超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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VSファイアードラゴン ~見えていないもの~

『ボクが思うにこの試合で勝てなかった原因はただ1つだよ』

 

 頭を冷やしたくて外に出た。そして、ベンチに腰掛け目を閉じる。

 

「クソ……」

 

 さっきの監督の言葉に苛立つ心を必死に抑えこむ。思考を切り替え、冷静さを取り戻そうとする。

 

『それは十六夜綾人……キミさ!キミがチームの足を引っ張ったからだよ!』

 

「うるせぇ……」

 

 だが、頭から声が聞こえてきて離れない。

 

『キミに怒る資格なんてないよ!それとも、このボクの分析に間違いがあるとでも?』

 

 まだこの世界に来る前……要は前の世界でのこと。高校時代に告げられたその言葉が今になって思い出される。

 

『確かにチームメイトのレベルがキミより低いことは知ってるし、見れば分かる。プレーを見てても、チームメイトにミスが目立っていたのはよく分かる』

 

 この世界に来て1年も経つ頃にはほとんど前の世界のことを思い出すことはなかった。

 

『でも!それでもキミがチームを放棄したから負けたんだよ!チームを見限ったから負けたんだよ!キミが仲間を捨てて、1人でやったから負けたんだよ!』

 

 思い出さないし、思い出せない。はっきり言って、前の世界で一緒にサッカーをやっていた奴らは誰も覚えていない。

 

『いい加減にするんだ愚か者!ボクが見たいのはそんなプレーじゃない!分からないのか!キミの力を最大限発揮するには1人じゃ絶対無理なんだ!一緒に居る仲間が必要なんだよ!どんな形であれ、キミにはチームメイトが必要なんだよ!』

 

 あの時……オレは彼女の言葉にどう答えたか覚えていない。だが……

 

『思い上がるのも大概にするんだこの分からず屋!キミの言う綺麗事が必要なんだよ!環境が生んだバケモノめ!このモンスターが!そんなんだから自分の才能にすら気付けないんだよ自称凡人!一生その檻に囚われていればいい!勝手にするんだ!』

 

 ……天才が初めて凡人に涙を見せたことだけは覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「ここに居た」

「吹雪か……動いて大丈夫なのか?」

「少し厳しいけどね……流石に全く動けないほどじゃないよ」

 

 会場の外のベンチにて。あれから独りになっていた十六夜の下に、吹雪がやって来た。

 

「…………」

「さっきの監督の言葉を考えているの?」

「……ああ、そうだな」

「……十六夜くんはどう思っているの?」

「まぁ、その通りだろうなって。現時点で負けているのは事実だし」

「……それだけ?」

「ああ」

「……今、聞きたいのは君の本音だよ。肯定でも否定でも正解でも間違いでも無い。僕が聞きたいのは、十六夜綾人という選手がさっきの監督の言葉に何を感じたのかだよ」

「…………」

 

 少しの間沈黙が支配する。そして……

 

「ムカついたな……マジでムカついた」

「どうして?」

「言われなくても分かってんだよ……負けている原因がオレだってことくらい……!だからなんだよ……この負けている現状に一番いらついているのはオレなんだよ……!」

「そう……」

「オレが好きにやっていれば勝てる……そこまで驕るのは間違いだ。アイツらは強いことくらい分かる。……でも、だからどうした……絶対に負けられねぇ……勝ちに行くだけだ……!」

 

 目から闘志は消えていない。しかし、完全にあるモノが見えなくなっていた。その様子を察した吹雪は声を掛ける。

 

「勝ちたいのは僕も同じだよ」

「……だろうな。でも、チーム全員が目の前の勝利を掴もうと、勝ちに行こうとしてない。…………終わってるんだよ。目の前の勝利を欲していない奴らが居て、そいつらが足を引っ張っている。……ふざけんなよ。そんな奴らが居るくらいなら、オレは1人で勝ちに行く」

「それは飛躍しすぎじゃない?確かに彼らに勝とうと、心の底から願えていない人は居ると思う。試合以外の事で思考が一杯の人は居ると思う。そのせいで本来の力を発揮できていない人も居ると思う」

「だから……」

「でも、だからって他の勝ちに行こうとしている人まで見捨てて、1人で勝ちに行こうとするのは違うんじゃない?少なくとも、君と同じように勝とうと全力で藻掻いている人は居る。そんな人まで切り捨てるのは違うと思う」

「…………」

「……ねぇ、十六夜くん。君の思う世界トップレベルのプレイヤーって、皆独りでプレーするの?」

「独りでって……」

「僕はね、ずっと完璧になろうとしていたんだ。士郎とアツヤ、二人で完璧……そう言ってくれた父の言葉の通り、僕は完璧という言葉に拘っていた。……でも、それじゃ通用しなかった」

「それは……」

「豪炎寺くんや皆が教えてくれたんだよ、完璧になることって言うのは、仲間と共に歩むこと。独りじゃ決して到達できないんだって」

「仲間と共に……」

「今の……留学から帰ってきた君のプレ-は間違いなく凄い。エイリア学園の頃はほとんど同じフィールドに立たなかったけど、それでもかなりレベルアップしているのは分かる。でも、この試合……ううん、帰ってきてからの君は誰も頼ろうとしていない。仲間を、味方を、誰も頼ろうとしていない。そして、誰も理解しようとしてない。分かり合おうともしない。最初から何処か諦めてしまっている」

「…………」

「だから君は秘めた思いを誰にも共有しない。はっきり言わない。何故って聞かない。一緒に考えようとしない。勝ちたいって強い思いを共有しない。悪いと分かっている現状を誰にも伝えない。……ずっと独りで抱え込んで、独りぼっちでプレーしているんだ。……違う?」

 

 吹雪の言葉が十六夜の中にある壁を叩く。

 

「……眩しいんだよ」

「眩しい?」

 

 そう言って、ベンチに横になり空を見上げる。

 

「皆で協力して……仲間と共に……チームプレーを大切に……全部眩しく感じてしまうんだよ……全部綺麗事に感じてしまうんだよ」

「綺麗事って……」

「醜く歪んでいるのは分かっている。サッカーは11人でやるもの……そんなことは知ってるんだよ。1人に頼り切ったチームなんて脆くて弱いことも分かってるんだよ。綺麗事が大事って頭では理解しているんだよ」

「だったら……」

「だけど、あくまでそれまでだ。そんな綺麗事を語れるのは、綺麗事だけじゃどうにもならなかったことがねぇからだ。……だからなんだよ。綺麗事を信じているお前らがすげぇ眩しく見えるのは……」

「…………」

「……その中でも円堂は一際眩しい。アイツは光だ。光として存在感が強すぎる」

「まぁ、キャプテンって太陽みたいだからね」

「そうだな。周囲を照らし、周囲を光で染め上げる。だからさ……アイツの近くに居ると忘れてしまうんだよ。その温かさで……自分が本当は光じゃなくて、その対極に位置することを」

「……対極って……まるで、自分が闇とでも言いたい感じだね」

「まぁ、闇って言うか……何だろうな。でも、本質的な考え方はアイツと違うことは確かだと思っている。サッカーに対するどうこうもきっとアイツ……いや、お前らとは違う。……育ってきた環境もここまで温かくて優しいものじゃなかったからな」

「だから闇……か」

 

 1人になって、離れてようやく思い出す。彼らとは相容れない存在と言うことに……

 

「それにお前らは、代表になってからもどんどん成長している。一人一人の成長速度に差はあっても、全員が上のステップへと進んでいるだろ。……対して、オレは帰ってきてから一切成長していないんだよ」

「そんなこと……」

「強くはなったと思う。フィジカルを鍛えて強くはなった。今までより体力もつけた。砂浜で走るフォームも見直した。ずっと練習してきた必殺技も身に着けた。……でも、何にも変われていない。このチームで唯一停滞し続けている……それが嫌でも分かってしまった。そして、進み続けるお前らを見ると……すげぇ悔しく思ってしまう」

「…………」

「本当は喜ぶべきってのは分かっている。お前らが努力しているのも分かっている。間違いってのも分かっている。でも……オレが苦労して乗り越えた壁をお前らは軽々と超えている……そんな気がする。……分かってんだよ……そんなの勘違いだって。……今のままじゃダメなことくらい、分かってるんだよ。…………でも、どうすりゃいいのか分かんないんだよ」

 

 ついていたはずの差が徐々に縮まっていく。他者が前に進んでいるのに自分は進めないでいる。周りの成長を嬉しく思う反面、素直に喜べない自分がいる。光さす温かい空間に冷たく影を落としてしまう。

 

「どうすればいい……か。他人と比べなくていいと思うけどな」

「は……?」

「きっと焦っているんだと思う。実際、僕もそうだったし……でもさ、君は十分強い。君が停滞し続けているって言うけど、それはそうだよ。ずっと前に進み続けられる人なんていない……時には止まっちゃうし、時には後退するかもしれない。前に進んで戻ってまた進んで…………でもさ、僕らがやっているのはサッカーだよ。1人で苦しむ必要は無い。君だって万能じゃない。完璧じゃない。……君は神じゃないんだ。何でも出来なくていいと思うよ」

「出来なくても……」

「君が出来ないことは僕らチームが支える。だから、君が出来ることでチームを支えてよ……それがチームで戦うってことでしょ?」

「…………」

「これも綺麗事に聞こえるかもしれない。でも、綺麗事でいいと思うよ。十六夜くんが身に着けた、1人でも勝つ為に身に着けた数々の武器()……それは決して周りに劣っていない。それを自分だけが勝つためじゃなく、イナズマジャパンが勝つためにどう使えばいいのか。それが……」

「……鍵……か。自分の持っているものを一緒に戦う奴らにどう組み合わせるか」

「味方に合わせるって言うのは、決して手を抜くことじゃない。相手のレベルに合わせることでもないはずだよ。……今は1人で戦う必要は無い。僕らが一緒に戦うからさ」

「ありがとな、吹雪」

 

 そう言うと立ち上がる十六夜。

 

「今すぐには変われない。いや、変われるかすら分からない。でも今ここで、オレがすべきことを気付けた。……後はプレーで示すだけだ」

「うん、じゃあ戻ろっか」

「肩貸すぞ」

「ありがとね」

 

 吹雪に肩を貸しながら、フィールドへと歩いて行く。

 

「でも、自分が闇か……」

「……まぁ、なんて言うか……ずっと昔から絡み付いている(ツタ)があるんだよ」

「絡み付いている蔦……育っていた環境で身に着いた価値観や考え方ってところかな?」

「その蔦は消えたように見えても残っている。円堂の光に当てられ、忘れることが出来てもずっと残っている。綺麗事と蔦……折り合いをつけることが出来ていないんだよ」

「そう……今度聞かせてよ。君を縛るその蔦について」

「機会があれば……な」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜が吹雪と共に戻ってきた。グローブを手に取るとそれを手に嵌めていき……

 

「八神」

「何だ、十六夜」

「オレを一発ぶってくれ」

 

 パシン!

 

 ということでぶってやった。十六夜が軽く吹き飛んだためか、周りのメンバーは動揺する。

 

「ちょっ……おま、迷いなさすぎなんだけど……」

「で?目が醒めたか?」

「……ああ、ありがとな。行ってくる」

「行って来い」

 

 そう言ってそのままフィールドへと入っていく。

 

「ゴメン!」

 

 そして、頭を下げ大声で謝罪をした。状況が二転三転して、驚く彼らをよそに……

 

「色々と言いたいことはあるかもしれねぇが、この試合の後半だけでいい!オレに力を貸してくれ!頼む!」

 

 頭を下げたまま、そう言い放った。

 

「頭を上げろよ、十六夜」

「そうだよ、十六夜くん」

 

 風丸とヒロトが十六夜に近付き声を掛ける。

 

「お前にらしくないところもあったかもだが、今は目の前の試合だ」

「勝つための宣言……でしょ?」

「ああ。イナズマジャパンが勝つために、オレ1人じゃどうしても足りない。都合良いって思うのは分かる。だが、オレに力を貸してくれないか?」

「そんなの当たり前ッスよ!」

「そうでヤンス!力を貸すでヤンスよ!」

「何々?さっきのビンタで目覚めたとか?うっしっし」

「うっせぇ……けど、ありがとな。……行くぞ。勝ちに行く」

「「「おう!」」」

「指示出すから頼む。着いてきてくれ」

 

 壁山、栗松、木暮と声を掛けに行く。ただ、他の後半出るメンバーが十六夜のところに行かないのは気がかりだが……まぁいいだろう。

 そして、後半戦が始まった。十六夜の姿を見るといつもの感じに戻ったような、また別の感じな気もするが、とにかく危うさは消えていた。

 試合に目を向けると、ファイアードラゴンからボールを奪った不動は1人で持ち込んでいる。

 

「……不動くん、いい動きだね。敵もどうしたらいいか分かってないみたいだ」

「もしかして、監督は不動をジョーカーにするために、これまで一度も試合に出さなかった……?」

「この韓国戦が重要になってくると判断して、こんな戦術を使ってくるなんて……」

 

 ベンチで感心の声が上がる……が、不動のプレーはチームメイトを信じているようには思えなかった。味方を使って、持ち込んでいる……味方を使うと言っても鬼道や十六夜とは違う。味方をボールを通すだけの壁としか見ていない……そう思えるプレーだった。

 そんなプレーで1人でゴール前まで持ち込むも、相手キーパーにあっさり止められてしまう。

 

「どうしてアイツは……」

「強い想いを持った者は強くなれる。たとえそれが正しい方向でないとしてもな」

「響木監督!?」

 

 響木さんが話に入ってきた。強い想い……私で言うとあの頃のお父様のためを思って必死になっていた時のように……だろうか。

 

「不動が異常なまでに『力』を得ようとするのに理由がある」

 

 不動……確か、エイリア学園の時に近づいてきた影山に接触してたらしいな。影山という男に関してはお父様も懸念材料……厄介な相手として調べていた。そんな男に自ら近付くのは、何かそうまでして得たいものがないと説明が付かない。

 

「不動はもともと、普通のサラリーマンの家庭で育った子どもだった。だがある日、父親が上司のミスの責任を負わされ会社を辞めさせられたのだ……それから、借金取りに追われ、不動の家庭は沈んでいった。父親を否定する母親……それをアイツは歪んだ形で受け入れ、荒れていった。悪い仲間とつるむようになり、力を求めるようになった。それからはお前たちも知っている者が多いだろう。真・帝国学園の影山に取り入ろうとし失敗。アイツはまた独りになった」

 

 それが不動という男……か。両親によって価値観をねじ曲げられてしまった……実の両親を失った私たちと近しい部分があるのか。

 

「……だが、俺はアイツの中にサッカープレイヤーとしての才能を感じた。だから、日本代表の候補に選んだんだ」

「……アイツにそんな過去が」

「ありがとうございます。少しアイツが分かってきました。ですが、それとこれとは別です。あんなプレーをする不動を受け入れるわけにはいきません」

 

 フィールド上では、不動は独りでプレーしていた。独りでボールを奪い、独りで持ち込み、独りでシュートを打つ。他の面々に募っている不信感は、ベンチに居る私たちにも伝わってきている。

 

「このままだと日本は間違いなく負ける。どうする円堂?」

「……分かりません。オレにはこの試合をどう戦ったらいいのか……」

「円堂、焦るな。試合を見ていても答えはでない。今は『チーム』のことを見るんだ」

「チームを見る……?」

 

 しかし、試合は常に動いていて、ベンチがゆっくり考える時間をくれない。

 ボールを取ったキーパーが相手キャプテンにパスを出す。そいつは不動を抜き去るとアフロディへとパスを出した。彼への不信感、1人少ない状況、焦りなどが募った結果、ディフェンスの連携が乱れ……

 

「うぉおおおおお!ここで止めるッス!」

「それじゃ止められな……っ!」

「いや、俺も居る!」

 

 ……ていない。アフロディに壁山がブロックに行き、そのフォローをするように風丸がブロックし、ボールを奪い去った。壁山に注意を向かせた隙に風丸のスピードでかっ攫う……か。

 

「ナイスブロック!前線上がれ!風丸、ヒロトへ出してお前も前へ」

「おう!」

 

 十六夜の指示で止めることに成功する。

 

「ひとまず、吹っ切れたようだな」

「そうみたいですね、監督」

「どういうことですか?」

「十六夜綾人の最大の武器は分析力。それは俺たちの誰よりも長けている力だ。そこにアイツは今まで以上に意識している視野を加えている。分析力と視野を組み合わせ、相手が取る最適な選択……フィールドで起こることの未来を見ているんだ」

「「「み、未来!?」」」

 

 ヒロトから虎丸に、虎丸から豪炎寺に繋げたものの、そこで奪われてしまう……が。

 

「スピニングカット!」

「何!?」

「ナイスだよ、栗松くん!」

 

 ガゼルへと出されたパスを栗松が必殺技をぶつけカットする。そのカットしたボールをヒロトが拾った。

 

「相手の最適を潰し、自身の思う未来へ誘導する……それが十六夜の本当のプレースタイル。あくまでフィジカルやテクニック駆使でのドリブル突破はそれを構築するためのモノに過ぎない」

「で、でも前半は……そんなこと……」

「出来なかった。ううん、正確には今までは足りなかったんだよ……そうだよね?」

「ああ」

 

 ヒロトがパスを出すもカットされる。そこを不動が拾って攻めるも奪われてしまう……が、それを木暮が取り返す。攻撃陣はボロボロで、何度も奪われているが、その全てをシュートを撃たせる前に取り返している。

 

「今までのアイツは、未来を作るために自分が介入することを前提に考えていた」

「つまり……」

「守備なら最後に自分が奪う。もしくは、自分が囮になって味方が奪う。攻撃なら自分が突破する、自分がシュートを撃つことが前提だった。……全ての行動の中に『自分が』というものが入ってしまっていた。そんな無意識の前提があってプレーの幅を狭めてしまっていた。だから、見えていても防げなかったし、他人のゴールを描けなかった」

「今は違うよ。キーパーであることで、自分という存在は介入できない。無意識の中にあった(前提)に気付くことが出来た。だから自分という存在を消し、味方の能力を理解して、味方だけで道筋を描くことで防ぎに行っている」

「で、でも!味方の能力を理解って……」

「そうですよ!前半は指示をミスしてズレて……それをこんな短時間で修正出来るんですか?」

 

 音無、目金から指摘が入る。確かに、彼らの言い分も分かる。だが……

 

「鬼道が言っただろう。十六夜は自分を組み込むことが前提で動かしていた……だから、十六夜が入らない時の指示は何かが欠けていたはずだ」

「あ……そっか。自分を組み込んでいるのに自分が動かないからその分ズレて……」

「ああ。それにアイツの分析力だ……俺たち味方に対する分析精度も高いはず」

「まぁ、普通はおかしいと思うよ。ほとんど知らないはずの敵の取りたい行動を高精度で読めるのに、ここまで何試合も戦っている味方の動きが読めないなんてね」

 

 そりゃそうだろう。対峙するのが初めての敵も居る中で、相手の動きを読むことが出来ている。そこまで高い能力を持っているヤツが、味方の動きを読めないわけがない。

 

(マズいですね……前半と全く違う。十六夜綾人の指示の的確さが上がっている。そして、その指示でこちらが苦しめられている……ですか。つくづく嫌な選手だ。あの個人技抜きでここまで厄介だなんて……見誤っていましたね)

 

 十六夜のプレーが変わったことで、試合状況は前半とは大きく変わっていた。今まで簡単にディフェンスを突破され、容易くシュートを撃たれていたのが嘘のようで、未だ相手はゴールまで辿り着けていない。

 

「面白い……ですが、この程度では防げませんよ!」

「全部見えてる。お前の取る最適を全部潰す。ぶっ潰してやるよ、三流」

「君は司令塔にはなれない。司令塔に頭脳戦で勝てないことを思い知らせてあげましょう?」

「司令塔?ハッ、なる気ねぇよ。うちには優秀な司令塔たちが居るからいらねぇな」

 

 チャンスウと十六夜の指示が飛び交う……天才ゲームメーカー相手に彼の最善手を全て潰している。こちらの天才ゲームメーカーも、その様子には頷いて……ん?不動のヤツが……十六夜の方を見て笑みを浮かべている?

 

「見間違いか……」

 

 すぐに真剣な顔つきに戻った。気のせいだろうか?確かに不動も鬼道と同じく、読むことが出来る側……もしかして十六夜が言ってた優秀な司令塔たちって……

 

「十六夜がキーパー……自身が動かないことで、全ての能力を使って味方を動かし、シュートを撃たせない。シュートを止めるんじゃない。そもそも、シュートを撃たせないことに特化したゴールキーパー」

「その上、必要があれば自分でボールを奪うし、自分でゴールも奪う。多くのキーパーとは根本的に違うスタイルだね」

「それが十六夜さんの……円堂さんとはまた違うキーパーとしての姿……」

 

 きっと、円堂の下位互換ではないだろう。円堂にはない、十六夜には十六夜のキーパーとして起用するだけの価値がある。

 

「ただ、このスタイルも完璧じゃない。どんなに最適に動かしても、味方がミスすることもある。相手の取る選択が想像していないものになる可能性もある。相手が最適を超えてくる可能性もある」

 

 見るとフィールド上では飛鷹が抜かれ、アフロディがシュート体勢に入っていた。

 

「ゴッドブレイク!」

 

 そして、必殺シュートが放たれる。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 十六夜が必殺技で対抗する。

 徐々に押し込まれてしまっている。このままではゴールに入ってしまう……誰もがそう思った時だった。

 

「今は1人で止められないか……!だが、点をやるわけには行かない!力を貸してくれ!」

「もちろんッス!十六夜さん!」

「俺たちが支えるでヤンス!」

 

 十六夜の右肩を壁山が、左肩を栗松が支える。

 

「1人が無理なら3人!止めるぞお前ら!」

「はいッス!」

「行くでヤンス!」

「「「はぁぁぁあああああああああああああっ!」」」

 

 シュートは徐々に勢いを失っていき、ボールは十六夜の手の中におさまった。

 

『防いだぁ!アフロディの強力なシュートを、3人がかりで防ぎましたぁ!』

 

「よし!」

「止めたッス!」

「やったでヤンス!」

 

 1人で止められなかったシュートを3人で止めた……か。

 

「ただ、ゴールまで辿り着かれても、簡単に得点をあげるほど優しくはないだろうがな」

「と、止めましたよ……!」

「凄い!3人とも凄い!」

「完璧ではないアイツのプレーを上の段階へと進めるには、今度はアイツをオレたちが知らないといけない。得体の知れないマイペースな万能ペンギンという外側じゃなく、十六夜綾人っていう本質をな」

「十六夜を……知る」

 

 ……絶対、鬼道の発言を聞いたら十六夜はツッコミをいれそうだな。お前、そんなことを思っていたのか……って。

 ……今までの試合はアイツが暴走するどころか、手を抜いてても勝てるレベルだった。でも、この試合は手を抜いて勝てるほど甘くはない。きっと、生半可な相手じゃないから、十六夜の問題が浮き彫りになったのだろう。そして、浮き彫りになりやすかったのは、キーパーだったから……か。

 

「監督がそう仕向けた……のか」

 

 きっとここで十六夜の問題を出しておかないと、世界大会本戦に出場しても勝ち進むことが出来ない。いや、そもそもコイツの問題は……時間が経てば経つほどもっと悪化していた。次の試合以降だったら手遅れになっていたかもしれないのか。

 この試合中に完璧に解決することは無理かもしれない。ただ、解決の糸口を掴めれば、いつかは十六夜という選手と向き合える……か。




ということで、この試合1人目の覚醒です。
最初のは……ね?誰のセリフかは多分予想通りです。1話時点で既に十六夜くんに元々の世界で彼女が居たことの伏線(らしきもの)は張っていたんで(回収するとは思ってなかったけど)……まぁ察してください。

相手の最適を見るというチート能力手にしてますが、当然弱点はあります。あくまで十六夜くんが周りの動きやその選手の特徴などの情報をもとに分析、導き出したものなので、必殺技や必殺タクティクスでの突破だったり、元々の世界基準で実現不可能な突破方法だったり、最適以外の奇抜な突破だったり、相手の情報が不足or得ていた情報が間違いだったりには弱いです。……そう思うと最初から完全無欠というより、試合中に段々と強くなるヤツですね。


次回、サブタイトル 迎えた限界


十六夜に大きな影響を与えた、育ってきた環境とは何か。そして本人も周りも、1人を除き誰もが気付いていない十六夜の()()とは何か。……何だか問題解決回のはずなのに新たな問題が浮上しましたかね?

ちなみに、今までは必殺技などで前の環境と違いすぎたことに順応出来ていなかったことと、円堂の影響をかなり受けていたため、本来の持っていた考え方が表に出ていなかった。環境に慣れてきて、しばらく離れていた為、円堂の影響が薄れたからこそ、前の世界での十六夜綾人というサッカー選手が表に出始めている状況ですね。

一応補足しておくと、持っている才能も現実離れはしてないです。ただ、才能は本人も気付かない内に、神様によって強化されている所もありますかね。才能に関してのヒントを挙げるなら、FF編でも発揮している……でしょうか。
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