IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第73話 とある兵士の悲哀

「テロリスト風情が……貴様らさえいなければ、私は――っ! アメリカの自由と正義のもとに裁きを下してくれる」

 

とあるアメリカの兵士がくず鉄を睨みつけている。

そこから一つの影が飛び出した。

ISだ。

 

巨大武装要塞AFは衛星軌道上からの攻撃により沈黙した。

何が起こったのか全くわからなかったが、それは希テクノロジーがどうにかしたのだろう。

なぜなら、あの会社は――

 

「私は貴様ら以上の悪魔を知っている。だから、ただの戦争狂ごときに遅れを取るものかよ」

 

襲い来るのは、またもや黒椿。

劣化複製品を使い続けるとはこれまた。

だが、人を殺すには十分過ぎる。

ただの一体でも都市すら落とせる凶悪な兵器なのだ。

 

「だが――それがどうした。私はお前らと違って……そして同じだ。未来なんてないんだよ」

 

回想する。

どうせこちらから出向くことはできない。

どう考えても数はテロリストのほうが上だ――なら、自分は重要拠点を守る以外にない。

 

 

 

実を言うと、どこの国にもミレニアムと戦うだけの力はない。

アメリカは前回の戦争で疲弊した。

EUは主要国を守るので精一杯。

日本はそもそも戦力自体を持ってない。

 

なら、ミレニアムを叩き潰した吸血鬼は?

彼女の力がどれだけか、それはおそらくどこの国もわかっていない。

希テクノロジーならば知っているのかもしれない。

なにせ、彼女の力を公開したのは彼らだ。

けれど強行に聞き出すことは、これはできない。

 

AFに対する有効な攻撃手段S-11は彼らが販売していて、他に開発に成功したという話は聞かない。

同じだけの爆弾を作ろうにも、あれだけコンパクトにするなど不可能だし、たとえ威力が大きく上回っていようと自国で核なんぞをぶっ放す訳にはいかない。

だから今のところは彼らの天下だ。

アメリカだろうとEUだろうと尻尾を振らざるをえない。

そのおかげで好き放題できるというわけだ。

人権だろうと世論だろうと、彼らの行動を妨げることはできない。

 

そんな彼らは想像もつかないような次世代テクノロジーを活かした兵器を開発し、全世界に配ってている。

いや、全世界というよりは先進国か。

後進国では宝の持ち腐れだし、わざわざ教育してやる気もないようだ。

もっとも、1ヶ月程度では教育もなにもないだろうが。

 

ここで一つ言っておきたいのだが、希テクノロジーは別に正義の組織というわけではない。

いや、ミレニアムを倒すために利益度外視で世界中に協力してくれているのだから、そんな言い分はないかもしれない。

それに、マスコミなんかは正義の味方ともてはやしている。

 

けれど、どうしても自分には納得がいかない。

たしかに彼らは世界を守ろうとしている。

だが、彼らは手段など選んではいない。

ゆえに私は彼らを正義の味方だとは認めない。

 

もっとも、正義の味方云々はマスコミの話。

希テクノロジーを支配しているという神亡奈落とやらがどう思っているかは全く知らない。

社員だって、研究一筋の――言ってしまえばマッドサイエンティストと呼ぶのにふさわしい人間たちしかいない。

そう、人を実験動物としてしか見ていなかった。

自分を気にかけてくれる人間なんて、誰も……

 

きっと彼らですら必死なのだろう。

世界を支配する希テクノロジーですらミレニアムは難敵なのだ。

人の命を気にしてられないくらいには。

しかし、自分の命をぞんざいに扱われてはそれが仕方ないことであっても恨み言の10や20は言いたくなる。

 

もう、わかっただろうか?

私に供与されたものは強化薬だ。

投与されれば大きな力を得る。

これがあれば素人ですらモンテグロッソで優勝できるだろう。

 

しかし――代償は命。

使えば死ぬ。

……絶対に。

身体機能の増幅による損傷を、回復能力の暴走によって支える。

科学者はそう言っていた。

生き残る望みはないとも。

とんでもないことを考える。

身体が壊れるのなら、さらに壊して動けるようにすればいい。

そんなものはきっと…….戦争狂いですら想像もできない。

 

そもそも回復能力の暴走は例がないことはない。

――ガンだ。

あれはタガが外れた回復現象によって起こる病気なのだ。

しかし、それを人為的に引き起こしたら?

決まっている――全身に転移して手遅れになる。

 

それだけではない。

手遅れになっても、まだ次の段階がある。

機能を失った臓器を切り捨て、戦闘のみに特化させた存在とする。

二度と食べ物を口に入れることはないのに、胃が必要?

腸は?

肝臓は?

最終的にはISを動かす脳だけがあればいい。

他は朽ちようが、擦り切れようが何も支障はない。

 

ただのISに必要なパーツとなる。

それは人としての人生を終わらせることに他ならない。

最終的には脳だけが残るらしい。

その脳も、使い過ぎと薬物によって人間の脳とは思えない状態になるとも言っていた。

埋葬される棺桶の中は空っぽだろう、とも。

 

 

 

もちろん、自分を犠牲にするなんて冗談じゃなかった。

誰が故国を護るためだからといって、必ず死ぬ兵器にどこの誰が乗るというのだろう。

たとえ生存が絶望的にしたって、生きて帰れる可能性があるから軍人は戦場に赴くのだ。

その時、私は――そう、国際裁判所に訴えてやるとまで言った。

神に背く狂信者には付き合ってられない、とも。

 

けれど、考えは変えさせられた。

会う人会う人が私を責める。

死ぬことなんて考えたことすらないような人たちが、故国のために命を捨てられないのかと私をなじる。

毎日のように上司に説教されて、考えを改めたか聞かれる――眠る暇すらないほどに。

携帯を割っても、PCに大穴をあけても逃げられはしない。

 

だから諦めてしまった。

もう無理だった。

心は擦り切れて、未来なんて見えない。

 

そうだ。

つまるところ私は悪魔の契約に首を縦に振ってしまった。

 

 

 

「ミレニアム、貴様らが勝てるはずがない。戦争の中でしか生きられない? それは――ただそれだけだろう。狂気でぐつぐつと煮立った上澄みだ。そんな澄んでいるんだか、濁ってるんだかわからない中途半端では誰にも勝てんさ……!」

 

そろそろいいだろう。

あまり離れるなという話だが――

――脳がとろけた人間に上は何を期待している?

どうせ、すぐに言葉も忘れる。

 

「ぜあああああ!」

 

敵をぶっとばした。

……敵、だと思う。

味方と敵の区別がはっきりしないが――まあ、そこは上の手腕に期待させてもらう。

しかしとんでもない。

蹴りの一発でISごと人を血煙に変える。

こんなこと、スペックデータの最大出力を発揮できても不可能に決まっている。

あまり説明はなかったが、ISへのウイルスプログラムはきっちり効いているようだ。

ウイルスが破壊しているのは“私の”IS。

そもそもISの操縦者保護システムは強化薬の存在を許さない。

害のある薬や細菌は全てシャットアウトしてしまう。

だから壊した。

そんなものは要らない。

 

ついでにリミッターの解除も。

ISのリミッターは2段階ある。

いや、解除に二重の手間がかかるわけじゃない。

 

機体の損傷を防ぐための第1段階。

そして操縦者を保護するための第2段階で機能を制限している。

つまりは壊れないためにガチガチの制限がかかっているわけだ。

それを外してしまえばこうなる。

 

敵が使うのは第3世代相当。

対して私が使うのは第2世代の量産機だ。

機体の完成度なら向こうが一歩も二歩も先を行っている。

しかし、私は戦えている。

10対1だろうが、むしろ虐殺するように殺している。

 

しかし、敵の数は減らない。

なんでだろうと思うが、考えていても何時意識が切れるかわからない。

戦い始めてから5分弱。

もう手足の感覚がない。

痛覚なんて、それこそ生きるためのものだ。

だからこそ痛覚を持ったゾンビなぞ存在しない。

私の体はすでに不要なものを排除し始めていた。

 

「アアアアア!」

 

勝手に声が出る。

手が、足が一つの生き物のように敵に喰らいつく。

圧倒的な力で捻り潰す。

そして、その度に私は壊れていく。

壊れて、そして回復する。

心だけは何をしても元に戻らないけど。

大切なモノを護るため、何にも代えられない自分が崩れていく。

 

――あれ?

このテロリストの顔、最初に殺した奴と同じ顔をしてるような……

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