IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第81話 国家解体戦争

「よく眠れたか?」

 

奈落が勝手に一夏の部屋を蹴り開けた。

もちろん許可を取るどころか、ノックすらしていない。

寝ていた一夏はすわ敵襲かと飛び起きる。

 

「……お前、断りもなく部屋に入るなよな。これで相手が女だったら犯罪だろ」

「いや、男でも重犯罪だな。IS保持者の自覚くらい持ったらどうだ?」

 

なにやら発言がおかしい。

まあ、奈落がおかしいのはいつものこと。

一夏はふてくされた面で起き上がる。

 

「……」

「お前も聞いておいた方がいい。生徒会室に集まれ」

 

不機嫌な顔を隠さない。

聖人レベルで人の良い彼と言っても問答無用で寝込みを襲われて起こされたらそうなる。

だからじとー、と恨みがましい視線を向けることもいたしかたないことであろう。

とはいえ奈落も必要もなしに友人に嫌がらせを行うような人物ではない。

緊急でもなければやらない――ということは緊急ならやるのだが。

 

「なに言って……」

「いや、私もよく知らんのだよ――寝てたから」

 

はぁ? と口を開ける一夏に首をひねる奈落。

ここに事情の分かる人間はいない。

二人とも寝てたのだ。

奈落のほうが3分ほど早く起きただけなのだから仕方ない。

 

「他の皆は?」

「盾無以外は集まった。それとシャルとラウラは寝ている」

 

ゆえに彼女らを集めたのは奈落の手腕ではない。

奈落は一夏を起こしただけだ。

他のことはすべて――奈落が寝ているときの世界情勢の監視も含めてオペレーターたちが担当していた。

学園に諸々の手配をしたのも彼女たちである。

そして、そんな彼女らであるからこそ手落ちはあり得ない。

更識楯無が会議に来ないのは寝坊どころかスケジュールの都合なんかではありえない。

 

「そんなに忙しいのか?」

「いいや。彼女は全ての業務から解放された」

 

珍しく迂遠な言い方――と言うわけではないのだろう。

奈落は愚直で一直線な男である。

もし回りくどいと思われる言い方をしたのなら、それは感性が違うのだ。

そう、直接的……忙しいかと聞かれたから仕事の多寡を答えただけ。

 

「ええ――と」

「わからないか? つまりは死んだ。詳しい状況は生徒会室で聞け」

 

死。

それはあまりにも重いゆえに、単純明快ながらも一夏の思考を止める。

彼女とは二度と会えない。

声を聴くこともなければ顔を見ることもできない。

ただ思い出が残るのみ。

そんな重大な事態が自分の手の届かないところで、起こって――終わった。

悔しさともつかないやるせなさ。自らがよって立つ場所が崩壊したような不快感。目の前の風景が崩れて悪夢が出てくる怪奇。

歯ぎしりをしたのは、さて……一夏か奈落か。

 

「そんな」

 

そして、重大な事態だからこそつぶやかれる言葉はありきたりなものとなった。

 

 

 

「一夏様、奈落様で最後でございます。準備は整いましたので、すぐにでも説明させてもらってよろしいでしょうか?」

 

そこにいたのはいつかのオペレーターの女性。そして、楯無以外のメンバーがそろっている。

彼女は奈落が呼び寄せた。

彼は自分が寝ている間はオービットベースのメンツに自らの権限を預けていたから。

生徒会室の使用許可は千冬から取っている。

 

「待て、セレスとベルナドットはどうしている?」

「壊滅した本社の救助作業の指示を出しております」

 

希テクノロジーは世界で類を見ないと言っていいほどの規模と影響力を誇る会社だった。

しかし、ミレニアムとの戦争で矢面に立ったことで疲弊した。

そもそも軍事を強化するために相当な無茶をして恨みも買った。

 

よって、各国は第3次世界大戦の楯にした後はお払い箱。誰でもそうする。いくら守ってもらったとはいえ、恩を返して何になる?

今度こそ奴らに支配されるかもしれない。

そんなことになるくらいなら全力で潰してしまえ。

 

あることないことの責任を追及して、お偉方は自分の責任を逃れる腹積もりで実際にそうしている。

被害が出たのだから責任は取らなくてはならない。

最善を尽くしたからと言って、それで許されはしないのだ。特に日本は。

こういう場合は下の人間が悪いくじを引かされるものだが、この場合は他に適任がいる。

返しきれないほどの恩がある――敵が。

 

もっとも、それが成功した主な要因は重役クラスがすでに姿をくらませていているからにすぎないのだが。

平社員については退職金と称して多額の金が支払われており、出社義務もない。ただし退職の手続きは未だにほとんど手が付けられていない。

そういうわけで希テクノロジーは特定の部署を除いて超巨大なゴーストカンパニーと化していた。

相手がいないと人は好き放題に言えるものである。

 

それはもう自分の無能が起こした損害から過去の汚職まで、押し付けられるものはすべて押し付けようという勢いである。

そして、連日テレビでは検証と言いながら大学教授が日によっては異なる――前後の日付の番組を確認すると明らかに矛盾している証言を繰り返している。

そのおかげで希テクノロジー追放のデモが世界各地で起こっている。

 

「――なるほど。では、よろしく頼む」

 

奈落はそうした後始末はすべて他の人間に任せている。

もはや希テクノロジーは過去である。

用事は済んだから、残りは利用した義理が残る。

そしてそれを清算するには、そういうことが得意な人間に任せてしまえばいい。

……金は出している。

自分以外にできない仕事は終わらせてあるし、なにより休憩が欲しかった。

 

精神力の面でかなりの消耗をした。

消耗なんてものじゃない。

未だにほとんど回復なんてしていない。

精神力は一晩ぐっすり眠れば回復するというものではない。常識的な範囲の消耗でさえ一週間は欲しいくらいなのだから、これほど疲弊すればいつ回復し始めるかすらわからない。

異能を使うのなら寿命を削るのを覚悟しなくてはならないだろう。

体についても常人なら壊れていなくてはおかしいレベルで、さすがに奈落としても激しい運動はやりたくない。

そんな状況では動こうとは思えない。よって影のボスは学園に引きこもっている。

その状況を利用された、とは言わない。

彼は自分が選んだメンバーを信じている。

つまりは、彼ですら対処しきれない問題が起こったということに他ならない。

 

 

 

「では、説明を。ミレニアムが潰え、希テクノロジーが潰えた。そして国家に残された戦力は民を制圧できるだけのものですらない。この状況で何が起きたのか。当然、暴動ではないのだろう?」

 

「民衆が反逆を起こす可能性は十分あるとも。実際にEUや中国は地獄の有様であろうな。人種問題に宗教、火薬庫に未だ点火がなされていないと思うほど私の頭はめでたくできていない。――これらではない。これらは予想済みで介入は不幸を生み出すのみだ」

 

「なら、他のもの。とはいえ、予想がつかないな。まさか、ミレニアムが生き返ったわけでもあるまい。それとも、アメリカが第二のミレニアムとなったか? 核の火で世界を支配しようと――そこまで愚かだとは思っていなかったが。なにせ結末は共倒れと決まっている。核を持っているのはあの国ただ一つではない」

 

妙に説明くさいセリフで先を促した。

奈落も寝すぎて頭が混乱していて、整理したかったのかもしれない。

 

 

 

「……は。まず、事が起きたのは今日の午前2時でございます。死亡したと思われていた篠ノ之束とその一派が政府の要人を襲撃、これを殺害しました。また、襲撃は希テクノロジーにも行われ、上層部は大気圏外のオービットベースに居る奈落様直属の実行部隊を残して一人残らず虐殺されました。誰一人として居場所を掴ませるようなミスはしていなかったはずです。迅速な襲撃と言い、恐るべきは奴らの情報網ですね」

 

「これにより、国家の機能は完全に停止したものと思われます。このままであれば正午には世界中がアフリカと同様の無政府状態に陥り、内戦が順次発生していくものと思われます。混乱を統率できる人間自体がすべて殺されてしまったので」

 

「千冬様と奈落様が襲撃されなかった理由はわかりませんが、この状況を収拾することは不可能と言ってもいいでしょう。ミレニアムのテロにより不安が増大した矢先にこれでは、まるで人類に内戦で滅べと言っているようですね。正確に言えば内戦ですらない生存競争としか言いようがありませんが」

 

「襲撃者は、4体のISです。『オープニング』、『スプリット・ムーン』、『アンサング』、そして紅い――『ステイシス』です」

 

オペレーターは沈痛な顔で言う。

それはそうだ……彼女にとって『ステイシス』は奈落の機体。

ゆえに、象徴であり最強。

それが敵に回るなど、例え偽物であっても冗談では済まない。

恐怖と同時に怒りを覚える。

だが、奈落はというと。

 

「なるほど、束の奴か。死んでも厄介だな」

 

と、実に淡々としている。

 

「奈落様……なぜ、そんなに冷静でいられるのですか――っ!」

「いや、これは元々あいつの機体だからな」

 

意味がわからないのは奈落の常。

いや、彼女が理解するのを拒んでいるのかもしれない。

 

「――は?」

「で、敵のISは教えてもらったのか?」

 

奈落は彼女の動揺に頓着せずに次の話題に移る。

 

「あ、はい。メッセージが届きました――それも、束の名前を使って」

 

死者からのメッセージ。

それは不安をかきたてるとか言う物でなく、実行されてしまったもの。

少なくとも相手には実体があるらしい。

 

「束は千冬が殺したから生き返れるはずもない。そして、ギガロマニアックスの替え玉なんぞは不可能だ――【将軍】でもあるまいし、残り少ない寿命でそんなものを作り得たはずがない。もし、そんなことができるのなら少佐を殺すのに苦労はなかった、太陽を破壊してしまっても作り直せた。まあ、無限の寿命を持っていたらと言う痴呆じみた妄想ではある」

 

恐ろしいことをさらっと言う。

つまり、ギガロマニアックスを妄想具現化するためには太陽を丸ごとコピーするよりも大きな寿命がいる、と。

奈落や一夏、吸血鬼は虚数世界――ようはこの世界から生えた枝葉の平行世界だ――からやってきた文字通りの異次元生命体。

虚数世界は人々の空想から生まれるわけだが、それは妄想具現化の産物ではない。

空想具現化ではギガロマニアックスは作れない。燃料が足らない。その法則が覆されることはない。裏技もなければ抜け道もない。

時間や因果を操るのとはわけが違うのだ。

物理現象を突破しても、それは法則を破っているわけではない。

束は死んだ。それは誤魔化しようのない絶対真理である。

では、なぜここで束の名が出てくるのか。

 

「彼女らはこう言ってきました。明日の午後二時、IS学園にて待つ。そこで世界のシステムを決めよう、と」

 

全ては、そこで決着する。

 

 

 

沈黙の帳が落ちる。

中々に傲慢な話である。

 

これは国王を決めよう、とか。

誰に代表をやってもらおうか、とか。

国家連邦の長を決めよう、とか。

 

そんな話ではない。

もう一段上のレベル。

 

人類と言う種族を国というシステムで縛るか、それとももっと他のシステムで支配するかを決めようというのだ。

これを傲慢と言わずして何をか傲慢と言おう。

まさに神の視点からものを言っている。

 

「順当だな」

 

奈落が呟く。

相手は傲慢だ――しかし、対する奈落もまた他人に命を捧げさせることをためらわない。それは神と同様に。

そして、それは最も苛烈な形で発揮されることが多い。

つまり自らの理想を阻む敵を抹殺する。

 

奈落はすでにこの敵を殺すことを決めてしまった。

 

「どうしますか? 戦略以前の問題ですよ、こちらの残存兵力は奈落様ただお一人です。ラウラ様にシャルロット様は未だに昏睡状態にあります」

「あれだけ能力を使ったんだ――あと1週間ほどは眠らせておいてやれ。私は一夏に楽をさせてもらったからな」

 

つまり、一人で行くと。

彼の決定を変えるのは困難だ。

彼は冷静に判断し、目的を達成するためには手段を選ばない。恥などいうくだらないものには囚われない。

そんな彼を説得するためには徹底的に理詰めで行かなくては。

 

「……一夏様にお手伝いしてもらうのは? あれは本物の束ではありません。協力を願うことは不自然ではありません」

「それは私が許さない。あいつはまだ戦えるが、少しでも妄想具現化を使わせてみろ――老衰で死ぬ」

 

きっぱり言った。

そのくらいは考えている。しかし、それはできない。友の身を案じるがゆえに、と。

拒絶はしない。

意見があるなら受け入れる。

彼とて、自分の案に半々以上の勝率があるとは思っていない。

 

「――それは、使わなければいいだけの話では?」

「あいつは力の使い方が下手だ。何かのはずみで使うに決まっている」

 

理詰めで行くからこそ奇跡は信じない。

力量は過小評価しないが、過剰評価は絶対にしない。

愛の力とやらでシャルやラウラが起きることなぞ期待もしない。

 

「では――」

「私一人で向かう以外に方法はあるまい」

 

淡々と結論を告げた。

 

「私たちにお手伝いできることは?」

「セレンとベルナドットを呼べ。こっちに戦略を立てる余地はない――が、相手は別。精々手の内を予想しておくことにする」

 

正直言って、異能はあまり使えない。

寿命を削るとは、想像できるような痛苦ではない。

それができるのはギガロマニアックスですらない別の何かだ。

化け物でさえ発狂させるざらざらとした感触は壊れた精神にすら受け入れることはできない。

死んだほうがマシだ。

ようは、それ以上の“何か”があるかどうか。

それは――奈落にはない。他の誰にもないのだろう。

 

「了解しました。こちらの方でも生き残ったネットワークを使って、敵の情報収集並びに分析を行ってみます」

「頼んだ」

 

先は半々と言ったが、それは敵を甘く見てのこと。

ここまでやらかすなら、腕も機体も十全であろう。

では戦術は?

真っ正直に短期決戦に付き合ってくれるとして5割。

実際には2割を切るかもしれない。

一晩で国家を滅ぼしてしまう手腕は見事と言う他ないのだから。

 

「――ご武運を」

「心配はいらない。私を殺せるのは本物の束か少佐だけだ」

 

それでも奈落は確信をもってそう言った。

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