「さて、諸君――ミレニアムからの声明だ。我々が戦う力を蓄えるまでに、2ヶ月待ってくれるそうだ。我々には特に特訓などしても意味が無い。まあ、箒あたりは話が違うし……鈴音とセシリアも似たようものかな? ただ、一夏……お前は特訓なんてしないほうがいい。あと二ヶ月――悔いのないように存分に遊べ」
そう言って、奈落は学園から姿を消した。
当然のようにシャルとラウラもまた、後を追った。
そして、残された一夏は――
「一夏、つきあいなさい」
「一夏さん、つきあってもらいますわ」
二人の女に付きまとわれていた。
「いや――昨日、散々ショッピングにつきあっただろ?」
うんざりとした様子で答える。
三日は連続で遊びまわってる。
それも、三人で。
そして、帰ったら帰ったで、他の女子が色々とうるさいのだ。
「だから今日はボウリングにでも行こうとしてるんじゃない」
「今日は海を見に行きましょう」
「いや、だからな――別に時間はあるんだし、少しくらいゆっくりしてても……」
「「それはない(ですわ)」」
「あ、そ――」
一夏は諦めた。
「さて、一夏。ボウリングに行きましょう――二人で」
「一夏さん。海を見に行きましょう――二人で」
「いで……いだだだだ。お前ら、腕を引っ張るな――」
「じゃあ、どっちを選ぶのよ?」
「あなたはどっちを選ぶんですの?」
二人はさらににらみ合いを始める。
「一夏はあたしと行くの。つきあいの長いあたしとね――」
「つきあいが長いだけのお子様は引っ込んでいてくださりません? 一夏さんは私と一緒にロマンチックな一日を過ごしますの」
「――は。ロマンチック? ぼさっと海を歩いてるのがロマンチックだなんて、ずいぶんと安っぽいのね。さすが、舌がイカれてることだけはある」
「――な!? 私の舌は正常です。それに、イギリスにもおいしい料理はたくさんありますわ」
「あんたの料理と違って?」
「うぐっ――ええ、しゃくですけど認めますわ。はっきり言って私は料理が得手ではありませんわ。けれど、そんなものはシェフに頼めばいいだけですもの」
「得手ではない? そんな程度じゃないと思うけどね――ま、それは置いといて。あたし達がぎゃーぎゃー言うのもあれだし、一夏に決めてもらいましょうか」
「ええ。いいですわ」
「いや……決めろって言うなら決めるけどさ。はじめにボウリング行って、次に海行けばいいんじゃないのか?」
二人はため息を同時につく。
「「はあ、あなたって人は――」
「優柔不断」
「女の敵」
「なんでそこまで言われなきゃならないんだ?」
「もういいですわ」
「今日もつきあってもらうわよ」
「好きにしてくれ」
「で、奈落。僕たちはどうするのかな? 一夏たちならきっと遊んでるよ。まだ学生だしね」
「だろうね。それは期待してない」
「軍人だろうが競技者だろうが鍛錬が足りん。ミレニアムに技術で勝つのは不可能だな――まったく情けないことだ」
「そんなものだよ。操縦者ってアイドルみたいなものだもんね。無理だよ、訓練なんてさせられない――肌が傷つくし、それでなくとも筋肉がつく」
「ミレニアムは真正の軍人の集まりだ、行き過ぎて狂ったがな。だから女どもに勝つことは期待していないよ」
「あはは。はっきり言うなんて奈落らしいよね」
「殺し合いに秀でていることが何の自慢になる? それよりも八百長試合を面白く見せるほうが幾分か役に立つというものだ」
「そう思うのは奈落が強いからでしょ? それに――殺されるのは、やっぱり弱い人間だよ」
「それはどうかな――?」
「奈落、しれはどういうことだ? 弱い人間が強い人間を殺せることなどありえない。弱い奴は奪われるだけだ」
「――ふふん、ラウラお前は誤解している。違うさ。そんなのはただの天災だ。力が弱い以前に運が悪かった――それだけのこと。殺されるのは弱いのではなく、運が悪いんだ」
「ふん、斬新だな。しかし、まあ――戦いなんて無縁で人生を終えられる人間も確かにいるな」
「大抵の場合、いや――精神というべきか? “普通”なら力などない方が幸せだ。確かに強いやつに陵辱されたら力も求めるだろう。だが、大抵はそんな機会こないし――強さを持つことで生じる弊害のほうがはるかに上でしかない」
「――で、何がいいたい?」
「弱いのは当然だということだ。だから、その上で何とかしなければならない。まともに戦えば世界はミレニアムに支配される――その認識が必要なのだ」
「それを認識してる人間がどれだけいるかな? 権力を持つ人間は特にそうだけど――自分に都合が悪い、人間はそれだけで大抵のことを否定してしまうよ。嫌なことを認めるのは、人間にとっては嫌なことらしいじゃないか――僕は嫌なことだらけで、目をそらしても嫌なことを直視するしかなかったからよくわからないんだけどね」
「ここにいる三人は人としてのあり方が歪んでいるのさ。私は神殺しの魔槍として生み出された、ラウラは兵器として生産された、シャルは仲間を得られず父にすら虐げられた。初めから歪んでいる私達は、普通には馴染めない」
「だから自分から貧乏くじを引くと? どこぞの英雄だな。それでどうなるというのか」
「私達は違うさ。そいつらはただ未来を見ずに、ただ目の前の人間を助けるために戦っている。未来のためなら人間を切り捨てる我々とは違うさ。そして、未来を見るがゆえに――我らは世界の敵となる」
「そして、それは時間の問題でしかない。極論するなら、私達が殺されたとしてもノアⅢは起動する」
「とはいえ、人類が死滅すれば意味が無いのは厳しいところだ。それに、私達が実現する世界に、他ならない当人が住めないというのも残念な話だな――おい、奈落」
「ま、そっちはそっちでやっていけばいいでしょ? ラウラ。でも、時間はあるしさ。というか、奈落は仕事なんて他人に任せちゃうでしょ。なんか他人に仕事を投げるのだけは異様に上手いし、それでいて自分が必要なときはさっさとやるし」
「そもそも副総帥の仕事などほとんどないさ。株主だって、金を出して勝手なことをしゃべくるだけでしかないのだから。自分は強権を振るって強引に場を整えているだけさ」
「時間があるなら、デートでもしようよ。ま、ミレニアムを潰して――世界を変えたらいくらでもできるけどね……そういうものでもないでしょ?」
「それも悪くない。ギガロマニアックスに鍛錬なぞ必要ないしな」
「まったくだ――恋人にサービスの一つでもしなければ嫌われてしまう」
「僕が奈落を嫌うなんてありえないよ」
「お前は私のものだ。力づくでも近くにおいてやる」