遠坂凛は光の戦士である   作:ホリイ

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第五話 ~剣士~

 「数が合わないな。君は、8体目のサーヴァントか?」

 

 吟遊詩人(バード)剣士(セイバー)と名乗った侍風の男に詰問する。

 後ろでは凛が、しかし納得していた。

 

 『やっぱり、衛宮くんのサーヴァントはセイバーじゃなかったのね…。』

 

 バードの問に佐々木小次郎と名乗った男は落ち着いた風で応えた。

 

 「知らんな。私は呼ばれたから来ただけだ。だが、特殊な召喚であったことは間違いない。あとはあの魔女に聞き給え。」

 

 どうやら嘘をついてる様子はない。

 彼が偽物のサーヴァントということもなさそうだ。

 バードは確信していた、彼は真の侍である。

 

 「リン、宝具を開帳したい。この男と戦うには、今の霊基では相性が悪い。」

 「ええ、そう言うと思っていたわ。『侍』ね?」

 

 バードは好戦的な笑みで頷いた。

 

 そして、彼の異常な宝具の一つがついに衆目に晒されたのだ。

 

 「霊 基 変 更(ジョブチェンジ)!」

 

 バードの姿が光りに包まれる。

 そして、そこにいたのは…、もはやバードではなかった。

 

 「名乗ろうか、私は(サムライ)のサーヴァント。真名については令呪で禁じられている。」

 

 そこにいたのは陣笠をかぶり、赤い着流しに身を包んだ一人の侍だった。

 そしてその手には、白い宝石で飾られた刀を握っている。

 まるで美術品のようだが、その切れ味は、間違いなく絶品である。

 

 「ほう、刀で私に挑むと?」

 

 小次郎もさすがに驚いたようだ。

 

 「剣豪ムソウサイ最後の弟子として、英霊の域に至った侍よ、お相手つかまつる。」

 

 

 凛は二人の戦いに巻き込まれないように距離を取った。

 

 いざ

 

 小次郎は構えない、いや彼に構えはないのだ、彼は無形の域に達している。

 

 尋常に

 

 そしてサムライは、居合の構えを取っていた。

 

 勝負!

 

 「明鏡止水…彼岸花!」

 

 初手はサムライだった。

 尋常ならざる居合斬りが小次郎の体に届く。

 それはかすり傷だが、彼の体を蝕み続けるだろう、そういう業なのである。

 

 「これは恐るべき魔剣だな、ならば私も返礼しよう。」

 

 そう言うと、小次郎は己の気配を突然抑え始めた。

 いや、違う。

 本当に消えた!?

 

 「!?」

 

 サムライは咄嗟に身を反らした。

 彼のいた場所をすさまじい剣風が過ぎ去る。

 いや、彼は完全にかわし切ることができなかった。

 彼の腕から、一筋の血が垂れる。

 

 かすっただけにも関わらず、その出血は多かった。

 

 「ふむ、そなたもしや竜の属性を身に帯びるか?」

 「何だと。」

 

 その通りだ。

 サムライは、竜の力を宿す『蒼の竜騎士』でもある。

 

 「実は私は夢幻の彼方にて、竜を相手にしたことがあってな。飛竜、悪竜あまりに多く切った。故に竜殺しの称号をいただいたのだ。」

 

 何ですって!

 

 それは凛たちの主従にとってあまりに不利な情報だった。

 そして、さらに驚くべきことに、小次郎の体に届いたはずの呪いが消えているのである。

 

 「彼岸花を消したか…!」

 「ああ。透化した際、呪いも私を見失ったのだろう。」

 

 状況はサムライにとってあまりに不利と思われた。

 だが、彼は笑みを消すことができない。

 

 これだ、これをこそ私は望んでいた。

 蹂躙できるような相手では、確かめることができない!

 

 「行くぞ佐々木小次郎、あと五合の後、君を葬ろう。」

 「面白い、では五合撃ち合ってなお、そなたが生きていたなら、私も必殺の魔剣を披露しよう。」

 

 

 彼ら二人の侍はついに五合を撃ち合わせた。

 

 「見事…!」

 「美事」

 

 二人共無傷ではない。

 その五合は一撃一撃がお互いに必殺を期したものだった。

 にも関わらず生きている、彼らはお互いの技に感服していた。

 

 そしてありていに言って、わくわくしていた。

 

 「では見せよう、我が奥義を。」

 「応えよう、我が魔剣にて…!」

 

 「必殺剣…」

 

 サムライは居合の構えを取った。

 彼の足元に、不可解な紋様が浮かぶ。

 それはまるで魔法陣のようだった。

 

 「魔剣…」

 

 ここに至って、小次郎は初めて構えを取った。

 

 

 「乱れ雪月花!」

 

 「燕返し!」

 

 

 

 時空が歪んだ。

 

 

 彼らの剣はいかなる偶然か、全く同じ属性をもつものだった。

 

 すなわち、『多重次元屈折現象』。

 

 完全に同時に、三つの異なる太刀筋を放つ。

 それは第二魔法の域に達した神域の絶技。

 

 そう、それが衝突したのだ。

 

 まさしく、時空が歪んだのである。

 

 彼ら二人は見た、無限の狭間で、お互いの人生を。

 

 サムライはつぶやいた。

 

 「ただ燕を切りたかっただけ…か。」

 

 小次郎は返した。

 

 「そのとおり。そしてお主は、光の戦士か…。英雄となり、その強すぎる光ゆえ永遠の責め苦を負うとは…。」

 

 サムライは刀を構えた。

 今度は居合ではない。

 

 「私には二の太刀がある。君はどうする?」

 「ふ、知っているとも。私は、ただ一の太刀を繰り返すのみ。」

 

 彼らの戦いを見ていた、凛は宣言した。

 

 「サムライ!宝具の開帳を許します。」

 

 「小次郎!いやその名を被せられた無名の剣豪よ!これがわが最大の技!」

 「魅せてみよ!私も全力にて応えよう!」

 

 世界が震える。

 全てのサーヴァントと魔術師が、いやそれ以外のこの世の全てが。

 気づいたのだ、神が、いや世界が定めた限界が破られようとしていることに。

 

 「限界突破(リミットブレイク)生者必滅(しょうじゃひつめつ)

 

 「魔剣・燕返し!」

 

 

 サムライはゆっくりと刀を納めた。

 小次郎、いや無名の姿は残っていない。

 

 消滅したのだ。

 この恐るべき聖杯戦争において、最初の脱落者はセイバーだった。

 

 凛は呆れた口調で呟いた。

 

 「参ったわね、宝具を全開にしてやっと一騎なんて。それに私の魔力はもう空っぽよ」

 「すまない、リン。だが帰るわけにはいかないのだろう?」

 

 凛は強く頷いた。

 

 「衛宮くんが戦っているはず。人質がいて、魔術師(キャスター)の工房に一騎で攻める。

 分が悪いわ。急いで助けないと。」

 

 主従は頷きあうと、石段を駆け上った。

 

 

 「着いた!衛宮くんは!?」

 

 柳洞寺の境内に入ると、すぐさま凛は周囲を見回した。

 すると寺の本堂の前に一騎のサーヴァントが待ち受けている。

 

 それは偽りと判明したセイバーだった。

 

 「セイバー?衛宮くんはどうしたの」

 「待てリン、様子がおかしい」

 

 近付こうとする凛をサムライが押し止める。

 それは正しい判断だった。

 

 セイバーが、その盾を放り投げたのだ。

 それは殺意をもって凛にせまる。

 

 「!?ぬう」

 

 それはギリギリでサムライが弾いた。

 盾はセイバーの元に返っていく。

 

 「セイバー!?なんで!」

 「リン!」

 

 セイバーは苦しそうに話しだした。

 

 「ギリギリで押し留めています、早く私を倒すのです!そしてシロウを…!」

 

 凛が、セイバーの言葉を必死で理解しようとしたとき、上空から、一騎のサーヴァントが舞い降りた。

 

 「あら、令呪で命じたのに大したものね。」

 

 黒と紫の衣を身にまとった女性だった。

 しかしその顔はフードで隠され見ることができない。

 

 「魔術師(キャスター)のサーヴァント?セイバーに何をしたの?」

 

 すると、セイバーが苦しそうに話しだした。

 彼女はその強大な対魔力によって、令呪にあらがっているのだ。

 

 「彼女の短剣に気をつけてください、契約を、打ち消す力があります!」

 

 凛は理解した。

 おそらくこの魔女は士郎とセイバーの契約を打ち消したのだ。

 そして自らをセイバーのマスターとしたに違いない。

 

 そしてキャスターは残酷な笑みを見せた。

 

 「いけない子」

 

 そして何らかの魔術を行使したのだ。

 すると、本堂の中からすさまじい叫び声が聞こえてきた。

 

 「ぐあああああああああ!!」

 

 その声は、よく、知っているものだった。

 

 「キャスター!?シロウに何をした!」

 「だって、貴女があまりに悪い子なんですもの。貴女の大事な元マスターの腕を、一本いただいたわ。」

 

 その声を聞いて凛は意識が白熱するのを感じた。

 

 「なんですって!?」

 

 魔女は何でもなさげに頷いた。

 

 「ぐちゃっと砕いてあげたのよ。次はどこをもらおうかしら?足?それとも、下顎なんてどうかしら。きっと素晴らしい顔になるわね。」

 

 それを聞いたセイバーは覚悟したようだった。

 

 「いきます、リン、バード。貴方たちの全てをかけて、私を、そしてこの魔女を倒してください。」 

 

 サムライは刀を構えた。

 

 「やるしかないぞ、マスター。」

 「そのようね、なんとしてでも衛宮くんを助けるわ。」

 

 身構える二人に、慈悲の聖剣を構えたセイバーが、突撃する!




 次回 

 第六話 ~弓兵(第五次)~
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