「――これは、どういう?」
「そんな……嘘ですわ」
「趣味の悪い冗談ね」
三者三様に呟く。
鎌使いの女、ゾーリン・ブリッツ中尉を倒した一夏。
魔弾の射手、リップヴァーン・ウィンクル中尉を倒したセシリア。
トランプ使い、トバルカイン・アルハンブラを倒した鈴音。
その顔に勝利の喜びは見えない。
そして――
「「「正義の味方っつーのは諦めないことが条件だそうだけど、果たしてあんたは絶望せずにいられるかな?」」」
「「「漁師を狩る漁師ですか。ならば、私は有象無象どころか森羅万象すべてを撃ちぬいてあげましょう」」」
「「「この私がビビった? ならばよろしい。次こそは恐れもなく、躊躇もなく、完全に殺し切ってやろう」」」
無数のゾーリン・ブリッツが、リップヴァーン・ウィンクルが、トバルカイン・アルハンブラが笑っている。
場所は変わり、宇宙基地へ。
奈落たちが険しい表情で言葉を交わしている。
「敵の能力が分かっただと?」
「そう言ったぞ、セレン」
「ふむ、つまりは無限の再生能力ってところか。なあ、奈落」
「いいや、それは違う。一夏たちの周りに出現した奴らを見ろ。オペレーター、そいつらはいったい何体いる?」
「――は。鎌使い、銃使い、トランプ使い、ともに20名が出現しました」
「そういうことだ。再生能力では自分のコピーなど生み出せはしない」
「ならば、増殖とでも?」
「いや、それよりも複製と呼ぶほうが正しい」
「――つまり、あの中に本物はいない?」
「いいや、そんな簡単に済むわけがない。敵は少佐だぞ? あの恐ろしい男が安易な結末など許すものかよ。偽物に紛れ込んだ本物を倒せば大団円――なんともあほらしい。あいつはきっちりとモノを考えている。そんな程度の屑など、掃いて捨てるほどいるさ。もちろん、あれは凡百の小悪党ではない……!」
「おいおい、じゃあ何だってんだよ」
「あれら全てが本物だ」
あっさりと言い放った。
恐ろしい真実。
全てが本物ならば、すべて倒さねば終われない。
それが、見る間に増えていくような馬鹿げた存在でも。
「――っ!?」
「……おいおい」
「まあ、本物と定義できる存在はある。そいつは私なら見分けがつくが、見分けても意味がない。わかりやすく言えばコピー&ペーストだ。そして、コピーした一つとオリジナルをリンクさせて記憶を補完しているようだな」
「……コピ……なに?」
「ベルナドット。PCの基礎だぞ、それは。そうだな――わからんやつなどいないと思っていたが、まあ例え話でもしてやろう。紙があるから、とりあえず1と書いておこう」
「それで、コピー……ようするに同じように、このシールにも1を書く」
「……おい、奈落――今どこから出した? つか、なぜそんなものを持っている? そして、私の説明に口をはさむな」
「気にするな――。で、ペースト……貼り付けだ。このシールを好きな位置に張り付ける。これで1が二つに増えた」
「まあ、なんとなくわかったような。けれど、それがどうしたんだよ? 二つ1を書けばいいだけの話だろ」
「大したことない――それは紙の上だからだろう? それを現実でやってるんだよ、少佐は」
「つまりはクリックするように簡単に、同じ人間を作り出している。それほどの脅威があるか? 英雄譚では出ないぞ。なんせ、倒しようがない。以前に登録しておいた人間しか複製できないとはいえ、な」
「そういうことだ。要はそれに尽きる。相手を倒しても無駄なのだ――第2、第3の敵が同時に表れてしまう――そう、今の彼らのように」
「だが、それだけでは説明がつかんな。少佐はなぜ初めからそうしなかった? 極論――1万だろうと、1億だろうと複製すれば決着はついていた。地球全体を覆い尽くせば、世代遅れの黒椿ですら世界を支配できるだろう」
「あいつにとって戦争はゲームだ。初めからそんなことをしてはゲームにならない。戦争ですらない虐殺だよ、それは。そういうことだろう――少佐」
奈落がそう言った瞬間、中央のモニタが切り替わる。
だれもそんな操作はしていないのに。
「その通りだよ、奈落。ずいぶんと久しいじゃないか。先日のお茶会以来だね?」
「そういうことになるね。会いたくなかったけれど」
「それは酷い言い草だな。毎日顔を突き合わせていた仲だろう――んん?」
「だからこそ、ということもある。お前が立っている場所は、もう私の居場所ではないよ」
「ゆえにこうして立ち向かう、と。よろしい。ならば、次の一手を見せてくれるかね? 我らが愛しき裏切り者にして、ナチスから世界を守る英雄殿」
「では、そうしようか。オペレーター、地区【 】を表示しろ」
「は? いや、そこは」
戸惑う。
そこは何の変哲もない場所だったからだ。
少なくとも、何も聞いていない。
心当たりがあるとすれば一つ。
ここに居るメンバーは奈落が選んだ――裏の最上位実行部隊と言ってもいい。
表の社長すら知らないようなことすらも教えられている。
それが知らないとなれば、答えは一つ。
真の総帥が居るという、副総帥である奈落とその恋人の二人しか知らない場所。
「――少佐、ここにノアⅢがある。攻めてくるといい」
その秘密の島こそは、以前奈落がそれさえあればいくらでも逆転が可能と豪語したノアⅢの居在地なのだった。
まあ、もっとも――逆転も何も人類それ自体が滅亡すれば、勝利に意味はないのだが。
「ほほう?」
「本当のことだぞ? ほれ、すぐに能力を解除してやる」
浮かび上がったのは、単なる島だ。
ごく普通の無人島――いや、屋敷が一つだけある。
そこに総帥の野呂瀬がいる。
その地下にはノアⅢが。
上っ面こそ偽装してあるが、島全体を改造した要塞だ。
「見えたか? なら、陣取り合戦でも始めようか。よそ見はするなよ」
「いいとも、ならば――ミレニアム全軍に告げる! 総力を持ってその島を消し飛ばせ」
局面は第3次へと移行する。
開幕は世界国家VSミレニアム。
二幕は一夏と愉快な仲間たちVSミレニアム。
そして、次に上がる幕は――
――奈落とその恋人たる化け物VSミレニアム。