IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第7話 神亡VSオルコット

楽しい夜だった。

あの闘いはまさか一晩のものだとは思えないほど充実していた。

傷は負ったが、すでに直したので外見から気取られることはない。

まあ、元々織斑教諭以外には殺し合ってきたなどは想像の埒外だろう。

傷を負ったままでも、心配はされてもまさか人を殺してきたとは思えないはず。

 

さて、朝食の時間か。

直帰した後、そのまま授業に出る形になるか。

寝る時間がないが、問題はない。

あまりに長期間にわたってならともかく、1週間程度の不眠でどうにかなるほど私の体は弱くない。

食堂に向かう。

 

 

 

「おはよ~。らっくー」

「おはよう、本音」

 

この挨拶も習慣になってきた。

 

「よっす。奈落」

 

一夏も来た。

どうやら箒は一緒ではないようだ。

 

「おはよう。敗残者」

「ひでぇ……。俺けっこう頑張ったんだぜ?」

 

私はオルコット戦のことを忘れてはいない。

口を渋くする一夏を見て舌打ちする。

あれだけ無様な負け方を晒しておいて、頑張ったとはなんて言い様だ。

 

「それは、本気を出せば更に頑張れたということか?」

「ええっと…….それは――」

 

口ごもる、ね。

その程度の気概でオルコットに挑んだとは、まったくもって呆れ果てる。

 

「らっくー。怖いよ~。もっと笑顔で、ね?」

「……本音。別に私は怒っているわけではない。――呆れているだけで」

 

涙目の本音が訴えかけてくる。

小動物のようで可愛かったので頭をなでてやった。

まんざらでもなさそうに目を細める。

そうしてるとますます小動物のように愛らしかった。

 

「あ、そういや。聞きたいことがあったんだ」

「何だ?」

 

ぽん、と手を打つ一夏と、それを蔑む私。

一夏はとても言いづらそうにしている。

 

「零落白夜って、どう使えばいいんだ?」

「それをいきなり私に聞くか? まず、お前はどうすればいいと思った?」

 

他力本願な。

ゲームくらいしているだろう。

所詮、競技などテレビゲームレベルの戦術しか必要ない。

あれだけ距離が近い上に一対一だぞ。

障害物すらないのだから――。

 

「ええっと、俺が一晩考えて得た結論はな……こう――突撃して、ずばっと」

「よくぞ言った。と言うか、それしか方法がない」

 

さすがに、それは考えていたか。

いや、それしか考えられなかったら、戦い方を聞いたのか。

普通は近づこうとしているうちに銃で削り切られる。

――とはいえ、それ以外に戦術などない。

遠距離攻撃手段がないから、遠距離では攻撃できない。

当たり前のような話で、実際に当たり前のことだ。

 

「はえ?」

「もちろん、お前が織斑教諭なみの実力を持っていたら話は別なのだがな――」

 

あの人なら真空斬りを飛ばすくらいは出来そうだ。

もちろん、一夏には無理。

敵に寄って行って斬りかかる以外に選択肢はない。

 

「いや、そんなわけないって」

「だろう? 斬撃を飛ばすのは完全に不可能だ。だからといって、敵の攻撃を全てかわし切るのも現実的ではない。オルコットの射撃ならともかく」

 

基本的にISの攻撃は点ではなく面。

点の攻撃はかわしきれても、面の攻撃をかわせるほど競技場は広くはない。

だから、基本的にばら撒く形での攻撃が多い。

例えばマシンガンなど。

数撃ちゃ当たるのだ。

逆に狙いを定めても、そうそう当たりはしない。

 

「どういうことですの!」

 

どうやら、遠くから私の声を聞きつけてやってきたらしい。

まあ、朝食時なのだから、こういう偶然も有りか。

 

ふとオルコットの様子を見てみると、顔が上気していて中々に魅力的だ。

精神はガキだが、色気のある体だ。

まあ、振る舞いは完全に子供で――そのアンバランスさは大変そそるものがあるのだけど。

 

「オルコット。貴様の戦術評価を聞きたいのか? 悲惨な評価は本人の耳に入れないのが慈悲だと思うが――」

「なんでそんな回りくどい言い方をなさるのかわかりませんが、どうぞおっしゃってご覧なさいな」

 

自信たっぷりだな。

ゲームレベルの戦術すら欠陥しているくせに。

 

「なら言おう。お前はただのモルモットだ。試験機のデータ取りには調度よいかもしれんが、モンド・グロッソどころか凡百の個人競技でさえまともに戦えない――容姿の綺麗なマスコットだ」

「な!? 面と向かってそこまでの侮辱をされたのは初めてですわ。私のどこが悪いとおっしゃるの?」

 

オルコットは競技では使いものにならない。

これは一夏が証明した事実だ。

素人にあそこまでいいようにしてやられる時点で……。

 

「お前の射撃は正確すぎる。あんな射撃、相手が素人でなければ当るようなものではない。どれだけ素人を相手に練習してきた? 残念だが、玄人が相手では通じない。お前は競技場の広さがわかっているのか? 相手は遠距離にいるわけではないのだぞ。正確な射撃など無用だ。撃つ場所など、見切れないわけがない」

「うぐ……。一夏さんにブルー・ティアーズの機動を読まれた手前、反論できません」

 

精密射撃なんて不要どころか、回避する隙を敵にくれてやっているようなものだ。

あの距離なら、銃口の位置から射線を割り出すことは容易。

後は引き金を引く瞬間を待って、悠々と回避すればいい。

 

「さらには、接近戦ができない。モンド・グロッソを志すなら、素人の一夏程度は一分で仕留めてみせろ。――もちろん、接近戦で」

「私ならば接近戦などしなくても仕留めてみせます。そのための【ブルー・ティアーズ】なのですから」

 

接近戦が出来ない奴が、あの狭いフィールドでどう闘うつもりだった?

まあ、相手が射撃に恐れをなすような素人だったら動揺しているうちにエネルギーを削りきれるのだろうけど。

射撃が怖くて背を丸めるような素人など、候補生にすらそうはいないぞ?

 

「無理だな。何度も言うように、全開のISにとって競技場は狭すぎる。地に足を這わせて人間のように闘うのならともかく、縦横無尽な動きは制限される。ま、お前相手なら私でも10秒あれば倒せるな」

「随分と自信がおありなのですね。そこまで言って、実際には出来ませんでしたら恥ですわよ? 殿方なら、自分の言ったことを実証してくださいますわよね? この私と戦って、勝って見せなさい。それが出来ませんでしたら、貴方は口先だけの大間抜けということになりますけれど」

 

事実を指摘したら、怒り出したか。

――二流め。

怒りや屈辱――憎しみでさえ、楽しむものだ。

楽しまなくては、この世界に生まれてきた意味が無い。

一時の快楽の前には、命なんてどうでもいいものさ。

 

「私と闘うつもりか? まあ、構わない。いい機会だ。君もIS学園に入ったことを機に、少しは戦い方を学んだらどうだ?」

「言ってくれますわね。では、放課後に決闘ですわ!」

 

ぎしぎしと空気がきしむ。

交錯する視線。

渦巻く鬼気。

 

決闘(お遊び)ね――。まあ、楽しめはしないかな」

 

決闘(殺し合い)ではないのだから。と口の中でつぶやく。

あまり人前で規格外超弩級戦略兵装(オーバードウエポン)を晒すのは、はばかられる。

あれは違法ぎりぎりの密造品だから。

 

「どうしましたの? 怖気づきましたか」

「まさか。人死もでないような競技ごときに何を怖じけづくことがあると? では、教育してやるよ素人。ISの力と言うものを」

 

「っふ。それはこちらのセリフですわ。私と【ブルー・ティアーズ】の実力――、しっかりと体に刻み込んであげますわ」

「調子に乗りやすくて結構。では、放課後に――」

 

「「決闘を」」

 

「では、ごきげんよう」

「さよなら」

 

オルコットは去っていく。

と思いきや、食券を買っておばちゃんの方に持っていく。

 

「凄いことになったな。そう言えば俺、奈落の実力は見せてもらってないんだった。あの千冬姉が遠慮するくらいなんだからすごい実力を持ってたりするのか?」

「それは純粋に政治的な意味合いだよ」

 

しかしな、当事者より興奮してどうする?

私の方は冷めてしまったというのに。

 

「……?」

「私は得体の知れない企業のお偉いさん、と言うだけだ」

 

希テクノロジーは企業の中でも1、2を争う――いや、完全にトップを突っ走る影響力を多方面に持っている。

それは、そこに所属するISの異常さゆえ。

不気味すぎて近寄れない――そんな責任放棄とも取れるような理由で手出しができない。

 

「わー。かっこういい~」

「ならば、オルコットとの対戦でもっと格好いいところを見せようか」

 

はしゃぐ本音。

こんな本音を見られたのだから、オルコットとの決闘も悪くはない。

 

「すご~い」

「なんなら。KO宣言でもしようか?」

 

こんなに喜んでくれるんだ。

少しはサービスくらいしてやろう。

 

「本当? やって、やって~」

「10秒、それだけあれば十分だ」

 

 

 

そして、放課後。

 

「ふふっ。来てもらえて嬉しいですわ。観客もたくさんいらっしゃるようで。多くの方々の前で敗北してもらいますわ――神亡奈落!」

 

すでに【ブルー・ティアーズ】を展開した状態で空に仁王立ちするオルコット。

その姿には根拠の無い自信に満ち溢れている。

けれど、蒼と金のコントラストは見とれそうになるほど美しい。

 

「ならば、私も言わせてもらおう。十秒で片を付ける」

 

ならば、私も答えてやろう。

すでにISは装着している。

 

「いざ――

 

オルコットは眼下の私を見下ろす

 

「尋常に――

 

私はオルコットを見上げる。

 

  ――勝負!」」

 

重なった声が響く。

 

――ピー――

 

開始のゴングが鳴らされた。

瞬間、オルコットはビットを展開、更にライフルを敵に向ける。

……射撃武器の呼び出しの速さは中々のもの。

 

対して、私の方は……愚直に突っ込む。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)、簡単に言えばエネルギーを放出して自分を前にかっ飛ばす技。

その軌道は直線的で――高速。

 

ゴングを聞いた、その瞬間に両者が動いている。

 

「甘いですわ――」

 

オルコットは突っ込んでくる奈落に対し、冷静に引き金を引く。

その顔は笑みが浮かんでおり、「勝負を急いでイノシシのように突っ込むなんて馬鹿なお方――」と、顔は言っている。

相手はこの射撃で体勢を崩す。その隙にビットで囲み、連射で削り切る。と、何度もシミュレーションした結果を頭に思い浮かべる。

今回も以前と同じようにやればいいと思っていた。

次の瞬間までは。

 

「……は?」

 

奈落は、ライフルによって体勢を崩されてもなお突進してくる。

その勢いは――止めようがない。

 

「うう――」

 

呆然と奈落を見つめる。

――今までこんな無茶をしたお方はいませんでしたわ!

凍りついたように体は動かない。

 

「……なら――!」

 

だから、引き金を引く。

射撃はあたっているのに、止まらない。

 

 

奈落は笑みをこぼしたまま「くは」と言う声を漏らす。

笑ったのか、興奮しているのか――それは自分ですらわからない。

突っ込む勢いでそのままオルコットの懐に入り、大剣を実体化。

竜巻のようにものすごい勢いで振り回し、思い切り大剣を“叩きつける”。

 

トラックが正面衝突したかのような凄まじく――重々しい衝突音。

 

オルコットは無様に吹き飛ばされる。

絶対防御とて万能ではない。

殴られれば吹き飛ばされもする。

 

「きゃああああああ!」

 

悲鳴をあげるオルコット。

だが、奈落は容赦しない。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用した――まさに大剣を”叩きつける”というのに相応しい攻撃をぶちかます。

二撃目は大剣をハンマーのように叩き落とした。

 

「ひ!」

 

地面に叩きつけられたオルコットは嗚咽を漏らす。

そこに降下――いや落下する奈落。

 

「いやぁ!」

 

ISが空から自分を襲おうとしている。

そんな光景を前に、悲鳴を上げ自らを抱きしめて恐怖する。

そして、それはすぐに終わりを迎えた。

 

手加減や遠慮の一切ない――まるで相手がただの”物”であるかのような一撃によって。

奈落に悲鳴を上げてうずくまる女の子に手加減するなどという常識はないらしい。

 

 

 

控室に降りると、箒が走ってきた。

 

「神亡! なんだ、あの試合は!?」

「箒か。私としては一夏に少し手本を見せてやっただけのつもりなのだが――」

 

「ふざけるな! あんなものは”強さ”なんかじゃない。本物の強さは――」

「強さ? それは暴力のことでしかない。見栄えが良いか――そう、“正義”といったものは別の問題だ。もっとも、力あるものは弱者を守るべきなどと言うのは弱者ばかりに思えるがね」

 

「貴様……神亡――

 

「おーい、箒! どうしたんどよ、すっ飛んでいっちまって」

「一夏か。――いや、私の戦い方に不満があるらしくてな。別に何の意味もない意思表明だよ。私は私の意思を曲げないし、それは箒とて同様に決まっている」

 

「そうか? まあ、いいや。やっぱり奈落は凄いな。あんな加速、俺なら出来るかすら怪しいぜ。あんな加速が出来れば、剣一本でも戦えるかも」

「なら、教えてやろうか?」

 

「マジ? やった!」

「お前にはISにおいて最も重要な事を体に叩きこんでやる。安心しろ、お前は適正が高いよ。私の目は委員会が制作した適当な適性検査よりはよほど自信があるぞ」

 

そう言って、出て行く。

こっそり出て来たので、他はまだ控室の中だ。

なぜなら――

 

 

「神亡、あまりオルコットをいじめてやるな」

「織斑教諭。何か問題でも?」

 

――彼女も生徒たちがいては話しづらいだろうから。

 

「フォローするのは教師の役目だ。だが、そのような助けが必要となるような事態そのものを少なくすることも教師の務めだ。あまり派手なことをするな。やめろとは言わん。しかし、控えろ。あまりにも悪影響を与えすぎるんだ、お前という存在は――」

「それは命令かな?」

 

「教育だ」

「――なるほど。よからぬことは控えましょう。けれど、良いのですか?」

 

「何がだ?」

「一夏のそばに居る戦力があんなので。私のことは当然、味方に数えてはいないでしょう。それとも、元々戦力なんてたったの一人で十二分でしたか?」

 

「……お前の言っている意味がわからないな。学園内で何かがあれば教師の先生方がISをもってこれを鎮圧する」

「なるほど。そういう建前ですか。では、一つ忠告です。じきに亡霊は動き出しますよ」

 

「……何のことだかはわからんが、せっかくの忠告だ。受け取っておこう」

「そうした方がいいと思いますよ、お互いに。平和が一番ですから」

 

「――よく言う」

「そうですか? では、失礼します。織斑“先生”」

 

こともなげに去っていく奈落の後ろ姿を見ながらつぶやく。

 

「平和だと? 貴様らがいつそんなものを目指した……? それは、私達が……!」

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