IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第65話 |一時の休み《スタッカート》

「あのクズどもが……っ!」

 

どこともしれぬ会議室。

中は高級家具で溢れかえっている。

むしろ金額の高さだけで決めたかのようにチグハグで、それは成金趣味と呼ばれるにふさわしいだろう。

そこには豚がたむろしていた。

いや、豚と見間違えるような太った男たちが、だ。

 

「まったく、情けない。あれほどの戦力を渡しておきながらたった二人に負けるなど、情けなくて涙が出ますな」

「本当に、どれだけ役立たずなのか――」

 

豚どもはせせら笑いを浮かべている。

こいつらは中国の高官だ。

日本に攻めこむことを実行したのも彼ら。

すべての責任はふがいない部下のせいで、自分たちはむしろ犠牲者とすら言える。

そこらへんは日本人も他人のことを笑えるはずがない。

 

「あのクズどもは一族郎党もろともに処刑することにして――次はどうしましょうか? 彼らには勝手に日本に攻め込んだ責任をとってもらうことにして、しかしこのままでは我らが中華人民共和国の歴史に傷が残りますよ」

 

勝手なことを言う。

どうせ、こいつらは適当に攻めてこいとだけしか言わなくて――これが必要ですとか言われても無視していたにきまっている。

それどころか……実際にはこういうふうに進軍するのが良いとか上申されても、自分が適当に華々しいとかそんなんで決めたルートを譲らなかったのだ。

偉い人間など、しょせんは偉ぶるだけの頭でっかち――机上の結論どころか、理論すら知ったことではない。

無茶を他人に押し付けるだけで、自分が何とかしようとは微塵も考えていない。

 

「ふふ、心配なさるな。我らの手持ちはあれだけではない」

 

いやらしく嗤う男が答える。

そう、くさっても中華人民共和国。

その人口は脅威の一言に尽きる。

いくら上が無能でも、上がるためには有能でなければならない。

自身は無能でも、有能な人間はいくらでもいる――人口だけは以上に肥大した国家の歪み。

 

「そう――我らにはアレがある」

「人類に災厄をもたらすプロメテウスの火」

 

笑う。

嗤う。

嘲笑う。

下賎な笑い声が木霊する。

 

 

 

そして、扉が開かれる。

許可無く近づくだけで蜂の巣にされるそこに。

 

「――奈落の疑念は大当たりってわけ」

 

許可もなく、そこに現れたのは――

 

「貴様、代表候補の……」

「鳳鈴音。そのくらいは覚えておきなさい、一応は中国の顔よ?」

 

お偉方は顔を歪める。

単純に自分の思い通りにならないのが気に入らないだけだろう。

それに、まったくしょうがないわね――と言わんばかりに顔を歪めてるのも不快だ。

貴様、何様のつもりだ……その程度しか考えられないだろう――豚には。

 

「日本人にうつつを抜かす貴様がどの面下げて……」

「そうか。貴様――裏切って日本についたか」

 

口々に責め立てる。

豚が汚らしい言葉を吐く様は思わず目をそらしたくなる。

こんなのが上の、さらにその上――何足飛び越えても届かないほどに偉い人間がこんなのな鈴音は哀れさを覚えるほど。

いや、案外この世界はそんなものかもしれないが。

 

「バカ言わないでもらいたいわね。まがりなりにもあんたらが政府よ? そいつらがその程度しか考えられないなんて、あまりうれしく思えないわ」

 

これでも控えめな感想。

けれど、それでも豚には腹に据えかねたようで。

軽蔑する鈴音を、もはや殺気を込めて睨みつける。

 

「ばかにするか、貴様」

「もういい――そういえば、機能を停止したISを回収していなかったな。そこに置いてさっさと立ち去れ」

 

とはいえ、凄んでも怖くはない。

いや――普通は怖いのだろう。

権力者の心象をこれ以上なく悪くする。

別に中国人でなくても、こんな状況に置かれるのならいっそ死んでしまいたいとすら思うだろう。

けれど、鈴音は奈落という中国を支配する程度の連中とは段違いに接してきたのだ。

そして、彼に命令を受けてきた。

 

「ああ――現実を知らない間抜けばかり。私は今まであんたたちが接してきたような金の亡者とか金に支配された哀れな奴隷でもない。私は中国に住む民のためにここにいる」

 

権力というのなら、むしろ鈴音の方が上なのだ。

そして、鈴音が考えるのは自国の運命。

たかが上層部ごときに関心を寄せる暇はない。

その自負は、戦士にふさわしい。

しかし、たかが豚にそんなことを感じ取れる感性はない。

 

「何を分けのわからぬことを…….! 我々こそが中国だ」

「そう――民などいくらでも湧いてくる。我らが生き残れば、中華人民共和国は存続する」

 

ゆえに、豚はさえずる。

見苦しく、そして無様に。

自らの状況を理解できるようなら豚ではない。

 

「それはただの保身ね――自分が良ければ後はどうでもいいて言う。まあ、そんなことは関係ない。あんたらがどうとか、そんなどうでもいいことじゃない。人類そのものの尊厳、それを守るために私はここにいる」

 

鈴音は語っていく。

むしろ自らに言い聞かせるように。

これは儀式。

信念のため、未来を勝ち取るために未来を刈り取る。

絶対矛盾の体現には――こういうことも必要だろう。

 

「思い上がるな。小娘が! 貴様のような卑しき出が何を勘違いしている」

「我らに仇なす事は中華人民共和国に牙を向くということ。この日本の手先が!」

 

何もわからない、知らない。

権力とはそういうもの。

他人に無茶をやらせるだけがその本質。

この期に及んでも、危機を認識することができない。

 

「あなたらの頭の凝り固まり具合は分かった。けれど、今はどうでもいいわ。出してもらいましょうか――核の発射スイッチを」

 

言った。

これ以上はなく単刀直入に。

それが――それだけが彼女の目的。

奈落の命令。

 

「貴様……!」

「そうやって全てを奪っていくつもりか」

 

それは最後の抵抗手段。

核を持たない日本が世界に影響しないように――

――中国が核を失えば、もはや大きな顔はできなくなる。

先進国に媚びへつらうだけの奴隷になる。

 

「核なんて使われたら、それこそ中国人は悪鬼に落ちてしまう。それこそ、中華系は差別されて当然の――真に卑しい血族と成り果てる。それだけは避けなければならない」

 

けれど、核は滅びへの片道切符。

引き返せない坂道。

転がり落ちるだけの黄泉の坂。

 

「奈落も言っていた。核は最悪の武器――いつまでたっても終わらない悪夢の連鎖。それは人間には過ぎた武器。人の終焉(ラグナロク)を告げる鐘の音にして、世界を灼く火。そう、あまりにもそれは……威力が高過ぎる」

 

核はもはや、小国ならばただの一発で消し飛ばす。

たとえそれが世界でも、地表の全てを灼くには10発も必要か。

 

「だからこそ、止めなくてはならない。なぜなら、滅ぶのは中国大陸よ。日本に核を放ったなら、核戦争が始まる。いえ、それは蹂躙。中国に対して、ありったけの核が叩き込まれる」

 

ゆえに中国は滅ぶ。

領土が大きすぎるために一発では滅ばない――それがどうしたというのか。

どんなに少なくてもアメリカ、ロシア、EU……最低3発が打ち込まれる。

すべてが焦土と化すにはそれで十分。

それが――”最善のシナリオ”

 

「中華系が差別されるといったのはこのこと。別に核を落とそうが、何しようが世界で隆盛を誇る人種が差別されるわけがない。そうなったところで滅ぼしてしまえばいい。けれど、差別されるのはいつだって少数派(マイノリティー)よ。だからこそ、中国大陸とともに滅び、他の大陸にわたって生き延びた人間は差別され、畜生以下の扱いを受けることになるのよ」

 

締めくくった。

 

 

 

「いくら騒いだところでもうどうにでもならない。それに――停止させたっていうISはこれ?」

 

鈴音はISを纏う。

緊急停止プログラムを発動されて動かなくなったはずのISを。

 

「奈落のツテでね――本人がやるまでもなかった。そもそもどこの国もISのコアそのものにアクセスできたことはない。ウイルスなんて、しょせんは周辺機器に仕込んだだけ。開発段階で仕込んだのだから、確かに解除は難しいけど――できないのなら丸ごと新品と取り替えれば済む話しよね」

 

もちろん、お金はかかる。

1候補生にどうにかできる金額ではない。

けれど、そんなことは奈落にとってはなんでもないことで。

 

「ここに来るまで護衛は全て気絶させておいた。援軍が来たところでシャルロットが居る以上、どんなことでもしようがないのよ。さて、もう何言ってんのかも聞き取れないし――」

 

豚のさえずりは悲鳴に変わっていた。

怖気が走るほどに見難いのは変わらないが、内実はまるで別。

ことここ――まさに死刑執行の椅子に座らされたところで悟る。

自らの運命を。

 

撃ちぬいた。

部屋が血に沈む。

肉片が散乱する。

 

「綺麗事で世界は守れないから――」

 

 

 

「さてさて、諸君。我らが最強のミレニアムは負けてしまったなぁ」

 

太った男――少佐。

 

「ふふん、あんたがそうしたんじゃないか……少佐」

 

鎌を持った女。

 

「一回だけで終わらせるのはもったいない。もう少し楽しもうよ――ま、僕は戦闘要員じゃないんだけど」

 

猫のような少年。

 

「しかし、今回の宴に参加できないのは残念でしたわ」

 

銃を持つ女。

 

「……」

 

傍らのオオカミ少女は何も言わない。

ただ、目をきらきらさせてお楽しみを待っている。

 

 

 

「どうかい? 皆死んでしまったけれど――楽しめたかな」

 

少佐の一言は歓迎でもって迎えられる。

耳が割れるような歓声。

狂人達の狂奏曲。

 

「では、次――次なる戦争はいかがしましょう?」

 

白衣の男が先を促す。

 

「そうだね――次が今日明日では、殺し合いが楽しめないかもしれない。ここはどーんと一ヶ月くらい時間をあげようじゃないか」

 

ニヤニヤ笑いは崩れない。

まるで能面のように張り付いている。

 

「了解しました。では、そのように声明を送っておきましょう」

 

白衣の男が一礼と共に姿を消す。

 

「しっかし――隊長が自ら出てくるなんてね」

「ゾーリン。今はもう隊長じゃないよ」

 

嘆息する鎌女を猫男が諫める。

気持ちの悪いニヤニヤ笑い。

この場の人外共はよくよく気が合う様子。

 

「そう、今となっては愛すべき敵だ。まあ、奈落のやつは意外に甘いところもあるからな――見ていられなくなったのだろう」

「懐かしいね。それでいて、ことさらに被害者を見捨てるようなことを故意に行う。本当は助けたかったのに、心の奥底に閉じ込める。ま、元々彼の願いは人類の救済。救済する対象がいなくなったら手段ができあがっても意味が無いよね」

 

「けれど――この騒動を起こしても、その手段を見つけることができませんでした。あの人は一体どこに新たなノアを作っているのでしょう……?」

「リップバーン中尉、それを言ってもしょうがない。見つけることができなかったのなら、次に見つければいい」

 

「そう。何度でも何度でも戦争を起こす。我らが最後の大隊ミレニアム、そして我らが太陽ピサ・ソールはそのために存在する」

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