IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第76話 終焉の喪失

「さて、戦争は次のステージへ移行だ――これまでの被害は?」

「はい、軍には多くの損害が出ておりますが、一般市民はアーカード様に喰われた方以外は問題ありません。ただ、避難中に二次被害が出ています」

 

宇宙にある秘密基地で淡々と感情を交えずに会話する。

奈落の言葉に応えているのはオペレーターの女性だ。

モニターに表示されるのは数字ばかりで実感がわきづらい。

 

「そこまではどうしようもできんよ。普段避難訓練を怠ってきたツケだ。まあ、いいさ――戦局は未だ我らの手の内だ。もっとも、それは少佐にとっても同様だが」

「……ここまでは予定調和、と?」

 

この事態は奈落にとっては予想の範疇。

もはや戦争は一般市民に知れ渡り、パニックや暴動が発生している。

目を覆いたくなるほどの惨状、怪我人は1億人を下らないだろう。

まあ、予想していたといっても、天下の希テクノロジーですら警告しかできない。

そしてパニックになった程度では人類は滅亡しない。

 

「そう、私には少佐がどうするか大体わかるし――逆に言えば少佐は私がどういう手を打つかわかっているのだよ」

 

少佐は全て計算に入れて戦争を起こした。

奈落の行動は少佐の手のひらの上――自覚した上でそう行動するしかない、いやらしい手管である。

まあ、もっともそれはこの段階ではお互いに致命的な事態は起こりえないという事実を表す。

 

「初めは世界を巻き込んでド派手に……巨大兵器AFでの世界同時侵攻だな。まあ、一瞬で叩き潰してやったわけだが。しかし、少佐も私がなんとかすることはわかりきっていたはずだ。あいつは叩き潰されるために、それだけの時間をよこしたのだからな。ま、あそこまであっさりと焼き払われるとは思っていなかったろうが――結果は変わらん」

 

ぎりぎりと笑いながら歯ぎしりする。

悪鬼のよう、としか言えない表情。

 

「そして戦局は二次へと移行する。ISでの侵攻――浸透作戦か? とにかく、バカでかい的を出すのはやめたわけだ。それに伴い複製能力の解禁。並びに、ウェアヴォルフ部隊での学園攻略。二次は我々の出る幕はない。これは各国家の軍隊と一夏たちにまかせるしかない。日本をアーカードに任せたり、てこ入れはずいぶんとやったがな。ま、精々祈ろう、それくらいの暇はある――今のうちは」

 

とても気に入らなそうにはぎしりを続ける。

自分を痛めつけるかのように――もっとも、あまりの力に砕けた歯はすぐに再生する。

ゆえ、血も出ない。

 

「これからが第3次。我々の急所を晒してやったわけだ――忙しくなるぞ、念仏なぞ唱える暇はない。ノアⅢを破壊されたら、私が存在する意味も、希テクノロジーの存在意義も失われる。前者はノアの敵を狩るために、後者はノアを作り上げるために作られたのだからな。ノアの存在あってこそ意味がある」

 

目に凶悪な光が宿る。

これからは人の命など気にもしない、という殺意。

 

「今までは世界VSミレニアムの戦い。そして今から突入するのは希テクノロジーVSミレニアム。さあ、存分に全てを出し切ろうではないか。ノアⅣはない――“次”を作るのは不可能だ。ならば、ここでどうにかする以外に道はない……!」

 

奈落は苦渋を隠せない。

不利なのはわかりきっている。

だからこそ、もっと不利にしてやったわけだ。

そうでもしないと勝利の可能性すら見えてこないから。

 

「奈落、ラウラ様とシャルロット様が島に到着したようです」

「そうか。後は任せる、ベルナドット、セレン」

 

「「――了解」」

 

誰に送られることもなく、奈落は転移した。

そんなわずかな時間の余裕すらもない。

 

そして、もはや秘密ではなくなった本拠地に降り立つ。

シャルとラウラはいきなり現れた奈落に驚きもせずに問いかける。

 

「さて、ここからが正念場か?」

「まあ――いわゆるピンチだよね。ふつうは考えないよね、相手が有利すぎるから逆に塩を送って事態を動かそうなんてさ」

 

シャルはニヤニヤと笑う。

世界を馬鹿にしきった笑い。

彼女にとっては奈落への愛こそすべて。

 

「このままだとどうしようもない。日本はアーカードがいるからまだ持っているが、アメリカにEUはもはや限界だ。虐殺行為を見逃して後退するしかない――壊滅状態だな。もうIS戦力は3割すら残っていないだろうよ」

 

ラウラは平坦な軍人の目を光らせる。

戦いの前に感情を殺す。

奈落のためだけの|最強の兵士≪ブリュンヒルデ≫。

 

「ふふん、お偉方は頭を抱えているかもな。いや、それすらもできずに責任を追及し合っていることだろう。なにせ、何かするための戦力がない。ここから挽回などできないから、怒鳴るくらいしかやることがない」

 

奈落が目を伏せる。

同情しているわけでも犠牲者に追悼しているわけでもない。

ただ不都合だと、その目は言っている。

 

「もっとも、それはこちらも同じようなものだけど。だって、ラウラの「【衛星軌道上地上掃討用反射レーザー塔(ネビーイーム)】はオーバーヒートして壊れちゃったんだよ? ま、未来を確定させてから使うことで、ほぼ必ず自爆する未完成兵器を使えるようにしてもね。まあアレだよ、0.1%の確率でも主人公なら成功させるっていうお約束をラウラの能力で実現させちゃった。それでも、無から有を作り出すことはできない。僕らでは地球上の大陸各所に散った敵を攻撃することはできない。できることはそう――目の前の敵を殺すことだけ」

 

シャルのニヤニヤ笑いは止まらない。

 

「そう、だから不利な状況を作った。目の前に敵を持ってくるために。ここには希テクノロジーの最大戦力がそろっている。行くぞ」

「ああ、私は誰にも負けはしない」

「うん、どこまでもあなたについていくよ」

 

この三人は自分が負けるとは思っていない。

自身がある、わけではない。

『勝ち目』がほとんどないことはわかっている。

負けたらどうしようもないから考えない。

一見ひどく合理的だが、人間の思考ではない。

それでいて、負けてもいい時は絶対に勝ちたいと思う時ですら負け方を吟味する。

その機械じみた合理性が敵の戦略を予測する。

 

「散開!」

 

奈落が叫んだ。

3人が三角形に展開などというありふれたことはしない。

シャルは真上。

奈落は能力でどこかに渡る。

ラウラは森に隠れた。

言われなくても奈落の指示通りに動く。

 

「まずは僕の力――【絶対言語(バベルズバインド)】を見てもらおうか」

 

大きく手を広げた。

目の前には――いや、四方にはAFとISの群れ。

こんな小さな島など完全包囲しても余りあるほどの数の暴力が出現している。

数にして総計1000。

 

シャルはさらに上昇して土地を守る結界の範囲から外れる。

そして同時に全方位をにらみつける。

 

対象(ターゲット)認識(ロックオン)攻撃を開始(ジェノサイド・スタート)武器選択(オプション・セレクト)選択終了(O.K.)――『殺戮演武≪ミーティア≫』」

 

四方に放たれたレーザーが半径数百mを飲み込みつつ前を薙ぎ払う。

相手の部隊は半壊と言ったところだ。

普通ならば後退せざるをえない損害。

それでも、ミレニアムは再生――いや複製してまた立ち向かう。

吸血鬼どころの厄介さではない。

なにせ、チリ一片残さず消滅させても次の瞬間には再生している。

 

「厄介だよね――もう一度消し飛ばそうか? 『|永久氷結≪エターナルフォースブリザード≫』」

 

真下以外の熱振動を打ち消して絶対零度を生み出しつつ広がるフィールド。

破壊する――そして再生が始める。

体力がなくなるまでの無限ループ。

いつか絶望が全てを覆うまで彼らは止まらない。

ミレニアムは殺し続ける。

 

 

 

「だが、君の力なら彼らの永遠を断ち切ることができる」

 

IS学園、現時点ではお偉方が避難している日本で最高のセキュリティを誇る場所に奈落は苦も無く侵入した。

言っていることが唐突すぎて意味不明だ。

いや、状況を考えれば理解はできる。

できるのだが、なぜそうしたのかは理解不能である。

 

「部屋に入るときにはノックをしろ、と言うのも野暮か」

 

織斑千冬はいきなり出現した奈落に驚きもせずに話を合わせる。

 

「それもそうだな、正面から尋ねたところで追い返されるのがオチだ。学園の厳戒態勢は洒落ではないのだから。しかし、それは君の側の都合だ。私はこちらの都合を通させてもらう。織斑千冬、君の力を借りる」

 

断言した。

要請とか協力願いとかそんなものではない――相手の一切を無視する強硬な光が目に宿っている。

ぎちぎちと殺気じみた視線が交錯する。

 

「――そんなことだろうと思っていたよ。そろそろお前が来る頃合いだともな。しかし、無理だよ。私はお前に力を貸すことは……いや、ミレニアムと戦うことはできないんだ」

 

 

「確かに貴様は守りの――いや、“お守り”の要だな。ここに居る“お偉方”はお前さえいれば自分は安全だと思っている。いや、そのくらいしか根拠がない。日本政府が自由に動かせるISはここに3体すべてそろっているが、何の役に立つ? 時間を稼いでも逃げる場所がない。論外だな」

 

「結局、奴らとしては最強にすがるしかないというのが結論だ。最強ならなんとかしてくれる――何をどう何とかしてくれるというのだろうな? だからこそ、お前が戦線に出てしまえば発狂する。しかし、それはたかが数十人が正気を失うというだけのこと。何億人もの人の命と比べてしまえば、どちらをとるかは明白だ」

 

奈落は矢継ぎ早に畳みかける。

 

「そうじゃない。そういうことじゃないんだよ、神亡奈落」

「では、生徒たちの話か? アレらは現実を理解していない。戦争という現実の一片すらも知ってはいない。ただ――なんとなく恐い、程度の意識しかない。むしろ、最終局面に来て安心しているのではないかな。この戦いで未来が決まるわけだが、彼らが見ているのは目の前の敵がどこかに――まあ、希テクノロジーの喉元であるわけだが、行ってしまったというだけだよ。それこそ心配することはない。事態を収拾さえすれば笑う話にすらなってしまう程度の認識の奴らなど放っておいてもそうそう壊れやしない」

 

「官僚どもも生徒も大事と言えば、大事に決まっている。だが、私とて束の奴と一緒に世界を己が望むものへと変えようとした反逆者だ。世界を見る目くらいは持っている。奴らの再生能力に対抗できるのは私だけなのもわかっている」

「厳密にいえば彼らの能力は複製だがね。しかし、君の死を与える能力ならば二度と復活できなくすることが可能なのは同じだ。今はラウラに少佐を探させている。少佐さえ殺せば、あとは私とラウラで一匹ずつ牢獄に閉じ込めて君が死を与えればいい。これでミレニアムを完全に殺し切ることができる。ピサ・ソールは放っておけ。太陽を壊すわけにはいかないし、操作するものが居なければあの物質複製装置もただの天体の一つと変わらん。地球の秩序、そして人間の社会は保たれる」

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