綱海の得点でチームが沸き上がる中、鬼道は久遠監督に聞いていた。
「桜咲木中で何があったんですか!」
これまでの采配から、鬼道は久遠監督を認めていた。久遠監督はチームをダメにするような監督ではない……と。であれば、10年前の一件は何があったのか、と。鬼道の中では信頼できる人に監督を任せたい……そう思って聞いたのだった。
「俺が説明しよう」
答える気がない久遠監督に代わって、響木監督が説明を始める。
10年前……桜咲木中はフットボールフロンティアの優勝候補の一角だった。だが、最強チームとの決勝前日、部員たちは対戦相手と喧嘩し、相手選手に怪我を負わせてしまった。
「最強のチーム……まさか!」
ここで鬼道は感づいた。響木監督が最強チームと呼称していた相手は帝国学園……影山の仕組んだことだと推測される。事件が公の場で出回れば、サッカー部は無期限活動停止。部員たちはサッカーをする場を追いやられてしまう。久遠監督が相手に問題を大事にしないよう頼み込むも聞き入れてもらえず、チームを守るために自分が問題を起こしたとして決勝を棄権した。
その事件のせいで、指導者資格が停止された。それから10年経ち、指導者資格停止処分が解けたところを響木監督が代表監督になってもらえるよう要請。処分中も久遠監督のサッカーへの情熱は衰えず、研究を続けていた……その熱意に響木監督は惹かれたと言う。久遠監督の指導力こそ、この代表チームには必要だと言う。
(……だから、データベースに事件のことがなかったわけか。詳しく掘り下げれば掘り下げるほど、ただの事件ではなく、影山が仕組んだものだと知られてしまうから……この人も、影山に狂わされた1人……か)
それをフィールドで聞いていた十六夜は、改めて久遠監督を認め、この試合に勝つ意思を固めるのだった。
と、綱海が点を入れたタイミングで2人の選手が交代する。そして、ビッグウェイブスのキックオフと同時に……
『あぁっと!綱海には1人、十六夜には2人の選手がマークだ!綱海の得点力と、十六夜の行動力を警戒しての判断か!』
マジかよ。思い切りがいいな……でも、普通は2人もマーク付いてたら、サポートどころかディフェンスにすらいけねぇんだけど?というか綱海も封じられたけど……そんなに警戒されるような仕事したかな?…………したわ。必殺タクティクス破って点を決めてさっきは決定的なパス出してって思い切り仕事したわ。もし、相手にいたらオレもこれ以上、仕事させたくないわ。
試合も終盤戦。相手選手の3人が、こちらの2人にかかりきりとはいえ、こちらも攻め手に欠けてしまう。これまで点を決めた選手を抑えているというのが大きいだろう。しかも、向こうとしては、そういうのに長けた選手をぶつけているのだろうな。攻撃力、守備力共に減ったとは感じられない。……想定された動き。相手のキーマンを徹底的に潰すか……。
状況的には、こちらが守りきれば勝ち。しかし、DFである綱海がおさえられてしまったために、こっちのDFの枚数も減ってしまっている。その上、キーパーである円堂はこの試合で、何本もシュートを打たれている以上、それなりに疲労している……現段階で100%このまま守り切って逃げ切れる保証はない。……そのためにも後1点が欲しい……後1点取ることが出来れば、確実に勝てると言っていいだろう。
「男ならこんなネチネチやってねぇで、ガツンとぶつかってきやがれ!」
そう言った綱海は、自身のマークを強引に引き剥がしてボールを受け取る。そして、壁山へとパスを出した。
『なんとビッグウェイブス!全員でのマンツーマンディフェンスに切り替えた!』
オレには相変わらずマークが2枚だが、ボールを保持している壁山以外には全員、誰かが付いている……マジかよ。普通、CBの土方にもマークが付くか……?……いや、逆か。ここで壁山からボール奪えば、最大級のチャンスだ。そして、点を取れば同点……延長戦に持ち込める。……最後の賭けに出たな。
フリーの選手が居ない。周りを見渡して動揺する壁山に、土方をマークしていた11番がボールを奪いに来る。
「どうすればいいんッスか!?」
11番から逃げるようにしてドリブルを始める壁山。
「1人で持ち込め!」
そこに久遠監督からの指示が飛ぶ。11番のタックルを受けるが……
「負けないッス!」
相手にタックルを仕返して、比較的大柄な選手を吹き飛ばした……やるじゃん、アイツ。……なら、負けていられねぇよな。
「……なぁ知ってるか?いくらここまでピッタリマークしていても……お前らじゃ、オレの動き出しには付いてこられねぇ」
「何を言っている?」
「お前だけは抑える」
「壁山!こっちだ!」
「任せたッス!十六夜さん!」
ボールが飛んで来るが、まだ2人のマークがついたまま。少しずつ近づいていくボール……オレは周りを見て状況を確認する。そして、相手選手2人の視線がオレからボールへと移る……
「おせぇよ!」
「ここで強引に……!?コイツ、試合終盤なのに……!」
「全く運動量が落ちてない!?」
その瞬間、トップスピードで2人のマークを振り払う。オレからボールに注目が移った関係で、アイツらは反応が遅れた。そしてそのまま、ボールの方へと走って行く……全く、こっちが何百本スプリントさせられたと思ってんだよ。まだ、あのスプリントの1本目の方が疲れていたわ。
「持ち込め!虎丸!」
「はい!」
そのままダイレクトで虎丸の走る先へとパスを出す。前もって確認していたが、1番コースが空いているのがあそこだった。
受け取った虎丸は自身のマークを振り払い、ドリブルで攻め上がる。
「……っ!」
シュートを打とうとする虎丸。だが、シュートを打たず、やって来たディフェンスを躱して豪炎寺へとパスを出す。……今の、シュートフェイントに見えるが……打てなくはなかったよな?
ボールを受け取った豪炎寺。炎を纏わせ、回転しながら空へと舞い上がっていく。その炎は渦を巻き、最高到達点でボールを左足で蹴り出した。
「グレートバリアリーフ!」
爆熱ストームやファイアトルネードよりも、炎の勢いは強くなり、更に回転が加わっている。海の壁を前にしても、炎の勢いは衰えることなく、海の壁を貫いた。そして、キーパーごとゴールへと突き刺した。
「爆熱スクリュー!」
と、目金が名付けた。何だろう……やっぱり君の役目は戦術アドバイザーじゃないよね?
『ゴール!豪炎寺の新必殺技が炸裂!ダメ押しの1点が入ったぞ!』
ピ、ピー!
『そしてここで試合終了!イナズマジャパン初戦突破ぁっ!』
「やったぁ!」
喜びを表すメンバーたち。そして沸き上がる観客たち。
そんな中で、豪炎寺は虎丸に声をかけていた。
「虎丸」
「何でしょう、豪炎寺さん」
「何故シュートを打たなかった。最後の場面、お前ならディフェンスが来る前に打てたはずだ」
「俺より豪炎寺さんの方が確実だと思ったので。では、失礼します」
そう言って豪炎寺の前から去って行く虎丸。
「……やっぱり、気になるよな」
「十六夜か……お前も気付いていたか」
「まぁな。最後は決定的だったがそれだけじゃない。他の場面でも打てた場面がいくつかあったはず……」
「練習でもそうだった。アイツはシュートを絶対に打たない。決定的なチャンスがあっても、近くに居る誰かに渡している」
「……そうなのか……」
「……アイツがシュートを打たない理由……本当の理由は何なんだ……?」
このイナズマジャパン……まだまだ問題が多そうだなぁ……
「……それにお前もだぞ。十六夜」
「オレか?何かやったか?」
「……お前も基本的にはフォローしかしていなかっただろうが。俺には実力を出し切っていないように見えたが?」
「あはは……手厳しいなぁ」
「いくらFWとは言え、お前のことだ。もっと相手からのシュート数を減らせたはずだろ?それに、お前の実力なら後半も点を取れただろ?最後のもわざわざダイレクトでパスしなくても、自分で持ち込むことも出来たはず……」
「すげぇな豪炎寺!いつの間にあんなシュートを完成させてたんだよ!」
と、円堂がやって来たので、こっそりフェードアウトする。
まぁ、なんというか……フィディオたちと比べるとビッグウェイブスの面々は、言っちゃ悪いがあらゆる面で遙かに
……これが世界レベルって、皆は思っていただろうけど、この程度じゃない。世界一になるには……世界一を目指すなら、この程度では圧倒的に足りていない。アイツらを越えるレベルにならないと。
「…………監督がゴミというのも分かるな……」
このままでは運良く勝ち上がれたとしても、その先でフィディオたちや彼らと同じレベルのチームに惨敗するだろう。……もっと強くならないとな……オレ自身も。このままではアイツらと合わせる顔がない。
「もっと強く……」
オレの呟きは、勝利で湧き上がっている空気の中に消えていった。