遠坂凛は光の戦士である   作:ホリイ

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第八話 ~暗黒騎士~

 あれから丸一日がすぎた。

 

 アインツベルンの城において、二騎のサーヴァントが消滅したことはわかっていた。

 そしてそこからはイリヤの姿が消えていたのだ。

 

 彼女は未だ見つかっていない。

 

 遠坂凛ももちろん手を尽くして探している。

 衛宮士郎はやめろと凛が言っても聞かず、セイバーを連れて冬木の街を駆けずり回っていた。

 だが、さすがに彼も、日が落ちると共に衛宮の屋敷に帰ってきた。

 

 そして今、凛は

 

 クラクラしている。

 

 衛宮士郎が

 彼女の想い人が

 

 押してくるのである!

 

 先程話しかけられた際など、彼はいきなり手を恋人繋ぎしてきたのだ!

 彼女の頭は熱に浮かされている。

 そして恐ろしいことに、彼は今この屋敷にいる女性、セイバーと藤村大河にも似たようなことをやっているのである。

 

 なぜか!?

 

 説明しよう!

 

 衛宮士郎は鈍感系主人公である!

 エミヤシロウはドンファンである!

 

 かの英霊の限りなく近似の存在の名台詞にこんなものがある。

 

 『可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは』

 

 彼と融合し、何の遠慮も無く記憶と力を譲り渡された士郎は、もはや士郎であって士郎ではない。

 彼は、平気で『ぶらっくすいまー』を履ける漢なのだ。

 

 「気が狂いそう!どうすればいいの!?バード」

 「自由にしたらいいんじゃないかなあ」

 

 彼女のサーヴァントは役に立たなかった。

 

 その時である。

 訪問を告げる、チャイムが鳴り響いたのは。

 

 

 その男は、

 

 ワイハーだった。

 

 麦わら帽子を頭にかぶり

 派手なフレームのサングラスを着け

 アロハシャツに身を包み

 胸にはレイと呼ばれる花輪

 半ズボンにビーチサンダル

 腕にはウクレレを抱いていた。

 

 「我は征服王!イスカンダルである!アロハ!」

 

 凛は何と言っていいかわからなかった。

 最初に発言したのは士郎である。

 

 「ライダー、行ってきたのか?ハワイに…。」

 「応よ、我が戦車でも中々時間がかかったな。だが、ハワイの名所。見事征服してきたぞ。」

 

 凛は信じられないものを見る目でライダーを見た。

 

 「悪い冗談…。聖杯戦争中に冬木を離れたの?」

 「うむ、俺のマスターのやっているスマホゲーを見たら急に行きたくなってな。まったくせっかくのハワイだというに、奴めはずっと不景気な顔をしておったわ」

 

 そういうライダーのそばには、そのマスターの姿はなかった。

 

 「ライダー、貴方のマスターはどこに…?」

 

 セイバーがそう質問すると、ライダーは今気がついたように辺りを見回した。

 

 「ガッハッハ!どうやら忘れてきたようだ。」

 

 凛は思った。

 自分がこの男のマスターでなくてよかったと。

 

 

 その後、ライダーは自らの宝具によってマスターを召喚した。

 その瞬間、彼は日本に密入国しようとする船の中にいたという。

 

 「…ふむ。ではどうかな?情報交換するというのは。君たちからは私達が、冬木にいなかった間の情勢。私達は聖杯について握っている情報を話そう。」

 

 凛たちは、その提案を受けた。

 ライダーのマスター、ロードエルメロイⅡ世は、凛の説明を聞くと黙考し、話しだした。

 

 「状況からして、おそらくランサーが漁夫の利を得たのだろうな。そしてアインツベルンのマスターだが、おそらく大聖杯の元にいるのではないか?」

 「大聖杯?」

 

 それに応えたのは、凛にとって意外にも、士郎だった。

 

 「それならきっと、柳洞寺の地下にある。」

 

 

 凛たち一行は洞窟の中を進んでいた。

 柳洞寺の円蔵山、その内部に存在する大空洞。

 その名を龍洞という。

 

 「こんな場所があったなんてね、衛宮くんはなぜ知ってるの?」

 

 凛は不思議そうに尋ねる。

 士郎はそれに対し、言葉を濁してごまかした。

 

 

 「この先に士郎のお義姉さんが、切嗣さんの娘さんがいるかもしれないのね?」

 

 彼ら一行には大河もいた。

 彼女はもはや令呪をもつ聖杯戦争のマスターとなってしまった。

 

 一人で置くわけにはいかなかったのだ。

 

 「よくわかんないけど、絶対に助けるわよ!」

 

 そして何の妨害もなく

 

 彼らは絶望の地平にたどり着いた。

 

 

 一目でわかった。

 

 あれは聖杯である。

 

 そして、その有り様を狂わせている。

 

 「来たか。久しぶりだな、バードのマスター。」

 

 そこにいたのは一騎のサーヴァント。

 いや、サーヴァントなのか?

 その異形はもはや人とは思えぬほど。

 まず尻尾が生えているのだ。

 

 凛は応えた。

 

 「ええ。久しぶりね、クーフーリン。バーサーカーになったのかしら?」

 「はは!俺が真にバーサーカーになればこんなものじゃ済まんさ。」

 

 そしてそこに意外にも冷静な声がかけられる。

 士郎だった。

 

 「クーフーリン、義姉さんは、イリヤはここにいるのか?」

 「イリヤ?それは、この小聖杯のことか?」

 

 クーフーリンが指を鳴らす。

 すると、彼のルーンによって隠されていた姿が現れた。

 

 それは天の衣に身を包んだ、イリヤだった。

 

 

 「もう死んじまったが、コトミネの野郎の話だと、サーヴァントは、死ぬとその魔力がこの小聖杯に注がれるらしい。」

 

 イリヤには意識が無いようだ、その瞳をつむったままである。

 

 「それで、この小聖杯には既に六体分のサーヴァントの魔力で満ちている。ギルガメッシュの魔力がでかすぎたせいだろうな。」

 

 クーフーリンは続けた。

 

 「あと一騎滅ぼせば、聖杯は起動する。さてどいつにするか、よりどりみどりだな。」

 

 彼は舌なめずりしていた。

 だが、それをセイバーが否定する。

 

 「狩られるのは貴方です、クーフーリン!」

 「なるほど、三体一は少々面倒だな。」

 

 彼は酷薄な笑みを浮かべた。

 

 「だが俺はコトミネの思いつきで何日か前、この大聖杯にダイブさせられてな。どうもこの大聖杯の中の何かに気に入られたようだ。」

 

 クーフーリンは左手を掲げた。

 

 「だからこうやって、力を貸してくれる。」

 

 すると大聖杯から、三つの黒い靄が湧き出したのだ!

 その靄の一つが、セイバーの前に来ると、黒色のまま、一つの形に変わる。

 

 それは、シャドウサーヴァントと呼ばれる存在。

 

 セイバーは悲鳴をあげた。

 

 「ランスロット卿…!。また私の前に立つのか!」

 

 彼女を守るだろう士郎もそれはできなかった。

 彼の前には、双剣を構えた影が立ちふさがったのだ。

 

 「お前か…!」

 

 士郎もまた、双剣をその手に出現させる。

 そして、バードの前には。

 

 「バード?彼と戦えるの…?」

 

 長身の騎士が立ちふさがっていた。

 

 

 先日のことだ。

 

 凛は夢をみた。

 戦いの夢だ。

 

 凛はそれを識っているはずだった。

 だが、それでも、その夢は凛の心を粉々に砕きかけていた。

 

 神と相対するとはそういうことだ。

 

 バードとは、光の戦士とは、神殺しである。

 

 彼の世界において、神と相対し得るものは限られていた。

 なぜなら、神とは人を統べるものである。

 只人が、神と相対したならば、彼らはその威光に屈服し、信者(テンパード)となってしまうのである。

 

 神と戦うには『超える力』が必要だ。

 

 彼はすでに両手の指では数え切れぬ神を滅した。

 だが、戦いは終わらない。

 

 同じ神を、再び喚ぶものがいる。

 新たな神を、喚ぶものがいる。

 古に封印された神を、解放するものがいる。

 

 神は滅しなければならない。

 神は大地の魔力を吸い上げ、その地を人の住めぬ死の大地と化すからだ。

 

 彼に脱落は許されない。

 その『超える力』ゆえに。

 

 それは規格外(EX)の中の規格外(EX)

 何度でも、戦いをやり直せる力。

 

 彼は完全なる不死である。

 そして最近気がついた。

 この力を得てから、年老いていない。

 

 戦いは知恵ある生き物が全て滅びるその時まで、永遠に終わらない。

 もしくは、自分がすり減り、完全に摩耗するまで。

 

 だがそんな地獄の中で、彼を唯一救ってくれるものがあるとするならば。

 

 それは友である。

 

 

 「戦えるさ。」

 

 バードは朗々と宣言した。

 そしてその力を使う。

 

 「霊基変更(ジョブチェンジ)

 

 光に包まれた後そこには、シャドウサーヴァントと見紛う漆黒の鎧に身を包んだ騎士がいた。

 

 その騎士の名は暗黒騎士(ダークナイト)

 ただ弱き者を守るためにその剣を振るう彼らの理念を、世界は愛とよんだ。

 

 「お前を倒す、だがこれは憎しみの剣ではない。これは愛の剣なり。」

 

 ダークナイトは、優美なる大剣を掲げ、影の騎士に挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

第九話 ~白魔道士~
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