IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第63話 第一次ミレニアムウォーズ 日本編

「さて、一夏。敵はミレニアムと中国……ミレニアムにお守りをする気などさらさらない。奴らは二手に分かれて攻めてくる。だから、まあ――担当はコインで決めよう。当たりはミレニアム、ハズレは中国軍」

 

奈落はコインを投げる。

 

「――表」

 

開いた手には表のコイン。

ミレニアムに相対するのは一夏。

これは果たして当たりとはいえ――運が良かったといえるのか。

 

「ふん、そっちがミレニアムか。まあ、いいさ――セシリアは私のサポート。楯無は一夏の。お前たちは実に数にして2対200で世界的テロリストに挑むわけだ。覚悟はいいな?」

 

ミレニアムは200の戦闘機で攻めてくる。

絶望的な数字だ。

アーカードは1で400を殺戮してのけたが、それこそは化け物の証。

この世の道理は数こそ力。

この状況をひっくり返すには、それこそ人を捨てるしか……

 

「貴族の誇りにかけて、賊徒に背を向けるわけにはいきませんわ」

「命をかける覚悟なんて、今更ですね」

 

人間二人は笑みを見せる。

口の端が震えている。

怖さを隠しきれていない。

それでも、一歩たりとも引かないのはその矜持ゆえか。

 

「さて、戦争を始めよう」

 

4つの影が飛び立つ。

 

 

 

「楯無さん。本当にいいんですか?」

「そう聞きたいのはこちらです、織斑一夏。あなたはブリュンヒルデの弟であるだけで、命をかける必要はないのですよ」

 

一夏はいつものようにぼけぼけとしている。

けれど、楯無はそうはいかない。

顔は厳しく引き締まって、いつもの余裕など欠片もない。

口調ですら――

 

「それはそっちもでしょう? 自由国籍を持っているなら、どこにでも逃げられるのに」

「家のしがらみというのですね。しかし、悪くはありません。連綿と日本を裏から支えてきた、その誇りがなければ私が私でなくなってしまう――自分に顔向けができない」

 

「そんなものですか。自分は――ただ思ったとおりに動いてるだけで、そんなふうに思えるのは尊敬しますよ」

「私としては、そんなふうに思えなくても動いてしまえる君が羨ましかったりもするのだけどね」

 

「けれど、今は……!」

「無辜の人々を襲う悪鬼どもを倒さなければ」

 

共に前方を向く。

鬼どもが来る方角を。

 

 

 

向こうにあるのは戦闘機の群れ。

 

「これを一機一機落としていくのは――」

「あなたの白式は一対多には対応していない。この私のミステリアス・レイディにお任せあれ」

 

土壇場になって、わずかな余裕を見せる。

もう、やるしかない。

思考は冷えて、鋭くなる。

感覚が広がり、水蒸気の一粒さえ感知できる。

 

「――海の上。ここなら、最大のパフォーマンスが発揮できる。油断なく、躊躇なく、全て水の底に沈めてあげる」

 

この上なく冷たく言い放った。

彼女はこれから……人を殺す。

 

 

 

「ねえ……一夏君。生徒会長になる条件って知ってるかな?」

「え? いや、そういうのにはあんまり」

 

「……ふふ。思っていたとおりね」

「――へ?」

 

楯無はふわりと微笑む。

 

 

 

「生徒会長は最強でなければならないのよ……!」

 

 

戦闘機が400。

女子ならそれがどうしたと言うだろう。

負けることなんて想像すらできないに違いない。

 

それは、真実の一端をとらえてはいる。

戦闘機とISがサシで向き合った場合、わずかなダメージが入ることもない。

こうして書いてしまえば疑問に思うかもしれないが、普通に暮らしてればじっくりと考える機会はない。

 

しかし、現実は無慈悲である。

確かに戦闘機400が相手であっても、操縦者の実力次第で全滅させることは出来る。

けれど、そんなことに意味があるものか?

だって、それは――

――敵が馬鹿みたいにISに向かってくるとこが前提なのだから。

 

いくらISとはいえ、自分を素通りする敵に何が出来る?

 

何もできない。

そう――最強でもなければ。

 

清き熱情(クリアパッション)

 

爆発した。

400もの戦闘機が……一度に。

 

「――凄い」

 

そうとしか言えない。

さすがは”最強”を自称するだけはある。

しかし――

 

「殺れなかったみたいね」

 

楯無の顔は浮かばない。

 

「……あれは黒椿?」

 

人間なら豆粒にしか見えない距離。

けれど、ISのハイパーセンサーがあれば輪郭くらいはわかる。

そこから判断して、何度も見た黒椿と同一の形だと悟る。

 

「黒椿――ミレニアム製第3世代機じゃなくて? それとも、指揮官が使っているのかな」

 

彼女にはそこまでよく見えない。

ただ、量産機である黒椿の姿しか見えないのは不気味。

それこそ、指揮官用機であれば安心できるのだが。

 

「いえ、黒椿以外の機影は見えません」

「さすがにISを2つ持っているってことはないわよね。でも、そうだとすると……!」

 

「楯無さん。考えるのは後です――俺が突っ込みますから、フォローはよろしくお願いします!」

「――まかされました!」

 

高速で突っ込んでいく。

以前の戦いと同じように、まっすぐに。

ISを乗りこなせていないものには防御することすらできない。

 

「……っ!?」

 

受け止められた。

防御や回避より難度が高い行為を平然と行った。

 

そして、四方八方からナイフで襲い掛かられる。

不慣れな者ができることではない。

――こいつらISの扱いに習熟している。

 

「強い!?」

 

もはや疑う予知もない。

相手しているのはこれまでの使い捨てどころではない。

ミレニアムが本気で牙を向いてきた。

 

「けど……こっちだって、簡単にやられるわけにはいかないんだよ!」

 

後方に向かっての瞬時加速。

体当たりなんて上等なものじゃない。

相手の思惑を外すためだけの滅茶苦茶な行動。

あわよくば包囲網から脱出したいところだったが。

 

「そう簡単に行くわけねえよな――【零落白夜】」

 

力の節約は考えない。

そんな贅沢を言っていられる状況ではない。

斬撃なんて出せない。

だから――思い切りぶん回す!

 

「――っふ!」

 

かわしきれなかった1機を中身ごと真っ二つに。

飛び散る赤いものは意識にも入れない。

だが、しょせん当たったのは後ろに下がれなかったからに過ぎない。

そう――おびだたしいほどの敵がいる。

こんな状況じゃあ、まともに回避なんてできやしない。

そんなもの、不幸中の幸いなど呼べるものか。

状況が悪すぎる。

 

「ぜえあああ!」

 

滅茶苦茶に飛び回っては、軌道上の敵を斬る。

必死だった。

いや、彼一人ではこうはいかない。

楯無が海中に隠れてひそかな援護を行っている。

幸い――これは本当に幸いといえる――相手は一夏に夢中で日本本土に強襲する気はないようだ。

 

「――?」

 

向かってくる反応が一つ。

それも本土の方から。

疑問は加速度に押し流される。

相手も慣れてきたようで、最初に落とした2,3機の後はあたってくれない。

 

本土の方から向かってくる誰か、それをミレニアムは放ってはくれない。

 

「まずいわね――釣られて本土に引き寄せられる危険が……って、あれは黒椿――じゃなくて赤い? そう……篠ノ之箒か。邪魔を……!」

 

向かってきたのはこれまで何一つ関われなかった女。

ただ知り合いが帆走するのを見るだけで、何もできなかった。

 

「一夏……! お前が戦うなら私も――姉さんがくれたこの力で……!」

 

篠ノ之箒、参戦。

 

「疾走しろ、紅椿。お前ならば、全てを圧倒できる」

 

言葉通り。

誰よりも速く彼女は駆け抜けた。

 

誰しもが到達できない速度で、瞬時に敵の一人に喰らいつく。

強烈な踏み込み。

そして、溜め込んだ力で一気に抜刀。

 

見惚れるほどのきれいな一撃。

 

その正確無比な一撃は……空を切った。

――大ハズレ。

敵はわずかに後ろに下がっている。

相手が勝手にはずしたと思えるほどのきれいな回避。

 

「馬鹿……な――」

 

それは一夏と箒の攻撃の質の差だった。

箒のはお手本とすら呼べるきれいな抜刀。

ゆえに踏み込みの時に止まらざるを得なかった。

 

だが、一夏は違う。

速度とエネルギーブレードに任せた突撃だ。

それも、一秒として止まることはない。

 

人間の箒。

化け物の一夏。

 

戦場を経験した者とそうでない者の差。

ISを人間の延長としてしか使えない箒の限界。

 

「ああ――あああ……」

 

絶望のつぶやきが漏れる。

踏み込みのために完全に静止してしまった。

加速するための僅かな時間――そんなものは存在しない。

その前に圧倒的な火力にさらされる。

 

いや、これが一夏だったらかまわず突っ切るところだ。

なんせ、そうしなければ生き残れない。

だが、箒には無理。

反射的に痛みに怯えてちぢこまってしまう。

 

「――箒!」

 

一夏の眼の色が変わった。

 

次の瞬間、赤い雨が降った。

箒に銃を向けていた者達が圧倒的な力で引き裂かれた残骸。

武器すら使わず、素手でISを引き裂いた。

 

「これは……?」

 

一夏自身よくわからなかった。

だが、これがギガロマニアックスの力。

己の運動能力さえ簡単に変えられてしまう、その力。

 

「これが、奈落やシャルロットの世界か……!」

 

ようやく、一夏は化け物の道を踏み出した。

これこそが、本当に不幸中の幸いと呼べるものなのだろう。

 

一夏はわずかに11秒で敵を全滅させた。

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