超次元サッカーへの挑戦   作:黒ハム

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グロい描写がかなり苦手なのに、デスゲーム系の話が結構好きって言うのがある種の悩み。まぁ、スプラッター系とか内臓飛び出る系とかあまりにグロいものは無理だけど……。ちなみに作者は多分、集合体恐怖症なので(なので?)、細菌とか虫とかそういうグロさもアウトです。
個人的に頭脳戦とか騙し合いが絡んでいるのが好きなんだろうけど……うーむ、どうしたものか……というのが悩み。昨日、王様ゲームの漫画やリアルアカウントという漫画をスマホで見ていてそう思った。読み進めるのに勇気が要るけどついつい押してしまう。


という雑談は置いておいて、十六夜の過去編……まぁ、タイトル通りですね。ちなみに上の話は一切関係ありません。あれは作者のどうでもいいお話です。流石に十六夜くんにそんなデスゲームの生存者or犠牲者みたいな設定はないです。
先に言っておくと十六夜に大きな影響を与えた人は2人います。


過去編 ~十六夜(バケモノ)の形成~

 あの人のやり方は間違いだったかもしれない。正解ではなかったかもしれない。だが、少なくとも十六夜綾人という人間に大きな影響を与えたのは言うまでもなかった。

 

 十六夜がサッカーを始めたのは小学生の時。小学校に入学と同時に近所のサッカーの少年団に入ったのだった。始めた理由は覚えていない。面白そうだったかもしれないし、周りがやっていたからだったかもしれない。

 そして、最初の1年が何事もなく過ぎ去った頃、あるコーチが現れた。十六夜綾人小学2年生……まだ人間的にも未熟な彼にそのコーチの与えた影響は計り知れなかった

 

『徹底した個人能力主義』

 

 そのコーチを一言で表すならこれだろう。体力、両足それぞれのキック力や精度、走力、ジャンプ力、バランス力、俊敏性、反射神経……あらゆる個人能力を目に見えるよう数値化し、試合に応じて総合能力の上位5人、8人、11人が出場できるというもの。そして、1位から自分が出たいポジションを選ぶことが出来るというものだった。

 チームの空気は一変した。レギュラーに選ばれるためには成績を残すしかない。自分が出るポジションを選ぶにはトップを目指さなければならない。チーム内での戦いは熾烈を極めた。一緒に居るのはライバル……越えるべき相手。その認識がチームの中に広まっていった。

 

「チームメイトって言うのは仲良しの友達じゃない。レギュラーという座を掛けて競い合い、奪い合う相手だ。周りに居るのはライバルだ……仲良しサッカーがしたいヤツはこのチームにはいらない」

 

 十六夜綾人はそのチームの方針に馴染んでいった。十六夜だけではない、多くの子どもが方針に馴染んだ。ただ、長くそこに在籍していた子どもたちからは反発も出た。今までのやり方がいい……と。だが、在籍して日が浅い、または低学年の子どもたちは前のやり方にそこまで思い入れがないため徐々に何も感じなかった。

 2年も経てば、そのやり方に従う者だけが残っていた。当然、十六夜もそこに残っている。ただ、十六夜は毎回レギュラーに選ばれるほどの実力はなかった。

 

「負けられない……!」

 

 その思いが強かったのは十六夜だけではない。下位でやる気の無いものや中途半端なものはすぐに消えていき、残るのは負けず嫌いの子どもたち。

 

「そうだ。敗北を深く刻み込み、死に物狂いで勝ちを奪い取れ。負けてもいいなんて温い考えは捨てろ。勝つために藻掻き足掻き苦しみ、その手に勝利をつかみ取れ」

 

 その姿は試合にも表れる。味方の誰にも負けないことを示すのは当然として、それでいて試合には負けたくない。連携という文字はないが、敗北は嫌い……噛み合わないが、個人能力だけで解決する。フィールドの選手がやりたいことをコーチが纏めるようなチームだった。

 5年生にもなれば、十六夜はほとんどの試合でレギュラーを勝ち取っていた。試合に出るたびポジションが違うことは普通で、最早気にしていない。フォワードとして、ミットフィルダーとして、ディフェンダーとして、キーパーとして……何れも試合に出るための指標の一つだったため、一通りは熟せる。

 一人一人が高い能力を持ち、全員が全ポジションを熟せ、全員が負けず嫌い……そんなチームには大きすぎる欠点があった。味方との連携が取れない……協力が出来ない事だった。味方へのライバル意識が強すぎること、連携を取る練習をしていないことなどの要因から、連携がほとんど出来なかった。

 そして、サッカーで学んだことは日常生活でも現れる。どんなこと些細な事であれ、十六夜は勝負に負けることを嫌った。学校でのテストや運動会、ゲームなど、勝負事には負けず嫌いな面を発揮していった。

 

 

 

 

 

「チームプレーを大切に……」

 

 中学校に上がり、十六夜はサッカー部に入部する。周りに同じ少年団出身は少なかった。そして、サッカー部の空気は和を重んじていて……十六夜は心の底から馴染めずに居た。

 11人でというのを強調され、自分より能力の劣る先輩が偉そうに命令する。チームプレーが大切……3年生や2年生が中心に、連携が取れる、チームの枠組みに嵌まれる選手が試合に優先して出られる。今までの環境と大違いであり、その環境に反発を覚えていた。

 

「……お前は能力は高いんだがな……」

 

 顧問から言われるのはそれだった。能力は高い。だが周りに合わせられない。顧問自身も制御できない。だから試合には出せない。

 十六夜は孤立した。それを特に何とも思っていなかった。部活での練習を熟し、その後の自主練も欠かさない。また、サッカーだけでなく勉強も切り替えて行う。十六夜の負けず嫌いはサッカーだけに留まらなかった。負けることが嫌いで、負けたときに次に勝つための努力を怠らない。周りがどうだろうと、ひたすら自分の事に没頭していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も自主練か?夜遅くまで偉いな」

「……片付けはしっかりしておくんで」

 

 冬の夜。すっかり暗くなった校庭では、1人黙々とサッカーボールを蹴っている少年が居た。

 

「宿題は終わってるのか?」

「帰ってからやりますよ」

 

 中学1年生の十六夜綾人である。ハーフラインからペナルティーエリア手前まで、適当に並べたコーンたちをドリブルで避け、突破と同時にシュートを撃つ。かれこれ、部活が終わってから2時間はやっていた。

 

「お前がチームで1番努力をしているのは分かっている。毎朝誰よりも早く来て練習し、放課後も1番遅くまで……というか、本当は生徒は帰る時間なのに残って練習している。テスト期間も、近くのグラウンドで練習してから学校に来ているらしいな」

「よく知ってますね」

 

 練習をしながらサッカー部顧問の先生との話を続ける。ただ、十六夜の頭の中には……

 

(今のコースはダメだな。身体が若干流れてシュートが甘くなった。修正しないと……)

 

 と言う感じで、先生の話は右耳から入って左耳へと抜けて行っているが。

 

「それにお前はこのチームで1番個人としては強いだろう。……だからこそ聞きたい。何故、お前はチームメイトと協力しないんだ」

「…………」

「サッカーは11人でやるものだろ?チームプレーを大切に……普段からそう言ってるじゃないか。何でお前は頑なに協力しないんだ?」

「…………」

「他の先生にも聞いたが、学校生活では特に問題ないんだろう?別に部員との仲も悪いわけじゃないらしいな。他の事では協力できるのに、何でサッカーだけは……」

「サッカー()本気でやってますから」

 

 再びドリブルをしてボールを蹴る。蹴られたボールはゴールの右上の隅へと吸い込まれていく。

 

「別に他の事だって協力しているつもりはないですよ。ただ、言われるのが面倒で、合わせているだけです」

「じゃあ、サッカーでもチームメイトに合わせて……」

「……ふざけたこと言わないでくださいよ」

 

 ボールを回収しドリブル。全てを突破する前にボールを蹴ると、蹴られたボールはゴールの左上の隅へと吸い込まれていく。

 

「何でアイツらに合わせないといけないんですか?」

「何でって……お前なぁ。サッカーは11人でやるものだろ?11人が協力して戦って、11人で勝利を掴む。それがサッカーの……」

「……醍醐味……面白さですか」

「そうだ!共に汗を流し、共に喜びを分かち合い、共に悲しむ……そうやって皆で成長していくことが大事だ!皆で楽しく!勝敗よりも皆で楽しむことが大切だ!」

「……共に……皆…………クソですね」

「……は?」

「今日はここまでにするんで」

 

 そう言って片付け始める十六夜。

 

「……じゃあ、十六夜。お前にとってサッカーはなんなんだ?」

「誰にも負けたくないもの」

「……それで楽しいのか?」

「楽しい?楽しいですよ。今まで勝てなかったヤツに勝てたとき、相手をぶっ潰せたとき、出来なかったことが出来たとき……」

「それは本当のサッカーの楽しさじゃない!いいか、サッカーってのはチームで……」

「チームチームって……生温いこと言わないでくださいよ。チームメイトってのは競い合い奪い合い潰し合う相手……ここには甘くて反吐が出そうなヤツしかいねぇのに、その空気に合わせろって?……くだらねぇこと言わないでください」

「っておい!話は終わってないぞ!」

「片付け終了っと。じゃ、さよなら、先生。また明日」

「それじゃ、いつまでも試合に出せないぞ!」

 

 その言葉を無視して帰っていく十六夜。

 

「全くアイツは……真面目なのか不真面目なのか……これも一種の反抗期ってヤツか?」

 

 

 

 

 

 そして、中学1年生の3月……事件は起きる。

 

「お前には分からねぇよ!お前のような天才には俺たち凡人の苦しみなんか絶対分からねぇんだよ!」

「…………」

「どうやっても勝てるわけねぇだろ!前半終了して5点差ついてんだぞ!ずっと攻められてたし、勝てるわけねぇんだよ!ベンチに居るから言えるんだろうが!まだ勝てるなんて甘いこと考えられるんだろうが!」

「……クソ反吐が出るな、おい」

「ああ?」

「うぜぇんだよ……そういうの。負けてるのはテメェらが弱いからだろうが。テメェらが甘いからだろうが。ああ?テメェらは、試合に勝つためにどれだけの時間費やした?この試合を本気で勝ちてぇなら、何で死に物狂いで練習しねぇんだよ」

「テメ……こっちは先輩だぞ!」

「んなこと知るかよ。そういうのくだらねぇっての……オレからすりゃ、テメェなんて猿共の頂上に立っていい気になってるボス猿なんだよ」

「いい加減にしろよこのクソが!」

 

 十六夜の胸ぐらを掴み立ち上がらせる相手。そんな様子を見て、周りは止めようか迷いを抱く中、十六夜は冷めていた。

 

「大体さぁ、オレらが会場校で?いつもより応援が多くて?格好良いとこ見せようとして?それで、ぼろ負けして珍しくお通夜な空気醸し出して?そしたら、誰かが慰めてくれるって?でも、ちょっと事実を言ってきたからオレに八つ当たりってか?」

「「「……っ!?」」」

「図星かおい…………マジでふざけるのも大概にしろよ。普段の試合から負けてもヘラヘラとチームの結束力だけなら負けてねぇなんてクソくだらねぇ戯言を言い続けたツケが回ってきただけだろうが。自業自得なんだよ」

「お、おい、十六夜。そこまでに……」

「別に事実しか言ってませんよ、先生。アンタの甘い采配が招いた結果がこのざまだ。お得意の綺麗事でなだめておいて下さいよ。つぅか、この時間は後半どう戦うかを考える時間だろうが。慰めなんてどうでもいいことしてる余裕があるんだったら、さっさと勝つための策でも練ってろよ」

「テメェがやれよ……じゃあ、テメェがやってみろよ!テメェが出れば勝てるんだよな!?ずっとベンチで碌に試合に出させてもらえないくせにな!ああ!?」

「ハッ、お前らよりはオレ1人の方がマシかもな……ただ興味ねぇよ。負けても絶望しない、すぐに忘れ次に活かさないようなゴミどもなんか微塵も興味ねぇ。……というかさ、いい加減気付よ。オレの言葉にアンタしか正面から噛みついてねぇんだよ、部長さん。見ろよ、このチームは……お前以外、オレの言葉に反論の1つも怒りの1つも覚えない甘い連中なんだよ。事実を言われて泣き寝入りすることしか出来ないクソみたいなヤツらの集まりなんだよ」

「テメェ……!見ていただけのくせに……!」

「じゃあ、後半頑張ってくださいね。応援してますよ、部長」

「……っ!」

 

 そう言って胸倉を掴んでいた手を払い除ける。そして、座り直そうとしたときに……

 

「……メンバー交代だ。十六夜、それからベンチの他の部員も準備しろ」

「いいんですか?アンタの理念はぶち壊しですよ……それとも、もう逆転の策がないから、ベンチメンバーの経験の為に出すってことですか?点差が広がるのは無視して、もう勝てないから、どうなっても関係ないと?5点も差がついているからどうでもいいと?」

「「「…………」」」

「くだらねぇな、マジで。もう敗北をすんなり受け入れてるとか……マジで終わってる」

「いいから準備しろ、十六夜」

「はいはい。分かりましたよ、先生」

 

 そして、後半が始まる。

 

「おいおい、ベンチメンバーで経験積ませるってか?もう諦めたんだな」

「ほざいてろ三下。全部ぶち壊すから」

「ハッ、スタメンにも選ばれないレベルな癖に口だけは達者ってか?」

「…………」

「まぁ、ベンチで揉めてたらしいしな。ここは気持ちよく勝たせてもらうわ」

 

 たった1人でプレ-する十六夜。攻撃も守備もたった1人でプレーする。ボールを持ったらシュートまで誰にも渡さない。ボールを持っている選手はたとえ、味方であっても強引に奪っていく。

 

「バケモノかよ……なんだよあのバケモノ!」

「敵味方お構いなしかよ!?仲間にタックルして奪うとか正気か!?」

「だけどクソ上手い……!何だよあの技術!?何で止められねぇんだよ!?」

「意味分かんねぇって!アイツを止めろ!徹底的にマークしろ!」

「アイツ潰せば終わりだって!」

 

 壊す、ぶち壊す、破壊する……そのバケモノは全てを蹂躙する。相手も味方も全部壊す……

 

「十六夜!パスしろって!」

「何でパスしねぇんだよ!」

「そりゃ強引すぎだろ!」

 

 味方からの言葉は全部無視する。勝てるかもしれない希望を見せられ、その希望にあやかり、通用しなかったお得意のチームプレーをもう一度しようとするなんて……

 

「……終わってんだよ」

 

 ザシュッ

 

 十六夜の放ったシュートはゴールに突き刺さる。

 

試合再開(リスタート)早くしろよ」

 

 そして、そのままゴールに入ったボールを持って、センターサークルへと歩いて行く。

 最初こそ、味方からの歓声はあがった。だが、自分たちの意向に従わないと、それは徐々に罵声に変わる。監督からも、チームを見ろ、周りの声を聞けとしか聞こえてこない。何一つ、勝つための指示が飛んでこない。何一つ、自分たちが勝利するための行動が見えてこない。手の届く距離まで近付いた勝利よりも、チームプレーという下らないモノを優先しようとする。自分たちのプレーを優先しようとする。意味が分からなかった。何故、勝利を欲しない。何故、勝つために貪欲にプレーしない。何故……勝つための最善を尽くそうとしない。

 

「アイツを止めろ!」

「俺たちを使え!」

「どうせパス出さない!」

「こっちフリー!」

「この人数なら止められる……なっ!?」

「十六夜!味方見ろって!」

 

 ふざけた声が聞こえる。何を言っているんだお前らは。お前らにパスを出してもすぐに奪われる。使え?フリー?周りを見てねぇのはお前らだろうが。使えない位置に居るのはお前らだろうが。そんなことも分からねぇなんて温いんだよ。

 

「十六夜!いい加減にしろ!味方に!パスを!出せ!」

「うっせぇ……うぜぇよ……」

 

 ああ、そうか……ここに味方なんて居ない。居るのは相手と敵だけだ。倒すべき相手と、敗北させようとする敵だけ。敵がオレを縛ろうとしてくる。チームプレーなんて耳障りの良い言葉で縛ろうとしてくる。自分たちの型に嵌めようとしてくる。うるさい黙れ。口を閉じろ。気持ち悪い。吐き気がする。息苦しい。息ができない。憎悪が湧く。殺意が湧く。壊れればいい。潰したい。ああ全部……

 

「ぶっ壊す……ぶっ潰す……」

 

 ぐちゃぐちゃにぶっ壊したい。もう全部……壊れてしまえばいい。壊れて壊れて壊れて……

 

「暴走してる!?」

「強引すぎだろ……!?」

「止めろ!これ以上失点は洒落にならねぇぞ!」

「たった1人で勝てるわけねぇだろうが!」

 

 誰にも縛らせない。縛ってくる鎖が全部気持ち悪い。お前らの価値観を押しつけんなよ。全てを壊して潰して殺してやるよ。この衝動に身を任せて、全部ぶっ壊してやるよ。

 

「先生!十六夜を交代してください!」

「……いや、出来ない……!」

「何でですか!?アイツのプレーは凄い!もう1人で4点も取っている……!でも、こんなのサッカーじゃない!サッカーは11人で……」

「甘かった……見誤っていた……アイツもプレイヤーだ。心の奥底では試合に出たかったはずだ……それなのにずっと出さなかった。アイツだけサッカー部の中で1秒もフィールドに立てなかった……ずっとベンチだったんだ。……腹を極限まで空かせたバケモノが、鎖を引きちぎり、衝動に任せて蹂躙している」

「……っ!」

「止められない……初めてだ。あんな暴力的なサッカーを見るのは……ここで無理矢理止めたら彼は壊れてしまう。これはサッカー部の顧問としてじゃない……一教師として止めるわけにはいかないんだ。出すべきじゃなかった……浅はか過ぎたんだ……もう遅すぎたんだ……」

「「「…………」」」

 

 そして、試合終了間際。バケモノはある思いを固めた。

 

「サッカー部やめよ」

「なっ……!?」

 

 ザシュッ

 

 6点目を取った十六夜は決意した……こんな生温い奴らにぼろ負けして意気消沈するチームではもうやっていけないと。ちょっと勝てる希望が見えたらすぐに掌を返すような奴らとは一緒に居られないと。

 

 ピ、ピーー!

 

 試合のホイッスルが鳴り響く……逆転勝利をおさめたのに、誰1人歓声をあげない。あるのは、相手チームの応援と……十六夜綾人(バケモノ)への畏怖だけだった。

 

「いざよい……」

 

 そして、十六夜はそのまま片付けをして去った。顧問の、チームメイトの言葉に耳を傾けることなく、そのままサッカー部を退部した。チームプレーを大切にしているチームの中でチームプレーが極端に苦手な存在として、チームの空気をぶち壊しまくる、ムードメーカーならぬムードクラッシャーはチームを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜くんの進路希望は……まぁ、予想通りね」

 

 時は流れ中学3年生。中3にもなれば進路を決める……ということで、進学先を決めるために担任と面談をしていたのだ。

 

「寧ろ、あなたはここしかないでしょ。成績も主要5科目は5段階中の5でトップだし、テストも基本学年1位。実技科目の成績が並だけど許容範囲内ね。この辺りのトップ校……確かにレベルは高いけど、慢心しなければ余裕で行けるわ」

「ありがとうございます」

 

 十六夜綾人は基本的に負けず嫌いである。テストも一部の例外を除いて、負けることが嫌いなため努力を怠らない。その結果が現れているのだ。

 

「でも、不思議ね。あなたのその負けず嫌いな努力家としての面を見ると、実技科目も出来てもよさそうなんだけど……」

「別にこんなものですよ」

「そ、そう……もう少し合唱も力を入れてくれていいんだけど……ほら、他の子よりも歌が下手って何か負けてる気にならない?」

「???最低限出来ればいいんじゃないですか?」

「ま、まぁ、決して真面目にやっていないわけじゃないから、これ以上はいいわ」

 

 この頃にもなると十六夜は、全方面に負けず嫌いを発動させていた小学校時代とは違い、ある程度の取捨選択は出来ていた。

 

「日常生活でも大きな問題はなし。まぁ、あの件からちょっと確執があるみたいだけど……」

「どうでもいいですよ。あんなゴミどもに価値はねぇです」

「あはは……ゴミどもとはこれまた手厳しい。しばらくは起きていないみたいだけど……やり過ぎないでね?」

「ただの自滅ですよ」

「……ただの自滅ならサッカー部は停部に追い込まれていないんだよ。まぁ、最近は生徒指導の先生が君関係でのいざこざが減ったから、このままなくなったままだとありがたいって」

「自分から仕掛けるつもりはないんで」

「はぁ……まぁ、彼らもいい加減痛い目見たから分かったと願いたいわね。それで、話変わるけど十六夜くんの将来の夢は?やっぱりサッカー関係?サッカー部を辞めた後もずっと、1人で練習を続けているくらいなんだから」

「…………将来の夢……」

 

 将来の夢……十六夜綾人には夢がなかった。サッカーは、自分の中では負けたくないものであって夢であるとは言えない。サッカーはサッカー、夢は夢という感じだった。

 

「えっと……お母さんやお父さんと話はしないの?」

「一応、母には『大学には行っておくといいんじゃない?』って言われてますね。でも、その先は特に何もですね。『なりたいものになる』……そんな感じです。もっとも、なりたいものが見当たらないですが」

「うーん……」

 

 十六夜綾人には負けたくないものはあってもなりたいものはない。

 

「よし、これから先生やご両親と一緒に夢を見つけていこ?あ、ちなみに来週はテスト期間だから、グラウンドでサッカーの練習は禁止ね。……まぁ、もう3年生だし、先生たちは今更で流せるけど……他の子たちの嫉妬とか面倒なことは嫌でしょ?」

「そうっすね。では失礼します」

「うん。次の子呼んでね」

「はい」

 

 そう言って部屋を出て行く十六夜。

 

「はぁ……夢がない。目標がない……か。高校も行きたいからじゃなくて、行けるから選んでいるタイプね……まぁ、行けるからがこの辺のトップ校なのは、先生としては嬉しいのか悲しいのか。3年間見ていて分かるけど、負けることが嫌いな負けず嫌いなだけで、自主的に勝ちたいって思うことが基本ないのが問題ね。テストも点数で負けたくないから満点を取ってる。決して満点を取りたいから、高得点を取りたいから取っているわけじゃない。……とりあえず、彼は何か目標とか夢を持つことが大事っと」

 

 そして、別の紙を見て頭を抱える。

 

「やれやれ……ただ、友人がゼロに近く、学校内では孤立状態。その上、何人かのサッカー部員が問題行動を起こし、サッカー部は停部状態となった元凶……って言うと彼が加害者みたいだけど、ある意味被害者なんだよねぇ……。彼にも友達が出来て平穏な生活が訪れればいいんだけど……」

「先生ー」

「あれ?十六夜くん?次の子は?」

「生徒指導の先生が呼んでいますよ」

「……え?……ま、まさか……」

「いやーたまたま、生徒指導の先生がうちのクラスの様子を見たときに、オレの席にイタズラしようとしていたバカどもがいたらしいですわ」

「これ以上問題起こさないでよ!?」

「さぁ?運がなかっただけでしょ?」

「ただの被害者だったらそんな計画通りなんて顔しないんです!あぁもう!私の仕事が増えちゃう……!」

「頑張ってください。じゃ、事情聴取に行ってきまーす」

「そんなノリで行く被害者がいるか!このバケモノ問題児!って私も呼ばれているんでしょ!」

「いやーまさか本当にトラップに引っかかるバカが居るとは……」

「だから友達出来ないんでしょ!?普通はトラップを仕掛けてから席を離れないんだよ!用意周到か!だから怖がられているんだよ!だからバカ以外は誰も近づきたくないんだよ!というか、少しは成績優秀者らしく優等生みたいな振る舞いをしてみなさい!」

「では、今から頑張ります。優等生として、完璧な演技をしてみますよ」

「そういう意味じゃないんだよ!頼むから少しは反省して欲しいんだけど!?」

 

 十六夜はサッカーには本気を出す。だが、本気だからと言ってプロの選手を目指しているわけでもない。突き動かす原動力は……誰かに負けたくない。ただそれだけだった。

 それとは別に中学時代の十六夜は学校側が頭を抱える問題児であった。




過去編その1……次回はその2です。時系列では十六夜くんの中学時代までのお話です。次回は高1の時のお話です。
関係ないですが、後書きが1000字超えていますので興味なければスルーで。何なら前書きも余計な事書いてありますが……もう前書き後書きに関係ないこと書くの見逃して……!気分で書いているから……!


コーチ
 十六夜綾人に多大な影響を与えた人物その1。徹底した個人能力主義で来る者拒まず去る者追わずの男。勝負事に勝とうと思わない人間に興味は無く、勝つために足掻く人間には手を差し伸べる。チームで連携が出来なくとも、11人がそれぞれ個人として最強なら勝てるという考えを基に指導した人物。
 十六夜が小学校2年生になると同時に入り、5年間サッカーを教えた師。ちなみに、十六夜が卒業と同時に少年団を追い出されている。
 十六夜が高校生になっても直接・間接的に絡む人物である。


顧問
 十六夜の中学時代のサッカー部顧問で男の先生。勝利より楽しむこと、個人プレーよりチームプレーを信条としているため、前述のコーチとは対極に位置する存在。
 十六夜を唯一試合で出したのは、行き過ぎた個人プレーの考えを少しでも変えられると思ったから。点差も開き、自分たちより格上相手なら十六夜の個人プレーは通用しないと思っていたが、完全に見誤る。
 なお、あの試合を機に十六夜からは授業中であろうとも無視されるようになる。


担任
 十六夜の担任。若手の女の先生であり、1年生の頃から3年連続で彼の担任である。そのため、十六夜のことは教師陣の中では1番分かっており、十六夜自身も割と気を許している。
 あの試合を見に行っていたため、十六夜の暴走した状態を知っている。十六夜の家庭環境を見ても、彼自身が何故あそこまで歪な性格になったかは分かっていない。十六夜のことは護りたいと思っている……が、それはそれとして彼が事あるごとに問題を起こして胃が痛くなる。しかも、彼自身が被害者の皮を被った加害者であることを知っているので更に胃が痛くなる。
 何処までも十六夜の味方をして、陰で心配してくれた存在。高校生ではもう少し落ち着いて欲しいと切に願うが、十六夜の訃報を聞きショックを受ける。死亡理由を聞いて少しは変われたのかと思っている。


十六夜(いざよい)綾人(あやと)
 イナイレのとある人風に言うなら実験体かつ作品の1つ。反抗期と負けず嫌いと頭の良さと破壊衝動と悪ノリと諸々混ざった問題児であり、トラブルメーカー。協調性ゼロで担任の胃痛の種である。本人曰く、この頃はまだ青かった……若気の至りらしい。
 小学生の時にいた監督とチームの影響で、負けず嫌いな気持ちが強くなりすぎている。なお、小学校ではその面が強く出過ぎて、あらゆる勝負事では勝つまで戦い続ける、負けることを激しく嫌うようになる。
 中学ではサッカー部に入部するも、心の底から馴染めずにいた。敗北しても笑っているチームメイトの感情が一切理解できない、そもそもスタメンの基準が理解できない、周りが本気で練習に取り組まないなど、今までの環境との違いに困惑していた。困惑をしていたが、適応することなく、自分を貫いたことでチームからは浮いた存在になるが、特に何も思っていない。試合に出してもらえず、ベンチに居たがそのことに不満はなかった。理由は顧問の意向に合わない。だからと言って、合わせる気はなかった。唯一出場した試合の直後にサッカー部を退部する。退部した後も卒業まで自主練習を欠かさなかった。ちなみに、試合に出れないことに関しては特に何も思っていなかった。
 負けず嫌いな面は成長と共にある程度は抑制できるようになっている。勉強面ではそれを発揮し、学年一位。周りからは天才と言われ嫉妬の対象だが、本人は努力しないと出来ない凡人だと思っている。ちなみに、色んな嫉妬とかのせいで問題が起きているが全部返り討ちにしているため……



あの試合時点での十六夜くんがイナイレ世界に飛んでいたら、まぁ、やばかっただろうな……円堂くんが何とかしない限り、雷門サッカー部は早々に抜けてる可能性が高い。それに一部メンバーの好感度も低くなってる可能性があるってね。
ファイアードラゴン戦のアレは暴走に見えているだけで、本当の中学時代の暴走に比べたらまだ可愛いというね。次回は、十六夜を変えるもう1人が登場です。
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