字数は前話を超えています。
「チェックメイト」
高1の秋の休日のこと……とある理由で十六夜は陽向の家に呼ばれていた。と言うのも……
『ボクの口調がおかしい?それはねぇ、このラノベでボクが好きなキャラに影響されてはいストップ。キミ帰ろうとしたでしょ?ねぇ、このオタクめんどくせぇーって思ったでしょ?もっと面倒くさいところ見せてあげるから取りあえずボクの家に行くよ!キミにラノベの素晴らしさを教えてあげよう!さぁ、行こう!』
……簡潔に纏めるなら、十六夜が余分なことを言ったからである。何とか、その日に連れて行かれることは阻止したものの、後日時間を取ることになったのだ。
「クッ……!」
「ふっふっふっ……ボクにチェスで勝つだなんて100年早い!」
「……もう一度だ」
「フハハハハ!いいでしょういいでしょう、受けてあげようじゃないかその勝負!と、その前に次のラノベ紹介をさせてね♪次は――」
では、何故チェスをしているのか。それは、十六夜が彼女の部屋に入り、本棚には大量のラノベと漫画が並んでいる棚を目撃。コイツに語らせたら終わらないと察した十六夜は、彼女の部屋に置かれていたチェスを目にする。……勝負形式にして、自身が負ければ1冊紹介出来る……みたいな形にすれば良いのではないかと考えたのだ。幸い、自分は初心者ではあるがルールくらいなら分かる。彼女の実力はともかく、きっと時間稼ぎにはなる……そういう思いから勝負を吹っ掛けた。
「でねでね。この作品は伏線の張り方が絶妙で、その回収も実に鮮やかなんだ!あ、このラノベも貸してあげるから読んでみてね。個人的には3巻までは読んで欲しいから、3巻まとめて貸してあげるね」
「……あのー陽向さんや?どんどん借りるラノベの冊数が増えているんですが……」
「大丈夫大丈夫!1日あれば読み終わるって!1日は24時間!1冊2時間くらいで行けば12冊行ける!」
「じゃねぇよ!?24時間ぶっ続けで読めって言う気か!?つぅか、その時間サッカーと勉強に費やせるだろ!?」
「えぇー仕方ないなぁ。じゃあ、ボクの分析で完璧なスケジュールを立ててあげるから、それで読書時間確保ね。そもそも十六夜クンは2次元に興味なさすぎ!人生損しているよ!」
「うっせぇ天才オタク」
「全くーボクレベルとは言わないけど、ある程度は2次元を嗜むといいと思うよ。第1……」
と、語り始めた彼女……もう半年以上の付き合いになるから分かるが、彼女は語り始めると止まらない。ゲームもアニメも漫画も、今までの人生の大半をサッカーに費やしすぎて、そう言うのには疎い……どころかあまり興味がない人間にとっては、面倒くさいことこの上ない。ただ、彼女があまりにも嬉しそうに語るせいで止めるタイミングを失っているのだ。
「……って聞いてるの?」
「へーへー……というかお前、チェス強すぎねぇか?いくらお前が天才で、オレが初心者だとしても、ここまで一方的にボコボコにされるのか?」
「…………あれ?言ってなかったっけ?」
「何を?」
「小さい頃から中学生までチェスは本気でやってたよ?ほら、そこに賞状とか並んでるでしょ?」
言われて部屋を改めて見渡す十六夜。大量のラノベが目に入って、それ以外の物は一切目に入っていなかったが……よく見ると、賞状やら盾やらが置いてあった。
「えへへ……自分で言うのも恥ずかしいけど、日本ランキングで1位になったこともあるんだ」
「…………」
マジかコイツ。十六夜は引くと同時に理解した。元日本一に初心者が無策で勝てるわけねぇと。
「……とにかく、お前がチェスやってるのは知らなかったわ。というか、ウチの高校チェス部とかあったろ。何でやってないんだ?」
「……一言で言うなら、疲れたから」
「はぁ……?」
「あはは……意味分からないよね。……でも、そうとしか言えないんだ」
「……そうかよ」
何かがあった……けど、本人が言わない限りは無理に聞くことはないだろう。そう思って質問を変える。
「じゃあ、何でサッカー部のマネージャーに?文芸部もあったと思ったが……」
「えぇ~ヒ・ミ・ツ♪」
「あっ、そう。……ほら、次の対局だ」
「え?」
「あ?何してる、準備しろよ」
「えーっと、ボクが元日本一って知ったよね?」
「知った」
「キミは初心者だよね?」
「間違いない」
「……勝ち目ある?」
「テメェの強さを知った……舐めてたわけじゃねぇが、テメェが元最強だと理解した。その辺を考慮すれば、限りなくゼロに近いが勝ち目はあるんじゃないか?」
「……ぷっ」
「……あ?」
「あはははは!いやーゴメンね~。そっかぁ……十六夜クンってとっても負けず嫌いだったね。そっかそっかぁ……うん!手加減しないからボコボコにされて泣かないでね!」
「るっせぇーテメェの掌の上で踊ると思うなよ」
「じゃあさ、次ボクが勝ったらお互いを名前で呼ぶってのも追加ね!」
「はぁ?」
「ボクは綾人って呼ぶからさ!」
「上等。手を抜いたら締める」
2人の対局が始まる。そして、十六夜が4手目に入ろうとしたとき、
「ねぇ、十六夜クン」
目を閉じた陽向が声をかける。
「何だよ」
「手を抜くなって言ったよね?」
「言ったな」
「じゃあさ、少し待って」
「はぁ?」
「手を抜かない……ボクの本気を見せてあげるから」
「……っ!」
そして、目が開かれる。普段では感じられない、想像も付かない威圧感に思わず気圧される十六夜。その雰囲気で身を以て感じる……
「……さっきまでの対局。手抜いてただろ?」
「そうだね」
(スイッチが入ってる……対峙して分かるがなんてプレッシャーだおい。普段のコイツからは想像も付かない……まるで別人を相手しているようだな。……なるほど、コレが陽向神奈の本気ってヤツか)
「分かったよ……一応、オレの手番だけど、このままか?」
「うん。それでも、待ってて」
「好きなだけ時間使えよ。ゆっくり待ってやる」
「ありがとね」
すると陽向は立ち上がり、自身の机に向かうと、紙に何かを書き連ねる。迷うことなく、止まることなく……そうして、書き上げたその紙を四つ折りにすると……
「はい。対局が終わるまで預かってて」
「おう。……開いていいか?」
「ダメ。対局が終わってから」
「へいへい」
そう言ってポケットにしまう十六夜。一方の陽向は近くに台を置き、スマホを立て掛ける。
「それと、ここからはこの対局撮らせてもらうね」
「別に構わねぇよ」
「じゃあ、対局再開ね。十六夜クンの番だよ」
謎の紙とスマホによる撮影……今までの対局になかったことだが、断る理由もないので受け入れる十六夜。
「ねぇ、十六夜クン。知ってる?」
「対局中だろ?……で、何をだ?」
「チェスってね、盤上の戦争なんだよ。そして、その目的は相手の精神を砕くこと」
「…………お前がそういうこと言うと笑えねぇな」
「ボクが言い出したことじゃないよ。昔の人の名言さ」
「そうか」
「チェスはね、心優しい人や臆病者は向いてないらしいんだ」
「それも誰かが言ったのか?」
「うん。そして、ボクもそれは同感。チェスは冷酷な人が向いている……人を殺す準備が出来ているくらいのね」
「……っ!?」
「あはっ♪もしかして、怖じ気づいた?」
(なんだよこれ……震えてるのか?怖い……恐怖している?冷や汗が止まらない……目の前に居るのは本当に陽向神奈なのか?オレがいつも見ている少女に思えない……何だよこれ……オレがやってるのは
「ねぇ、
「…………っ!??」
「顔色悪いね。ねぇ、キミには何が見えてる?」
(槍の先がこちらを向いている……戦車の砲塔がこちらに照準を合わせている……何だこのビジョン……!?ここは戦場だと否応なしに
「バケモノが……!」
「いい響きだね……キミと同じだ……さぁ、次の手を打ったらどうだい?……もっとも、キミに残された猶予は少ないからよく考えると良い」
(クソが……!マジで隙が見えねぇとかそういう次元じゃない……!何だよこれ……オレがやってるのは本当にチェスなのかよ……!)
そして……
「チェックメイト」
「……………………」
パンッ
「……っ!脅かすなよ……」
陽向の拍手で現実に戻る十六夜。
「えへへ~ボクの勝ちだよ。じゃあ、渡した紙を開けてみて」
「ああ……ってこれ何だよ?」
「開けたら分かるよ」
「へいへい……って、はぁ?」
十六夜が開いた紙……そこにはアルファベットと数字が羅列されていた。
「何だと思う?」
「暗号……?いや、そんな意味不明なことはしねぇだろうな。数字とアルファベットの羅列…………もしかして、棋譜ってヤツか?」
「正解。それは、チェスの棋譜だよ」
「ちょっと待て。読み方は分かんねぇけど……棋譜って確かその対局でどう駒を動かしたってヤツを表すんだよな?」
「その認識で大丈夫だよ。例えばPf4だったら、ポーンをf4……だからここへ動かしたって感じだね」
「そういうことじゃねぇよ」
「ん?」
「この棋譜は今さっきの対局の棋譜なんだろ?」
「……うん。撮った動画と見比べてみると一緒だよ」
動画を流しながら確認していく。陽向の解説を聞きながら一手ずつ確認していく。対局の棋譜だから一致しているのは当たり前なのだが、十六夜の背中には寒気が走っていた。
「違う……お前はこの棋譜を最初の段階で書いてた」
「正確には後攻のボクが3手終えた段階でね」
「それなのに……最後の一手までこの棋譜と対局が一致している。こんなこと信じたくねぇぞ……」
もしこれがテレビ番組ならやらせを疑うだろう。だが、目の前で、対戦相手として見れば、当然仕掛けはなにもない。……だからこそ、十六夜の中には恐怖という感情を感じずには居られなかった。
「お前が未来を読むことができるってのは知っていたが……それでも高々相手が次に取る行動を読むぐらいだと思っていた。でも、今回は違う……お前はこの勝負全てを読んでいた……」
「……うん。ボクには視えていた……キミがどの手を打つのか全て分かっていた。キミの性格、思考パターン、見えている
「ハッ……何だよコイツ……!」
あり得ないことをやってのけたバケモノに戦慄する十六夜……ただの敗北じゃない。圧倒的で絶望的なまでの敗北……一切勝てる気がしない敗北……
「…………やっぱりそういう風になるよね……ゴメンね。キミじゃ
「……何勘違いしてんだよ、
「ふぇ?」
「……元日本一の天才様が本気を出すとここまで強いって話だろ?それこそ、対局序盤の段階から自分の勝利する未来へと引きずり込むことが出来るくらい強いし、途中から完全にお前の雰囲気に飲み込まれた……圧倒的で絶望的で震えが止まらねぇ。……けどな、言ったはずだ。テメェの掌の上で踊ってると思うなと。いつか、お前の予想しない、お前の描いた未来とは別の未来を強引に引き寄せてやるよ」
「……綾人、両手を広げて」
「あぁ?こうか?」
すると、十六夜の胸元に飛び込む陽向。そのまま彼の背中に手を回し、離さないように抱きつく。
「ちょっ、何する……」
「絶望的な差を感じても……そんな啖呵を切ってくれたの綾人だけだよ。誰もが離れていく中……うん。いいよ綾人……
「……そうかよ。やってみろよ、悪いけどオレの諦めは悪いからな」
「うん!徹底的にへし折って叩き潰して絶望させてあげる!」
「いい笑顔で中々酷いこと言うな、おい」
「……あ、もしかしたら綾人ってさ。心の奥底では、サッカーでボクと同じ事思っているんじゃない?」
「ああ?」
「圧倒的な力を持つ故の孤独。その差に相手は愚か、味方さえも絶望し離れていってしまう。……でも、そんな力の差があっても諦めず、何度折れても必死に追いかけてくれる。本気でキミと正面からぶつかってくれる……そんな仲間をキミは求めているんじゃない?」
「…………かもな……で?次のラノベは何だ?というか離れろ」
「えぇーもうこのままがいい。今日は離れないもん」
「……このままだとチェス出来ないだろ?」
「このままやるもん。綾人が動かしたコマとその位置を言ってくれれば、ボクが口頭でやるもん」
「……目隠しチェス……それも相手だけか……おいおい、ハンデのつもりか?」
「ハンデ?何で?全部覚えて、頭の中で構築すればいいんでしょ?それの何処がハンデなの?」
「…………」
(一般人はそんなこと出来ねぇんだよ。マジでコイツの底が知れねぇんだけど?)
「ハンデって言うなら、ボクはキミの手番の後5秒以内に次の手を答えてあげようか?後、キング以外全部取ってからしかチェックメイトしちゃいけないってのも追加する?」
「…………やっぱ、コイツ、バケモノだわ……もう何でもいい。始めるぞ」
「うん。じゃあ、今の分のラノベ紹介は次に回すね。2回分の紹介権は何に使おうかな~」
十六夜が駒を並べつつ、気になったことを口にする。
「というか、途中のアレは演技か?正直、かなり恐く感じたが」
「演技?ううん、昔のボクに戻っただけだよ?」
「…………」
「何かね、昔はチェスするときの雰囲気が変わったんだって。まぁ、綾人風に言うなら、ボクの中のバケモノが表に出ていたみたい。そのせいでよく対戦相手に泣かれちゃったんだ」
(そりゃ、子どもがやられりゃ泣くわ)
「まぁ、普段は封印してるけど、綾人が本気って言ったからつい出しちゃった♪」
「……今後は神奈さんを怒らせないように気を付けます」
「……え?そんなに恐かった?」
「…………」
この後、大量のラノベと、1週間分のタイムスケジュールを家に持って帰る十六夜の姿があったとか。
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇね……うみゅ」
「なげぇうるせぇ寝かせろ……」
とある日の昼休み……机に突っ伏して寝ていた十六夜の下にやって来た陽向。寝ている十六夜の耳元で囁く……というより、話をしたくて、ねぇを連呼していたのである。そんな彼女の両頬を片手で掴み、物理的に話せなくする十六夜。
「……で?人の眠りを妨げた理由は?」
「…………(パシパシパシパシ)」
「ああ、悪い」
陽向に腕を何回か叩かれたことでその手を解放する。
「綾人!今のはセクハラだよ!ボクじゃなかったら怒ってるよ!」
「お前でも怒ってるだろ……たく、悪かったよ、神奈」
「全く……で?何で寝てたの?」
「寝不足……」
「何で?ボクの渡したスケジュールだと、昨夜は22時には寝て、今朝は5時に起床……7時間睡眠で、綾人の体質的には問題ない睡眠時間を確保できているはずなんだけど?」
「寝る前に読んでたラノベが面白くて……つい、2時頃まで読んでた」
「何と!?ついに綾人がラノベに目覚めたということ!?」
「読み進めたら止まらなくなって……って何で感動したような感じで手を取っているんだよ」
「うんうん。ようやくボクの同志に……ちなみに読んでたのどれ?」
「これだよ。1巻だけのつもりが3巻まで読んでしまったわ」
「ふふん♪そんな綾人サンは4巻が気になることでしょう」
「…………ぶっちゃけ、気になる」
「実は!そんなこともあろうかとここに4巻があるのです!」
「え?準備良すぎないか?え?お前、ストーカー?」
「違うよ!昨日は1巻だけの予定だったから学校で1巻と4巻を交換しようと思っただけだよ!」
「ああ、そういうことか。何だ、早とちりを――」
「ちなみに5巻と6巻も用意してあります」
「――え?やっぱ、ストーカーか?」
「違うもん!よく考えたら4巻から6巻ってセットで貸した方がいいって思っただけだもん!」
彼女はストーカーではなく、ただ好きなものを共有して語りたいオタクであった。
「とりあえず、3巻まで返すわ」
「うん。じゃあ、6巻までね」
「おう」
「今日は夜遅くまで起きてちゃダメだよ」
「……善処する」
「はぁ……ってそうじゃない!綾人って進路調査の紙書いた?」
「進路調査?」
「ほら、今朝先生が配ってたでしょ?」
「あー……」
「さては、聞いてなかったなこの野郎」
「聞いて無くても神奈が教えてくれるって信じてたからな」
「きゅん……ってなると思った?どうせ、寝不足で寝てただけでしょ」
「頭がスリープモードでした。ごめんなさい」
「素直でよろしい」
そう言われて机の中から紙を取り出す十六夜。
「うげっ……志望校も書くのかよ……」
「そりゃあここは進学校だよ?9割以上の人が進学するんだからさ、1年生の内から書くのは当たり前じゃないの?というか、模試でも志望校書いてるじゃん」
「まぁ、そうだけど……」
「あ、そっか。綾人って模試の志望校のところ適当だもんね。自分がDとかE判定出そうなとこを第1志望にして、後はCを2、Bを3、Aを4って感じに書いてるんだよね?」
「え?何で誰にも言ったことないのに知ってんの?」
「綾人の志望校判定がいつも綺麗にそう並んでいるのと、いつも志望校どころか書いてる学部まで変わっているから。どこに行きたいか何も決めてないんだろうなーって」
「へーへーその通りですよ……マジで怖いわお前の分析力」
「怖いは褒め言葉だよね!」
「いや、純粋に怖くて引いてる」
「引かないでよぉ~!」
「ほんと、お前に隠し事できなさそうで怖いわ」
「え?ボクに何か隠し事するつもりなの?」
「しようとしても出来ねぇだろ」
「……で、どうすんの?」
「って言ってもなぁ……一応理系の大学志望だけど、どこ行くかってねぇ。とりあえず、この辺書いとけば怒られない?」
「怒られない?で選んだところが……ねぇ。綾人サンや?一応、綾人サンが選んでいるの難関大学って呼ばれる場所なんですわ」
「しょうがねぇだろ学年主席さんや。一応、この学年で学年次席に位置している人間が難関大学目指さなかった方が先生方に怒られるって。というか、絶対後が面倒」
「まぁ、そうだよね~学年1位の下に居続ける学年2位さんが、難関大学目指してないって言われたら衝撃が走るだろうね~じゃあさ、ボクと同じとこ書いておこうよ」
「おっけーそうするわー」
「ノリが軽い。結構大事なことなんだけどなぁ……」
「後2年以内に考える」
「絶対、綾人ってそのテンションでこの学校受けたよね?とりあえずここでって感じで」
「その通りだな。そういうお前もだろ?」
「ちっちっちっ。この学校ってアレだよ?中学校時代に成績が優秀な子は皆ここ目指しているし、ここに通っているってだけで頭良いって思われるんだよ」
「へぇーほぉー」
そんな会話をしながら、十六夜は陽向の紙を写させてもらうことに。
「綾人ってさぁ。サッカー選手になる気はないの?」
「微妙だな。大学には行くって感じだけど、結局その後の職業どうする問題は封印中」
「普段は優等生演じているからね~中身はマイペースで、サッカー中は人格変わるって感じだもんね」
「うるせぇ」
「ちなみに塾に通う気は?」
「ねぇな。サッカーの時間が削れる」
「だと思った。まぁ、ボクも行く気は更々ないけどね」
「ちなみにこのクラスで塾通っていないヤツ、オレとお前だけらしい」
「おぉ~ボクらだけのってヤツだね。あ、そうだ今度の土日空いてる?ボクと勉強会しようよ~」
「分かった。ただ、最低でも3時間はサッカーと筋トレだ。これは譲れない」
「分かってるって。チェスの時間も1時間は欲しいし~うん。勉強は6時間くらいでどう?」
「ああ。場所はどうする?」
「ボクの家でいいよ~あ、でもたまには綾人の家でもいいんだけどな~チラッチラッ」
「確認しておく」
この後、陽向が土日それぞれの予定をタイムスケジュールにして共有し、その通り動いたとかなんとか。
「へい、綾人ーボク、気付いたんだ」
「何を?」
「綾人ってバカだよね?」
「ぶっ飛ばすぞコラ」
1年生の冬……自主練習に付き合う陽向からの唐突な発言に頭を抱える十六夜。
「ゴメンゴメン。ボクが言いたいのは、サッカーの、特に試合中にキミは頭を使ってないよねっていひゃいひゃいなんでほほひっぱうの!?」
「ムカついたからだ」
「ゆゆひえー」
「……たく……で?神奈さんや。人をバカ呼ばわりするのには理由があるんですよね?ねぇならゴール前に立てシュート撃ち込んでやる」
「DV!暴力反対だよ!」
「安心しろ、数cmズラしてギリギリ当てねぇ。風を感じさせてやるよ」
「ぼ、ボクはそんなスリル満点なアドベンチャーは遠慮させてもらおうかなー……って、そうじゃないよ!えぇーこほん。十六夜の綾人クンは普段は頭がいい」
「お前に言われるとムカつくなぁ?陽向の神奈サンよぉ?」
「一々怒らない!……でも、キミのサッカーからは知性を感じない。少しは頭を使って、先読みをするようになったけど……それでも試合形式での練習とか試合中は頭を使って動いていない。本能のままに動いている感じがするんだ」
「…………」
「例えば、綾人がボールを奪ったとする。その後のアクションはいつもどうやって決めている?ドリブルする、パスを出す、クリアする……色んな選択肢がある中で、キミはどうやってそのプレーを決めている?」
「そりゃあ……」
と、ここで言葉に詰まってしまった十六夜。どうやって決める?周りを見て……そこから、どうやって?周りの人の配置を考えて……いるか?そんなことまで。というか、何か考えているか?思考を続けるも明確な答えは出ない。だから……
「……何となく?」
よく分からないのが正解だった。
「やっぱり……じゃあ、例えばだけど、キミがボールを貰った時……キミってドリブルしかしないよね?何で?ダイレクトでパス出せば有効な場面もあるのに何でドリブルしかしないの?」
「……何でって……」
「キミはキミの
「…………」
「そして、それはキミが成長しない要因の1つでもある。確かに、本能のままにプレーするのが有効な場面もあるだろう。感覚も大事になる時があるだろう。確かに、感覚で動ければ、思考時間を短縮できるメリットもある。……だが、本能頼りでは、それを読まれたときに弱くなる。それが通用しなくなった時に終わってしまう」
「…………」
「だから今のキミに必要なのは技術より思考だ。自分のプレーを言語化する練習だ」
「……と言っても……」
「じゃあ言うけど、キミのスペックは高い。だけど、脳を使わず感覚頼りだったらその真価を発揮出来ているとは言えない。キミの嫌いな天才……感覚だけで生きていけるのはそういう人間だけだよ」
「…………」
「じゃあ、自称凡人クン。キミは少しずつ分析力を身につけ始めた……もっと練度を高めると同時に、キミはもっとプレーを言語化する練習が必要だ。それが、最適な一手を打つことに繋がる。そして、ゆくゆくはキミが2つのスタイルを使いこなせる存在になる」
「2つのスタイル?」
「本能と感覚のみで動く……言わば、今までのバケモノのプレーと、頭を使い思考して動く……言わば、機械みたいなプレー。対極な2つのスタイルを身につけ、使い分ければ……こう……すごいことが出来ると思う!よくわかんないけど!」
「最後が曖昧だな……おい。でも、分かったよ。今のままじゃダメってことだろ?じゃあ、どうすればいい?」
「素直でよろしい。いきなりあれもこれもは難しいと思う。だからボクが手本を見せるよ」
「え?運動音痴のくせに?」
「う、うるさいうるさい!……ボクがキミと1つになる!」
「気持ち悪い」
「酷い!?ストレートに心に刺さるんだけど!キミのオブラートはどこに行った!」
「使用期限切れです」
「新しく発注しておいて」
「面倒くせぇ」
「せめて……こう、ボクが傷つくか傷つかないかギリギリの……ねぇ?」
「お前が言い方変えれば、オレも言わなくて済むんだが?」
「じゃあ、ボクがキミの頭脳になる!」
「……もういいや」
「キミには能力がある!ボクがキミの頭脳となり、キミが行うべき最適なアクションを伝える。キミはボクの指示通りに動けばいいんだ!」
「……そんなこと出来るか?マネージャーと選手だぞ?」
「フッフッフッ、ボクの分析力なら行ける!」
「すげぇ自信だな」
「さぁ、最低限の指示だけ叩き込んでもらうよ!」
「分かったけど……それがどう思考を鍛えることに繋がるんだ?」
「キミは反省するときに、ボクの指示理由を考える。ボクの指示したプレーの意図を言語化する練習さ」
「まぁ、面白そうだな……乗った。頑張って動かしてくれよ」
「任せておくれ!さぁ、やるよ!」
そして、冬休み前に組まれた練習試合でのこと。
「c2で待機!10秒後、そこに来るから奪って!」
「あいよ」
「そして、b6までドリブル!c4とb5で接敵するから即突破!30秒以上かけない!」
「了解」
「到達したらg7へパス!そのままd7まで走ったらダイレクトで押し込む!」
「はいよ」
フィールドをチェス盤に見立てた指示……常人では理解できない指示を、十六夜は完璧に遂行していた。
「よし、1点っと」
「流石!ボクの読み通りだね!」
「流石だ相棒。もう1点行くぞ」
「し、仕方ないなぁ……このまま行くよ!」
十六夜と陽向は無双していた。正確には、陽向が十六夜を完璧に動かし、誰も止められない状態が出来ていた。
「b2まで走って!そこで接敵するからc1へのコースをカットしながらa1まで追い込み!スローで問題なし!」
「あいあい」
「追い込んだら奪う!そして、h3へロングボール!a4まで走って!全速力だよ!」
「オッケー」
「次は……」
声を聞き取って、その指示を遂行する。場所は大雑把だがそれでも、何をすべきかをしっかりと汲み取っていた。
ピ、ピー
試合は大勝。彼女の指示には一切の間違いはなく、勝利をおさめることが出来たのだった。
「お疲れー綾人」
「お疲れ神奈。手挙げてくれないか?」
「え?こう?」
パンッ
「ナイスゲーム、神奈」
「え?……こ、これって俗に言うハイタッチと言うやつでは……!?」
「まぁ、そうだな」
「もう1回!もう1回やろうよ!」
「嫌だよ。練習試合で何回もやるもんじゃねぇって。……それより、喉大丈夫か?」
「えへへ……ちょっと張り切り過ぎた」
「飲むか?」
「ありがと……って!こ、これ……!?」
「何だ?いらないのか?」
「さっきまで綾人が飲んでいたヤツでしょ!?」
「そうだが……?別のがいいか?」
「あ……ううん、これでいい。これがいい」
「とりあえず、今度は分析だな」
「う、うん……」
「何で顔真っ赤にしてるんだ?」
「う、うるさい!それよりどうだった?」
「ん?」
「試合やってみて」
「そうだな……楽しかった。気持ちよくプレーできたというか、初めて理解されている気がした……って何、笑ってるんだよ」
「凄い嬉しそうだなーって。だって、ハイタッチするくらいだもんね」
「……うるせぇ」
「まぁまぁ、苦になっていないならよかった。ボクの指示が嫌になってないなら良かったよ」
「お前はすげぇよ。よくもまぁ、フィールドの外からオレを完璧に操れるわ」
十六夜は感心した。彼女によって完璧に操られていた……誰もが扱うことを諦めた自分を使いこなしてみせたのだ。
「そうだねーでも、まだまだだよ。実際に動かしてみて、十六夜綾人というコマの性能も扱いにくさも分かった……だから、ボクの才能ならもっとキミを思うように動かせる。もっと完璧に操ることが出来る。キミの力を最大限に引き出せる」
「ハッ、言ってくれるねぇ。それならオレは、陽向神奈というプレイヤーがもっと頭を悩ますくらいのコマにでもなろうかね」
「ふふん♪それなら、ボクが綾人のことをもっともーっと理解して、
「じゃあ、こっちはお前の理解を超える成長を見せてやるよ。お前の分析じゃ測れないレベルになってやる」
「むむ?ボクの分析で測れないだって?だったら、ボクのこの力ももっと磨いてあげるんだから」
「ああ?お前の能力じゃ測れないレベルになって、お前に合わせるくらいになってやるよ」
「だったら……」
「それなら……」
と、子どもみたいな言い合いを続けること数分。
「……でも、それは今だけの話。綾人はそれを自分でやれるようにするんだよ。とりあえず、今は綾人の中にある破壊衝動は封印!」
「破壊……衝動……?」
「え?気付いていないの?綾人のバケモノの根幹は、キミの中にある強い破壊衝動から来ているんだよ?だから、キミが本能でプレーするときは、相手をぶっ潰す!とか、ぶっ壊す!とかそういう物騒なこと言ってやってるんだよ?」
「……マジ?本能って言うから普段、無意識でプレーを選択しているんだと……もしかして、だからバケモノって言われてたのか?」
「……え?今のいままで気付かなかったの?いつもの数倍お口が悪くなって、冷たくて、恐くて……」
「はぁ……」
「うわぁ……自覚なかったんだ」
「微塵もねぇ」
「えぇ……」
陽向は一歩引いた感じで十六夜を見る。
「根っこがクズ野郎?」
「黙れ」
「とにかく、本能での破壊は封印。バケモノの根底にある荒ぶる破壊衝動を封印して、理性でのプレーを心がけること」
「理性……ねぇ」
「もし、それでも破壊したいなら……そうだね。相手に何もさせない。分析し、弱点を見出し、やろうとしていることを全部潰して、徹底的に壊す。こちらに立ち向かえないような邪悪さを見せつける」
「そっちの方が最低だろ」
「うっさい!ボクの頭脳とキミの衝動をマックスで掛け合わせるならそれが一番だよ!」
「へいへい。しばらくはそういうことを考えないようにしますよ。衝動を封印ねぇ……封印封印」
「ぺたぺた」
「何、人のでこを触ってんだ」
「いや、封印って言ったら、お札を額に貼るイメージあるじゃん?お札代わりに僕の手でも……」
「そうだな。お札より効果があるかもな……じゃあ、お前の手だけ貰おうか」
「ひぃいいい!?猟奇的!本能を封印したはずなのに漏れ出てるよ!」
「冗談だって。しっかり抑えるから心配するなって」
「イメージは鎖だよ。破壊衝動を持つバケモノに鎖を巻き付けて動けなくするんだ」
「なるほど……鎖、ねぇ」
そう言われて十六夜はイメージをしてみる。怪物に鎖を巻き付けて、杭を打つ……暴れても解けず引きちぎられない。そんな強固な鎖をイメージする。
「……こほん。では、頭を使うお時間です。はい、綾人クン。何故、ボクはこのシーンでc2で待機させたでしょうか」
「はい。そこに敵が来るから」
「10点だよ!」
「え?満点解答だったか?」
「100点満点のだよ!全然ダメ!そんな小学生レベルの解答じゃ全然ダメだよ!」
「うへぇ……じゃあ、何でさ」
「そもそも敵が来るのは間違ってないけど、何で敵がここにドリブルで突っ込むことがボクは分かったか……それが分からないとキミは一生ボクの操り人形のままだよ!」
「……ちょっと時間くれ、考える」
「まぁ、いいでしょう。でも、実際の試合では待ってくれないからね?」
「分かってる」
「あ、でも綾人が一生ボクの物って考えるといいかも……一生ボクのところから逃がさないように鎖で繋いで……」
「…………冗談だよな?」
その後、十六夜が散々ダメ出しを喰らったのは言うまでも無い。
前半だけ見ると、チェスの元日本一に挑む初心者主人公って作品になりそうですね。十六夜……お前、前世はチェス漫画の主人公だったのか……?
陽向神奈(
幼少期よりチェスをやっており、ランキングで日本一を取ったこともある天才。ラノベを愛し、アニメを嗜み、ソシャゲをする程度のオタク。十六夜に対し、ズバズバと意見を言う貴重な存在。十六夜からはバケモノ認定され、恐怖を感じさせた。
チェスにおいては、目隠し、多面指し、早指しなどのルールでも最強である。それどころか、相手のことを分析していれば、特徴、性格、チェスの経験などから僅か数手で自身のチェックメイトまでの未来を構築できる。心の中には十六夜にも引けを取らない凶暴なバケモノを飼っている。これがチェス漫画なら、確実にラスボスor裏ボスな存在である。
中学校時代には日本一というプレッシャーや期待に押し潰されそうになり、心が悲鳴を上げそうになっていたが、十六夜の1人でも戦う姿勢を見て持ち直す。だが、その圧倒的な実力から周りに人が居なくなってしまい、結果孤独になる。あまりにも差があり過ぎると悟り、チェスから離れ、徐々に2次元に染まるようになる。しかし、チェスから完全に離れることが出来なかったため、1人で続けていた。
マネージャーとして、サッカーをチェスに見立てた十六夜以外には伝わらない戦略を取り始める。イナイレ世界で十六夜がやっている未来視を現実世界でも可能にしてしまうバケモノ。十六夜よりも先読みに特化しているため、運動神経さえ良ければ十六夜と渡り合えた可能性がある(なお、実際は運動音痴のため……)
ちなみに、十六夜のスケジュール管理を一任している(勝手に)。
十六夜綾人
若干天然が入った優等生の皮を被ったマイペース野郎。少しずつ陽向の影響を受けつつある自称凡人。彼女にスケジュール管理を(勝手に)されているが一切苦になっていない。サッカー中の破壊衝動(ようやく本人自覚)を封印し、頭を使うプレーを目指し始めた。
本来は本能でプレーするような感覚派プレイヤー。誰かに指示する側ではなく、される側の選手。分析して動いていく頭脳派プレイヤーや、作戦を練ってそれ通り動かす司令塔とは縁遠いと思っていた。
一切目標がない、夢がない空っぽ人間。ただ、火種はしっかりとある。その火種に気付き、それを業火に出来るかそれともその前に……
次回は本編。十六夜とオルフェウスの話です。