遠坂凛は光の戦士である   作:ホリイ

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プロローグ ~漁師~

 『残るサーヴァントの枠は2つ。急ぐことだ、凛』

 

 厭味ったらしい言葉を投げかけ、彼女の後見人である神父は電話を切った。

 彼の言うことは痛いほど理解できた。

 今日中になんとしても自分のサーヴァントを召喚しなければならない。

 私、遠坂凛が聖杯戦争に参加するためには、それは絶対に必要なことだ。

 

 聖杯戦争。

 

 それは万能の願望機である『聖杯』を巡り、七人の魔術師と七騎のサーヴァントが命をかけて争う大魔術儀式である。

 

 そして遠坂家はこの冬木のセカンドオーナーとして今まで四度行われたその戦争に常に関わってきた。

 右手の甲に浮かぶ令呪にかけて、それに背を向けることは許されない。

 今夜にも、召喚の儀式を行う必要があるだろう。

 

 「それは、わかってる。わかってるのだけど!」

 

 彼女は煩悶していた。

 古風な壁時計をキッとにらめつける。

 時刻はまもなく午後10時、まもなく、まもなく…。

 

 固 定 の時間なのである。

 

 

 説明しよう!

 

 固定とは、国産MMORPGの筆頭格、ファイナルファンタジー14において、高難易度コンテンツ、もしくは超高難易度コンテンツに挑むために組む長期パーティーのことである。

 

 一期一会を基本とするこのゲームにおいて、例外的に外部ツールなどを利用して連絡を取り合い、決まった曜日時間に集合し、コンテンツ攻略を目指すのだ。

 

 そして凛は、週6日、一日5時間というガチ攻略勢『kaleid ruby』のリーダーなのである。

 

 現在『絶アルテマウエポン破壊作戦』攻略まであと一歩、残りHP2%まできている。

 残念ながらすでにワールドファーストは達成されているが、今日クリアすればトップ5には入れる。

 前回の『絶バハムート討滅戦』のように、世界11位という屈辱を味わうことはないのだ。

 

 「でも午前2時までにクリアできるかは怪しい…!」

 

 だが習性のなせる技か、凛はなめらかな動きでワンタイムパスワードを入力している。

 

 彼女は覚悟した。

 

 「速攻でクリアして!速攻でサーヴァントを召喚する!これしか道はないわ!」

 

 

 [2]<Emiya Shirou>やっったあああああ!

 [3]<Prisma iriya>やったわね!Ruby!

 

 やった…!やった…!

 

 凛は涙を流していた。

 全身を歓喜が包んでいる。

 パーティーの全員が喜んでくれている。

 だがその中でも盾役(タンク)を担う双璧たるEmiyaとPrismaとは長い付き合いだ。

 

 Emiyaはリアルの知り合いと名前が似てる気がするけど今の時代に本名でプレイするリテラシーの低い人物がいるはずがない。

 PrismaはいはゆるEn、外国人だがお父さんが日本人らしく日本語にとても堪能だ。

 JpOnlyはもったいない、と自分に気づかせてくれた人だ。

 

 この歓喜にずっと包まれていたい。

 今夜はパーティーメンバーとずっとチャットして過ごそう。

 

 凛はそう考えた。

 

 [2]<Emiya Shirou>あ、Rubyさん。そういえば時間大丈夫ですか?2時から用事あるんですよね?

 

 え

 

 あ

 

 ま、まずいわ!

 

 [1]<Kaleid Ruby>ごめんなさい!落ちますね!

 

 凛は神速のタイピングを披露すると、直ちにゲームをシャットダウンした。

 時計を見つめる、すでに時間は2時を回り、3時に至ろうとしている。

 

 凛は悩んだ。

 

 「これからサーヴァントを召喚すると万全の召喚に至らない。かといって明日に回せば、その間に他のサーヴァントに攻められたとき身を護る方法がない。」

 

 なんでこんなことになってしまったの!

 

 もちろんそれは完全無欠に自業自得である。

 しかし、固定のリーダーとして、イエロー(最高位)の吟遊詩人として、固定をすっぽかすことはできなかった。

 

 幸いにして固定が終わり次第召喚の儀式を始められるよう、すべての準備は整っている。

 魔法陣の中心には特定の英霊に関わる遺物ではないものの、強大な魔力をたたえた宝石が鎮座している。

 十字の紋様をもつその宝石は、一人エオカフェで手に入れた吟遊詩人のコースターの上で凛を急かすような輝きを放っている。

 

 「いいわ、やりましょう…!」

 

 凛は決意した。

 その五大を統べる魔術回路を一斉に起動させる。

 

 宝石を砕いて描いた魔法陣。

 本来は地下の工房に設置すべきものを、彼女は時間を惜しんでパソコンのあるこの居間に描いていた。

 

 だが…問題ない。

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。」

 

 

 「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 魔法陣から光が溢れる。

 

 それはあまりに強い光だ。

 魔法陣の中に何かが現れる。

 しかし、その光を放つ本体はどんどんかすんでいく、おそらくそれはその強すぎる光で自らをも消そうとしているのだ。

 しかし…。

 

 掴んだ。

 

 凛にはその確信があった。

 いや、ここまできて逃してたまるものか。

 イメージするのは竿。

 

 まずは忍耐(ペーシェンス)

 そしてとっさに獲物の性質を見極める。

 

 「小手先の技ではいなされる、この大物は、ただ圧倒的な力にて制す(ストロングフッキング)べきもの!」

 

 彼女は剛力無双の竿捌きにより獲物をフッキングした。

 

 「あ、あれ?」

 

 だがその力は強すぎたのだ。

 彼女の強大な魔力で引きずり出されたそれは天井を打ち破り空へと飛んでいく…!

 

 そして落ちてきたのだった。

 

 

 凛は床に座り込んでいた。

 まさかこんなことになるとは思わなかった。

 周囲はすでに瓦礫の山である。

 

 そしてその瓦礫の上に…、呆れたような顔をした小人(・・)が座り込んでいる。

 その姿はとても、とっても見慣れたものだった。

 

 「なんとも呆れた召喚だな、だが一応確認しておこう。様式美は、挨拶とはとても大事なものだ」

 

 羽のついた帽子を傾け、不思議な形をした竪琴を抱いたその少年は問いかけた。

 

 「君が私のマスターか?」

 

 

 

 

 

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