「数が合わないな。君は、8体目のサーヴァントか?」
後ろでは凛が、しかし納得していた。
『やっぱり、衛宮くんのサーヴァントはセイバーじゃなかったのね…。』
バードの問に佐々木小次郎と名乗った男は落ち着いた風で応えた。
「知らんな。私は呼ばれたから来ただけだ。だが、特殊な召喚であったことは間違いない。あとはあの魔女に聞き給え。」
どうやら嘘をついてる様子はない。
彼が偽物のサーヴァントということもなさそうだ。
バードは確信していた、彼は真の侍である。
「リン、宝具を開帳したい。この男と戦うには、今の霊基では相性が悪い。」
「ええ、そう言うと思っていたわ。『侍』ね?」
バードは好戦的な笑みで頷いた。
そして、彼の異常な宝具の一つがついに衆目に晒されたのだ。
「
バードの姿が光りに包まれる。
そして、そこにいたのは…、もはやバードではなかった。
「名乗ろうか、私は
そこにいたのは陣笠をかぶり、赤い着流しに身を包んだ一人の侍だった。
そしてその手には、白い宝石で飾られた刀を握っている。
まるで美術品のようだが、その切れ味は、間違いなく絶品である。
「ほう、刀で私に挑むと?」
小次郎もさすがに驚いたようだ。
「剣豪ムソウサイ最後の弟子として、英霊の域に至った侍よ、お相手つかまつる。」
○
凛は二人の戦いに巻き込まれないように距離を取った。
いざ
小次郎は構えない、いや彼に構えはないのだ、彼は無形の域に達している。
尋常に
そしてサムライは、居合の構えを取っていた。
勝負!
「明鏡止水…彼岸花!」
初手はサムライだった。
尋常ならざる居合斬りが小次郎の体に届く。
それはかすり傷だが、彼の体を蝕み続けるだろう、そういう業なのである。
「これは恐るべき魔剣だな、ならば私も返礼しよう。」
そう言うと、小次郎は己の気配を突然抑え始めた。
いや、違う。
本当に消えた!?
「!?」
サムライは咄嗟に身を反らした。
彼のいた場所をすさまじい剣風が過ぎ去る。
いや、彼は完全にかわし切ることができなかった。
彼の腕から、一筋の血が垂れる。
かすっただけにも関わらず、その出血は多かった。
「ふむ、そなたもしや竜の属性を身に帯びるか?」
「何だと。」
その通りだ。
サムライは、竜の力を宿す『蒼の竜騎士』でもある。
「実は私は夢幻の彼方にて、竜を相手にしたことがあってな。飛竜、悪竜あまりに多く切った。故に竜殺しの称号をいただいたのだ。」
何ですって!
それは凛たちの主従にとってあまりに不利な情報だった。
そして、さらに驚くべきことに、小次郎の体に届いたはずの呪いが消えているのである。
「彼岸花を消したか…!」
「ああ。透化した際、呪いも私を見失ったのだろう。」
状況はサムライにとってあまりに不利と思われた。
だが、彼は笑みを消すことができない。
これだ、これをこそ私は望んでいた。
蹂躙できるような相手では、確かめることができない!
「行くぞ佐々木小次郎、あと五合の後、君を葬ろう。」
「面白い、では五合撃ち合ってなお、そなたが生きていたなら、私も必殺の魔剣を披露しよう。」
○
彼ら二人の侍はついに五合を撃ち合わせた。
「見事…!」
「美事」
二人共無傷ではない。
その五合は一撃一撃がお互いに必殺を期したものだった。
にも関わらず生きている、彼らはお互いの技に感服していた。
そしてありていに言って、わくわくしていた。
「では見せよう、我が奥義を。」
「応えよう、我が魔剣にて…!」
「必殺剣…」
サムライは居合の構えを取った。
彼の足元に、不可解な紋様が浮かぶ。
それはまるで魔法陣のようだった。
「魔剣…」
ここに至って、小次郎は初めて構えを取った。
「乱れ雪月花!」
「燕返し!」
時空が歪んだ。
彼らの剣はいかなる偶然か、全く同じ属性をもつものだった。
すなわち、『多重次元屈折現象』。
完全に同時に、三つの異なる太刀筋を放つ。
それは第二魔法の域に達した神域の絶技。
そう、それが衝突したのだ。
まさしく、時空が歪んだのである。
彼ら二人は見た、無限の狭間で、お互いの人生を。
サムライはつぶやいた。
「ただ燕を切りたかっただけ…か。」
小次郎は返した。
「そのとおり。そしてお主は、光の戦士か…。英雄となり、その強すぎる光ゆえ永遠の責め苦を負うとは…。」
サムライは刀を構えた。
今度は居合ではない。
「私には二の太刀がある。君はどうする?」
「ふ、知っているとも。私は、ただ一の太刀を繰り返すのみ。」
彼らの戦いを見ていた、凛は宣言した。
「サムライ!宝具の開帳を許します。」
「小次郎!いやその名を被せられた無名の剣豪よ!これがわが最大の技!」
「魅せてみよ!私も全力にて応えよう!」
世界が震える。
全てのサーヴァントと魔術師が、いやそれ以外のこの世の全てが。
気づいたのだ、神が、いや世界が定めた限界が破られようとしていることに。
「
「魔剣・燕返し!」
○
サムライはゆっくりと刀を納めた。
小次郎、いや無名の姿は残っていない。
消滅したのだ。
この恐るべき聖杯戦争において、最初の脱落者はセイバーだった。
凛は呆れた口調で呟いた。
「参ったわね、宝具を全開にしてやっと一騎なんて。それに私の魔力はもう空っぽよ」
「すまない、リン。だが帰るわけにはいかないのだろう?」
凛は強く頷いた。
「衛宮くんが戦っているはず。人質がいて、
分が悪いわ。急いで助けないと。」
主従は頷きあうと、石段を駆け上った。
○
「着いた!衛宮くんは!?」
柳洞寺の境内に入ると、すぐさま凛は周囲を見回した。
すると寺の本堂の前に一騎のサーヴァントが待ち受けている。
それは偽りと判明したセイバーだった。
「セイバー?衛宮くんはどうしたの」
「待てリン、様子がおかしい」
近付こうとする凛をサムライが押し止める。
それは正しい判断だった。
セイバーが、その盾を放り投げたのだ。
それは殺意をもって凛にせまる。
「!?ぬう」
それはギリギリでサムライが弾いた。
盾はセイバーの元に返っていく。
「セイバー!?なんで!」
「リン!」
セイバーは苦しそうに話しだした。
「ギリギリで押し留めています、早く私を倒すのです!そしてシロウを…!」
凛が、セイバーの言葉を必死で理解しようとしたとき、上空から、一騎のサーヴァントが舞い降りた。
「あら、令呪で命じたのに大したものね。」
黒と紫の衣を身にまとった女性だった。
しかしその顔はフードで隠され見ることができない。
「
すると、セイバーが苦しそうに話しだした。
彼女はその強大な対魔力によって、令呪にあらがっているのだ。
「彼女の短剣に気をつけてください、契約を、打ち消す力があります!」
凛は理解した。
おそらくこの魔女は士郎とセイバーの契約を打ち消したのだ。
そして自らをセイバーのマスターとしたに違いない。
そしてキャスターは残酷な笑みを見せた。
「いけない子」
そして何らかの魔術を行使したのだ。
すると、本堂の中からすさまじい叫び声が聞こえてきた。
「ぐあああああああああ!!」
その声は、よく、知っているものだった。
「キャスター!?シロウに何をした!」
「だって、貴女があまりに悪い子なんですもの。貴女の大事な元マスターの腕を、一本いただいたわ。」
その声を聞いて凛は意識が白熱するのを感じた。
「なんですって!?」
魔女は何でもなさげに頷いた。
「ぐちゃっと砕いてあげたのよ。次はどこをもらおうかしら?足?それとも、下顎なんてどうかしら。きっと素晴らしい顔になるわね。」
それを聞いたセイバーは覚悟したようだった。
「いきます、リン、バード。貴方たちの全てをかけて、私を、そしてこの魔女を倒してください。」
サムライは刀を構えた。
「やるしかないぞ、マスター。」
「そのようね、なんとしてでも衛宮くんを助けるわ。」
身構える二人に、慈悲の聖剣を構えたセイバーが、突撃する!
次回
第六話 ~弓兵(第五次)~