IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

94 / 95
第92話 奈落VS一夏

二人は森の中でばったりと会った。そう表現したくなるような絵面だが、奈落は一夏を目指して歩いていたのだから偶然でもなんでもない。

何をしていいのやらわからない、と言った顔の一夏を後目に奈落はゆっくりと背を木に預けて話し出す。

 

「やはり来ると思っていたよ。なんでかな――? 君には悟られないように動いた。けれど、何かが……それは神や集合無意識と呼ばれるものかもしれないが、そういうものが私の意志をくじこうと正義の味方をここに配置すると知っていた気がする」

 

諦めたような、嬉しいような奈落の声。

計画の最終段階において、奈落は友情などに振り回されはしない。

心の中では決闘を望んでは居ても、それが計画の妨げになるならそんなことはしない。

そもそも一夏を生かしておいたのでさえ自らを甘すぎると評す性質だ。

ゆえに、これは手落ちではない。

しょうがないことなのだろう。

めぐり合わせとしか呼ぶしかない。

 

「奈落。世界を征服してどうするつもりだ? やめるんだ――そんなことをしても本当の平和は手に入らない」

 

一夏は親友の姿を認めて説得を試みる。

まずは説得を――奈落と違って諦めの悪い彼である。

一人の人間が世界を支配するなど認められない。

まあ、前の世界が一人の人間に支配されていなかったか……そんなことは考えたこともないけれど。

 

「本当の平和、ねえ。そんなものは欲しいと思っちゃいないよ。争うならば好きにすると良い。戦いの果てに望みを叶える――なんとも素敵な話ではないか。もっとも力を尽くすこともできないというのは不公平に過ぎるし、なによりちっとも物語として美しくない」

「それがどうした? それが世界を支配してまで変えたいことだっていうのかよ――奈落! お前は人間が気に入らないだけなんじゃないか」

 

「そうだな。私からも聞かせていただきたい」

 

横合いから鋭い声が突き刺さる。

これまで戦闘を行わずに屋敷にたどり着けたのは一夏だけではない。

 

「――ヘルシング卿か。ずいぶんとお疲れの様子で」

「ヘリから叩き落された上に山道を歩かされたんだ。かよわい女性がするには過ぎた運動だ――労われ」

 

恐れもせずに言ってのける。

大した胆力だ。そして男顔負けの豪胆さ。

目で喧嘩を売っている。

そんな彼女を労うように、あるいはからかうように奈落はパンと一度だけ柏手を打つ。

 

「よく頑張ったものだね。では、一つ野呂瀬の話でもしてやろう」

「野呂瀬?」

「前代の希テクノロジーの支配者か」

 

「彼は物心つく前から一つの異能を持っていた。精神感応――つまりは人の心を読んでしまう。拒否しても強制的にね。日本は一人になるには不便な場所だよ。そうそうそんな場所は転がっていないし、そこでは生活ができない」

 

「だから彼は人の嫉妬や怨念、あらゆる負の想念を浴びながら育ってしまった。そして彼は異能に振り回される哀れな犠牲者ではなかった。その異能を疎みながらも重宝し、財を築き、あらゆる方面への影響力を強化した」

 

「権力者への道を歩む内にいつのまにかディソードが彼と共にあった。しかし、これは実際あまり役に立たなかったそうだ。使うとしても暗殺者の撃退――いや拷問くらいかな。なにせ人の心が読めるのだから、そうそう他の力など必要ない」

 

「彼はついに見つけた。ノア創造のための公式を。そして、完成のためにはギガロマニアックスを狩らなくてはならない。彼の悪夢を見せるディソードが初めて役に立った瞬間だな。ギガロマニアックスは正気と狂気の狭間にあるもの――ようするに一度狂うまで拷問されればなれるんだよ。もちろん素質のある者に限るがね」

 

「彼が目指したのはただ一つ。人の醜い心に晒されるのが苦しいのなら、美しく変えればいい。あくまで自分のために他者を聖人にでもしてしまおうと言うのさ。人々の心を負の感情から救おうという試みは、その実我が身可愛さから生まれた」

 

「どうかな? 計画はこのようにして始まった。付け加えるなら、ノアⅡを破壊されたときに野呂瀬は瀕死の重傷を負い、最近まで生きていたが流石に限界が来たよ。余談として、ノアⅠは失敗に終わったとだけ言っておこう」

 

話し終えた彼は二人を向く。

これはヘルシング卿も知らなかった――というより、悪の組織の親玉が日記など書いていたらそのほうが興ざめだ。

まあ、その話に感じ入った様子はないし……そもそもが感じ入る話ですらない。

 

 

 

「なるほどな。その情報は持ってなかった。が、認められる話でもないな。貴様に全人類の精神を操る力など与えてやるものか」

 

ヘルシング卿は聞くに堪えないといった様子で奈落をにらみつけている。

他人の勝手で自らが操られるなど許せたものではないから。

 

「別に君からもらうわけじゃない。野呂瀬から受け継ぎ、作り上げるのさ」

 

そして奈落は、嫌なら抗えばいいと――実にあっさりとした態度だ。

決然たる意志を持って決闘に挑むのなら、全力で答えよう。

しかし、恨み言を吐くだけなら無視する。いくら潰しても蟻は湧き出るものゆえに。

 

「なんでお前は協力したんだ? 世界を支配したいというのはちょっと違う気がする。でも、人の意志を捻じ曲げたいと思うのはもっと違うと思うんだ」

 

一夏は純粋な疑問をぶつける。

こいつは単純馬鹿だ。ゆえに諧謔も建前も理解できない。

 

「――ふむ。言われてみれば私の性格はそんな感じだな。まあ、歩きながら話そうか。用があるのはノアⅢだろう? あれを壊さなければ意味がない。私でさえ今更設定を変更するのは不可能だから、殺したところで悦に浸ることくらいしかできんぞ」

 

歩く奈落についていく。

インテグラが確認したが、方角は確かにあっている。

案内するふりをして騙そうというのは杞憂だったようである。

まあ、通じるようならやっていた可能性は否定できない。

 

「先ほどお前が言った通りだとすると、お前を殺してもノアⅢは停止しないのだな?」

「その通り。私が生きていようが死んでいようが関係なく動くように設計した。そこらへんは野呂瀬と違う。奴は自分が生きている間さえそうなってればよいという考えだったが、私は永遠に続いてほしいと願っているのでね」

 

「お前と野呂瀬とかいうやつの考えの違いって何なんだ? 同じように考えているんじゃないのか」

「手段は同じだよ。計画はそのまま引き継いだ。ただ仕上げが多少異なる。そうだね――教えてあげようか、ノアを止める手段を。君らはすでに絶対戦力【ナインボール・セラフ】を乗り越えた。アーカードと言う犠牲によって貴重な時間を奪った。まあ、世界一つをつぶすのにはいくらかかるかは知らんが」

 

「では、次は絶対守護を越えなければならない。これは自らに近づく者の意識をずらす昨日のことだ。いわば幻覚に近いのかな。ノアを壊そうとする者には絶対にそれの位置がわからない。ノアを攻撃しても、見当はずれの方向へ攻撃が飛んで行ってしまう。それこそが【絶対守護】。とはいえ破るのは簡単、ノアのアクセス権限を持つ者なら近づける」

 

「で、アクセス権限を持つ者はノアⅡの時は野呂瀬だった。ならば簡単だ――鎌でも突きさしてそいつごとぶん投げれば当たる。実際に千冬はそうした。では、ノアⅢのアクセス権限を持つものは誰だろうね?」

 

ニタリ、と笑う。

そここそが陥穽。唯一無二の弱点、それを卓袱台ごと覆してしまう裏技。

 

「奈落、お前じゃないのか。お前以外に考えられない」

「それは少し考え違いをしているね。私以外にやる奴がいないからと言って、だから私がやるということにはならないだろう?」

 

変なことを言う。

けれど、本当に分からないのだろうか。

わかりたくないから無視をしているのではなかろうか。

姉がやったという解決策。

奈落を殺したくないと言うなら簡単――腕でもぶっさして投げればいい……はず。

 

「――?」

 

言葉を失う一夏の代わりにヘルシング卿が答える。

 

「つまり、いないのか」

 

そう。そういうこと。

それならば、初期設定から変更は効かなくなるが完全無欠の永久機関の完成だ。

 

「その通りだよ、ヘルシング卿。最初に設定された状況をいつまでも保ち続ける。まあ、壊したければ意志を持たない災害――地下まで届くとなれば隕石が落ちてくることでも期待するしかない。そう、あと1時間か2時間かはわからんが限られた時間の中でね」

「――絶対戦力【ナインボール・セラフ】」

 

「そう。あれがいる限り異常気象だろうが隕石だろうが月落としだろうがすべて破壊される。あれの防衛機能を越えたければ宇宙でも崩壊させるといい」

「ふん。どのみちノアⅢ完成のタイムリミットはあと20分だ。そうは変わらん」

 

「もうそんな時間か。ほら、屋敷についたぞ」

 

鍵を開け、奈落が始めに入り、とたんに振り返る。

扉は開け放たれたまま。

 

「しかし、私は招いていない人物を屋敷に入れるほど寛大な人物ではなくてね」

 

握られているのは銃。

インテグラに向けている。

 

「……っ!?」

 

――銃声。

 

「奈落!? お前――」

「待て、織斑。招かれざる者には死を――道理だな。私は元々話し合いに来たのではない。貴様ら全て皆殺しにするために来たのだ」

 

当たったのは胸。しかし撃ちぬけない上に心臓からは外れている。

咄嗟に飛んだために心臓の真上に直撃は避けた。

とはいえ、着弾の衝撃でろっ骨は折れた。

そんな有様で声をひび割れさせながらしゃべる。

 

「……っち。防弾か。用意のいいこと……それでも大口径の銃だ。一発で十ぶ――」

「織斑、これだけは覚えておけ。人間は奴隷ではない。決して、自分の足で立てないような弱い生き物ではないのだ。こいつの与える恵みは人類には不要なものなのだ」

 

普通ならのたうち回って息もできないような苦痛の中で彼女は朗々と言葉を紡ぐ。

一夏に後を託すために。

 

「根性だけはあるようだな。やはりあなたは素晴らしい敵だ」

 

2発目。

先と同じ場所に当たり、血反吐を吐く。弾丸がめり込んで、砕けた骨が肺に刺さる。

遠慮も容赦もなければ、血も涙もない行いである。

 

「――織斑! いいか。人間には意地がある。矜持がある。それを奪われてなるものか! 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ。敵を見つけたら迷わず殺せ! いいか、殺すのだ――人類が人類であるために」

「だからこそ、生かしてはおけない。殺す」

 

両膝を撃ち抜く。

そこまでは防弾では覆えない。

大口径の弾丸は穿つよりもむしろ削り取る。

しかし立つ。

インテグラ・ファルブルケ・ヘルシング卿は半ば千切れかけたその足で立つ。

 

「あなたの強さに敬意を払おう。さようなら、ヘルシング卿……!」

 

もう片手で銃を抜く。

奈落と言えど異能を使えない今は4発撃つので精いっぱいなのか。一丁目を持つ腕はだらりと垂らされている。

懐に隠し持っていた2丁目で狙いを定める。

 

「――それが甘い! 策を用いるのが化け物だけだと思うな! 人間は幾星霜の時を重ねて知恵を練ってきたのだ」

 

――銃声。

先ほどの4発よりはるかに軽い。

つまり女性用の小口径拳銃。

 

「ヘルシング卿――っ!」

 

その弾丸は正確に奈落のもう一つの銃に命中していた。

弾かれる。

指を見てみると、2本変な方向へ折れている。

奈落は痛みも構わず、インテグラの脳天へ銃弾を叩き込む。

5発目。

 

「……くく。世界はよほど私のことが嫌いらしい。このような隠し玉まで用意していたとは恐れ入った。ISがお互いにないこの状況――苦も無く私が勝つはずだったのにな。もしや、お前が銃を持っているなんてことはないだろう? 一夏」

「ああ。持ってない。けど、俺には千冬姉からもらった日本刀があれば十分」

 

「そうかね。ノアⅢへ通じるエレベーターにたどりつきたければ、最後の一発……しのいでみせろよ」

 

人差し指と中指が折れていては当然その手では銃は扱えない。どころかリロードも不可能。

左は女傑に5発持っていかれた。

右は使い物にならない。

ゆえに一発。

ただの一発。

死を与えるには十分な牙が一夏に向けられる。

 

「――いいぜ。そうしないと本当の意味でお前の前に立てないっていうんなら、やってやる」

 

日本刀を正眼に構える。

銃弾を刀で斬る。

それは一見たやすいように思えるかもしれない。

実例というか、そんなファンタジーは至る所にある。

 

しかし、違うのだ。

人間の眼では銃弾を追うことができない。

人間の反射では刀を当てることなどできない。

そもそも斬っても、銃弾が体に当たる。

 

当然の話である。

どれだけ日本刀が厚いと思っているのか。そんなわけがない。そんなことをしたければ背丈を超えるバスタードでも持って来い。

両断されて軌道がずれたところで、そのまま直進するのは物理法則として順当すぎるほどに順当だ。

 

ならば刀を寝かせて楯に?

馬鹿なことを考えるものでもない。

あくまで日本刀は刀である。防具ではないのだ。

大口径の銃弾など当たったら砕け散る。

そして威力の弱まった――しかし人間一人殺すには十分なスピードを持った弾丸が一夏を貫く。

 

ゆえ、銃弾を斬る。

銃弾から身を守る。

両方を同時にやらなくてはならない。

銃弾が届く刹那の時間で。

 

「守れ。でなくては死ぬぞ」

「来い」

 

じりじりと時間が流れる。

時間は一夏の寿命すら削り取る。銃を前にする緊張感は一秒ごとにやすりで精神を削る。

しかし奈落のほうはと言うと、一夏が同士討ちを狙ってもノアⅢは止まらないので悠然と構えている。

 

「「……」」

 

時間が伸びる。呼吸が止まる。ああ、いったい自分はどれだけの時間ここにいるのだろうと思って、呼吸を――

そして、奈落はわずかな隙を逃さない。

それでも一夏は達人の域を超えている。

やられた、なんて思う暇もなく勝手に体が動く。

 

「神技【刹那】」

 

ここに神技……開眼。

銃弾を叩き落とした日本刀は思い出したようにぽっきりと折れる。

 

「見事」

 

これがどれだけの業か、本人は理解できておらぬし説明されても疑問符を浮かべるだけであろう。

だからこそ、感嘆と称賛をたった2字に込めた。

 

「それはどうも。で、連れてってくれるんだろう?」

 

なした本人は極限の集中を忘れたかのようにけろっとしている。

 

彼としてはただ銃弾を見切って刀を叩きつけただけである。

そも銃弾を見切ること自体が不可能に近いことであるうえ、それを受け止め叩き落すことなど馬鹿げているいがいに言いようがない。

受け止めるために半分だけ斬るなどという阿呆なことをやるなど、それこそ自分でさえ自覚できていない。

必要なだけの十分な――ちょうどそれだけの強化を自分にしていたなど、それこそ想像の埒外である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。