IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第82話 名を継ぐ者

「む。貴様は……」

「久しぶりだねぇ、奈落――相変わらず殺してやりたくなる顔をしている」

 

呼び出されたのは日本で最も高級だったホテルだ。

内装は剥がされ、至る所に破壊の跡が残っている。

警察が機能を果たさなくなった後、一部の周辺住民は金目の物を根こそぎ持って行ったのだ。

そして、関係のない人間はただ見ているだけだった。

かくして、1日前までは綺麗でいかにもな豪華なホテルが廃墟となった。

 

その栄華の跡と呼ぶにはあまりにも悲惨な場所で、折られた足をそのまま床に打ち付けて立たせた机の上で埃だらけのティーセットを囲んでいる。

対峙するのは二人……篠ノ之束と神亡奈落。

そして、3人の女性が奈落に銃口を向けている。

 

「君に会った覚えはないがね」

「忘れたっての? あんたのご主人様が散々いじくりまわしてくれたこの顔を」

 

うり二つというレベルではない同一人物としか思えない顔がそこにあった。

彼女が束に似ているだけの他人と言うのはありえないだろう。

世界には3人は自分と同じ顔をした人間がいるともいわれるが、それにしたって似すぎである。

 

「思い当たるのは篠ノ之束と織斑千冬くらいのものだ。彼女たちは私の宿敵だ――忘れるはずがないだろう。逆に言えば、他の被験者は知らんよ」

 

奈落は冷めた目で彼女を見ている。

しょせんは同じ顔をしていても他人。

殺意がぬるすぎる――それだけで興味のほとんどを失ってしまった。

 

「覚えてるだろうが…….っ! 私がその篠ノ之束だ。世界をお前には渡さない。貴様の腐った意志では世界を腐敗させるのが関の山。だからこそ、世界を変えるのは私たちでなくてはならない」

 

激昂する。

そう、激昂――本来の束であったら狂乱していたはず。

歯車がかみ合わない。

 

「へぇ、篠ノ之束はこの世界を女尊男卑に変えて、大失敗したものだと思っていたのだが。まあ、理想を追うものはしばしば現実を見失うものだ――無理もない」

「……やり方自体は正しかった。あんたたちがそれをぶっ壊したんだ。希テクノロジー、ミレニアム――よってたかって世界を滅茶苦茶に……負けた腹いせで世界を壊されちゃたまらない」

 

「それは君の眼が腐っているだけだ。八つ当たりを試みるような子供は、ただ君一人のみだ。胸糞の悪くなるような話ではあるが、少佐も本気で世界のために動いていた。ただ方向性が悪かっただけでね。そして束は正すためなら言い訳することもなく何度でもやり直すつもりだった。世界が正しかったことなど一度もない――それだけは共通の認識ではあるのだろう? もはや、私の敵がこれにすら気づけない程度ではないと思いたい」

「確かに、ね。女尊男卑ではあっても、吐き気を催すほどの邪悪の存在を許してしまった。それでは、確かに正しい世界とは言えない。その前に至っては論外、言及する必要もない。あんな世界は壊れたほうがマシと言うものさ」

 

「世界は正さなければならない。けれど、間違っている世界で正しいものはない。なら、すべては間違ったやり方ということになる。そしてそれは三者三様のやり方があって、しかもいたずらに実験するわけにもいかない。であれば、誰がそれをなすのか決めるには殺し合いが相応しい」

「間違った世の中を正すには間違ったやり方でなくてはいけない? ずいぶんと独善的だね。それを一体どこの誰が望む?」

 

「私が望む。そして同志……君の言う私のご主人様も望んだ。だからやる。それ以上の理由は必要ない。民が何を望むかは知らない」

「それは同感だね。あの愚物どもが出す結論などまるで考慮に値しない。なにせ、あいつらが見ているのはお花畑でしかない。現実でも理想でもない、薄汚れた何か。綺麗な花の下には糞尿が敷き詰められているものだよ」

 

ちら、と奈落が興味を向ける。

そこまで言うからには、この束もなにか心に秘めるものがあるのだろう。

 

「そして、理想は三つ砕け散った」

「横並び、女尊男卑、戦争。残りは二つ」

 

理想は砕け散った。

エリートを抹殺し、誰もが下である絶対的平等は日の目を見ることなく砕け散った。

女尊男卑は世に広まりこそしたが、それはただの政権交代。なによりミレニアムの戦争による爪痕が現状維持など不可能なほどにダメージを刻み込んだ。

戦争は勇者によって止められた。一切合財が光の下に消し飛ばされ、戦士の誇りは顧みられることはなく残るのは怨嗟のみ。

しかし、まだここに二人いる。

世界を変えるために、全てを敵に回しても自分の意志を貫く覚悟を持った者はまだ二人いる。

 

「人間の精神の変容」

「企業による支配」

 

これこそが彼らの意志。野望と言い換えてもいいかもしれない。

ある意味で世界征服の先にある。

そんなものはただ並び立つもののない権力を持つというだけに過ぎない。

しかし、彼らは己の法によって世界を規定しようとする。

あらゆる意味でこれ以上傲慢なことはない。

 

「私の理想は世界を幸福で満たすこと」

「不幸であることを許さない歪んだ幸福ね。確かに心からそう思える――思わせることができるんでしょうけど、あなたの辞書には尊厳というものはないの?」

 

「その程度で揺らぐ尊厳なら捨ててしまったほうがいい。私は人間の心を正そうとしている。しかし、君はシステムを変えるのだろう? 王政やら民主主義やらから始めて、男尊女卑を否定した。で、次は何を否定するのかな」

「もちろん、人間による支配。女が男を支配すること。人を人が支配するのではない――市場という原理が人々を支配する」

 

「なるほど。ここに至って君は人格を否定し、企業を王にするのか。しかし、企業にそれだけの余力があるかな?」

「もちろん希テクノロジーにはない。あったとしても灰燼に帰してやる。他もさすがにそこまでの余力はないかもしれない。だから私たちはこう名乗る――亡国機業、と」

 

「――亡国機業? 聞いたことがある」

「ま、裏で暗躍してはいても、この業界はせまいからね。表のほうでもけっこう噂されてたりするもんだから知られてたとしても驚かない」

 

「ミレニアムの下っ端がそんな名前で活動していた気がする。……ああ、黒椿のデータはお前らが渡したのか?」

「そうだよ。あんなやつらに完璧なスペックのデータを渡すわけがないじゃない。あんなものは児戯だよ。ま、あの程度でさえも自力で作れないでおいて開発者とか名乗れる連中には尊敬すら覚えるね。あれほどまでに恥知らずでいられるなら、さぞ人生を楽しめるだろうさ」

 

「確かに、手加減の役には立ったようだったな」

「そうだね。もう少しでも技量があったら話は別だったんだけど。あんな悲惨な量産品でもISには変わりないのに。どいつもこいつもISの性能を引き出せない屑ばかりだ。やっぱり千冬ちゃんとは違うね」

 

「君もIS使いを引き連れているだろうに」

「こいつらはまだマシだよ」

 

「あ、そ。企業を王にしても暴走するだけだぞ。小手先ではどうしようもない――根本から、そう……人間の精神をどうにかしなければいけない。王様がどうのではないんだよ、いわゆる何の罪もない一般人をどうにかしなければならない。まあ、もっとも……この世界に生きていて無罪であるなどとはとても信じられないが」

「ご高説どうも。しかし、その行き着く先が精神を操作することによる人類の完全支配とは皮肉なことだね。君の救済が成った暁にはめでたく自由意志など歴史書に刻まれる過去となるわけだ。私はそんなもの認めない」

 

「では、どうするのかね? 国という枠組みを壊したところで、人間はそうそう変化などしない。気長に何百年も子供でも作って見守る、と」

「そこまで待つ必要はない。何年かあれば十分……人間は貴様が思うほどに救いようがないわけではない。精神操作なら1秒で済むんだろうけどね」

 

「どうも君は私を悪役にしたいようだ。私は外道であっても悪役ではない。そして外道は他人の承認など求めない。君に私の心を分かってもらう必要などないし、その気もない。確認したいことはもう終わった。死ね」

「死ぬのはお前だ」

 

一言も口を利かなかった3人の女性の持つ銃が火を噴いた。

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