fgo 織田信長×沖田総司 現パロ『桜のリング』序章   作:嗚呼蛙

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第1話

「ちゃんと水分摂らんと死ぬぞ。」

 

 

気温40度に迫る炎天下の中、火照った頬に冷たいものが当てられる。頭に溜まった熱が奪われていくのが気持ちいい。

 

だるさと吐き気のせいで目を開ける気にもならなかったが、声でこの心地よさをくれている相手が誰なのかはわかった。

 

 

「またサボってるんですか?」

 

 

「こんな日に登校させる方がどうかしとるわ。お前もせめて体育くらいサボればいいものを。さぁ、保健室に行くぞ。日陰でもこの暑さでは熱中症は良くならんからな。」

 

 

声の主はそう言うと、私にポカリスエットのペットボトルを握らせ、体育館の影に座り込んだ私の腕を肩にかけ、背中と膝の裏に腕を通して軽々と持ち上げた。涼しいところにいたのか、私の体が熱いからなのか、腕の下のツヤツヤの髪の毛も、私を抱える腕も、頭を支えてくれている肩も、何もかもがひんやりとしていてる。頬に当たる制服のシャツもサラサラしていて、別の季節から来たのかと錯覚するほどだった。

 

 

「ノッブと話すの久しぶりですね。」

 

 

「…わしにはあまり近付かん方が良いからのう。」

 

 

私がノッブと呼んだこの人は、この付近の地域を拠点にしているヤクザ屋さんの跡取りと言われている人物で、本名を織田信長という。小柄だが大物感のある人で、凛とした顔立ちと、長いシルクのような黒髪が印象的だ。

 

家のこともあり学校では恐れられているが、私にとってはこの街へ越してきて最初の友人だった。

 

 

ノッブは私を保健室へ運び、ベッドへ寝かす。冷凍庫から保冷剤を引っ張りだしながら保健室が無人であったことについて職務怠慢だなんだと悪態をつきながら、私に気分や症状を尋ねてきた。

 

私が外にいたときよりは大分マシであることを伝えると、ホッとしたような顔でこちらを見る。そんなノッブと目が合うと、私の心臓はどくりと跳ねた。

 

頭の下に保冷剤を入れながら、自分で飲めるか?とポカリのボトルを渡してきたので、起き上がって一気に半分ほど飲み干してみせる。あまり心配をかけたくなかった。

 

 

「ノッブは最近どうしてるんです?」

 

 

なんとなく、世間話でもと聞いてみた。

 

せっかく久しぶりに話せたのに、このまま別れるのはあまりに寂しい。

 

 

出会った頃のノッブは、いつも私を遊びに連れ歩いてくれたのに、次第に距離を置くようになって、中学に上がる頃には、一緒に過ごすことが稀になり、最近では言葉を交わすことすらほとんどなくなってしまっていた。近付かない方が良いとノッブは言うが、私は少しでも長くノッブと一緒にいたい。なんとかこの場に引き留めておきたかった。

 

 

「別に、特段変わったことはないな。沖田はどうじゃ?」

 

 

人目がないせいか、私の近くに腰をかけて、以前と変わらない調子で聞いてくれた。それが嬉しかったので、ノッブが遊んでくれないから退屈だと告げようと思ったが、ノッブのシャツの襟元から首に下げている革紐が目に入り、思わず口を噤む。その紐の先にある物が私は堪らなく嫌いだったから。

 

 

「ノッブが気を使ってくれてるおかげで、普通の学生生活ができてますよ。」

 

 

代わりに口から出たのは嫌味だった。

 

私はしまったと思ったが、ノッブはケラケラと笑って、感謝せいよ。と私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

 

「存分に青春を謳歌するが良いぞ、お前が楽しんでおるなら、わしも身を引いとる甲斐があるというものじゃ。」

 

 

そう言うとノッブはスッと立ち上がり、ベッドにかかったカーテンの向こうへ行ってしまう。少しの間ガサゴソと何かしている気配があり、濡れたタオルを手に戻って来て、体を拭くといいぞ。と私にそれを手渡すと、お礼を言う間も無くさっさとどこかへ消えてしまった。

 

あとには突き刺すような胸の痛みと、耳の奥の熱い鼓動だけが残った。

 

 

 

 

 

 

気がつくと空が少しオレンジがかっていた。授業もとっくに終わっている時間になっていて、私は慌ててベッドから飛び起きる。いつの間にか戻っていた保健の先生に挨拶をして、カバンを取りにいくため自分のクラスへと向かった。

 

 

教室では数名のクラスメイトが談笑していて、私がドアを開けると一斉にこちらを向いて、おかえり。と挨拶をしてくる。あまり親しく無い子たちからの言葉だったので違和感を感じたが、一応、ただいまです。と返して自分の席に座ると、その子たちに机の周りを取り囲まれた。

 

 

「ねぇ!沖田さんって信長さまと仲良いの?」

 

 

私は状況を理解する。

 

この子たちはノッブのファンなのだ。

 

ノッブは怖がられてもいるが、顔が良く目立つ存分なので、一方的に慕っている人間も多い。私もノッブがプレゼントやらラブレターを押し付けられているところや、不良に舎弟にしてくれと土下座をかまされるところなどを何度か目撃しているくらいだ。しかも同校の生徒だけではなく、近隣の小中高からも、時には大人の人までやってくることもあるらしい。

 

以前のノッブは、私にそれを煩わしいと話してはいたが、決してそれらを無下にすることはせず、温情ある対応をしているため、一部ではこの通り、様付けで崇拝する者までいる始末になっていた。

 

 

そしてそれは、ノッブが私を避ける理由のひとつでもある。

 

 

そういう輩は何をするかわからないから、仲が良いと思われては危険だというのだ。

 

実際五年生くらいのときに階段から落とされたことがあり、それ以来ノッブは私から距離を置いていた。私自身もノッブのファンの子たちを残らず殺して回りたい気持ちがあるので、そういう心理は理解できるし、ノッブと一緒にいることが危険なのは間違いないだろう。

 

現に、どこで誰が見ていたのか、今日保健室に運んでもらったことも知られていて、こうして詮索を受けている。

 

 

だから、そうなんです。仲良しなんですよ。と答えるわけにもいかず、熱中症だと思われて保健室に連れていかれただけだと短く答えると、キャーと黄色い歓声が上がった。優しい!かっこいい!やっぱりただのヤンキーとは違う!と口々に好き勝手な感想を言ってはしゃぐ。その様子が大変不快だったので、私は急いでカバンに教科書を詰めて、その場を去ろうとしたが、教室を出る寸前のところで呼び止められ、こう聞かれた。

 

 

「信長さまの指輪、今いくつあった?」

 

 

「指輪?」

 

 

「あぁ、知らないならいいよ、ごめんね。」

 

 

私がとぼけると、その子たちはまた自分たちの話に戻っていった。

 

ムカムカしながら教室を後にして、校舎の外へ出ると、まだ沈まない太陽に全身を焼かれる。

 

汗が首の後ろを伝う度、体の中で胸を重たくする気持ちの濃度が濃くなっていく気がした。

 

 

 

 

 

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