IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第91話 シャルロットVS鈴音

「相手はやっぱりあんたか」

「そうだよ。って予想されてた?」

 

にらみつける鈴音と、その視線をわざと無視しておどけるシャル。

険しい表情をした前者とは違い、後者はにたにたと嗜虐的な笑みを浮かべている。

鈴音は腰に吊るしたホルスターに手をかける。

シャルは両手に不釣り合いなほど大きい銃をぶらぶらさせている。

 

「ま、あたしと張り合えるのなんてあんたしかいないでしょ。シャルロット」

「そうだね。すっかり奈落の教えを受け継いじゃって、まあ。殺してやりたいくらいだよ鈴音」

 

「じゃ、やろうかしら」

「受けて立つよ」

 

なぐった。

手をかけていた銃は捨てている。

女の意地だろうか――この機会に決着をつけてやろうと言う。

そしてシャルロットもまた殴り返す。

 

見る見るうちにお互いがボロボロになっていく。

一切の手加減なくぶん殴りあっているのだから死んでもおかしくはない。

 

「初めて会った時からいけ好かない奴だと思ってたわ!」

「僕もだよ!」

 

「死んだみたいな目ぇして、ふらふらと適当に生きてるんじゃないわよ!」

「生き生きとした目で、一歩目を踏み出せずにうじうじするんじゃない!」

 

「大切な想いだからこそ踏み出すのにためらうものじゃない!?」

「大切な想いなんて踏みにじられるものだ。だから、自分が真っ先に手に入れる。それで、隠してしまえば誰の目にも触れない。壊せない!」

 

「それが本音? まったく奈落も迷惑してるでしょうね」

「そんなわけないよ。彼は僕のすべてを受け入れてくれる人だから」

 

動きが止まる。

傍から見ればすぐに病院送りにしたくなるような惨状だ。

目蓋は腫れ上がっているし、青あざがところどころに散見される。

見えているだけでこれなのだから、服の中はどんなに恐ろしいことになっているのやら。

それでも頭はアドレナリンではちきれそうで、痛みなんて感じてられない。

喧々轟々ととても口げんからしからぬ剣呑さで言葉の暴力を振るう。

しかし、シャルは動揺しない。

敵意だろうと畏怖だろうと恐怖だろうと嫌悪だろうと関係ない。愛する人以外から向けられた視線など、それこそ異世界の話である。

 

「あいつは箱の中に留めて置けられるような奴じゃない」

「違うよ。留めて置けないなら、箱のほうを動かせばいいだけの話だよ。僕は、こうなってから奈落のそばを離れたことはないよ」

 

「今はどうなのよ?」

「離れていると思う? それは違うよ、人間。僕と奈落はつながっている。ギガロマニアックス同士、お互いが望めば心はいつでも繋がっている」

 

「繋がる? ――ッ読心能力。特定の相手に防壁を張らなければ、それこそ比喩でもなんでもなく心が繋がっている! けれど、正気じゃないわね。恋人にだって晒したくない秘密があるでしょうに」

「そう? 僕は奈落に見てほしくないものなんて思いつきもしないけどね。綺麗も汚いも受け入れてこその愛だろう? それにね、奈落は――僕がそうしたいって言ったらやってくれたよ」

 

「イカれた愛ね」

「声に出すことすらできない愛よりはマシだよ」

 

「奥手って言いなさいよ」

「奥手の割には手が速いんだね。愛を秘めて、表に出すのが暴力だなんて――馬鹿みたいだね」

 

攻守交替。今度はシャルの責める番。

斬るように冷たい言葉でえぐりこむ。

 

「んなっ!?」

「散々ぼこってたのにね。愛する人を殴れるって、僕にはよくわからないけど。恥ずかしさもよくわからないしね。ま、正確にはそれがなんで嫌かがわからないんだけど。奈落に肌を見せても恥ずかしいけど隠そうとか殴ろうとか思わないよ」

 

「恥ずかしさがわかんないなら、公衆の面前にでも肌を晒せばいいじゃないの」

「それは忌避感だね。もしくは怒りか。殺したいとは思っても恥ずかしいとは思わない。ほら、前の会社でいろいろとあったからね」

 

「そ。ご愁傷様とだけいっておくわ。あんたも聞かれたくないだろうし」

「うん。それは助かるよ。でも、僕は誰も助けないけどね。ねえ――鈴音、なんで一夏を躊躇なく殴れるの? 僕はずっと不思議だったんだよ」

 

「それは――あれよ。雰囲気とか、あとはちょうど殴りやすそうだし……わけわからなくなるじゃない? ああいうときは」

「それがわからないって言ってるんだよ。訳が分からなくなったら相手に任せてしまえばいいんじゃないかな?」

 

また旗色が変わる。

今度はどちらの番なのやら。

一言ごとに緊張だけが増していく。

 

「あいつにそんな甲斐性はないのよ」

「あはは。恋した相手が違うってことかな。まあ、奈落は僕が殴ろうとしたら――いや、受けてくれるだろうけど。でも一夏が殴りかかったら防ぐだろうね。君が殴り掛かったら、パンチごと叩き潰しちゃうかな」

 

「一夏の場合、どうなるのかしらね。奈落に殴りかかられたら、あいつ――目をぱちくりさせてそのまま殴られるのがオチよ」

「くす、腰抜けに恋しちゃったんだ。まあ、よく……わかりはしないけど聞くよ。人間って、できた人間は好きにならないんだってね。自分で立てない人間を好きになる。お世話してあげたいって気持ちはわかるよ。でも、それで愚者を好きになる理由がわからない。強靭な意志と人外の強さを併せ持つ男に我が身を捧げるほうが素敵なのになぁ」

 

「多少は弱いところもあったほうが人間らしいってもんよ。それに、一夏は腰抜けじゃない。ただ少しどころじゃなく抜けてるだけよ!」

「あは! じゃ、見せてみなよ。一夏を愛する君の意地って奴を。男の価値は女で決まるって安っぽいドラマで言ってたしね……!」

 

お互いにボロボロの体を気合で動かす。

最初に捨てた銃へと駆け寄った。

 

「言われずとも。この面倒なメンヘラ女!」

「馬鹿の相手は馬鹿が相応しいってね!」

 

構えるのは奇しくも同時。

銃声が葉を打ち据え、大気を振るわせる。

 

「「――っち!」」

 

舌打ち。そして、気の裏に隠れる。ここまでが同時だ。

二人とも奈落の教えを受けた者同士。手は似通ってくる。

鈴音には浅い銃創が刻まれ、動きが鈍くなった。しかし、シャルの持っている銃は女の手には似合わぬ大口径。

ダメージのせいで照準が定まらない。

もちろんお互いに両手で撃ってそれだ。

 

「その大口径。扱いきれる?」

「そっちこそ、片腕が使えないんじゃない?」

 

シャルは深呼吸する。

鈴音の持つ銃では木を貫通させるのは無理だが、自分のはできる。

一呼吸でもわずかな体力は確保できた。

 

「――終わりだよ!」

 

隠れている木、胴体あたりを狙い撃つ。

言葉通り終わり――なわけがない。

これでシャルは油断しているなど思ってくれるなら、鈴音は簡単な相手だろう。

銃に手応えなんぞ感じないが、生きているに決まっている。

特に言葉の詐術には期待してない。

けれど、やるのはタダだ。油断していると思ってくれる可能性がわずかでもあるのなら、やっておいたほうがいい。

 

「――さあ、一発賭けてやろうじゃない。弱い人間らしくね!」

「やっぱり、下か――」

 

地に伏せて根っこに隠れていた鈴音が起き上がりざま銃を向ける。

シャルとしては指が撃鉄を引く瞬間を見定めて大きく飛ぶしかない。

……が、こんな2mもない至近距離では避けられるはずもない。

横腹をぶち抜かれる。

これがもう少し大口径であったら内臓を持って行かれる。致命傷さえ避ければなんとかなる。

鈴音が引き金をひく――

 

銃声。

小口径でありえない重厚な音。

吹き飛んだのは、鈴音の右手。左手の方もちぎれかけている。

 

「賭けには負けちゃったみたいだね? 鈴音」

「あんたの頑丈さには頭が下がるわ。2発目はないと思ったんだけど」

 

だらだらと脂汗を流しながら、にらみつける。

手を吹き飛ばされたというのに、大した精神力である。

 

「けれど、分かっていたから賭けたんでしょ。ま、銃に当てれたのは奇跡みたいなもんだし」

「相打ちね。実を言うと、それが一番ねらい目かなって思ってたんだけど」

 

「一瞬遅かったね。勝ったのは僕だよ」

「――っ! どういうつもり?」

 

シャルは袖を破いて包帯代わりにして鈴音のぼろ雑巾のようになった右手首を縛る。

左手は無事……とはいえないが、左手と違ってまた動くようになるだろう。

こちらも包帯を巻いて止血する。

 

「僕も君も本当の意味では兵隊なんかじゃないんだよ。この程度の傷で戦えなくなるんだから。まあ、3倍くらい時間をかければ屋敷に来れると思うから頑張ってね」

 

睨みつける鈴音を背に去っていく。

重い足音はどんどん離れていく。

シャルについていこうにも、やはりこれでは間に合うわけがない。

 

 

 

「さて、何やってるのかな? セシリア」

 

ばったりと遭遇した。としか言えない。

あと10秒セシリアが早かったらという可能性はもはや夢幻。

二人は出会ってしまった。共に勝者であるが、立ち位置は逆。

 

「――仕方ありませんわね。2戦目は辛いものがあるのですが……3戦目のことも考えますと、ね」

「その心配はないよ。君はここでおとなしくしているんだから」

 

シャルは銃口を向ける。

鍵を開け、扉を開こうとしているセシリアに対抗手段はない。

 

「怖いですわね。降ろしていただけません?」

 

扉に手をかけたまま微動だにしない。

ここで振り向いて手を挙げて見せる場面だろうが、それはできない。

そんな悪役がいかにも見逃しそうな動作を、この皮肉屋が許すはずがない。

扉から手を離した瞬間に警告なしで足を撃ちぬかれる。

――動けない。

 

「30分くらいじっとしてもらえれば、降ろしてあげる。正直、僕にはもう2戦目やる気力は残ってないんだよ」

 

銃をピタリと構えながら――いけしゃあしゃあと言い放った。

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