「久遠、十六夜の姿が見えんが……アイツはずっと別メニューか」
「えぇ。彼には既に必要な力はついていますので。彼には彼のメニューを熟してもらってます」
「アイツの能力は一線を画しているからな。だが、このままでいいのか?」
「よくはないでしょう。ですが、十六夜の問題を解決するには彼らの力が必要です」
「……十六夜の問題か。周りから見れば問題はないって言われそうだがな」
「響木さんもお察しの通りです。彼は周りより先を見て、実力をつけている。……ですが、そのせいで彼のレベルとイナズマジャパンのレベルはかなり開いてしまっている」
「エイリア学園の件からこのFFIが始まるまでの約3ヶ月。確かに円堂たちも成長した。だが、周りが自分より格上の世界レベルを相手に練習した十六夜と、自分たちより格上が周りに居なかった円堂たちでは、あまりにも成長の差があり過ぎる」
「そのせいで彼は本気を出せない。本気を出しても周りの選手がついてこない。今の十六夜綾人の本気に応えられる選手は日本に居ません」
「……それどころか、アイツの本気に答えられる選手はビッグウェイブス……アジア最強候補にも居なかった。だから本気を出せず、円堂たちの成長に期待している状態……か」
「そうでしょうね。もし、彼が本気を出していれば、ビッグウェイブスはもっと楽に、大差で勝てたでしょうね。……ですが、彼はそれをしなかった」
「それをしてしまえば、イナズマジャパンの勝利ではなく、十六夜個人の勝利になってしまう。たった1人の力で勝ち進めるほど、世界一という夢は簡単なものではないと、十六夜自身も分かっているからだろうな」
「救いなのは、彼の思いでしょうか。強くなりたい、誰かに勝ちたい……誰よりも世界一になるための明確なビジョンが見えています。そして、その為にチームメイトより優秀であっても強くなる努力を続けています」
「ああ。だが、その思いも行き過ぎれば……」
「えぇ。破滅してしまうでしょう。思いが強すぎた者の末路は想像の通りです」
「……チームプレーを重んじる雷門。その考えを受け継ぐ者が多く在籍するイナズマジャパン。その中で、本気を出すと誰も協力できなくなってしまう選手……か」
「その上、十六夜綾人という選手は個人技で戦うことに秀でています。チームとしてではなく個人。彼はイナズマジャパンの中で1番、誰かにあわせることを苦手とする選手でしょう」
「チームプレーと個人のプレー……確かに、今の十六夜にとって、チームプレーをすることは自分のやりたいプレーを封印している状態」
「えぇ。だからこの先必要になってくるのは、十六夜の本気を引き出せるチームになること。十六夜という武器は今のチームにとって扱い切れない代物ですから」
「だが、十六夜の本気に答えることが出来れば、このチームの戦術の幅は一気に広がるな」
「その為に、彼らには進化が求められるでしょう。ついてしまった差を埋めるような成長……十六夜がチームを見限り、1人で戦うことを選ぶ前に」
「まぁ、見限るという選択が起こらないようなケアはしているんだろう?」
「ケアはケアです。選ぶのは十六夜自身ですから」
翌日……
「今日はそこまで」
八神から終了の合図が出る。その声と共に、崩れ落ちる5人の身体……
「はぁ……はぁ……!相変わらずキツいな……!」
「昨日よりは……慣れると……思っていたんだけどな……!」
「お疲れーほら、タオル」
「ははっ……お前は余裕そうだな……十六夜」
「ありがとな……」
「まぁ、体力はある方だからなぁ……」
膝をつき肩で息をしている染岡と佐久間……ただ、昨日よりは動きが改善されている。昨日の八神からのアドバイスで余分なところが少しずつ削られているようだった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「し、死ぬ……!」
「…………っ」
「お前らもお疲れ。クールダウンは忘れるなよ」
そう言って砂浜で大の字になっている武方、目金、シャドウにもタオルを投げていく。彼らの場合は染岡や佐久間より体力が少なく、倒れ込んでいるが……まぁ、この特訓を生き残れればかなりの強化になるだろう。
「明日からはボールを使う練習が増えるからな。今日よりハードになる。しっかり休んでおけよ。アドバイスは後で纏めて行うからな」
「んじゃ、シャワー浴びてくるわー」
そう言ってさっさと荷物を纏めて動き始める。
「アイツはバケモノかよ……よく平然と動けるな……」
「見ていたか?アイツの動きも昨日より改善されている……」
「負けていられねぇ……みたいな……!」
「そうですね……必ず……!」
「…………追い付く……いや、追い越す……!」
「だな……!明日も頑張ろうぜお前ら……!」
「「「おぉ……!」」」
「ふぅ……」
『ふむふむ。だいぶ動きが良くなっているね』
「ペラーか……あれ?お前、お湯は平気だっけ?」
シャワーを浴びているとペラーが現れる。……ペンギンってお湯大丈夫だっけ?
『オレは平気だよー』
「そう?」
『日本代表になってから綾人はフィジカル面でかなり強化されてるね。体力はもちろん、パワーやスピードも上がっている。それに体幹を鍛えているおかげで、前よりも軸がぶれないし、疲れにくくなっているね』
「……あんまり実感はないけどなぁ……」
『でも、筋肉もいい感じについているよ』
そう言ってペチペチと身体を叩いてくるペラー。
『綾人のメインポジションである
「まぁ、確かに……な」
『その点、久遠監督もよく分かっているみたいだね。そう思うとあの人はやっぱり凄いね』
「それはなんとなく分かる」
ビッグウェイブス戦や、そこに至るまでで分かったが、あの人の言っていることは間違っていない。言われた時点では理解できないことも、後にその意味がしっかりあることに分かるようなものばかりだ。……まぁ、だからこそ、そんな人からすればオレはテクニックやチームプレーよりフィジカルが問題視されているのだろうけど。……確かに今までフィジカル面を特化して鍛えた事ってないしなぁ……というか今まで我流が多すぎた気がする。いい感じに修正しているってことかな?
「というかお前……サッカーに詳しくなってないか?」
『ふっふっふっ、オレだって成長するんだよ』
「そう……流石は智将ってとこか?」
『えっへん』
胸を張るペラーをよそに、身体を拭き、髪を軽く乾かして外に出る。
「十六夜。昨日頼まれてたものだ……って服を着ろバカ者!」
「いってぇ!?下はジャージもしっかり履いてるだろ!?」
「上を着ろ!上裸で現れるバカがどこに居る!?」
「えぇ……シャワー浴びたばっかりで、まだ暑いんですけど……」
外に出た瞬間、顔を真っ赤にした八神に叩かれました。痛かったです。……いや、だって暑いじゃん?涼しくなるまでだから……ねぇ?あ、これ以上殺される前にしっかり着ますよ。うんうん着る着る。……というか、いつぞやの滝行とかでオレの上裸とか見慣れてるだろうになんでぇ……
「まったく……お前ってやつは……とにかく行くぞ」
「へ―い」
ということで移動する。八神に頼んだものというのは……
「さてさて、デザートライオンの分析でも始めますか……あれ?八神も見るのか?」
「一応な。これでも戦術アドバイザーだからな」
戦術アドバイザー関係あったか?まぁいいか……
「1回戦の試合映像……まぁ、同じように向こうも分析しているんだろうな」
「そうだな。1回戦の時と違い、2回戦からは相手の情報を手に入れる難易度は一気に下がる。既に1度戦っているのだからな」
そう言って試合映像が流れ始める。
そして、事件は後半に起きた。
「…………タイ代表……これで何人目だ?十六夜」
「6人目……だな」
後半開始15分……最後の交代枠が使われた。
「交代した6人……いや前半から出ていたメンバーの動きが悪い。どういうことだ?」
「ふむ……」
前半はデザートライオンが攻められる展開が多かったが、後半開始早々には拮抗し、今ではデザートライオン側が攻める展開へと変わっている。タイ代表も粘りはするものの、デザートライオンの攻めの前にやられてしまう。
「……もう一度前半から見せてくれ。早送りでいい」
「ああ」
そして、再び試合の最初から流していく。
「……まず、デザートライオンは接触プレーが多いな」
「そうだな。ただ、危険なプレーと言うより荒いプレーが多い。試合を通してカードはもちろん、ファールの1つも取られていない」
「そういうチームなんだろ。……ってやっぱりかぁ……」
「やっぱりって?」
「気付かないか?さっき見ていた後半終盤のプレーと前半のプレー……こいつらの運動量がほとんど変わってない。体力が並じゃないってのは事実らしいな」
「なるほど……それなら、足腰の強さも頷ける。前半から1対1で当たり負けする展開がない。それどころか、後半は2対1みたいな数的不利に陥っても強引に突破していた」
「テクニックで攻めるというよりパワー重視型……それも、チーム全体がってことか」
「……だとすると、こっちはどう戦えばいいんだ?」
「まず、デザートライオンがやったことは前半で相手の体力を削り、後半で攻撃の枚数を増やして攻め潰すって感じだろう。前半で体力を奪われた状態で、後半の攻撃を耐えきれずに負けたと見える」
「そうだな……後半は足が止まってしまう選手が多く居た。それは体力の限界を迎えてしまったからってことか」
「息が上がり、体力が尽きそうになれば、パフォーマンスは一気に下がる。走る速さ、キックの威力と正確さ、判断のスピードなど諸々のステータスが下がってしまう」
「確かに、必殺技の威力もそうだな。疲れ切った状態で打つのと、ベストな状態で打つのでは雲泥の差だ」
「……こういう相手に勝つには……チーム全体の体力の底上げは必須だな」
その日の天候にもよるが……ビッグウェイブスの時よりはキツくなりそうだな。ただ、必殺技はいくつかあったが、ボックスロック・ディフェンスみたいな必殺タクティクスは使っていなかった。そういう戦術がないのが救いか……いや、隠しているだけって線もあるから一概には言えないか。
「次!50本目!」
「おう!」
翌日、宣言通りにボールを使った練習を本格的に取り入れることになった。昨日までより走る量を減らし、1対1での練習を取り入れている。明日以降は2対2やパス練習が入ってくるが……
「そこだろ」
「……っ!」
オフェンス側の染岡がフェイントで突破しようとしたところを見抜き、ボールを奪うディフェンス側の十六夜。
「強すぎ……みたいな」
「ですね……しかも僕ら5人と連戦ですよ……」
「……1回もシュートまで持って行けていない……」
「これが現状の実力差……か」
1人につき50回、この1対1を行ったが、オフェンス側の5人は誰一人シュートまで持って行けなかった。十六夜の250連勝……本人の希望もありノンストップで行ったが
「ふぅ……次、誰だ?」
「終わりだ」
「あれ?そうなのか?」
「お前たちは負けた回数だけドリブルで往復だ。始め!」
3日目ともなれば、開始するときに文句の声が上がらなくなった。これが慣れというものだろうか。いや、きっと文句を言う時間がもったないと思い始めたのだろう。……うむ、いい傾向だな。
「ちなみにオレが負けた時は?」
「負けた回数×100回走っていたな」
「え?オレだけ掛け算はやばくないか?100倍はやばくないか?」
「まぁ、最大で25000回だったってことだろ?」
「死ぬわ。流石に死ぬわ」
とか何とか言っているが、時間をかければ終わっただろう。というより、この男は最初から負けるつもりがなかっただろうな。
「で?この後のメニューは?」
「今日はこれで終わりの予定だ」
「そう?じゃ、八神。アイツらが走っている間、少し必殺技の特訓をするか」
「いいけど、何をするんだ?」
「お前、海、シュート打つ。オレ、ペラー乗る、拾う」
何故か片言だが言いたいことは伝わった。要するに、ライド・ザ・ペンギンのスピードと精度向上だろう。
「ブラッドムーンV2!」
その要望に応えるべく、進化したブラッドムーンを水平線上に向かって放つ……昨日までも思ったが、砂に足を取られて少し威力が落ちるな……次は改善しなければ。
「……え?」
「どうした十六夜。ボールがどんどん遠くに行くぞ?」
「いや……え?何で必殺技?普通のシュートでよかったんだけど……」
水しぶきをあげながら進んでいくボールを2人で眺める……なるほど。こうやって打って飛距離を伸ばす特訓も出来そうだな。いや、あえて足が軽く海に浸かる位置から打てば……
「ブラッドムーンV2!」
「ちょっ、2本目は聞いてねぇ!?」
思った通り、さっきまでより負荷がかかっている……これはいい特訓だな。
「ほら、どんどん打っていくぞ!ブラッドムーンV2!」
「嘘だろおい!?い、行くぞペラー!ライド・ザ・ペンギン!」
シュートに向かって、飛んでいくペラーと十六夜。なるほど……
「私はアレに負けないように打てばいいんだな」
この後、ドリブルを終えた他の者もシュートを海へと打っていた。ちなみにボールは十六夜が取ると、他のペンギンたちが私たちのもとまで届けてくれる便利なシステムが出来上がっていた。
そして、日も暮れた頃……気付けば、十六夜以外の面々のキック練習及び必殺技の練度上げに変わっていた。その中でも特に染岡は、新しい必殺技を撃とうと試行錯誤していたようで……とりあえず、最後は十六夜が涙目で海から帰還した。何故泣きそうになっていたかはよく分からないが、私も色々と改善点が見つかったのでよしとしよう。
あれからも地獄の特訓の日々は続いた。そして、そんな砂浜での強化合宿を終え、遂にデザートライオン戦当日を迎えた。
「悪い、到着が遅れた」
「すみません、遅れました」
渋滞にはまり、スタジアムにギリギリの到着となったオレと八神。
「十六夜!よかった!間に合ったんだな!」
「悪い……ん?そのクーラーボックスはなんだ?」
「乃々美さんが持ってきてくれたんッスよ」
「…………誰?」
「あーお前は居なくて知らなかったよな?えっと……」
と、オレが居ない間の出来事を言われた。簡潔にまとめると、虎丸の自宅は定食屋で、身体の弱い母親に代わって1人で切り盛りしていたことが判明。で、その自宅の隣にある弁当屋の娘である乃々美さんって人も、虎丸の自宅を手伝ってくれていたよう。
「揃ったな。スターティングイレブンを発表する」
そんな話を聞きつつ準備を進めると、久遠監督から今日のスタメンが発表される。
「FW、基山、豪炎寺、吹雪。MF、十六夜、鬼道、緑川。DF、風丸、土方、壁山、綱海。ゲームキャプテン兼GK、円堂。以上だ」
……今度はMF……DFじゃないのか。
「……十六夜」
そう思っていると呼ばれたので久遠監督のところに行く。
「――――――――――」
耳打ちであることを告げられる。
「いいな?」
「はい」
なるほどねぇ……試合映像を見る限り、ある意味では考えられたことか。まぁ、指示に従って行きますか。