合宿開始から数日が経過した。
「…………」
「十六夜、生きてるか?」
「…………」
「返事がないな。どうやら屍らしい」
「いや……その反応はどうなの?彼女として」
「仕方ないだろ?反応がないんだから」
「ほら十六夜くんも、何か言わないと……」
「…………」
「暖簾に腕押し……ダメだね。揺すっても一切反応がないね」
「だろ?」
伏せた状態で、頭の上で八神とヒロトと緑川のエイリア組の会話を聞くが……うん。反応する気力ねぇや。
最後にボールを触ったのはいつだっけ?いや、もう身体中が悲鳴を上げている。初日と同じメニュー……いや、日が経てば経つほど、オレの弱いところを補うようにメニューが少しずつ変わって、こなすのは流石にきつ過ぎ……微塵も慣れやしねぇ……何で的確に弱いところ突いてくるんだよ……
「えぇっ!?久遠監督がサッカー部を潰した!?」
そのまま食堂の机に突っ伏し、意識を空の彼方へ飛ばしていたが、円堂の大声で意識を取り戻す。軽く顔を動かすと、気付けばイナズマジャパンの選手、マネージャーがほぼ全員揃っていた。……ん?サッカー部……潰した?
「間違いありません。サッカー協会の資料室で見つけたんです」
音無がそう言うが……いつの間にサッカー協会に行ったの?
「資料によると、久遠監督は10年前、桜咲木中の監督をやっていたみたいなんです。桜咲木中はその年、フットボールフロンティアの予選を大差で勝ち越していたんです。ところが、決勝戦の前に久遠監督が事件を起こし、決勝戦は棄権に……」
「何だって!?」
「……事件って……具体的には……?」
「うぉっ!?十六夜!?生きていたのか!?」
「勝手に殺すな……!」
「事件に関しては詳しいことは分かりませんでした……ただ、他に桜咲木中の監督に関することを調べていたら、変な噂が出てきたんです。久遠道也は『呪われた監督』だって」
……呪われた……監督ねぇ……でも、響木監督が久遠監督を連れてきたし……そんな怪しい人を連れてくるか?……まぁ、白か黒かはその内分かるだろ……今はそれより眠い……
『今夜は皆さんもお待ちかね。これより第1回FFI、アジア予選大会組み合わせ抽選会の様子をお届けします』
練習も終わったある夜。オレたちイナズマジャパンのメンバーは、テレビ越しに予選の抽選会を見ていた。もちろん、今日の練習もいつものアレで、オレは食堂の机に突っ伏しながら見ているが……
『FFIは全世界を5つのエリアに分けて予選を行います。そして、各エリアの代表チームが「ライオコット島」に集結し、世界一の座を賭けて戦うフットボールフロンティアの世界大会です。そのうち1つはこのアジアエリア。この予選には日本を含めた8ヶ国が参加しており、優勝した1ヶ国が代表として決勝ラウンドに進むことが出来ます』
8ヶ国でトーナメント戦……3回勝てば決勝ラウンドへ。でも1回でも負けたらその時点で終了か……
『さぁ、抽選が始まりました。まずは韓国代表「ファイアードラゴン」からだ!アジア最強と呼び声も高いファイアードラゴン、果たして抽選の結果は……?』
『韓国、3-A』
早速トーナメント表の1つに韓国、ファイアードラゴンの名前が刻まれていく。アジア最強……優勝候補の一角が最初から決まっていくか……
『次はオーストラリア!こちらも優勝候補の「ビッグウェイブス」が代表です』
「早速、優勝候補のチームたちが抽選かよ……」
ここで優勝候補同士がぶつかってくれるとありがたいが……さてさて。
『オーストラリア、1-B』
……よりにもよって、オーストラリアと韓国は当たるとしても決勝戦。日本が予選を突破するためには、優勝候補の2チーム共に勝たないといけないか……それかそいつらに勝ったチームに勝つしかない……か。
『カタール代表「デザートライオン」2-B』
と、次はカタールの代表がトーナメント表に埋まっていく。確か、日本は5番目の抽選だっけ?
『サウジアラビア代表「ザ・バラクーダ」4-B』
そしてサウジアラビア代表が埋まっていく。これで1~4の全てが埋まった。ということは、日本はこの4チームのどれかと初戦にぶつかるってわけか……1/2の確率で優勝候補とやり合うとか……
『さぁ、次はいよいよ日本代表「イナズマジャパン」の抽選です。果たして対戦相手はオーストラリアかカタールか。それとも韓国かサウジアラビアか……』
久遠監督がくじを引く。そして出た結果は……
『日本代表「イナズマジャパン」1-A』
『決まりました!イナズマジャパン、一回戦の対戦相手はオーストラリア代表「ビッグウェイブス」です!試合は2日後!これは熱い試合になりそうです!』
2日後でしかも優勝候補のチーム……か。
「いきなり優勝候補か……」
「だが、相手にとって不足はない」
「面白くなってきたな……おい」
「よぉし皆!オーストラリア戦に向けて、明日から特訓だぁ!」
「「「おぉっ!」」」
「お、おぉ~!」
全員が立ち上がり、拳を天に突き上げる中、伏せたまま拳を突き上げる……よし、このまま寝よう。……いや、部屋に戻らねぇと怒られるか……
「これからお前たちに練習の方針を伝える」
翌日早朝。集まったオレたちの前で久遠監督が練習に関しての話を始めた。
「オーストラリア戦までの2日間、練習禁止とする。合宿所から出ることも許さん」
「「「れ、練習禁止!?」」」
……マジか……流石に驚いた。初戦でしかも優勝候補を相手にして、練習しないとか……
「待ってください!俺たちは日本代表になったばかりでチームとして完成していません。この2日間はチームの連携を高めるために使うべきです」
「監督は私だ。命令には従ってもらう。従わないならチームを抜けろ」
「…………っ」
「それぞれに個室を用意した。互いの往き来は勝手だが、合宿所から出ることは許さない」
個室だと……?今まで寝泊まりしてたところと違ってか?
そして案内される個室。部屋には簡易なベットと机が……あんまり造りは変わってないな。
「とりあえず……」
寝るか。いや、一日寝ただけで回復出来たら苦労はしねぇ。というか、ここ最近身体を酷使しすぎて、全身が痛い。…………筋肉痛だなぁ……これ……
「ふぁあああ。わりぃ、寝過ごした」
「遅すぎだ。昼飯には来い」
「最近昼飯を食った記憶ねぇけどな……でも、ここ最近の疲労が大分抜けたわ……ん?どうした?お前ら」
お昼を過ぎた頃だろうか……食堂に行くと、何処か浮かない表情をするメンバーたちがいた。
「もしかして……合宿所から抜け出して練習しようとしたところを咎められた……とか?」
「「「…………(ギクッ)」」」
……図星かよ。まぁ、あんな指示に素直に従える人間は少ないよな。桜咲木中の件もあるし、指示の意図も不明だし。
「みなさーん!」
「目金か。大声出してどうした?」
「聞いて驚かないでください……!なんと、オーストラリア代表の情報を入手しました!」
「「「おぉっ!」」」
手に持っているのは1枚のDVD……なるほど。相手チームの分析も必要なことか。
「僕の情報収集能力、お見せしましょう!」
「八神ー水取ってくれ」
「はいはい」
「って聞いてください十六夜君!?」
「聞いてる聞いてる。でも、おなか空いてる」
「全く……コレを見れば君もアッと驚くに違いないですよ」
「………………(もぐもぐ)」
「って無視ですか!?」
「「「早くしろよ!」」」
と、周りの皆に急かされ、DVDをセットする目金。仕方ないんだ、おなかが空いて倒れそうなんだ。というか、昨日までがハ-ド過ぎて若干やつれたまであるんだ。
そう思って、流れ始めたビデオ。ビッグウェイブスの選手の練習風景かと思えば、次の瞬間画面が切り替わり……ビーチで遊んでいる映像が流れ始めた。
「「「…………(ガクッ)」」」
これにはオレたちも驚き、あまりのことにこけかける。なるほど……本当に驚かされるとは……
「目金……なんだコレ?」
「国と国との戦い……流石に相手チームの情報を手に入れることは難しくなっています。ですが、この目金!その程度で諦める男ではありません!海で遊ぶ映像を手に入れてきました!」
「見る意味ねぇじゃん」
「それって役立たず……」
「使えねぇ」
不動、冬花、オレのスリーコンボの前にショックを受ける目金。
「やっぱ、目金に期待するのは無理だったか……オレの持っていない情報を期待したのに」
「ぐぬぬ……!」
「待て十六夜。持っていない情報って……お前は何か知っているのか?」
「ん?あー、ビッグウェイブスは海の男たちって呼ばれてる。さっきも映像に出てたが、海で心と身体を鍛え抜いたチームなんだよ。後は、前に調べた限りだと、相手チームの攻撃を完全に防ぐような戦術?必殺技?なんかそういうものがあるらしいな。守備が硬いチームだと」
「海で鍛え抜いた……!」
綱海の目が輝いた気がしたが……まぁ、いいか。
「……十六夜くん……それっていつ仕入れたんですか?さっきまで寝てたくせに……」
「そうだな。練習もハードでそんな暇なかっただろ?」
「FFIが開催されることは、
2戦目以降に当たれば、予選の様子から情報を手に入れられるけど、初戦だけは無理だ。当たって欲しくはなかったけど、まさか手に入れていた情報が活かされるとは……
「……ということは、その守備を破らなければ、勝つことは出来ない……か」
「くぅ……聞いただけで燃えてきた!早速練習だぁ!」
と、食堂からダッシュで外に出ようとする円堂。だが、食堂の入口で久遠監督に見つかったようだ。なんて読まれやすい男なんだお前は。行動パターンバレてるじゃねぇか。
あの後も色々とありました。虎丸の帰宅、綱海の脱走、飛鷹の揉め事……前者2人はともかく、飛鷹は大丈夫なのか?不良っぽい奴らに絡まれて出て行ったけど……
まぁ、オレじゃどうにもならないから一旦置いておこう。とりあえず、そろそろ脱走しか考えていないヤツのところに行くか。
コンコンコン
「円堂ー入るぞー」
「練習したい練習したい練習したい……!」
円堂の部屋に入ると、ボールを持ってベッドの上で転がっているヤツが……
「おいおい……」
「十六夜!脱出する方法を思いついたのか!?」
「なわけ」
「だよな……くぅ!綱海と行けばよかった!」
……と言ったが嘘である。ペラーに乗って窓の外から出られるし、イビルズタイムを使えばバレずに移動できる。オレにとっては脱出不可能ってわけじゃないが、黙っておこう。この合宿所から出てはいけないという状況が、監督が何か意味を持ってやっているのなら、その行動は監督の意図を壊してしまいかねないからな。……って考えると、綱海のことだし、回りくどい手は使っていないはず……アイツに関しては
「一緒に練習しようぜ」
「何言ってるんだよ!練習は禁止されてるって……」
「じゃあ、何でサッカーボールを部屋に持ち込めているんだよ」
そう言ってオレは、持ってきたボールを使ってリフティングを始める。
「本当に練習を禁止しているならボールは没収。オレやお前みたいな問題を起こしそうなバカにはマネージャーの見張りが付くに決まっているだろうが。だから、あくまで禁止されていることは、ここから出ることと、監督の目の前で練習することの2つだけ」
「えっと、えっと……つまり?」
「バレなきゃオッケー」
そう言って、オレは軽く円堂に向かってシュートを打つ。持っていたボールを置いて、咄嗟にキャッチする円堂。
「ナイスキャッチ」
「そっか……そうだよな!ありがとう十六夜!俺、そろそろ我慢の限界を迎えておかしくなりそうだった!」
「禁断症状かよ……まぁ、オレも久々にボール蹴ったけどな」
「よしもう1本だ!来い!」
「はいはい!」
円堂から渡されたボールを蹴り返す。そして、それをキャッチする円堂。
「もう1本!」
「じゃあ、これはどうだよ!」
壁にぶつけ、ボールを跳ね返させる。そのボールは円堂の横からやってきて……
「いいなそれ!跳ね返ったボールに素早く反応するか……!だったら、壁当てのパス練習はどうだ?」
「面白そうだな」
円堂からのパスをダイレクトで返す。そして、円堂はトラップし、再び壁にボールをぶつける。そんなことを何回か繰り返していると……
「我慢出来なくなって、とうとう部屋の中で始めたか」
「おっ、豪炎寺じゃん」
壁に当たり跳ね返ってきたボールを豪炎寺に向かって蹴る。それを豪炎寺はトラップして受け止めると……
「来い!」
「行くぞ!」
そのままシュートを放った。
「いいシュートだ!……で?何で2人がここに?」
「お前の部屋から物音がしてたからな。鬼道と様子を見に来た」
「ふーん。まぁ、入れよ2人とも!」
そして、2人を招き入れ、4人で囲んで座ることに。
「なぁ、世界一って考えたことあるか?FFIにはすげーヤツがいっぱいで、そいつらとプレーできるんだ!しかも、そいつらに勝ったら世界一になれるんだ!じっとなんてしていられない!俺さ、皆と一緒に見てみたいんだ!勝ち残った奴らだけが見られる世界一のサッカーってヤツを」
「「「ああ」」」
「だから挑戦しようぜ!世界一に!FFIで優勝するんだ!」
円堂が立ち上がり、右手を高く掲げ、人差し指で1を表す。
「世界一に!」
「世界一に」
「世界一に!」
それに習い、オレたち3人も立ち上がり、右手を空に向かって突き出し、人差し指で1を作る。
ガラッ!
「「「世界一に!」」」
すると、何人かが部屋の中に入ってきて同じように、右手の人差し指で1を作って声を出す。
「皆……!よし、優勝するぞ!特訓だぁ!」
「「「おぉっ!」」」
こうして、オレたちは部屋の中で各々特訓を続け、オーストラリア戦当日を迎えるのであった……。