IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第84話 武力の元の平穏

「で、どうなったわけ?」

 

鈴音が頬ずえをついて奈落に尋ねる。

ミレニアムとの第3次世界大戦から2週間、亡国機業の国家解体戦争から9日後。

奇跡的にも奈落および一夏のとりまきはたった一人を除いてここ――IS学園にいる。

一室で茶と菓子を囲んで話している。

 

「どうなったと言われてもな――こうなったとしか言いようがない」

 

やれやれ、とばかりに肩をすくめて見せる奈落。

自分には関係がない、と言いたそうだが実際彼にはどうすることもできない。

なぜなら、彼の力を支える柱。希テクノロジーはすでにない。

 

「いや、何にも知らないんだけど。テレビもネットも使えやしない。あんたの言いつけを、そして何より千冬教官の監視を破って外に出れるわけもなし……外から聞こえるのは怒声よね?」

「――日本はいいところだよ。夜眠れる」

 

時間のころは3時ほど。ちょうどおやつの時間――そんな贅沢なものがあれば、の話だが。

外から聞こえるのは喧嘩の声、だろう。

いくら彼女らの耳が良いからってここまで聞こえるとなれば、よほど大きな声を出しているに違いない。

それでも、それが時折で収まっているのは奇跡としか言えない。

いや、日本を守ったアーカードの所業に恐れをなしているのか。

とにかくも遠い学園の外、市街地で散発的に喧嘩が起こっているのは間違いがない。

抗争といえるレベルまで発展していないのが救いである。

 

「それでも電波は使えないってわけ」

「そうだよ。真っ先に破壊されて、修復の見込みは見込めない。まあ、見てきたわけではないけれど予想はできる」

 

ラジオをつけても、何も聞こえない。携帯をかけても、そもそも局につながらない。

奈落とて実際に壊れた姿を確認してきたわけではない。

しかし、どこかの誰かが好き勝手を公共の電波に乗せようとして――同じ目的を持った誰かに邪魔されて、結局は装置をぶっ壊してしまったのだろうことは予想がつく。

その状態が一週間も続けば直す部品がないことも察することができる。

まともな物流が生き残っていないのだから、新しく部品を手に入れられるはずがない。もしくは、手に入れられない工具でもあるのか。

 

「はん。変な思想を垂れ流されちゃたまらないってわけ? 納得はできるけど、ラジオもなしってのは勘弁してもらいたいわね」

「さあ、そればっかりはどうしようもない。日本ですら公共施設はかなり破壊されているようだ――他の国の惨状なんて想像できないほどだろうよ」

 

奈落がすました顔で言う。

何もできないと悟りきっている顔だった。

鈴音や他は納得がいかず憮然としている。

 

沈黙が流れる。

ここでどうにかできないのかと聞いてもできないと答えられるのは目に見えていた。

何とかできるのなら奈落や千冬がすでになんとかしているはずだから。

 

そして、自国の不安。

ここにいる面々の多くは母国が外国――日本ではない。

よく言えばおとなしい、悪く言えば世間体ばかり気にする意気地なしである日本人でさえ、戦時の厳戒令のような事態になっているのだ。

被害が少ない、つまりは死者が少ないために動揺も極小である日本がこれだ。

その他の国は完全に内戦状態に突入している。

けれど、何もできないのだ――ここにいる誰にも。

 

 

 

「ねえ、らっくー」

 

唯一暗い雰囲気を隠さない本音が声を発する。

他の人間は無理していつも通りに振舞おうとしている。

痛々しいほどに影の落ちた部屋では必要もないのに声が潜められる。

 

「なんだ? 本音。言っておくが、今の俺では千冬ほどの役にも立たんぞ。彼女は学園を守ってくれている。政府の要人どもが殺されて学生と教師だけになった“ここ”を。私も似たようなことはできるが、それ以上は無理だ。現在の私に手が届くのは施設一つ分程度というわけだ。笑えるな――世界を変える男が守れるのはその程度の代物か」

 

自嘲気味に返す。

饒舌は不安の裏返しと言う。

人は何か不安なことがあるとしゃべりまくって、相手に何かを言わせないようにすることがある。

だとするなら、奈落でさえも先の見えないこの状況は不安であるのか。

 

「そうじゃないよ。そういうことを聞きたいんじゃない」

 

ふるふると首を振る。

もともと小動物じみた雰囲気を持った彼女であるが、今は触れれば壊れてしまいそうになるほどに脆い。

転んで怪我することを真剣に心配しなくてはならないほどに。

 

「では?」

 

たっぷりと一呼吸分おいてから答えた。

 

「なんで、楯無様は死んだの?」

 

沈黙が落ちる。

誰も答えられない問い。

“死”それは取り返しのつかないもの。

奈落でさえ意図的に避けていた話題。

更識楯無は国家解体戦争において殺された。

――ISを纏う暇もなく。2世束の仲間に、鎧袖一触――まあ不意打ちではあるが瞬殺されたことには違いがない。

 

「彼女は日本を守るために死んだ、では不足か?」

 

奈落が口を開いた。

彼自身ただの何の意味もない正論を口にしているだけとわかっていた。

確かにそういう見方はできる。

日本を立て直すために昼も夜もなく働いて、最後には疲れのために抵抗もできずに殺された。

そのうえ日本が失われても――日本を守るために死んだ事実は動かない。

 

「…….納得できないよ。楯無様が死んだら私はどうなっちゃうの? あの方がいなくなったら、私は――」

 

そして、それは本音の求める答えではない。

 

「どうなると?」

 

奈落はむしろ好奇心の表情で問う。

すぐ後にしまったという顔をする。

さすがに不謹慎すぎた。

 

「私はもともと更識家では孤立してたから居場所がないの。当主様が死んで大忙しなのに、私は呼び戻されてないでしょ? それに、楯無様の居ない楯無家はもうどうしようもない」

「――確か、彼女には妹も居たはずだが?」

 

「簪ちゃんのことを言ってるの? あの子はダメだよ」

「更識簪……代表候補か。一夏、知ってるか?」

 

急に水を向けられた一夏はびっくりして答える。

 

「え? いや、知らないけど」

「そうか。彼女のISはお前のとばっちりを受けて機体の調整が遅れた挙句、未だに調整中だったはずだ。いや、今は暴漢相手に戦っているのかな? 未調整と言えどIS……千冬の指揮下に入れば武装強盗くらいならば退けるのは容易い」

 

――打鉄弐式、それが簪の専用IS。

第3世代型で学園で使用されている練習機、打鉄の後継機である。

武装はただの打鉄とは比べものにならないほど――になる予定であった。

つまりは完成しておらず使用できない。

それでも打鉄の武器を持って戦うことができる程度には完成している。

 

「うえ!? 俺のせいでISが完成してないってどういうことだよ」

「彼女のISを担当したのが倉持技研。そしてお前の白式を担当したのも倉持技研だ――同時期にね」

 

白式はISを起動できる一夏が突発的に表舞台に現れたことで、設計がとん挫していた専用機を一世束が完成させたもの。

とはいえ、さすがに倉持技研の微調整が入っている。

そのために開発チームが盗られて、彼女のISの完成が遅れた。

もっとも、それだけならばすでに完成していたはずだったのだが。

 

「でも、まだ完成してないって……」

「だから簪様には無理なんだよ~」

 

本音が明らかな無理をした笑顔で言う。

普段の調子を取り戻そうとして失敗している。

いつもの純粋な笑顔はどこにやったのか。

口の端がひくひくとひきつって、眼には変わらず涙が貯められている。

 

「そうだな。時間はあったのに完成していないのだ。大方のところ我儘でも言っているのだろう」

「……きっと、らっくーが想像してる我儘は全然違うものだと思うなー」

 

想像したのかくすくすと笑う。

笑われる奈落としてはどこがおもしろいのかよくわからないが、とりあえず本音が少しは笑ったので良しとする。

でも納得はいかないので聞いてみる。

 

「む……武装についてではないのか? 威力、範囲、扱いやすさなど取り上げればきりがない。ここはどこで妥協するか、もしくは何を特化するかが重要になるのだが――そこを決められないということではない、と言いたいのか」

 

上にあげた三つはあくまで例を挙げたもの。

実際に使うとなれば、簡易化されたデータでさえ武器の評価項目は10を軽く超える。

それ以外にも数値化できない相性といったものもある。

近距離ならナイフ、遠距離ならスナイパーライフルと言った得意とする距離から、ISの形状によって向き不向きがある。

さらにはISを操る本人と武器の相性もある。ここに至っては“手になじむか”という問題になる。そしてそれは、壊れた部品を入れ替えただけでがらりと変わってしまうことさえあるのだ。

そこまで考えると、専用武器の開発がどれだけ苦労するのかわかる。

 

「――うん。そのとおりだよ~。らっくーってば、本当に威力偏重だよね。超大型兵器まで作り上げるくらいだもん。あんなものを考えるのはあなたくらいのものだよ、ほんと」

 

もっとも、そういうことではない。

本音が言った通り、簪が手を止めている理由は奈落の言うような“威力が出ない”だの“扱いづらい”だなどと言い出したためではない。

 

「昔の日本では大艦巨砲主義というものがあったぞ?」

「らっくー以外にはあんなもの扱えないと思うんだけどな~」

 

そもそもISは大艦ではない。

小舟に巨砲を乗せようなどと誰かが考えるのか。

いや――考える奴は実際に目の前にいるが。

 

「確かに反動の大きさは我が社の技術力不足と言わざるを得ない。いや、すでに滅んだが。しかし、威力さえあれば範囲も扱いも戦術ででなんとかできる。しかし、威力が足りなければどうしようもない」

「……だから、それでなんとかできるのはらっくーだけだよ」

「そうだそうだ。なんか反則使ってないか?」

 

一夏がはやし立てる。

人外の身体能力と言うのなら彼も同罪である。

そもそも物理的に説明がつかないギガロマニアックスの特性は多岐にわたる。

 

「反則使って経験値上げた一夏に言われてもな。だが、まあ――脳髄に戦闘データをぶち込むくらいのことはやった。言っておくが、“ホワイトスネイク”はこれを応用した超能力だぞ」

「あのディスクか。思い起こせば入学した始めだよな。なんか遠い昔のことに思えるぜ」

 

ホワイトスネイク――それは対象の記憶をディスクという形にして引き出す能力。

これを使って奈落は入学したばかりの一夏、鈴音、セシリアに教育を施した。

似たような例でいえば睡眠学習だろう――もっとも、経験した生の記憶として脳に挿入される上位版ではある。

 

「同感だ。入学して、まだ1年も経っていないのだな」

「そうだね~。入学する前は、こんな激動の年になるとは思っていなかったな~」

「激動の年で収まるレベルじゃないでしょーが。あっという間に国まで崩壊してんのよ? 中国が、アメリカが、日本が、EUが、壊滅するなんてどこの誰が想像できたっての」

 

鈴音がぼやく。

壊滅と言うのは的を得ている。

土地がえぐれたりしているのはあくまで一部だが、法は機能しなくなった。

個人の支配が破れ、暴力が支配する。

それがたったの一年もかからずに起こってしまった。

第3次世界大戦に国家解体戦争――それは1週間も経たずに終戦した。

どれだけの時をかけようと治らない傷を残して。

 

「そうだな。っていうか、実は俺たち抜き差しならない事態になってるんじゃねえ?」

 

一夏があほなことを言いだす。

当然、冷ややかな目で集中砲火が浴びせられる。

 

「この馬鹿一夏。気づくのが遅い。どれだけ鈍感なのよ? ったく」

 

救いようがない鈍感ね――とため息をつく。

茶をすする音が響く。

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