それはエイリア学園の戦いも終わって1週間と少しが経過したある日のこと。吹雪を始め、地上最強イレブンの何人かが地元に帰り、十六夜がイタリアへ留学に行った後のこと。
「話って何だよ、一ノ瀬」
土門は一ノ瀬に呼ばれて河川敷に居た。
「本当に……終わったんだな」
「エイリア学園のことか?まぁ、なんつぅか、今思うと夢みたいだったよな」
「宇宙人と戦うって、昔の自分に言っても信じないだろうね」
「あんなの信じられるわけねぇーっての」
そこから2人は先日までの激闘を振り返る。学校破壊から宇宙人と戦うため、地上最強イレブンを作るために日本を巡ったこと……少し前なのに昔に感じるような濃厚な出来事。
2人はそんな非日常を思い返しながら話を弾ませる。そんな話が一段落したタイミングで一ノ瀬が本題を切り出す。
「俺、アメリカに戻るよ」
「中々唐突だな……」
「この戦いで痛感したんだ……俺は弱いって。北海道で参戦した吹雪、強くなって帰ってきた豪炎寺」
「…………」
「俺は彼らには勝てない……いや、彼らだけじゃない。鬼道や円堂……他の皆にも勝てるとは言い難い」
「そんなこと……」
「そんなことないって?確かに、一緒に戦って一緒に強くなってきたから、俺も最初に比べれば強くはなっているんだろうね。でも……いや、だからこそって言うべきかな?俺はさ、向き合ってみたいんだ。一緒に戦った彼らと、今度は真正面から本気で……」
「……たく、お前は言い出すと聞かないんだよな……分かった!俺も付き合うぜ、一ノ瀬!」
「ありがとな」
「じゃあさ、西垣にも声掛けておこーぜ!アイツも一緒に戻らないかって聞いてみる!それから……」
「秋は誘わないよ」
「どうしてだ?あの頃の4人で……」
「俺のわがままだよ。強くなった俺を見せて驚かせたいんだ」
「なるほどな……それなら分かったよ」
「ありがとう」
「いいってことよ」
土門もアメリカに渡る決意を固める中、話題が変わる。
「話は変わるけどさ。イタリアに行った十六夜は何処まで強くなると思う?」
「十六夜か?そりゃ、アホほど強くなるだろ。ただでさえ、豪炎寺なんて帰ってきたらバカほど強くなっていたし……」
「……俺さ、十六夜を初めて見たとき、上手い方だなと思っていたんだ。チームの中心になれるような能力を持つ選手で……でも、円堂や鬼道、豪炎寺の方に目が行って正直そこまで気にしなかったんだ」
「へぇ……俺は同じDFとして、アイツのヤバさには最初から目をつけていたけどな。DFとしてのレベルたけぇのに、攻撃力も凄まじいとかもはやチートだって思ってるね」
「そうだね。多分だけど、本能的に避けていたんだと思う。もし、彼とぶつかれば彼が勝ってしまう……そう本能で感じ取っていたんだと思う」
「そうなのか?と言っても……確かにお前って、円堂たちと比べると十六夜とそこまで絡んでいなかったな」
「あくまでチームの一員……それ以上でもそれ以下でもなかった。でも……エイリア学園との戦いで思い知らされた。彼は恐ろしいほどに強い。遙か先を行っていたんだって」
「なるほどねぇ……吹雪や豪炎寺より、十六夜の方がお前的には今回のアメリカ渡航の決め手になったのか」
「ああ……このまま突き放されたくない。それに……彼とは一度本気でぶつかってみたいんだ。自身より格上相手に何処までやれるか……挑むために、俺はもっと強くなる」
「ハハッ!何だよ熱いじゃねぇかこの野郎!よっしゃ、その熱が冷めねぇ内に準備しようぜ!善は急げだ!」
「ああ!」
数日後、一ノ瀬は土門、西垣と共にアメリカに渡ったのだった。
ユニコーンのキックオフで試合再開。ボールは……
「取られたら取り返すだけだ!」
「俺たちのシュート見せてやるぜ!」
一ノ瀬が持ち、その両隣を土門と西垣が走る。もう一回あの必殺技を放つつもりなのだろう。あの必殺技なら、飛ばせる前に堕とせば良さそうだが、それをしたところであまり意味は無いだろう。
「早いな……風丸、行けるか?」
「ああ!任せておけ!」
自信満々に答える風丸。その隣には綱海が並んでいる。やはり、撃たせた上で通用しないことを知らしめる方が、次から撃ちにくくなるだろう。
『ザ・フェニックスV3!』
そんな中シュートが放たれた。炎の鳥……フェニックスはオレたちのゴールへと飛翔してくる。
「スピニングフェンス!」
そのシュートを前に風丸は5人に分身し、5人が回転し竜巻を起こす。そして、5つの竜巻は1つになり……
「へぇ……やるじゃん」
巨大な竜巻が生まれ、そこにフェニックスは閉じ込められる。流石に飛ぶスピードが速い訳ではないので回避はされなかった……だが、
「炎の竜巻!?」
フェニックスの炎は吹き飛ばされるどころか、更に燃え盛り、炎が渦を巻く。
「火災旋風……ってヤツみたいか」
発生のメカニズムとか色々と違うし、この事を言い表すのに適しているかは分からん。ただ、火災旋風というのは一言で言うと、元の世界で発生しようものならとんでもねぇ被害をもたらす現象だ。
「ま、マズいッスよ風丸さん……!」
「な、何かとんでもないことになっていません!?」
今は動いていないからいいが、あんな竜巻が押し寄せてこようものなら止められないだろうな。というか、あんなの迫ってこられたら割とどうしようもなくねぇか?だが……なんで、まだ動いていないんだ?向こうが竜巻を支配下に置いたならゴールに進んできてもおかしくはないはず……
「……ああ、2重構造か」
「へ?にじゅーこうぞう?」
「簡単に言うと、あの竜巻は2つ……小さいやつの周りに大きいやつがあるんだよ」
「へぇ……ん?」
「あくまで燃え盛っているのは内側の竜巻だけ。まだ、外側の竜巻まで炎は広がっていない」
炎の竜巻を覆うようにもう1つ竜巻がある。そいつのせいで進めていないが……それでもやはり時間の問題に感じる。ん?いや……
「だからこその綱海か」
「本当にお前の頭の回転はどうなってるんだよ……行け!綱海!」
「おう!十六夜!ペンギン貸してくれ!」
「ほらよ」
オレがペンギンを呼び出すとそれに乗る綱海。そして、そのまま外側の風の流れに乗る。ペンギンをサーフィンのボードに、風の流れを波に見立てている……そのまま彼はぐんぐん上がっていき……
「ザ・タイフーン!」
彼の通った道には水が現れる。大量の水が彼の後に出来て、それが渦を巻いている。
「水の竜巻だと!?」
炎の竜巻を覆うようにして出来た水の竜巻。その水の竜巻が炎の竜巻を押しつぶしていく。それにより、炎は一気に消火されていき……
『防いだぁ!止めることが不可能だと思われた必殺シュートを止めてみせたぞ!』
ボールは風丸の足下に収まった。その隣には綱海が着地する。……相手が炎で出来ているからこそ、風と水で止めた……か。
「規格外なことするなぁ」
「それ、お前には言われたくないぞ」
「え?」
流石にオレだってあそこまでのことはしねぇっての。
「鬼道!」
そしてボールは鬼道へと渡る。
「行かせないよ!」
素早く一ノ瀬が切り替えて鬼道と1対1になる。
「フッ、面白い」
「取らせてもらうよ」
テクニックで突破を図る鬼道とそれを阻止する一ノ瀬の激突。
「おっと、アヤトは行かせないから覚悟するんだね!」
「ああ。キミに自由は与えないよ」
「ッチ……やりにくいな……!」
ボールを持っている……ある意味で光側の1対1が行われている中、ボールを持っていない……ある意味で闇側の戦いが始まる。鬼道のフォローに動き、ボールをもらうスペースに動こうとするオレとそれを阻止するディランとマーク。
「そんなステップじゃ抜けないよ」
「さぁ、どうやって突破する?」
「クソッ……!」
2人の動きを予測して、未来を視ようとしてもそれを置き去りにされる。片方だけ注視して出し抜いても、もう片方のカバーが正確でそれでいて早過ぎて意味が無い。完封されている……なんてコンビだよ……!
(十六夜が2人を引き剥がせていない。ディランとマーク……エドガーやフィディオ、テレスと並んで世界トップレベルのプレイヤー。徹底的に十六夜に仕事をさせないつもりか……!)
「どうした鬼道?十六夜が心配かい?」
「フッ、どうだろうな」
「いくら十六夜がバケモノみたいな強さでも、ディランとマークはそれぞれが十六夜と同レベル以上だからね」
「裏を返せば、十六夜のお陰であの2人を押さえられていることになる。だったら……!」
鬼道はオレと逆サイドに居た虎丸にパスを出す。
「アイツを使わずに俺たちだけで攻める」
そう宣言して、攻め上がる鬼道と守るために戻る一ノ瀬。
「ナイスな判断だね!」
「無理にアヤトを使わない。良い判断だ」
確かに冷静で合理的な判断だ。オレ1人という戦力でディランとマークという世界トップレベルの選手2人を押さえる。人数だけでも1人で2人抑えられていて1人分お得。しかも、もしカウンターされても、オレがこの2人を押さえられれば懸念材料が多少は減る。リスク管理までされた良い判断だ。
そこまで分かった上で言えるのは、オレにこいつらを出し抜ける能力がないと判断されていること。そして、実際にこの2人を出し抜くことが出来ていないこと。
「…………」
「おぉ、怖い目だね!……でも、ユーから目は離さないよ」
「ああ、キミはフリーにさせると何をするか分からないからな」
ムカつくくらい良い連携、良いコンビだ。どっちかが全体を見渡し、どっちかがオレを監視する。試合の流れを把握しつつ、オレを封殺しに来てる。
「行かせねぇぞ!」
「鬼道さん!」
土門がブロックしようと立ちはだかると、鬼道にボールを戻す虎丸。
「虎丸!」
そしてもう一回虎丸に出そうとする。
「だから行かせねぇ……っ!しまった!」
虎丸が内側へ走り込もうとし、土門も虎丸を行かせないようそちらに身体を向ける。だが、ボールは虎丸を通り越して外側へ……
「俺が道を開く!」
そこに走り込んでいたのは風丸。ボールを持つと最高速でライン際を駆け上がる。そのスピードには誰もついて行けない。
「染岡!」
ディフェンス陣が布陣を崩すのを見逃さず、フリーになった染岡へとクロスが上がった。
「ドラゴンスレイヤー!」
そして、染岡がダイレクトで必殺技を放つ。
「フラッシュアッパー!」
そこに相手キーパーが反応し、必殺技をぶつける。結果は……
「フッ……」
ボールは拳によって空高く弾かれた後、相手キーパーの手元へと落ちた。それを難なくキャッチする。
「ナイスシュートだ!染岡!」
「おう!次は決める!」
「ディフェンスだ!戻れ!」
攻守が切り替わる。ディランとマークがそれぞれ動き出し、オレも最善手を打つために行動する。
「やっぱ、すげぇ連携だな……」
相手が素早いパス回しで攻めてくる。鬼道が指示を出すも、それより早くパスが出される。でも……
「ここだろ」
それくらいなら読める。
「来るのは知ってたさ」
一ノ瀬にボールが渡った瞬間に詰めに行った……が、反応を見る限り予想通りだったらしい。
「勝負だよ、十六夜!君を突破してみせる!」
「やってみろよ、一ノ瀬。簡単には抜かせねぇよ」
一ノ瀬からパスコースは見えない。ディランとマークは一ノ瀬より後ろに居る……パスを待っているわけではないし、フォローに動いている感じはしない。一ノ瀬がオレを突破することを信じているのか?いや違う、そうじゃない……
「俺のわがままさ。十六夜と1対1で勝負させてくれってね」
「……そういうこと」
オレを騙すためのブラフ……ではないらしい。彼自身のテクニックで翻弄しようとしてくる。やはり、彼からのパスコースは一切見えない。
「……やっぱり、君は強いね……!」
「そりゃ、どうも」
(ダメだ……全部読まれてる……!俺のドリブルじゃ抜けないのか……!クッ……分かっていたけど、十六夜は強いな……!)
……ノイズが入る。僅かに一ノ瀬の動きがオレの読みとズレる。それは一ノ瀬の動きが速くてズレたんじゃなくて……
「なっ……!」
一ノ瀬の動きがオレの読みより遅く、キレが悪くなったのだ。試合最初からとばしたせいでガス欠でも起こしたのか?まぁ、原因は何でも良い……
「オレの勝ちだ」
「じゃ、次はミーたちが相手だね」
「ああ。行くぞ」
ボールを奪った次の瞬間、ディランとマークのダブルディフェンスがやって来る。
「……っ!?」
ちょっと待て、いくら何でも
「カズヤの指示さ!もし、自分が負けた時はすぐにプレスをしてくれってね!」
「ああ!個人で負けてもチームとしては負けないってな!」
「クッ……!」
ダメだ、今までと違って距離を詰められた後だ。完全に向こうの間合いの中……クソが……!奪われないよう、キープするだけで精一杯……!やってくれた……!この2人は状況を見て、冷静に一之瀬が負けると分析して、奪った瞬間に詰める……完全に嵌められた……!
「戻せ十六夜!」
「こっちです!十六夜さん!」
綱海と虎丸の声が聞こえてくる。場所も把握できてる。でも、ダメだ。そこはワナだ。出したらすぐに取られてしまう……そんな相手によって無理やり出されたパスなんて意味がねぇ……!取られないパスコースが見えない……!突破口も見えない……!
「優しくねぇな……マジで……!」
「褒め言葉だね!」
「奪わせてもらうぞ!」
何て連携、何てプレッシャーだおい……!本当に2人の人間か?動きが噛み合いすぎている。クソッ……1人だけでも厄介なのに2人同時に詰めてくる……!ドリブルもパスも封じられているし……辛うじてキープ出来ているだけの状況……!ヤバい……打開出来る未来が視えねぇ……!何とかしねぇと……何とか……
「真フレイムダンス!」
「なっ……!」
避けられなかった。ディランとマークの2人は見えていたのか避けられたが、2人に思考のほとんどを割かれていたオレは、思考の外からの一撃に一切反応が出来ず、吹き飛ばされてしまう。
「ディラン!マーク!」
「オッケー!」
「決めるぞディラン!」
「通さないッス!」
「行かせねぇぞ!」
「ここは通さない!」
一ノ瀬からディランにボールが渡る。壁山、綱海、吹雪がブロックに行くもマークとのパス交換で簡単に躱されてしまう。そして……
『ユニコーンブースト!』
2人のツインシュートがゴールへと向かう。シュートの後ろには紫色のユニコーンが走っていて……
「イジゲン・ザ・ハンド!」
ユニコーンの角が円堂の生み出した半球を貫いた。
『ゴール!ディランとマークのシュートがイナズマジャパンゴールに突き刺さった!』
ピ、ピー!
『ここで前半終了!3-2!ユニコーンの1点リードで前半戦が終わりました!』
……クソッ……今の失点はオレの失態が招いたモノ……!致命的過ぎるミス。完全に相手の術中に嵌まってしまった。
「やっぱり強いね、十六夜」
「一ノ瀬……」
「今の君には俺一人じゃ勝てない……でも、負ける気はないから」
「……お前も十分強いだろ」
敗北を認め、自分の方が弱いことを悟った上で、それでも強者に喰らいつき出し抜く。オレからすれば一ノ瀬は十分強い。
「この試合は負けられない。君がどれだけ上手くなっていても、どれだけ強くとも俺たちは絶対に勝つ」
「それはこっちのセリフだ」
2-3と1点差で前半が終了する。ただ、点差以上に前半はしてやられたのが正直な感想だった。
登場必殺技紹介
スピニングフェンス
オリオンの風丸の必殺技。無事に習得した模様。