「まさかあのキーパー一人で止めてくるとはな」
「ああ。円堂やムーン以外に止められるのは想定外だった」
ネオ・カオス側のベンチでは先ほどのプレーに対し、立向居の評価を改めていた。
「お言葉ですがバーン様、ガゼル様。今のプレーを加味してもあのキーパーの実力は二人よりは劣っているでしょう」
「現時点では確かにそうだ。だがその二人が託すほどのキーパーだとも言い換えられる」
「つまり、弱いわけがない……まだまだ何かを秘めている可能性がありますね」
「それに問題はガゼル様のシュートを一人で止められてしまった点にあるか」
「しかもこの状況普通ならキーパー一人に託し守りを手薄にするかもしれない。だが……」
「あのムーンがそんなことするとは思えない」
ネッパーをはじめとし、ネオ・カオスの面々での話し合いが行われる。
「あの必殺技を使えば破れる。だがムーンが易々と打たせはしないだろう」
「課題はムーンを如何にして抑えるか。そしてどうやってシュートを止めるかに尽きるな」
チームとしてまとまりを見せるネオ・カオス。選手たちの顔には七点差が付いているこの状況でも慢心や油断はなく、ポジションに着くまで作戦会議は行われるのだった。
一方の雷門側のベンチ。
「というか十六夜は今まで何をしてたんだよ」
「あーそれは後でいいか?今は試合に集中しよう」
「そうだな。まだまだ七点差ある。油断は出来ない」
こちらも十六夜を受け入れはしたが、この男が今まで何をしていたのかが気になる模様。
「なーなー。アンタ、あいつらの弱点知らん?」
「そうですね、十六夜君。彼らに付け入る隙はないのですか?」
敵の情報を多く持っていそうな男……十六夜に声をかける二人。選手マネージャー問わず、この場にいるものは気になってる様子だ。
「そうだな。まず前提として、カオスやネオ・カオスっていうチームは二つのチームから出来た、言わば混成チーム。だから元々の所属していたチームが違う者同士には連携の隙があった」
「へぇ、二つのチームを合わせた……ん?連携の隙があった?」
「じゃあ、今はないのか?」
「試合して分かるだろ?連携にそんな隙はなくなったよ。いや、なくしたと言うべきか……」
「まさかとは思うけど……その隙をなくしたのって貴方の働きが大きいのでは……」
「まぁ、否定はしないな」
(((もしかしてコイツってやっぱり敵だった?)))
本来十六夜が加入していなければ、改善させていなければ付け入ることの出来た大きな隙。
だが今の彼らにはそんな隙はなくなってしまった。
「あー後、はっきり言うとあのキーパー。アイツはそこまで強くない。ジェネシスのキーパー……ネロって言うんだがそいつに比べたら遙かに弱い。だから豪炎寺、アフロディ。二人なら単独で点を取るのに十分過ぎるほどの力を持っている」
「ああ」
「分かったよ」
(まぁ、吹雪でも行けるだろうが……前の試合も含め出ていない以上期待はできないか)
吹雪の方を一瞬見るが、すぐに視線を全体に散らした。
「重要なことだが奴らは攻撃重視のチーム。だから、油断なんてしてるとまた突き放されるぞ」
十六夜が少し威圧を込めて話す。
現状は止めることができているが油断すれば簡単に崩されるだろう。
「だが逆転の余地は大いにある。後半もガンガン行くぞ」
「よぉし!逆転していくぞ!」
「「「おう!」」」
そして残された数少ない時間を使い、十六夜と鬼道は情報を共有し後半に向けてのゲームメイクを進めていくのだった。
『さぁ、いよいよ後半開始です。3ー10でカオスがリード!果たして雷門追いつけるか!』
ピ──!
カオスボールで後半戦開始。ボールはネッパーが持っている。ネッパーからリオーネ、そしてヒートへと細かくパスを繋げていく。
さっきアフロディや豪炎寺でも点を取ることができると言った。その言葉には勿論嘘はない。問題はどうやってそこまで持って行くか。
「まずはボールを獲らないことには始まらないか。円堂!土門!」
「おう!」
「分かった!」
ボールはネッパーが持っている。正面から土門がマークに、土門の後ろからオレと円堂が走って向かう。
「ボルケイノカット!」
土門の必殺技ボルケイノカットが発動する。この技はシュートブロックなどにも使える優秀な技。威力も大きいが、当然弱点が存在している。一言で言うなら正面は強いがそれ以外は弱い。
だからネッパーの取る選択肢は二つ。ドリブルで大きく迂回するか、後ろか横へパスを出すか。今回ネッパーは前者を選んだようだが……
「外れだよ!」
同じくボルケイノカットを迂回するように走っていたオレの正面にネッパーは現れる。ボルケイノカットのお陰でオレたちの動きが見えなかったネッパー。思わず足を止めてしまう。そしてその隙を逃すほどオレは甘くない。
「攻めるぞ!」
ボールを奪いドリブルで上がっていく。
ちなみにさっき、ネッパーは右から迂回したようだが左から迂回すれば円堂に当たっていた。ボルケイノカットはカモフラージュ。本命はオレと円堂のディフェンスってな。
…………まぁ、それはいいんだけど……動きが早い。既にアフロディと豪炎寺にはクララとバーラがそれぞれマークが付いており、オレに対しても正面からゴッカとボンバ、後ろからヒートが追いかけてくる状況。
「こっちだ十六夜!」
「任せたぞ!円堂!」
その様子を見てか円堂が前線へと駆け上がる。既に鬼道からは臨機応変にやってみようと言われているのでお互いにどっちがというのは決めてない。
そこへとパスを出すと、円堂は急に足を止めた。そして軽くボールをあげ……
「たぁあああああっ!」
雄叫びっぽいのとともに頭の上に大きな手が出て来た。そしてその手はパーからグーへと形を変えて、
「メガトンヘッド!」
そのままボールにグーでパンチした。要は正義の鉄拳のヘディング版なんだが……まさかこれってあれか。オレとガゼルのシュートを止めたあのヘディングの完成版か。
「バーンアウト!」
円堂が元々キーパーというのはネオ・カオスでも周知済み。そんな円堂が一人で打つという予想外の事態に慌てて対応するグレント。しかし、そんな状態で止められるはずもなくボールはゴールへと刺さった。
「よっしゃあぁっ!」
「お前……マジか」
「これが俺の必殺技だ」
「ははっ……あれを完成させてたのかよ」
今思うとこいつらの成長ヤバいな。あれから技だけでも増えてるし……。
しかもこの技。シュートとシュートブロックを両立させることができるとか……おいおい。
凄いな雷門。今までと違って本当に攻撃型じゃねぇか。どこからシュートが飛んでくるか分からんとか、相手からすればやりにくいことこの上なしかよ。
再びカオスボールで試合再開。ボールはドロルが持っている。
「木暮!」
「おう!旋風陣!」
「ウォーターベール!」
木暮が旋風陣でボールをカットしようと試みる。だが、ドロルの技、ウォーターベールによって敗れてしまった。
「バーン様!」
そしてそのまま大きくボールを蹴り上げるドロル。空中では既にオーバーヘッドキックの体制に入ったバーンの姿が……
「来るぞ!」
「アトミックフレア!」
ダイレクトで必殺技を撃つバーン。
「通さないッス!ザ・ウォール!」
壁山がシュートの前に入り少しでも威力を落とそうと試みる。
一瞬拮抗を見せるも、壁は呆気なく崩されてしまった。
「ムゲン・ザ・ハンド!」
すかさず立向居の必殺技、ムゲン・ザ・ハンドが発動する。シュートは四本の手により押さえられボールは立向居の手の中に収まった。
「クソッ。次は破ってやる」
気になるのはムゲン・ザ・ハンドがどこまで止められるのかが分からないこと。キーパーの必殺技は、何度か試行錯誤を繰り返さないと、どこまで止められてどこからがアウトなのかが分からない。それを試合中に試すほど余裕はないから分からないが……ジェネシスにもこの技は通用するのか?
「円堂さん!」
ボールは円堂に渡る。過信慢心は良くないが……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。
「鬼道!」
「アフロディ!」
そのままボールは鬼道。そしてボールを受け取るために下がっていたアフロディへと繋がる。
ドリブルで上がっていくアフロディ。その前に立ち塞がるのは、ネッパーとリオーネだった。
「ヘブンズタイム!」
アフロディの必殺技により、彼以外の選手の動きが停止する。本来なら誰も動けず、誰にも邪魔されずに突破することが出来るこの技。
「それは効かない!」
だがネッパーには通用せず、アフロディからボールをカットしようと試みる。
「そうだね。でも今動けるのは僕と君だけじゃない」
アフロディは慌てずボールを一回下げる。
「そうだよね?十六夜君」
「なっ……!」
ボールを受け取ると同時に止まっていた時間が動き出す。やっぱり、イビルズタイムで時間を止めるとボールに触れた瞬間に解除されるか……仕方ない。他の目的で使ったこともあるけどメインはブロック技だから。
そしてアフロディは前線へと走って行く。カオス側はアフロディの必殺技はネッパーが破ると思ったためにフォローが遅れる。つまり、
「アフロディ!」
アフロディへとパスを出す。フリーでボールを受け取ったアフロディ。
「イグナイトスティール!」
バーラがイグナイトスティールでボールをカットしようとする。しかし、既にシュートのために跳び上がっていたアフロディ。
「ゴッドノウズ!」
「バーンアウト!」
放たれたシュート。バーンアウトがシュートとぶつかるもそのまま破れ、ボールはゴールに。既に何度も破れているバーンアウト。ここまで来ると哀れとしか言い様がない。
「決まったね。十六夜君」
「ああ」
ネッパーがヘブンズタイムを破れることを逆手に取った作戦。向こうは前半で何度も破ってきたからこそ隙が生まれる。前半で何度も破られたのは無駄じゃなかったのだ。
後半が開始し5分が経過した。得点は5ー10で、残り5点差。
このまま順調に行けば逆転できるだろう。しかし、ある事態が想定外を巻き起こすのだった。