IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第6話 ケルベロス

自室に入って扉を閉める。

これで、外から中を覗くことはできなくなった。

IS学園が他の国家にさせられた配慮というやつだ。

学園の外側には多くの監視装置を付けられても、内側には付けられない。

それで、管理と警備は日本の責任だというのだからまた。

特別な部屋である此処は特に厳重な対策が施されており、学園側ですら内部の様子を窺い知ることは許されないのだ。

 

ゆえに、この部屋に入った以上――私は部屋を出ていないと結論付けるしかなくなる。

もし私が物理的な手段を伴わずに他の場所へと移動したならば、完全なアリバイが出来上がる。

誰も疑うことすら出来ない究極のアリバイだ。

 

腑罪証明(アリバイブロック)

 

“一瞬”後、私は全く別の場所に居る。

ここはISを違法開発している場所。

隠れ住みテロリストが日夜研究を続け、世界をひっくり返そうと目論む闇が淀む土地。

 

 

テロリストはISを盗み、研究して既存の世代とは外れた形態の研究している。

そもそもISとは凄まじく精密かつ微細な調整が必要な特殊機械だ。

操縦者に合わせて少しずつ、少しずつ馴染ませていく。

その果てにあるのが第二次移行だ。

 

だが、テロリストの機体はいとも簡単に第二次移行を成し遂げる。

逆の方法論――つまり、人間をISに適応させるのだ。

もちろん、それは生易しい方法であるはずがない。

テロリストには企業や国家のような縛りはない。

正義など――彼らにはない。

 

薬物投与から人体改造に至るまで、非常に多くの試みが為されている。

千や万では収まらぬ程の犠牲者を出しながら。

当然、適応した操縦者とて危険なISに乗る莫大な負荷を受け続けて生きていられるはずがない。

何度目かの出撃で死んでしまう。

 

 

 

此処では、その危険なISが研究されている。

だから、この私が潰しにきた。

これでまた一つ、委員会に借りを作れる。

“彼ら”への嫌がらせになるかは、微妙なところではあるが。

 

 

 

「こんにちは、アーカード君。と言いたかったのだが――、君は誰だ? 正直に話すことをおすすめするよ。……蜂の巣になりたくなければね」

「これは予想外だ。アーカードのやつ、待ち伏せされていたのか」

 

現れたのは男。

ISを纏ってはいない。

しかし、一見するとただの気障な優男だが、恐ろしい気配を放っている。

――こいつ、強い。

 

「――ふむ。君は、アーカード君の仲間か。そう言えば、我々を襲撃してくる人間の中に君の姿を見たような気がするよ」

「外のことはアーカードにほとんど任せきりだったからね。けれど、今は私も動ける。…… 待ち伏せしていたのだろう? ならば無策ということはないはずだ。見せてもらおうか、君たちの用意したものを。アーカードを撃退出来るだけの何かを。――それができれば、の話だがね」

 

ああ、楽しくなってきた。

私は――殺すために、そして、殺されるために此処に来たのだから!

敵は大歓迎だ。

 

「もちろんだとも。けれど、その前に君の名前を教えてくれないかな? 標本には名前が必要だろう」

「ふふん。面白いことを言う。聞きたいのなら教えてやるよ。私の名前は神亡奈落。神を亡き者にせんがために産み落とされた奈落だ」

 

殺気が抑えられなくなってきた。

ああ、君の甘い殺意の匂いに血が湧き立つようだ。

もっと――、もっとだ!

悪意に満ちた牽制(ストロベリートーク)を続けよう。

 

「ほほう。奈落君ね。私の名はトバルカイン・アルハンブラ。 近しい者からは伊達男と呼ばれているよ。以後よろしく。君を梱包し終えるまでは、ね」

「必要ない」

 

もうダメだ。

殺意を抑えきれない。

さあ――、殺したり殺されたりしよう。

 

「む?」

「殺した人間のことも、殺す人間のことも知る必要などない。私はアーカードではない。奈落に落としてやったら二度と名前すら思い出さない。私という巨大な奈落の前には死人などただ消え去るのみ」

 

采は振られた。

 

「Gooood! Goodだ、奈落君。どうやらお互いに譲る気はないようだ。なら――」

「――殺し合おうか」

 

拡張領域からサブマシンガン―03-MOTORCOBRA―を取り出し、すぐに離す。

――爆発。

 

「っち――。 これは……!」

 

出現した瞬間にマガジンに向かって銃弾を叩きこまれた。

サブマシンガンの即席爆弾により少なからぬシールドエネルギーを削られてしまう。

狙ったのにしたら、在り得ないレベルの正確さ。

だが今のは――銃身に向かって適当に撃って、伊達男への銃撃をそらそうとした攻撃ではなかった。

つまり、どこに武器が呼び出されるか読んでいた?

だが――どこに呼び出されるかなど予知でもしない限りは知る方法などないはず。

 

建物の中を全力で後退。

さらに伊達男への銃撃を行う。

あのISがかばった様子もないが、手応えもない。

……かわしたか。

そして、ここで初めて二人目の敵を視界に収める。

 

「……」

 

相手は無言。

ひたすらに暗い雰囲気を放つ亡霊のようなIS。

 

「なるほど、これが【ケルベロス】。三つの頭を持つISか――。中々に凶悪な面構えだ」

 

その手には何も握られていない。

犬の面をかぶった女の横には二つの犬の首が生えている。

ISの基本カラーは黒。

これこそ正に地獄の番犬にふさわしい姿だ。

手足は鋭角で、更なる禍々しさを演出する。

 

「……(ヒュン)」

 

風を切って飛び抜ける。

屋内の――それも柱が密集する乱雑な部屋ではあるが、この程度の地形は二人を止める役には立たない。

 

「――っ!」

 

後ろを取られた。

――速い。

いや、上手い。

建物内は入り組んだ柱によって全貌がわかりづらくなっている。

柱の影を利用して私の目に写らないようにして……!

 

「……(シュッ)」

 

ナイフか。

この密着した距離では厄介だな。

当然、私はナイフのような小さな武器など持っていない。

 

「斬! ――断!」

 

だから、私は大剣を呼び出して振り抜く。

一回転した上に袈裟斬り。

 

「……(ギギィン)」

 

距離こそ離させたが、二発置き土産に喰らった。

一回転斬りの際に沈み込みながら一撃、さらに袈裟斬りを回避するために宙返りして後退した時に一回。

近接武器の優位こそ振り出しに戻したが、容易く懐に入られた事実は変わらない。

そして、何よりも。

私はまだただの一発さえ当てられていない。

――だが。

 

「距離を離したな? こいつで――」

 

左に回転しながら跳び、大型ドラムマシンガン―GAN01-SS-WGP―を呼び出す。

こうすれば、呼び出した銃に直接銃弾を当てられることはない。

しかし左に跳ぶのを完全に読んで銃撃を合わせてきたケルベロスの技量は人間離れしたレベルにまで達している……!

 

――いや、そういうことか。

なら、確かめてみようか。

 

「吹き飛べ」

 

弾をマシンガンの負荷限界を超えた速度でばらまく。

限界以上の攻撃は己が身を滅ぼす。

五秒で銃身が焼け尽き再使用は不可能に。

 

そのまま、使い終わったマシンガンを蹴り飛ばして目眩ましに。

そして、突撃。

サブマシンガンを再呼び出し。

 

私の予想が正しければ、これでも通じないはず。

 

「……(轟)」

「――っ! 杭打ち機(パイルバンカー)だと!? なるほど、その機体には合っている」

 

予想以上に凶悪なものが出て来た。

これを喰らえば、いかに私といえど……!

 

滅茶苦茶に銃弾を撒き散らしながら逃げる。

だが、地獄の番犬は影のようにまとわりつく。

 

「……」

 

無言の腕が奈落へと迫り――。

 

「この――」

 

ドン! と鈍い音を響かせて杭打ち機が腹へと叩き込まれる。

……逃げられない。

何度も連続して喰らう。

 

6発全てが叩き込まれて――もはや奈落は動けない。

力の抜けた体を壁へと叩きつけられる。

 

「がはっ、ぐ――。流石だよ、ケルベロス。声を出さないのは、いや、出せないのはそれに割けるだけの容量が残っていないからなのだろう? その三つ首。一つはお前自身の頭。そして、もう二つはISのコアを入れてある。――違うか?」

「Braaaavo。そのとおりだよ。よくぞ見ぬいた」

 

拍手とともに言う伊達男。

二人の使った銃弾は建物の中を蹂躙したが、彼には埃一つついていない。

さすがに人間業ではない。

 

「さて、そこで監視していろよケルベロス。私は彼に聞きたいことがあるのだ。ほんの少しでも怪しい動きをしたなら――撃て」

 

ケルベロスはこれにも沈黙で答える。

私は笑みで答える。

 

「聞きたいこととは何かな? 冥土の土産になら教えてやらんでもない」

「命乞いかね? それならもっと殊勝にやるものだ。――でないと、帰ることになってしまうよ。麗しの地獄の底へとね。それが嫌ならば、頭を垂れて靴をなめろ。敗者」

 

「違うね。少し君たちのことが哀れになったのさ。だから、せめて疑問くらいは解決してから死なせてあげようと思ってね」

「おめでたいね、奈落君。君の頭まですっかりめでたくなったんですかねぇ。少しは自覚し給えよ。少しでも動いたらその瞬間に殺される。そんな有様で一体どうしたらこの状況を打破できると言うのかね?」

 

「そうか。なら――動かないで状況をひっくり返せばいいのだろう。 【アンノウン(ゆらゆら)】」

 

停滞(ステイシス)の影にノイズが混ざる。

それは禍々しく、それでも慎ましく――偽物のようだった。

 

「何してる!? 撃て!」

 

伊達男が指示を下す。

弾かれたように反応したケルベロスが銃弾を叩き込む。

 

「くはっ」

 

笑う。

――いや、嘲笑う。

そのまま突っ込む。

動けなかったはずの体で。

残っていなかったはずのシールドエネルギーが弾を止める。

ケルベロスがその動きをわずかに止める。

すぐに再起動するが、しかし遅すぎる。

 

「喰らえ」

 

至近距離から両手のサブマシンガンを叩き込む。

片手のマシンガンの狙いを伊達男へ。

もう片方の手はさっさとマシンガンを捨てて大剣を展開し、ケルベロスに斬りつける。

 

「避けろ! ケルベロス」

 

伊達男が必死にサブマシンガンを防ぎながら叫ぶ。

あれは――トランプ? 

生身でトランプを武器にして、兵器とやり合うとは、ね。

だが、一対一ではISの敵ではない。

 

「......」

 

最適な動きで懐に入り込まれる。

そのまま切りつけようとしてくる。

機械のように正確な動き。

 

「【アンノウン(ゆらゆら)】」

 

笑みを浮かべてささやく。

これで、ケルベロスは元の位置へ。

懐に入り込まれ、相手が軌道からずれても――何ら一切構うことなく振った大剣が吸い込まれるようにケルベロスへ当たる。

 

トラックが壁にぶち当たったような音を立てて吹き飛んでいく。

 

「さて。問題解決編と行こうか。ずばり、君の単一機能は未来予測だ。――違うかな?」

 

確信を持って問う。

あの動きは熟練とかそういうレベルのものではなかった。

つまりは、そういうことだ。

 

「ほう。なぜそう思うのですかな?」

 

沈黙を破らないケルベロスに代わり伊達男が聞く。

 

「まず、前提として単一機能であろうが、未来予知は無理なことは述べておく。運命とは絡みあい、ねじり合うものだ。ならば、あそこまで私の動きを読めるのはコアで軌道予測をしていたからでしか在り得ない。予知でなければ予測――自明なことだ」

 

「そもそもだ。その余計についた二つの首が怪しい。そんなものを有効に活用する気配など――噛み付く気配など見せなかった。武器でないとしたら、その首は象徴だろう? “文字通り”頭として使っている。ISは見立てや言葉遊びですら、機能を拡張させる源とする」

 

「その首には、一つずつコアが埋まっているのだろう? 合計二つのコアだ。単純に考えれば、一つ分のコア容量が空く。処理をするのは一つのコアで十分だ。なぜなら、すでに一つだけのコアが何百というISを動かしている」

 

「その空いたコア容量を使って軌道予測をさせているのだ。元々コアは膨大なデータを処理できる。ISを操るにはその膨大な処理能力の殆どを持って行かれてしまうが、もう一つコアがあるとなれば、話は別」

 

「たとえ初めて見る相手でも、僅かな情報から予測は可能だ。ケルベロスとは発汗量に表情、筋肉の動きにISの機動状況、空間の歪みまで感知し総合し、完全無比の機動予測を作り上げる機能。それの前には誰であろうと動きは筒抜けだ。――相手がISに乗る人間であればね」

 

「いつ、どんな風に動くのかがわかれば……負けるわけがないのだ」

 

「だが、それを実現させるには操縦者の脳の容量は小さすぎる。予測した情報全てを操縦者の脳にぶち込めば、当然壊れる。人間の脳は本来一つのISに渡される程度の情報で一杯一杯。人間の頭は、それほど大容量には作られていない」

 

「だから、操縦者は話せない。その他にも削除した脳機能があるのだろう? 聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚はもちろん消化機能や思考機能ももはや彼女にはないはずだ。脳の容量を無理やり増やすために、本来なら不可欠なアプリをほとんど消し去ってしまった。そいつにどれだけのまともな人間的機能が残っている? ISの補助がなければ立つことすら出来ない――哀れな部品だ」

 

「さらには脳の処理スピードを上げるために薬物まで。そいつの寿命は残り何日だ? そこまで乱暴な起動ができるのも頷ける。――どうせ、死ぬのだからどんなに寿命を削ろうが構わないか」

 

 

 

「なるほど。そこまで把握されていたとは。しかし、ケルベロスもそろそろ回復しました。滑稽なしゃべりはそのくらいにしていただけませんか?」

「……ふむ。もう終わりか。いや、こういうのも結構楽しいものだ。では、終わらせよう」

 

「時間稼ぎとわかっていて乗ったのですか?」

「その通りだが、それがどうかしたか?」

 

驚愕の表情を浮かべる伊達男にニヤリと笑って答えてやる。

能力まで使わせてくれたのだから、これくらいは当然だ。

少し使い方がおかしい気もするが、恩返しというやつだ。

 

「くっ…… そんな余裕は虚仮威しにきまっている。行け! ケルベロス、最後の力を叩きつけろォ!」

 

ケルベロスが最高スピードで突進してくる。

装備しているのは杭打ち機。

攻撃力が桁違いに高い武器を選択したか。

いや、考えてみれば予測機能は杭打ち機を命中させるためのものと言ってもいいのかな。

 

だが、準備していたのは貴様だけではない。

 

規格外超弩級戦略兵装(オーバードウエポン)――【対警備組織規格外六連超振動突撃剣】(グラインドブレード)

 

おなじみの六連チェーンソー。

その馬鹿げた大きさの戦術兵器を振りかざし、こちらも突進。

 

ただ一つの杭と6つの斬撃鎖がぶつかる。

 

杭打ち機はズタズタに引き裂かれ、そして――

 

「この私をぉ。なぁぁぁぁめぇぇぇぇるぅぅぅぅぅなぁぁぁぁ!」

 

伊達男のトランプを挟んだ指はシールドを叩き割り、私の頭に迫る。

とどめを刺そうと油断した狩人=獲物に向かっての必殺の突き。

半分ほどのエネルギーを持っていったその攻撃は、しかし間一髪で当たらない。

どうにか、予測できていたからかわせたものの、無防備に獲物を殺そうとしていたらトランプは私の頭をかち割っていたことだろう。

 

「ヒィ!」

 

伊達男の顔が恐怖に染まる。

気づいたか?

チェーンソーの回転は未だ止まっていない。

そして、少し動かしてやるだけで――血の花が咲いた。

 

血に濡れたチェーンソーを再びケルベロスに叩きつける。

二度、三度。

中身ごと轢き潰した。

 

回収したISのコアをアーカードに転送し、学園へと戻る。

 

「しかし、我々が回収して、委員会が奪われて、テロリストが開発する。我々の影響力は上がっていくばかりだが、これは正のループと読んでいいものかね?」

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