IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第78話 新たなる希望

「馬鹿な……っ! 太陽を破壊するだとぉ――貴様何を考えている!?」

 

奈落から聞かされた滅茶苦茶な作戦。

それしかないのだから前提そのものを覆す。

敵を倒せないのは地球を守るため。

彼らの復元能力の元である太陽を破壊すれば1年と持たずに人類は完全に死滅するから。

それを覆す。

――太陽を壊す。

そんな作戦を聞かされたら――絶望する以外にできることがあるか!?

 

「少佐が支配する戦争の世界よりもマシだ」

 

対して奈落は淡々と言う。

これは比較の問題なのだと。

どちらも嫌だなどと言って選べもしないよりは、最悪の一歩手前の策を。

むろんこの終わり方は彼が想定した形であるはずがない。

一人でも多くの人が生き残ればいいと願う彼がそれを望むはずもない。

しかし、それしかないなら“やる”だけだ。

 

「なにがマシなものか! 太陽がなくなれば地球は寒冷化して死の星となるぞ。この緑の星を、氷に覆われた白銀の星にするなどと」

「しかし、氷の中には楽園が残る」

 

「楽園?」

「それとも|ゆりかご≪クレイドル≫と呼ぶべきかな。氷に侵されぬ棺を作り、人類は夢の中で永遠の繁栄を誇る」

 

「確かにギガロマニアックスの妄想シンクロなら全人類の夢をつなげることもできるだろうな。そもそもノアという機械はギガロマニアックスの効果を拡大、維持するだけの代物だからできないことはない。クレイドルはそれこそお前らが妄想現実化で作ればいい――3人分の寿命があれば1万人規模の冬眠施設を作ることはたやすい」

「馬鹿を言うな。我々は束と違い、創造能力の乱用なんてしていない。少なくともその2倍は行けるはずだ。十倍は欲しいがな。おそらく、その程度は生き残っているはずだ――“選別”などしたくもない」

 

「そういう問題か……? まあ、貴様らが寿命を使い果たすのは勝手だ。しかし――“夢”?凍った世界の中でお前らが作った夢を延々と見せられるのは御免こうむる」

「心配せずとも、その前に君はどこかの誰かに殺されるだろうさ。世界を救えなかった英雄の末路などそんなものでしかない。世界が良いものだとでも思うのか? 人類にわずかな懐の大きさもあるとでも?」

 

「――は。面白い冗談だな。こんなものは、貴様らはもちろん私たちが望んだものではないよ。世界は優しくない。いや、そう変えることはできなかった」

「くく。お前らは目論見が甘すぎたんだよ。女性もしょせんは人間に過ぎない。男を蹴落としたからって、世界は良くなりはしない――どころか、政権交代の混乱の隙に乗じて我々や少佐が増長する始末」

 

「だからと言って、そんな夢に逃げるようなことは許さん。現実から逃げて、幻の中で繁栄することに何の意味がある?」

「それがどうした? 現実も夢想も、そこに己がいると自覚できるなら違いはない。どこの誰が、この世界は夢幻ではないと断言できるのか。いささか変わりすぎた感はあるが、これなら初志は貫徹できる。他が伴わないのは残念極まりないが、仕方ない。全ては理想の世界実現のため」

 

「それですべてが許されると思うのか!?」

「鈍ったな、千冬。以前のお前は触れれば切れる刀のようだった。それが今やこの有様か。私は現在の世界を壊す。誰の許しを得ることもしない」

 

「それは独善だよ」

「だからこそ世界を変えることができるのさ」

 

「「――っ!?」」

 

はじかれたように明後日の方向に振り向く。

そこは、一夏が戦っている場所。

第六感で感じたものがある。

 

息を呑み、呆然とする。

決定的な事態が起こってしまった。

 

 

 

時は少しさかのぼる。

 

「おおおおお!」

「があっ!?」

 

一夏の零落白夜がゾーリンを一刀両断にする。

そして、返す刀でもう一人のゾーリンの胴体を泣き別れにする。

 

「わあっ!」

「……..」

 

セシリアはでたらめに撃ちまくる。

密集したリップヴァーンの何人かに当たる。

 

「か……あぐ――」

「ひィィィィィハァァァァァァァァ!」

 

指一本動かせない鈴音にトランプが降り注ぐ。

そして、何の変哲もない紙は炎をまき散らして爆発する。

 

 

 

「「「死ね、虫けら」」」

「「「狩られろ、獲物」」」

「「「くたばれ、雑魚」」」

 

ピサ・ソールの物質複製能力は同一人物を多数出現させることすら可能。

ゆえに、彼らはやっと敵の幹部を倒したと思っていたら、一瞬後には囲まれていたという事態に陥った。

その信じられない光景を前に――

 

一夏は最後まで抵抗を諦めず。

セシリアは一発でも多く銃弾をぶち込んでやろうと引き金を引き。

動けない鈴音はせめて悲鳴をもらさないことを決めた。

 

そして、目覚めた。

 

虚数干渉型具現妄想器(ディソード)――|勇者の理≪アカシックレコード≫」

 

一夏の真なる力。

その“世界を好きなようにできる”その力が。

 

「お前らは間違ってる。だから――消えろ」

 

“消えた”。

一夏を囲んでいたゾーリンたちが。

それだけではない。

リップヴァーンもトバルカインも、あれだけいたのに影すら残っていない。

跡形もなく消え去った。

高熱による焼却や、絶対零度による崩壊でもない。

ただ無くなった。

一切合財が、力が発動した後には残っていない。

異様、と言う他ない。

攻撃があって、初めて破壊が生まれる。

破壊が拡大し崩壊せしめることもあるかもしれない。

しかし、ただ消え去るのみという結果が過程をすっ飛ばして押し付けられるなど。

 

「これが――俺の力か」

 

そう呟いた彼の声は酷くかれていた。

 

 

 

「奈落…...!」

 

苦々しい顔で言う。

こちらはひどく現実的な苦悩。

世界の行く末を危惧する為政者の顔ではなく、ただ一人の家族を心配する姉の表情だった。

 

「ほう。これはこれは、とんだ道化だったというわけか――君も私も」

 

こちらは左右対称と言っていいのか。

ひどく嬉しそうで、悲しそう。

言葉は諧謔。

目的さえ良い形で果たされるならば道化を演じても構わない、ゆえに嗤う。

けれど友を心配しないかは別の話、ゆえの苦渋。

 

「一夏がやってくれたのか。ふん、いつまで経ってもガキだと思っていたが……ガキのままでここまでやってくれたか」

「そうだな、やってくれた。これで私の悲壮な覚悟も意味はなくなった。ここまであっさりと幕が引かれるとやるせなくなってくる。そもそもここまで必死に駆けずり回って戦争に備えたことが無駄だったようにすら思えてくる」

 

「は。確かに――機械仕掛けの神様もいいところだ。こんなんが終わりでは不服か?」

「いや、私が想定していたよりも被害はずっと少ない。これ以上ないと言ってもいいだろうよ――神様が後で皆生き返してくれましたとかだと、なおいい」

 

「皮肉か? まあ、収拾つかなくなった状況を奇跡なんかで覆されちゃ、お前にとって面白いはずもない。理屈では喜ぶべきでも、感情では納得してない顔をしているぞ」

「――ち。いつも皮肉げで感情を悟られないキャラのはずだったのだが」

 

「キャラは作っていたのか。ま、いい……あいつをねぎらってやろう」

「そうだな。自分を犠牲にした“らしい”正義の味方を誉めてやろう」

 

千冬と奈落は並んで歩き出す。

――終戦だ。

 

 

 

「いち……か……?」

「なんてこと――」

 

いつの間にか動けるまでに回復していた鈴音とセシリアが一夏に合流する。

とはいえ、なんで動けているかわからないほどぼこぼこになっている。

もちろんISは完全に沈黙している。

ここまで来ると治すより作り直したほうが安上がりなのは疑いようもなく、そもそも直せるかすら疑問である。

そして、悼ましい愛しの彼を見て愕然とする。

 

「どうした? 幽霊でも見たような顔をして――俺はちゃんと生きてるぞ」

 

彼はそのか細い体で元気さをアピールする。

出撃前とは別人と見間違うほどである。

苦労しなければ共通点を見いだせないほどに。

腕は簡単に折れそうだが、折れた様子はない。

 

「生きてるわよ。あんたは生きてる。でもね――」

「あなたの、その老いた体はいったい何なのですか?」

 

涙を溜めて悲痛な声を出す。

想い人のあまりに悲惨な姿に、自身が八つ裂きにされるよりも深いショックを受けている。

 

「――へ?」

 

ここで一夏は自らの腕を見る。

皮膚のみずみずしさは失われ、かさかさしてひびが走っている。

そして筋肉は委縮して皮と骨がくっついている。

まぎれもない老人の腕だった。

 

「あれ?」

 

その鳥のような手で顔を触る。

ぼろぼろと何かが崩れ落ちた。

 

「それは私から説明しよう」

 

奈落が現れた。

いつもながらに唐突な男だ。

 

「ギガロマニアックスの妄想具現化の代償は寿命。対して、他の力は多少精神力を消耗するだけ――基本的にはね。だが、使おうとした力が精神力を超えていた場合はどうなると思う? これが他の異能であったら発動しない」

 

「しかし、このギガロマニアックスは別。力を少しでも使いすぎれば、即座に妄想具現化が発動してしまう。つまりは、精神力が限界を超えたら自動的に寿命を使って力が行使される」

 

「お前が先ほど使った力がまさにそれだ。ミレニアムの連中を消し、ピサ・ソールをごく普通の太陽に戻す。むしろ、よく寿命が足らないという事態に陥らなかった。老化は代償というわけだ――お前は強すぎる力を使ってしまった」

 

「減った寿命はどうにもならない。後で外見をごまかす術を教えてやる。今は休め――私はシャルとラウラを回収してから休む」

 

――消えた。

相も変わらず唐突な男。

というよりは、さすがの彼も限界だったのだろう。

 

「一夏、鈴音、セシリア。残念なことになったが、あとは私に任せてゆっくりと静養するといい。何もできなかった私だが、せめて大人として頭を整理する時間くらいは稼いでやる」

 

千冬が声をかける。

けれど、雰囲気は暗いままだ。

三人は一言も発することなく寮に戻っていく。




題名にある第3次世界大戦はこれにて終了です。
しかし波乱はまだ続きます。
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