IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第83話 本物であり偽物でもある

「新たなる世界のために! 死ね、神亡奈落」

「了解、神亡奈落を抹殺する」

「しょせんはISを真似ただけの代物。オリジナルを持つ我々に敵うはずがない!」

 

三方向からの射撃。

罵声とともに連射する。

彼女たちは奈落を囲んだ時点でISを装着していた――ゆえにタイムラグはない。

束は飛びのいてISを装着する。

色だけが違う『ステイシス』を。

 

「――ああ、ダメだな」

 

しかし、奈落は出された紅茶を手にしたまま優雅に佇んでいる。

 

「確かにISの性能はそちらのほうが上。しかし、貴様らは甘い。世界の裏は狭い? それは、貴様らの想像が及ばないだけだ。人を殺す、というものをわかっていない」

 

蔑みきった目を向ける奈落は、こちらも『ステイシス』を、ただし黒いが――を装着する。

始めから装着されていたハリネズミのような武装が光を放つ。

130連装電磁砲(マルチプルパルス)

 

「……逃げろ!」

 

束が叫ぶ。

まるで立場が逆だ。

4対1で、さらに性能まで上をいかれて焦るべきなのは奈落のはずなのに。

 

「……っ!?」

 

悲鳴を上げる暇すらない。

ハリネズミの針の一本一本がISを機能停止に陥れるだけの威力を持つ光弾を射出する。

廃墟になった高級ホテルは倒壊した。

 

「貴様らはその程度だよ。しょせん、お前はあの束ではない。同じ名前を付けられただけだろう? 生き返りのトリックは」

「オーバードウエポンには隙がある! 畳みかけろ」

 

不利な立場にいるはずの奈落は余裕ぶった態度でささやきかける。

その程度の意志しか持たぬ者は私の前に立つな、と苛烈な目が言っている。

 

「確かに絶対死を与える能力だろうと、同姓同名の他人に効くはずがないものな。その顔からしてクローンかな? あの技術は同じ人間を作り出すものじゃない。そのためには記憶のダウンロードやら、色々とクリアしなければならない課題があるが――そこらへんは得意のISでなんとかしたんだろう」

「どうした!? なぜ、攻撃しない……っ!」

 

ISを装備し後ろに下がった束は怒鳴り散らす。

他の三人はあり得ないようなものを見る目つきで呆然と奈落を見上げている。

 

「ただ、完全に同じではないぞ。背が5mmほど高い。体脂肪率が5%高い、あいつはもっと骨と皮ばかりだった。きわめつけは骨格が歪んでいない、あいつは実験の影響で各所の骨が曲がっていたし、脳に異常も出ていた。同一人物を名乗るには不完全に過ぎるな、束のガキ。どうせ、あのトラウマは本物が持ってったんだろう?」

「うるさい、黙れ! お前らはなぜ攻撃しない」

 

「そいつらが躊躇うのも当然だ。周辺環境のスキャンを忘れたのか? 初歩中の初歩だぞ――生憎と、この世界の人間は軍に所属していても忘れがちであるようだが」

「え……? ば、爆弾――町を吹っ飛ばすつもりか!? お前、この区画の一般人ごと私たちを殺る気か」

 

「いやいや、すぐにしまうさ。少しだけ話そうと思ってね。ま、つもるところ――次のオーバードウエポンの時間稼ぎだ」

「エム! 死ね」

 

持っていた核爆弾を上に放り投げ――格納空間にしまう。これで攻撃しても日本は無事だ。

それを見て束が吐き捨てる。

次の攻撃を防ぐ手段はない――下手をすれば4人もろともにやられる。なぜなら、彼女たちは純粋な人間……束こそ調整を受けたISとの融合固体クローンであるが、それでも虚人のように根本から生まれた世界が違うわけでもない。

そして、ギガロマニアックスのような異能者でもない。

指令を受けた『スプリット・ムーン』を刈る女がすさまじい勢いで突っ込んでくる。

 

「次はこれだ――超大型誘導弾(ヒュージミサイル)

 

馬鹿みたいにでかいミサイルが放たれた。

カウンターの形で放たれたのだ、彼女が今更かわすことはできない。

だから何の躊躇もなく斬った。

当然爆発する。

奈落のいた場所ごと爆炎が呑み込む。

エムは爆死した――他の3人を守って。捨て駒と言うわけだ。

 

対警備組織規格外六連超振動突撃剣(グラインドブレード)

 

上空に瞬間移動した奈落が落下の勢いを利用してスコール――『アンサング』をみじん切りにする。

人を血しぶきに変えた彼に、余韻を味わう余裕はない。

負ける気こそしないが、客観的な戦力で言えば劣勢に過ぎる。こんなのは命を削った奇襲でしかなくて、これをしくじれば奈落が負ける。

 

「――2連」

 

もう片手に装備したグラインドブレードでオータム――『オープング』まで肉塊に変えた。

奇襲に成功した。が、戦力差は依然劣勢である。

 

「……が。ぐぅっ――」

 

奈落が血を吐く。

当然だ。

常人ならオーバードウエポンは2回使っただけで死ぬ。

それが連続で4回も……いくら人外でも立っている方がおかしい。

もっとも、死なないほうがおかしいような無茶など奈落にとっては何度もとおってきた道でしかない。

 

「ふふん。苦しそうだね? 君の残り少ない体力を削ることだけが彼女たちの生きてきた意味だった。そして、ミレニアムも。やりすぎたとはいえ、貴様をここまで追い詰める役には立った」

「――は。確かに、もう異能は使えない。もう精神力がかけらすら残っていないよ。まあ、最後の精神力の欠片で発動した異能のおかげで倒れることはないが」

 

「お前は終わりだ。私の『ステイシス』をコピーして黒く塗っただけの複製品でよくやったよ」

「あいにくとこれには正真正銘の異界技術が使われている私の世界の束の最高傑作――いや、最狂兵器でね。カタチが同じなだけだ。君のそれとは次元が違う」

 

「あ、そ。でも基本的な特性は変わらない」

「で? だから、お前が勝てるというわけか。超能力を使えない私とだったら、そもそも超能力を持っていないお前の方が有利だと。甘い甘い――こいつを使う限り負けはない。私がどうなろうともコレは最高の力を発揮する」

 

そう。違いは紅か黒かだけではない。

そもそもが思想が違う。作られた目的が違う。

前者はただ圧倒するために作られた。既存の軍事兵器を叩き潰し、女性を世界の支配者に押し上げることが存在理由。

後者はただの殺戮兵器。殺すために、己の身がどうなろうと殺すために動き続ける。操縦者がいないのなら作ればいい。操縦者が壊れるのならば、壊れるまで使って捨てればいい。

黒いステイシスは敵がいる限り動き続ける。己が主人を食い潰しながら。

 

「そう。しかも満身創痍じゃ、何をどうしても勝てない。特に奇策と攻撃力に頼ったどこかの火力バカにはね」

「ふむ、それはそうかもしれんが――誰のことを言っているかわからないな」

 

奇策? 攻撃力?

確かにそれは私の長所であり、長所は生かすものだろうが誰がそれだけだと決めた?

大技だろうと小手技だろうと、目的(殺戮)のためならば何でも使うさ。

 

「は! 強がりを――」

「私は化け物だ。ただの化け物だ。それ以上でも以下でもない。そして、お前は人間だよ。束にはなりきれていない。それは人間として誇るべきことだ。しかし、人間は化け物に敵わない。化け物を殺すのは、いつだって諦観だ」

 

「――っ!?」

 

ぞくり、と寒気が束の背筋を凍らせる。

それでひるみはしない。

逆に、自らに活を入れるように武器をインストールする。

 

「……!」

 

奇遇にも、両者が選択したのはお互いにショットガン。

16発の弾を放射状に吐き出す近接専用の“殴りつける”銃。

だが、両者が選択した行動は別。

 

束は最低限の動きで、ダメージを最小にとどめる。

しかも体制を崩していない。

一方で奈落はダメージを気にせず一直線に踏み込んだ。

 

「ち――っ!」

「……くはっ!」

 

またもや選択した武装は同じ。

ナイフ。

 

「シャアッ!」

「ヒャハァ!」

 

剣劇が交錯する。

とてつもなく速い。

他のIS操縦者を軒並み屑だと吐き捨てるだけはある。

 

そもそもが奈落は身体能力が異常なのだ。

ISを使わずとも到底人間の手の届かぬ域に立っている。

もっとも奈落を人間だと断言することはこの世界の誰にもできないのだけど。

 

それでも束はそれについていく。

オリジナルと違ってギガロマニアックスですらないのに。

最高峰の体術と兵器が高次元で有機的に結びつき、爆発的なパワーを生み出す。

 

「「おおおおおお!」」

 

甲高い剣劇の音が響き渡る。

さらに加速。

ナイフは片手から、両手に二つに。

少しずつ束が押し始める。

当たることのなかった剣閃が次第に奈落にかすり始めてきた。

 

「あっはっは! 人間を甘く見るなよ――私には鍛え上げてきた技術がある」

「貴様こそ。人間の練習がどうした? そんなもの、圧倒的な意志の力の前には何の役にも立たん」

 

たとえかするだけでも、剣閃はエネルギーを奪う。

ISは精密機械であるため、損傷はすぐに機能の低下につながるゆえにエネルギーシールドで覆わざるを得ないのだ。

束は人間的な技術で奈落を追い詰める。

 

「このまま――っ!」

「このまま? どうしようと言うのかな? ――ジャアッ!」

 

バギン、と奈落がナイフをかみ砕いた。

滅茶苦茶をやる。

だがそれでこその化け物。

 

「――ナイフを……うそでしょ?」

「だから化け物を舐めるといったのだ。人間」

 

斜めに半分お辞儀するような恰好――ナイフをかみ砕くために崩れた体勢。

そこから攻撃を刊行する。

片手は上段、もう片手は下段。挟み込むようにナイフを振るう。

獣のアギトが迫る。

 

「うう――ああああああ!」

「さようなら、人間。――っ!?」

 

血しぶきが飛ぶ。

肉が切断される鈍い音が響く。

そして、切り落とされた腕が落ちる。

 

「ぎ――。があああああ!」

 

人間の口から出たとは思えない獣の咆哮。

腕を力任せに叩き斬られたのだ――痛いに決まってる。

腕を犠牲にして攻撃をしのいだ。

腕のエネルギーシールドは切ってある。

奈落はそれを狙っていたから。

 

「ちぃ――っ」

 

顔をゆがめて舌打ちする。

いくら化け物だろうと、超能力が使えない状況でこれをどうにかするのは不可能。

 

「斬!」

 

彼女が選んだ武器は刀。片手で振りかぶる。

袈裟がけに切り裂いた。

血が飛び散る。

 

「――血!?」

 

ありえるはずがない。

だって、この一撃で相手のエネルギーを根こそぎにするつもりだった。

だが、絶対防御が発動しない。

機能を停止してある。

 

「驚くなよ人間。化け物にも学習能力くらいあるさ」

「自分の体を犠牲に!? 私と同じことを――」

 

がちゃり、と音がして――機関銃が2丁、束の胸に突きつけられる。

零距離で火を噴く。

数えるのも馬鹿らしくなるほどの弾丸が蹂躙する。

 

基本思想の差。生かすために守るのか、それとも殺すために生かすのか。

束のISは生き残らせるために操縦者を治癒する。

奈落のISは一人でも多く殺すために操縦者を治癒する。

わずかな違いが明暗を分けた。

 

「ぐぐ――貴様……神亡奈落!」

「最後の最後に私は君のことを尊敬したよ、束二世」

 

弾丸はエネルギーを喰らいつくし、さらには肉体を細切れにする。

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