「……日本のサッカー、なかなか頑張ってるじゃないか」
「それはお世辞か?」
「さぁ、どうだろうね」
ボールを持ったエドガーはオレと1対1になる……が、
「…………?」
何故か自陣ゴールの方へとドリブルをし始めた。……おいおい、何してるんだ?ゴールは逆方向だぞ……?
「何しているんだ?アイツ」
「分からない……」
理解出来ない行動……一切アイツからのパスルートは見えていない。何か狙いがあるのか……何を仕掛けてくるか読めない。深追いは禁物だと判断し、ブロックに行くのは他のヤツに任せ、前線の空いている選手の方に行くが……センターライン付近で突如反転、右足を振り上げシュート体勢に入った。
「エクスカリバー!」
放たれたシュート……だが、何故わざわざ距離を取ったんだ?オレの前で打ってもよかったんじゃ……っ!?
「なっ!?追いつけねぇ!」
オレの正面に打たれたわけではなく、ゴールに向かって打たれたそのシュート。距離もあり、さっきのシュートスピードを見た限り、コースに割って入るのは容易だと思っていた。
だが、その推測に反して追いつくことが出来なかった。目の前を猛スピードで進んでいくシュートを見送る形になる……
「ザ・マウンテン!」
壁山がシュートコースに入ってブロックを試みる……が、山は粉砕され壁山も吹き飛んでしまう。
「いかりのてっつい!」
円堂のいかりのてっついがシュートを止めようとする……が、止めることはかなわず円堂は弾かれ、ボールはゴールに刺さった。
『ゴール!エドガーの強烈な一撃がイナズマジャパンゴールを揺らした!ナイツオブクイーン先制だ!』
「前より威力が……!」
「……距離があればあるほど、威力とスピードが上がる必殺シュート……ってことかよ。クソッ、見誤った」
そんな意味が分からねぇシュートがあるとは思わなかった。普通のシュートは距離があるほど、威力が落ちていくのに、ヤツの必殺技は増していくとか……クソ、ということはエドガーのシュートレンジは……このコート全て……いや、この感じだと、センターラインより後ろから撃たれりゃ止められねぇか。悉く常識が通用しねぇな……マジで。ただえさえ厄介な選手なのに、シュートレンジがフィールド全てとかどうしろって言うんだよ。
「負けてたまるか……!」
「円堂……」
「俺たちは世界一になるためにここに来たんだ」
「世界一……か」
すると、エドガーがやって来て話に混ざってくる。
「キミたちは世界一の意味を本当に分かっているのか?」
「え?」
「キミの言う世界一からは自分たちの想いしか感じられない。世界で戦うチームは自分の国の数え切れない人々の夢を託されているんだ。それを裏切ることは出来ない。その夢を背負って戦うのが代表の使命だ」
なるほど……ねぇ。
「我らはナイツオブクイーンに選ばれた誇りを胸に抱いている。ただ、目の前の高みしか見えていないキミたちに負けるわけにはいかない!」
「……エドガー。お前への認識を改めるよ」
「ほぅ……」
「……代表になれず無念な思いをしたヤツや、代表を外されオレたちに託したヤツ、はたまた日本が世界一になることを応援しているヤツ……色んなヤツの思いをオレたちは背負わなくちゃいけないんだって」
日本代表が決まったとき、響木監督は言っていた。選ばれた者は、選ばれなかった者の思いを背負うって。もちろんそれだけじゃない。イナズマジャパンを応援してくれている人たちの思いもオレたちは背負っていかなくちゃいけない。だが……
「だけど……悪いけどそんなのはオレの感覚じゃない。本気で戦う理由になれやしねぇ。……言っちゃ悪いが、そんな押し付けされても困るんだよ」
「……ほぅ。それなら何故キミはここに立っている?何の為にここで戦っている?」
確かに、皆の思いや願いを背負って戦いますって言う方が、代表としては正しいんだろう。だが、そんなことに縛られたくないし、はっきり言ってそんな崇高なものを背負って戦ってますって思えるような人間にオレは出来ていない。
「世界一になるため……お前らと戦って、お前らに勝つためにここにいる。勝利以外に何もいらねぇんだよ。夢をとか誇りをとか
支えてくれる人たちには感謝している。それは間違いない。期待されているってのも分かっている。応援してくれるってのも分かっている。……だとしても、オレは勝つためにここに居る。世界一になるためにここで戦っている。
「というかさ、目の前の高みしか見えてない?目の前の高みを目指して何が悪い。目の前に強いヤツがいるんだったら、そいつに勝ちたいと思うのは当然だろうが」
「……どうやら、キミとは合わないようだ。……来い、イザヨイアヤト。独りよがりで傲慢なキミの思想……私が直々に引導を渡そうじゃないか」
「誰がどういう思いで戦おうと勝手だろうが。自分の正しさを押し付けんなよ。……潰し合おうじゃねぇか。そして、最後に勝つのはオレたちイナズマジャパンだ」
「いいや、最後に勝つのは私たちイギリス、ナイツオブクイーンだ」
そう言い残して、自分のポジションへと戻っていくエドガー。
「言い切ったな十六夜。……今のがお前の本音か、エドガーを誘うための
「……なぁ鬼道、ちょっといいか?」
「何だ?そろそろ攻め上がるからフォロー頼むって話か?」
「流石。じゃ、よろしく」
「ふっ、見せてこい。お前のプレーを」
「ギア上げるから置いていったらゴメンな」
先取点を取られてしまったが、まだまだここから。まだ0-1……焦る時間じゃない。エドガーに対する評価、情報を更新しろ……アイツがナイツオブクイーンの心臓だ。そして、アイツはオレの格上だ。
イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは……
「ぶっ潰しぶっ壊してやんよ!ナイツオブクイーン!」
1点取られて試合再開。ボールは十六夜に渡った。そして、スイッチが切り替わったように獰猛な雰囲気になる。冷静で理知的で、未来を淡々と見通していた
「正面から来るか……面白い」
ドリブルをする十六夜。対してナイツオブクイーンはフォーメーションを変えた……
「アブソリュートナイツ!」
必殺タクティクス、アブソリュートナイツが発動する。
「またあの必殺タクティクスです!」
「十六夜先輩はどうするつもりなのでしょうか?」
「どうもしないだろ」
「えぇっ!?」
そんなことお構いなしにアブソリュートナイツへと突っ込んでいく。1人目を躱し、すぐさまやってきた2人目を躱し、3人目を躱していく……
「なんだコイツ……!?」
「読まれた……!?」
「すまん!そっち行った!」
そのまま4人目と相対する……が、
「す、凄いです……まるでボールが足に吸い付いているみたい……!」
「アブソリュートナイツは次々とプレスを仕掛けてくる戦術……確かに、普通は何人も連続でプレスに来ればかなわないだろう。だが、あくまでプレスをする人数には限りがある」
「そうか!時間をかけずに突破しちゃえば、最大でも10人しか来ないんですね!」
「まぁ、10人しかと見るべきか、世界レベルが10人もと言うべきかはさておくがそういうことだ」
まるで敵じゃないと言わんばかりだ。続く5人目とあわせ、一切気にした様子がなく突破した。
「面白い。アブソリュートナイツを正面から打ち破るとは……しかし、ここで通行止めだ」
そんな十六夜を止めに現れたのはエドガー。6人目である彼は十六夜にプレスを仕掛けていない。……時間を稼ぐディフェンス……プレスでは簡単に抜かれると判断したのか、守り方を変えてきた。
「やめるわ」
「……っ!パスだと……!?」
「今は仕掛けるときじゃないからな」
そして、守り方を変えたのを見て、十六夜も攻め方を変える。今までの味方を無視したドリブルでの突破から、パスへと切り替えた。……あの雰囲気は作ったモノだったか……それとも、途中までは本気でエドガーを見た瞬間切り替えたか。
「……もしかしたら……今までヤツはずっと隠していたのか……?」
冷静沈着で分析力に長けた頭脳派プレイヤー……それが十六夜綾人という選手だと思っていた。でも、本当のヤツは、荒々しい雰囲気を纏い本能で動く感覚派プレイヤーなのだろうか……?ただ、隠してきたにしては引っかかる。分析力は他人から貰ったもの……今まで見てきたプレースタイルは誰かから貰ったものなのか?
「いや……今は試合だな」
……もしかしたら、韓国戦も暴走じゃなく初期に戻っただけ……そんな可能性すらある。そんなことを考えたらキリがないだろうな。
「お前たち、アップしろ」
そんなフィールドでの様子を見て、久遠監督はベンチメンバーに声をかけた。……交代枠を使う……それか、いつでも使えるようにだろうか。
「虎丸!」
「はい!」
十六夜からのパスを受け取ったのは鬼道。そのままダイレクトで宇都宮へと繋げた。攻め上がる宇都宮……だが、立ちはだかったのは4番。
「ストーンプリズン!」
宇都宮の両脇を逃がさないように、石の柱が地面から出て来る。徐々に石の柱が出るスピードが宇都宮の進むスピードより速くなり……
「カウンター警戒!戻れ!」
宇都宮の目の前に現れた石の柱。そこにぶつかり、ボールを奪われてしまった。ボールはエドガーに渡る。
「お前は通行止めだ。行かせねぇよ」
「私を止めるつもりかい?」
「つもりじゃねぇ。止めるんだよ」
先ほどと攻守反転し、今度はボールを持つエドガーに対して十六夜がブロックに行く。
「ディフェンス陣!守備固めろ!」
「行け!騎士たちよ!」
十六夜の指示とエドガーがパスを出したのはほぼ同時。
「流石はトップレベル……判断の早さも一流ですね。あの場面、エドガーが十六夜くんを突破しようと意地になっていれば、もっとやりやすかったのですが……」
「十六夜が勝てばそれでよし。負けてもフォローに行った鬼道が奪っていた……それを見越してのパスへの切り替え。一筋縄ではいかないようだな」
「えぇ、ですが十六夜くんは役目を果たした。エドガーにシュートを撃たせなかった……それはかなり大きいでしょう」
「他の選手がどれほどかは分からないが、あのシュートを超えるとは思えないしな」
「それにしても、やはり世界は違いますね。今までより全体のプレーレベルが上がっています……ですが、こちらも負けていません」
「そうですよ!特に読み合いなら負けません!」
音無の言葉を聞き、チラッと不動の方を見ると、今までの試合より真剣な様子で試合を見ていた。彼もまた鬼道と並び、優秀なゲームメイカーだと認識している。おそらく久遠監督もベンチから彼に攻略法を見出させるつもりなのだろう。
シュートを撃ったのは11番。コースを狙ったものだったが、円堂がしっかり反応して受け止めた。
「十六夜!」
ボールは円堂から十六夜へ。そして、ダイレクトで風丸に渡った。
「風神の舞!」
ブロックに来た相手を必殺技で突破する。ボールは豪炎寺に渡った。
「ストーンプリズン!」
4番が先ほど宇都宮を止めた必殺技を繰り出す。対する豪炎寺は、自分の前に石の柱が出てきたタイミングで跳び上がり、4番の必殺技を破る。
シュートコースが空いた。キーパーまで障害はなくなった。
「爆熱スク――」
必殺技を放とうとする豪炎寺。しかし、炎の渦の中、ボールをかすめ取ったのはエドガー。そして……
「エクスカリバー!」
相手ゴール付近からの超ロングシュートが炸裂する。普通であれば、無謀な一撃……だが、あの技は違う。
「シャレにならねぇだろ!?」
十六夜が思わず叫んでいるが、あの技は距離があればあるほど威力とスピードを増していくと推測される。つまり、相手ゴール前から撃ったそれは、先ほどとは比べものにならない威力になるはず……
「……っ!やっぱ間に合わねぇ!皇帝ペンギン1号!」
そんなシュートに対し、コースに入ることまでは成功した十六夜。そこから、アイギス・ペンギンを放とうとしたのだろうが、相手のシュートのスピードを見て技を切り換える。足に食らいついたペンギン。本来ならシュート技になるであろうそれをシュートを打ち返す為に使った。……だが……
「後頼む!」
吹き飛ばされる十六夜。流石に蹴り返すことは出来なかったようだ。
「ザ・マウンテン!」
しかし、十六夜の稼いだ僅かな時間のおかげで壁山のブロックが間に合う。僅かに止まるボール……だが、シュートを防ぐことは出来ず、ザ・マウンテンも破られ、壁山も吹き飛ばされてしまった。
「いかりのてっつい!」
円堂のいかりのてっついがボールを地面に叩きつける。今度は弾かれることなく止まった。
「な、なんとか止めましたね……」
「よ、よかったぁ……」
円堂がボールを前へと送ろうとした……が、そこで気付いてしまった。
「壁山!」
壁山が倒れたまま起き上がれなくなっていることに。