」
「「なにより私のISは多対一を想定されています」」
二人は嗜虐的な笑みを浮かべる。