「おおおおおお!」
「ひゃはははは!」
裂帛の叫びと哄笑が響き渡る。
声の主はもちろん、一夏と鎌使いの女。
「だあ!」
「ひは!」
とても人が出せるような音ではない轟音が響き渡る。
もはやダンプが最高速で衝突し続けているような荒々しい音。
それを、強化されているとはいえただの剣と鎌で出している。
ISによる強化を考慮に入れても。なおありえない膂力。
そんなもので殴られたら吹き飛ぶ以前に跡形も残らず爆発四散してしまうだろう。
「学園に手を出させはしない……!」
「なら、このあたしを倒して見せな――正義の味方さん!」
そして、膂力だけではない。
速さも相当イカれている。
ハイパーセンサーによる感覚強化がなければ追うことすらできないだろう。
ただの数秒の間に何十、何百合と剣閃を合わせる。
「倒して見せるさ」
「やってみせな」
一見、戦闘は膠着状態。
互角のまま攻撃の回数だけを積み重ねている。
全ての攻撃は迎撃され、迎撃する。
お互いの体には届かない。
その間にもお互いの攻撃だけが続いている。
「――は!」
「……っな?」
積み重ねた攻撃。
それは無駄などではない。
相手本人にダメージを与えられずとも、武器には蓄積する。
それがとうとう砕け散った。
一夏の狙いは初めから武器破壊だったのだ。
ミレニアムは戦争狂なだけあって――強い。
だからこそ、搦め手で。
「俺には戦争が好きだなんて思想は理解できないし、したくもない。そんなに戦争が好きなら、勝手に死んでろ」
鎌を失った彼女に防御することなどできるはずがない。
一刀両断された。
「はぁ、はぁ…….っく――」
変幻自在な軌道を描く双頭。
2つの銃弾がそれこそうねり、時には直角に曲がり、さらには停止までする。
そんなバカげた攻撃にセシリアは晒されている。
「うく――、あうう……そこ!」
逃げ回ってかろうじてかわす。
そして、隙をついて銃弾を撃ち落とす。
かわしきれずについた傷も多い。
それでも、ほんの少しずつ進んでいた。
遠く離れた、敵がいるところまで。
「ふふ――なかなかに狩りがいのある獲物ですわ。さあ、じわりじわりと追い詰めて差し上げます」
変幻自在の2発の銃弾をセシリアはまがりなりにもかわせている。
しかし、3発目の銃弾がかわしきれない。
能力の限界なのか、3発目はそれこそ普通の銃弾のようにまっすぐにしか飛んでこない。
普通の弾丸と違うのは、射程距離といいうただ一点。
しかし処理しきれないのはセシリアも同じだった。
2発に対処するので精一杯で、3発目までは捉えきれない。
ギリギリで致命傷は避けているが、このままでは削りきられる。
「中々にキツい状況ですわね……! でも、このまま終わらせはしませんわよ」
それでもセシリアの眼には絶望はない。
信じている。
自らの正義を疑うこともなく。
別に正義が勝つだなんて思っちゃいない。
ただ、自らの誇りに従っている。
それだけだが、それがある限り退きはしない。
色濃いダメージの中で、つぶやく。
「さて、賭けてみましょうかね。ふふ、吉と出るか凶と出るか。私もずいぶんと奈落さんに影響されてしまったようで」
ぐらついた。
はたから見ればダメージでISの制御をミスったように見える。
ダメージから見て順当と言えばそうなのだろう。
そして当然、狩人はその隙を見逃さない。
油断してくれるほどやさしくもない。
魔弾は一直線に向かってくる……と見せかけて急旋回し、死角から。
――逃げられない。
爆発する。
狩人が笑みを浮かべる。
銃を受けた上にあの爆発――助かりはしまい。
銃弾そのものには爆薬など仕込んでないが、セシリアのは火力型ISなのだ。
ミサイルやら弾丸に誘爆したとておかしなことはない。
残心を解き、ふうっと息を吐いたとき何かが飛び出した。
セシリア。
見るからに不恰好で、使い切りの増設ブースターが火を噴いている。
「……馬鹿な。この魔弾の射手がこと狩りの領域で敗れるなんて――ありえない!」
「確かにあなたは強い。銃の腕前も、狩りの技量も私はあなたに敵わないですわ」
「ならば、なぜ!?」
「あなたは獲物を狩る漁師です。けど、私は漁師を狩る漁師。その差が明暗を分けたのです」
「そんなことで……」
「勝負は時の運。些細なことで殺されたり殺したりする――奈落さんが言っていたことですけどね」
「まだ――負けたわけじゃない」
「ええ――勝ったわけでもありません」
最後は銃の早打ち。
いや。
「貴様――なんだそれは!? そんなものを使うなど誇りはないのか」
「あいにくと、獲物についてはこだわらないほうでして」
セシリアが持つのはロケットを積み重ねた地区制圧兵器。
ロケット弾8基を上下に積み重ねて16基。
そして、上下左右で16*4で64基が悪夢じみた火力を実現する。
ずいぶんと原始的で粗雑ではあるが、分類としてはオーバードウエポンに入る。
もっとも、使うのにはISに接続する必要すらない。
一つの引き金を引けば連動して恐ろしいほどのロケット弾が吐き出される。
狂気の音を奏でる【|64連装ロケットランチャー≪虐殺者のオルガン≫】。
それは使用者の技量など関係ない。
64発のロケット弾が、狙った場所そのものを焼き尽くすから。
狙いなどつけずとも、一切合財を吹き飛ばす。
それは殺すものを選ばない。
圧倒的な火力が全てを薙ぎ払ってしまうから。
人ではなくて建物数棟を破壊してしまうような。
「それを向けるな……どう考えても――人相手に使うようなものじゃないでしょうが!」
「では、あなたは人ではないということで一つお願いいたします。では、さよならですわね」
すさまじい轟音と衝撃が魔弾の射手を跡形もなく焼いてしまった。
「この……イカれ女が!」
コートを着た男、伊達男が叫んだ。
目の前で自爆した鈴音を恐怖している。
彼女は追い詰められたからって、あっさりと自爆した。
意味が分からない。
そもそも、彼らは学園の生徒など遊んでいるだけで人を殺したことすらもない甘ちゃんだと思っていたのだ。
ここまでできるなど想像だにしていなかった。
だからこそのミス。
実は、あのままだったら鈴音を殺せていた。
お互いにISを着ているのだ。
そして爆心地に居るのでもなければ、あの程度の爆発なら耐えられた。
装甲が砕けたところで問題なかったのに。
きっちりと頭に向かってトランプを振り下ろしていたら頭をかち割れていたはずなのだ。
「死ィ……ねェェェェ!」
だからこそ激昂する。
伊達男は投擲を選択する。
接近しなかった、ということはそういうことなのかもしれない。
8枚のトランプは爆炎を切り裂き――それだけだった。
「なにィ?」
爆発に巻き込まれたのなら、宙に浮いているはず。
そして、それならトランプに当たっていなければおかしい。
「――おらあ!」
鈴音は……下。
地を這うように接近――そのまま押し倒した。
腕も足も使ってがっちりと伊達男の動きを封じ込める。
「――離せ、この小娘がァ!」
「あら、あんたみたいな気障なだけの男なんて女の子には相手してもらえないでしょ? あたしみたいな若い子がこうやって抱き付いてあげてるんだから、もう少し喜んだほうがいいんじゃないかしら」
「戯言を――ふざけるなァ!」
「ふざけているのはあんたらでしょうが。殺し合いたいっつーんなら、自分らでやってればいいじゃない。あんたらの都合をあたしたちの世界に持ち込むんじゃねーわよ」
「だが、この状況でどうする? 私も動けんが、貴様も動けんだろうが」
「ふふん――それを考えてないと思った? この「甲龍」は生憎と第3世代機なのよね」
第3世代機ならではの特殊武装。
鈴音が持つそれは見えない弾丸。
それは前方に浮かぶ浮遊ユニットから放たれる。
――龍砲。
「――やめ……」
「0距離射撃なんて経験したことないでしょう? 戦争狂、初めての経験は嬉しいものでしょ。あたしに感謝することね」
連続して放たれる弾丸は少しずつ伊達男を削り取っていく。
上半身が消失するまで叩き込んだ。